No.155, No.154, No.153, No.152, No.151, No.150, No.149[7件]
「シルクロードの民話 パミール高原」 81-86p
主人公である王が妻の不実(事実上の不貞)に気がついて行動を起こす点は「アラビアンナイト」の導入部分と良く似ている。「アラビアンナイト」では、主人公は不貞を働いた女主人公を殺し、それだけに飽き足らず次々と女性を娶っては殺す、という「復讐婚」的な暴君へと変化するが、本物語では、妻を檻に閉じ込めたところで物語は終わる。
「閉じ込められた妻」は「冥界に閉じ込められた(=死)」を暗示させるが、直接的な死としては語られない。直接的な死の表現がないところは、ペルセポネーのような「冥界の女神」への変化をも暗示させるか。
不倫妻が愛人に入れ込んで夫を殺そうとする(夫に不幸をもたらそうとする)点は、「アーサー王とグィネヴィア」を連想させる。神話としては「ネミの森」的といえよう。古代の冷酷な豊穣の女神にとっては、夫は「年老いている」というだけで、捨て去る正当性が生じるからである。
妻を閉じ込めた後、主人公が「聞くな」の禁忌を持つ存在へと変化するのは「王様の耳はロバの耳」を連想させる。蛇王ザッハークとの関連が示唆される。「女主人公が交替しない」という点では、シヴァとサティーの不完全な形と言える。
全体としては「ネミの森」的な人身御供を求める女神信仰と、シヴァ的な「妻の人身御供」を求める男神信仰が混在している物語で、不貞を嫌うイスラム的な思想が二つを纏めている物語といえると思う。「怪物退治」譚として見た場合には、退治されるのは女性であり、えん罪ではないので、神々を殺そうとしたティアマト的といえる。
#民話 #タジキスタン #馬 #聞くな #禁忌 #怪物退治 #馬 #ティアマト #閉じ込められている乙女 #不倫 #アルテミス #ザッハーク #鉄の棒
by admin. ⌚ 2022年02月10日(木) 09:28:01 民話 <761文字> 編集
1.ミーノータウロス退治のように、「主人公が怪物を退治し、怪物の近親者(姉妹、娘など)を妻とするタイプ」とその変形の物語。
(1) 問題解決のために「妻の手助け」があるタイプ → 「テーセウスとアリアドネー」型 #テーセウスとアリアドネー
(1)-あ 問題を姑が課すタイプ → 「ポポヨラのロウヒ」型 #姑
(1)-い 問題を舅が課すタイプ → 「須佐之男」型 #舅
(2) 主人公を助けるために女主人公が犠牲になるタイプ → 「エンリルとニンリル」型 #エンリルとニンリル
(2)-あ 退治されるのが女性で有罪であるタイプ → 「ティアマト」型 #ティアマト
(2)-い 主人公を軸として死により女主人公が入れ替わるタイプ他 → 「シヴァとサティー」型 #シヴァとサティー
(3) 問題解決のために「女神的存在の手助けがある」タイプ → 「ホレのおばさん」型 #ホレのおばさん
(4) 問題解決のために「男神的存在の手助けがある」タイプ → 「オーディン」型 #オーディン
(4)-あ 問題解決のために「神や仲間との力(食欲)くらべ」があるタイプ → 「ヤコブ」型 #力くらべ
(4)-い 問題解決のために男主人公が単独で解決するタイプ → 「ポセイドーン」型 #ポセイドーンとアムピトリーテー
(4)-う 問題解決のために男主人公が単独で解決し、結婚しないタイプ → 「聖ゲオルギウス」型 #聖ゲオルギウス
(4)-え 問題解決のために異種の供がつくタイプ → 「ブレーメン」型 #ブレーメン
(4)-お 問題解決のために若者等の供がつくタイプ → 「ボロルドーイ」型 #ボロルドーイ
(4)-か 問題解決のために「神の使いの手助け(女性等)」があるタイプ → 「ワルキューレ」型 #ワルキューレ
(4)-き 問題解決のために「動物神他の手助け」があるタイプ → 「動物神」型 #動物神
(4)-く 問題解決のために「動物神他を無理矢理こき使う」タイプ → 「酷使」型 #酷使
