カテゴリ「起源・由来」に属する投稿[16件]
「読んで 遊んで とっぴんぱらたからぎけのり 新長野のむかし話 長野県国語教育学会編」 70-80p
「新長野のむかし話」編について。これは元の話からかなり改変がされている、と感じるが私が知る限り最悪の改変だと思う。
1.伝説にまつわる地名が記載されていない点(犀川、松本平など)
2.犀竜が悪いことをして罰を受けて竜にされてしまっている点
3.罰を受けた原因は、犀竜自身というよりも社会的な問題なのだが、なんでそれを弱者である犀竜が一番泥を被って犠牲にならなければならないのだろうか。現代的に、弱者を搾取することを正当化する思想に繋がらないだろうか。
4.小太郎が自らの出自に引け目を感じている点。読者である子供に、出自等で他人と違うことは「それだけで悪いことである」と思わせることにならないだろうか。現代的な教育という観点から多様性の尊重と平等や公平という精神を損なう物語とならないだろうか。
何より、犀竜自身は祀られている神社を持たない、といえども、かつての水内郡(現在の長野市)の犀川流域から広い範囲で九頭竜女神が水神として祀られていることを併せ考えれば、犀竜とは九頭竜女神のことである、と容易に気がつけるはず。そんなことも分からない奴がこの物語に手を出すんじゃねーよ、水内郡の伝統と文化に対する侮辱だ! と正直思います。(ま、元の話も竜蛇女神に自己犠牲を求める話で、個人的には好きではないのですが。)
同じ「日本標準」出版でも「長野の伝説」に収録されている方が原話に近いと思うので、いつか紹介できれば、と思います。犀川には他に安曇族の神の開拓神話もあるのですが。開拓神をないがしろにしてどうなってるのか、という「現実の歴史」もいつか紹介できれば、と思います。
#昔話 #長野県 #北信 #竜 #開拓神 #女神
by admin. ⌚ 2022年06月30日(木) 06:57:03 昔話,固有神獣,英雄名,起源・由来 <771文字> 編集
「ひだぶり街道物語 岐阜新聞社」 71p
高山市の加茂神社の伝説。
神様が盗人を助けてくれた、という物語。楽しい物語というよりは、個人的にはこれぞ「The 加茂」という気がして笑えない-;。
「盗み取る」から、「農家は五穀を取る」、「受験生は点数を取る」、「政治家は票を取る」という「何かを得る」ことに通じる信仰がある、とのことである。正当な努力の結果、何かを得ることは正しいことといえようが、それが誰かから「盗み取る」となるとどうなのだろうか。
よそ八は女神から生き血を盗み取る、須佐之男は大宜津比売を殺して蚕と五穀を盗み取る、泉小太郎は母女神を殺して女神が開拓した土地を盗み取る、と。これは、弥生の人々が縄文の母系の人々から、女神信仰の文化と農地と財産を盗み取った思想の正当化そのものではないだろうか。西部開拓時代のアメリカみたいな思想だー、と正直思う。このような思想が「加茂」の名の下にあることが非常に興味深いと思う。
#伝説 #岐阜県 #飛騨 #盗賊 #泥棒
「ひだぶり街道物語 岐阜新聞社」 57p
宇津江川の滝に関する伝説。滝の由来譚。
新旧会わせた2つの思想が入り交じった興味深い物語である。
導入部に、沼や川(主に滝)には(竜)蛇体の女神がその化身である、という古い思想が見られる。女神には人を病気にする能力も、癒やす能力もあるようである。主人公が病に陥るのは、禁域に踏み込んで「見てはいけない神の正体を見たこと(禁忌を破ったこと)」の祟りかもしれない、と受け取れるが「祟り」の部分は明確にそうとは語られない。
中盤は女神が自らの身を削って主人公を助ける、というエピソードになる。これは「自己犠牲」といえる。禁忌を破ったものに対する罰(主人公の病気)を神が助けなければならない理由の方が、本来は「ない」と思われる。疫神が自ら実を削って人々を助ける、という思想は、原始キリスト教到来以後(私の私感としては)、あるいはおそくとも仏教到来以後の思想と思われるので、起源としてはせいぜい1世紀よりも後の思想と思われる。女神が「修行をする」という発想も仏教(修験道)的な考え方と思われる。
主人公の「願掛け」が女