(4)-け 問題解決のために「物質の精霊他の手助け」があるタイプ → 「魔法のランプ」型 #魔法のランプ
(4)-こ 助け手が主人公に代わり問題を解決するタイプ → 「ジークフリート」型 #ジークフリート
(4)-さ 大勢の人が主人公と共に戦い、問題を解決するタイプ → 「蜂起」型 #蜂起
(5) 問題解決のために武力ではなく知恵を使うタイプ → 「叡智」型 #叡智
(5)-あ 問題解決のために謎を解くタイプ → 「謎解き」型 #謎解き
(5)-い 謎を解くのに姥捨老人の知恵を得るタイプ → 「姥捨て」型 #姥捨て
(5)-う 問題解決のために詐欺的な悪知恵を使うタイプ → 「詐欺」型 #詐欺
(5)-え 問題解決のために知恵で相手を関心させるタイプ → 「怪物納得」型 #怪物納得
(5)-お 問題解決のために祭祀を行うタイプ → 「祭祀」型 #祭祀
(5)-か 問題を女主人公が課すタイプ → 「王女出題」型 #王女出題
(5)-き 女主人公が「怪物(主に実家)」の側につくタイプ → 「怪物尊重」型 #怪物尊重
(6) 主人公が弓の名手であるタイプ → 「射日神話」型 #射日神話
(7) 主人公が動物番であるタイプ → 「動物番」型 #動物番
(7)-1 主人公が草食動物であるタイプ → 「羊と狼」型 #羊と狼
(8) 女主人公と主人公が破綻するタイプ → 「ゲイと嫦娥」型 #ゲイと嫦娥
(8)-あ 結婚前から女主人公と主人公が破綻しているタイプ → 「ティアマト」型 #ティアマト
(8)-い 女主人公が古い夫(主に老人)から乗り換えるタイプ → 「ネミの森」型 #ネミの森
(9) 怪物の急所が隠されているタイプ → 「秘密の急所」型 #秘密の急所
(10) 家にやってくる怪物を退治するタイプ → 「迎え撃ち」型 #迎え撃ち
(11) 家にいる怪物を退治するタイプ → 「追い払い」型 #追い払い
(11)-1 家にいる怪物を追い払えず逃げ出そうとするタイプ → 「追い払い失敗」型 #追い払い失敗
(12) 怪物を物に閉じ込めるタイプ → 「封印」型 #封印
2.主人公が目上の存在(父親、上司等)と対立して旅に出るタイプ → 「射日神話」型 #ゲイ流譚
2-あ 主人公が特に海に流されるタイプ → 「淡島」型 #淡島
3.主人公(あるいは女主人公)が怪物から逃走するタイプ
(1) 魔法や変身で逃げおおせるタイプ → 「呪的逃走」型 #呪的逃走
(1)-あ 他人に匿われながら逃げおおせるタイプ → 「匿い」型 #匿う
(1)-い 動物と一緒に生活するタイプ → 「獣の王」型 #獣の王
(1)-う 主人公が鳥に運んで貰うタイプ → 「怪鳥」型 #怪鳥
(1)-え 主人公が魚に運んで貰うタイプ → 「ヨブ」型 #ヨブ
(1)-お 鳥・魚以外の動物他に運んで貰うタイプ → 「運搬動物」型 #運搬動物
4.主人公が魔法使い等の弟子であるタイプ → 「魔法使いの弟子」型 #魔法使いの弟子
4-あ 主人公が半身であるタイプ → 「半身英雄」型 #半身英雄
5.女主人公の所業で主人公(夫)が不幸になるタイプ → 「ネミの森」型 #アルテミス
5-あ 女主人公の所業のうち不貞以外での不幸(特に浪費)が隠されているタイプ → 「食わず女房」型 #食わず女房
6.女主人公が主に家族のために旅に出るタイプ → 「鉢里公主」型 #鉢里公主
(1) 失踪した兄弟や夫を探すタイプ → 「兄達を探す乙女」型 #兄その他を探す乙女
(1)-あ 女主人公のえん罪等により失踪した兄弟や夫を探すタイプ → 「えん罪」型 #えん罪
(1)-い 継子虐めにより旅に出るタイプ → 「継子虐め」型 #継子虐め
(2) 火を求めるタイプ →「火を探す乙女」型 #火を探す乙女
(3) 問題解決のために「夫の手助け」があるタイプ → 「クピードーとプシュケー」型 #クピードーとプシュケー
7.女主人公が失踪するタイプ → 「セクメト」型 #セクメトの失踪
(1) 失踪した妻を夫が探すタイプ → 「いなくなった妻を探す夫」型 #いなくなった妻を探す夫
(2) 主人公の所業に不満があって女主人公が失踪するタイプ → 「ラ・ラメー」型 #ラ・ラメー
(3) 「見るな」等の禁忌に触れて女主人公が失踪するタイプ → 「鶴女房」型 #鶴女房
8.主人公(達)を助けるために女主人公が身代わり的な子供を産むタイプ → 「エンリルとニンリル」型のうち「出産」型 #出産
8-あ 女主人公が性行為以外で妊娠するタイプ → 「処女懐胎」型 #処女懐胎
9.主人公が何らかの理由で複数の人の命を求めるタイプ → 「ザッハーク」型 #ザッハーク
10.女主人公他が上位の女性から呪いをかけられるタイプ → 「メドゥーサ」型 #メドゥーサ
10-1 呪いの原因が明確な侮辱であるタイプ → 「アテーナーとアラクネー」型 #アテーナーとアラクネー
11.女主人公が眠っているタイプ → 「眠り姫」型 #眠り姫
(1) 女主人公が扉の中に閉じ込められているタイプ → 「天岩戸」型 #閉じ込められている乙女
(2) 幼児が見知らぬ父親を言い当てるタイプ → 「賀茂別雷命」型 #賀茂別雷命
12.主人公他の命を巡って二柱の男神が対立するタイプ → 「神と悪魔」型 #オーディンとトール
13.樹木から豊穣を得るタイプ → 「樹木信仰」型 #樹木信仰
(1) 樹木信仰のうち、鳥から豊穣を得るタイプ → 「鳥信仰」型 #鳥信仰
14.神々が旅をして死者を生き返らせるタイプ等 → 「蘇民将来」型 #蘇民将来
14-1 願いをかなえるタイプ → 「希望成就」型 #希望成就
14-2 労働を続けるタイプ → 「労働継続」型 #労働継続
14-3 1,2の内、神々が旅をしないタイプ → 「神固定」型 #神固定
15.キリスト教の影響を受けた物語のタイプ → 「キリスト教」型 #カトリック
15-あ 悪魔に自ら魂を売るタイプ → 「魂売り」型 #魂売り
16.存在を知らない子供を悪魔等に渡すタイプ → 「不知の子」型 #不知の子
17.神的アイテムとして鉄の棒やムチが出てくるタイプ → 「鉄の棒」型 #鉄の棒
17-あ 際限のない食事を出すアイテムが出てくるタイプ → 「魔法の大釜」型 #魔法の大釜
17-い 地獄の大釜が出てくるタイプ → 「地獄の大釜」型 #地獄の大釜
17-う 触れると霊が出てくるタイプ → 「魔法のランプ」型 #魔法のランプ
17-え その他豊穣をもたらすアイテムが出てくるタイプ → 「豊穣のアイテム」型 #豊穣のアイテム
18.二人の女性が入れ替わるタイプ → 「親切な少女と不親切な少女」型 #イナンナとエレシュキガル
18-あ 結婚を巡って二人の女性が入れ替わるタイプ → 「瓜子姫」型 #瓜子姫
18-い 18-あのうち、特に主人公の「眠り」によって女性が入れ替わるタイプ → 「ドゥムジ」型 #ドゥムジ
18-う 女主人公によって女神が再生されるタイプ → 「アルテミスとイーピゲネイア」型 #アルテミスとイーピゲネイア
18-え 女主人公(の命)によって植物が再生されるタイプ → 「ハイヌウェレ」型 #ハイヌウェレ
18-お その他、女神が何らかの代償で再生されるタイプ → 「再生される女神」型 #再生される女神
19.「瘤取り」等のように二人等の男性が入れ替わるタイプ → 「オシリスとセト」型 #オシリスとセト
20.妻が人間ではないタイプ → 「異類嫁」型 #異類嫁
20-あ 妻が鳥や天女等であるタイプ → 「天人女房」型 #天人女房
20-い 服(皮)を隠すタイプ、服が見つかることが禁忌となる → 「羽衣」型 #羽衣
20-う 男女を問わず服(皮)を処分するだけのタイプ → 「皮処分」型 #皮処分
21.夫が人間ではないタイプ → 「異類聟」型 #異類聟
21-あ.夫が犬であるタイプ → 「盤瓠」型 #盤瓠
21-い.夫が猿であるタイプ → 「猿聟」型 #猿聟
21-う.夫が蛇や竜であるタイプ → 「蛇聟」型 #蛇聟
22.冥界が地下世界でなく「海の向こう」にあるタイプ → 「竜宮」型 #竜宮
23.神々と交流する際に禁忌があるタイプ → 「禁忌」型 #禁忌
23-あ 特に「見てはならない」タイプ → 「見るな」型 #見るな
23-い 特に「恐れてはならない」タイプ → 「恐れ」型 #恐れ
23-う 特に「馬を恐れない」タイプ → 「タフムーラス」型 #タフムーラス
24.怪物退治ではなく宝物入手が目的となっているタイプ → 「イアーソーン」型 #イアーソーン
24-あ その他の目的で流転するタイプ → 「アイネイアース」型 #アイネイアース
25.異界で非常に長時間が経過するタイプ → 「浦島太郎」型 #浦島太郎
参照:「魔法のアイテム 」
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by admin. ⌚ 2022年02月10日(木) 07:44:19 <6071文字> 編集
「シルクロードの民話 パミール高原」 68-81p
主人公が家を出る下りは「ゲイ流譚」的である。
女主人公に「見るな」の禁忌があり、閉じこもった暮らしを送り、彼女の怒りを買ったものは死に至る、という点は「王女のハンカチ」と共通する。
略奪婚を試みる悪しき王の結末は、「怪物退治」の一型といえる。女主人公の助力がある点で、「テーセウスとアリアドネー」型の物語といえる。この物語では女主人公ではなく、主人公の方が鳥に化生する。馬との関連もわずかであるが示唆される。女主人公は杏と関連づけられる。
当人の姿以外のものが異性の心を捉えるという点は、日本の「髪長姫」を連想させる。
参照:絵姿女房
#民話 #中国 #絵姿女房 #見るな #禁忌 #怪物退治 #鳥 #馬 #杏 #植物 #テーセウスとアリアドネー #ゲイ流譚 #閉じ込められている乙女 #略奪婚
by admin. ⌚ 2022年02月08日(火) 23:56:50 民話 <463文字> 編集
「シルクロードの民話 パミール高原」 52-67p
女主人公が「7つの扉のついた地下室」に住んでいる点は、明らかに「イナンナの冥界下り」と共通したモチーフと思われる。イナンナが下る冥界にも7つの扉がある、とされる。この点の類話は「山のなかに閉じこめられた王女」である。
神話では、イナンナは姉エレシュキガルの支配する冥界を「自分のもの」と考えて下り、そこで冥界の女王である姉の怒りを得て殺された、とされるが、それはイナンナとエレシュキガルが「一体となったことを示している、とも解釈できる。少なくとも、本作の女主人公はイナンナ的ではあるが、冥界を住処としており、エレシュキガルともいえる性質を併せ持つ。彼女の住処に許しなく踏み込む者は、そこは「冥界」であるので、当然のように死ぬ。
一方、女主人公の夫は、父王の怒りを受けて旅に出る。これは「人身御供」の象徴ともいえるが、物語的には、「上位の者の怒りを得て、主人公が流転する」という点で、中国のゲイ神話、日本の日本武尊を思わせる。なにがしかの禁忌を破って、異界を流転する夫とそれを再生させようとする妻、という点ではエンリルとニンリル的でもある。
えん罪であるけれども、女主人公が夫を裏切った(ように見え)る、という点は、テーセウスとアリアドネーの神話が根底にあり、「二人が何故決裂したのか」という点について、アリアドネーの側にえん罪といえる理由があったのではないか、という理由付けの物語のようにも思える。
夫以外の男が妻にちょっかいを出しており、それが原因で争いが起きる、という点は、ラーマヤーナ的な「略奪婚」の要素であると思う。従って妻を略奪した「怪物」は最終的には退治されるが、この物語では怪物を倒すのは、妻自身となっており、とても強いヒロインの物語といえる。妻の貞節を賭けて騙される話。
妻が夫を男装して捜し求める点は、「兄たちを探す乙女」の変形版といえる。
全体としては、テーセウスとアリアドネーの物語のモチーフが一番強く、そこに「妻のえん罪」という要素が大きく関わる物語といえます。でも、本作の「妻」はイスラム圏の物語なのに、こんなに女性が強く、魔女的で、物語の主導権を握る存在であっていいのだろうか? と異教徒の私の方がむしろ思うくらい、女主人公の行動力と活躍が強く前面に出ており、夫を勝たせるのか、略奪者を勝たせるのか、それは「女神の恩寵次第で決まる」という、「ネミの森」のような太古の女神信仰の影響が強く残されている物語だと感じます。日本武尊の物語でも、日本武尊の人生を左右する存在として伯母の倭姫が大きく関わってきますし、大国主命は貝の女神に命を再生させて貰います。ゲイ神話的に主人公が流転するモチーフは、東アジア的な要素だと思う。ゲイもまた、妻の嫦娥に振り回される存在でもあります。しかも、テーセウスとアリアドネーのように、ゲイと嫦娥も決裂します。ゲイと嫦娥の神話が西に広がって、テーセウスとアリアドネーの物語に変化する過程で「えん罪」という要素が独自の形で入り込んできた物語といえるのかもしれないと思います。
女主人公が「見てはならない」(当人の魔力によっても「見ることができない」)存在である点も、太古の女神の姿を彷彿とさせると感じます。これは「鶴の恩返し」とも共通のモチーフです。
類話は「美しい娘」である。
#民話 #タジキスタン #イナンナとエレシュキガル #エンリルとニンリル #ハンカチ #絵姿女房 #見るな #禁忌 #怪物退治 #男装流譚 #鳥 #天人女房 #テーセウスとアリアドネー #ゲイ流譚 #えん罪 #妻の貞節を賭けて騙される話 #兄その他を探す乙女 #閉じ込められている乙女 #王の子どもたち
by admin. ⌚ 2022年02月07日(月) 14:06:42 民話 <1585文字> 編集
「シルクロードの民話 パミール高原」 29-52p
全体の流れは「3人男」の変形版といえる。
3人の男性が流転する点、最後に「幸せな結婚」が一人の男だけに訪れる点である。西欧の民話によく見られる「末子成功」の型ではない。その点は東洋的といえると思う。
妻が略奪される点、最終的に救い出す点は、「ラーマヤーナ的」といえる。いわゆる「怪物退治」の変形版である。
主人公が隠者的(獣の王)な生活を経て、人としての再生を得る点は、オルフェウス的でもあるし、ギルガメシュ叙事詩のエンキドゥを思わせる。あるいはシヴァの原型と言われるインダス文明のパシュパティを彷彿とさせる。
息子の一人が川に流される、という点は「人身御供」を思わせる。これが転じて、サルゴン大王やモーセの伝説が派生しているように思われる。
優れた医者が死者を生きかえらせる能力をも持つ、という点はアスクレーピオス神話を思わせる。地中海周辺に発達したこの神話は、イエス・キリスト神話に受け継がれるように思う。人が神の領域に踏み込むような能力を持つことの是非を問うような深い考察を伴うギリシャで語られるアスクレーピオス神話とは異なり、単純に遠い異世界(ローマ)での、夢のような憧れの出来事として、アスクレーピオス神話の片鱗は登場する。元々はオルフェウス的な神話だったものが、キリスト教の影響を受けて変化したものか?
このように、洋の東西の様々な民話や神話のモチーフがちりばめられながら、最後に主要な登場人物全てが「めでたし めでたし」となるところが、神話や民話を越えて、「文芸作品」と呼ぶに相応しい物語といえると思います。
距離的に近いせいか、全体としてはインド神話との共通のモチーフ(思想)が多いように思います。
全体としてはイスラム的な文化の影響を受けている平和的な民話ですが、アスクレーピオス神話(しかもローマが出てくる)がちょこっと絡む点が、微妙にカトリックの匂いがする、と個人的には思います。
おそらく、「死者を生き返らせる」という思想は、
英雄の技 → 隠者の技(獣の王、オルフェウス等) → 医者の技(アスクレーピオス) → キリストの技(キリスト教外ではミトラスの技?)
と変遷しているのだと思われる。
#民話 #中国 #難題聟 #3人男 #ラーマヤーナ #怪物退治 #獣の王 #鷹 #鳥 #川 #人身御供 #アスクレーピオス #蘇生型 #オルペウス教 #カトリック
by admin. ⌚ 2022年02月04日(金) 18:39:58 民話 <1031文字> 編集
女神ハンナハンナが行方不明になったテリピヌを探し出して目覚めさせた、というヒッタイトの神話である。
「兄たちを探す乙女」の神話的起源に一番近い物語ではあるまいか、と思う。
語源的にも、ハンナハンナはメソポタミアのイナンナ、テリピヌはドゥムジと同一であると思う。
#神話 #トルコ #ヒッタイト #イナンナとドゥムジ #兄その他を探す乙女
by admin. ⌚ 2022年02月04日(金) 14:49:12 神話 <186文字> 編集
「シルクロードの民話 パミール高原」 86-106p
主人公と女主人公が上位の者と対立して町を追い出されるところは「ゲイ流譚」型といえる。
女主人公が魔人の側について、兄を殺そうとする。「怪物退治」のうち、ティアマト型といえる。自ら生んだ息子に殺される点も、マルドゥクとティアマトの関係を連想させる。魔人が穴の中に封印されていた点は、元は「冥界神」だったことの暗喩といえる。
甥が叔父に代わって戦い、魔人を倒したり、花嫁を得る点はまさに「ジークフリート型」といえる。
本来的な物語が「テーセウスとミーノータウロスとアリアドネー」だったとすれば、本来は女主人公と魔人が兄妹(あるいは姉弟)という関係であって、外からやってきた主人公(本物語では「兄」)の方が略奪婚の当事者だったといえるのではないか、と思います。私は、民話を考察する際に女主人公から見て「兄弟」と「夫」の区別はあまりつけません。なぜなら、古代の特に母系社会ではイシスとオシリスのように、兄妹であって夫婦である、ということは珍しいことではなく、むしろ家の財産を守るためにはその方が妥当であった、という文化があるからです。日本の古代の天皇家も、異母兄弟で結婚して天皇、皇后となり、皇族でなければ皇后として認められなかった、という時代がありました。そこには現代的に「兄弟」と「夫」を区別する文化はありませんでした。古代日本の「妹」という言葉は、妻を指す言葉でもあり、妹を指す言葉でもあったのです。また、通い婚である母系社会では、夫は複数いて当然ですので、女性の不貞という概念がなく、その点も現代と異なります。そのように考えると本物語の「甥」は、本当は魔人の子供なのか、兄の子供なのかも分からない、ということになります。子供が主人公のことを愛して、父親だと感じていたのであれば、血のつながりに関係なく主人公の側につくことは母系社会的にはあり得ること、と思います。ただし、本物語では「甥」は魔人の血を引いた半人半神のような英雄であり、正義に味方する若き神のような存在ですので、そういう点も「正義の神」であるマルドゥクを連想させます。そして、当然イスラム文化の影響を受けている物語ですから、イスラム的には女主人公の死は「名誉殺人」的な概念となるのかなあ、と思います。(身内を裏切って、身内の賛成しない男と仲良くなって正式な結婚もせずに、事実上の夫婦となっているわけだから。ただし、民話としてはそのような女主人公の行動も古代の女神の名残のように思われます。)
ジャムシード王は伝説的な古代ペルシアの王と言われていますが、インド神話のヤマ(閻魔)、北欧神話のユミルと同語源であると言われています。ジャムシード王の尽きせぬ宝がどこかの洞窟に隠されている、との考え方は、「さまざまな鉱物資源(尽きせぬ宝)を体内にため込んでいるプタハのような大地(冥界)の神」を連想させ、少なくとも民間的にはジャムシード王のことを、「宝物をため込んでいる冥界の王」と見なし得るような口頭伝承があったのかもしれない、と思うと、ジャムシード王からヤマへの変遷が感じられて興味深く思います。
#民話 #タジキスタン #ゲイ流譚 #怪物退治 #ティアマト #怪物尊重 #ジークフリート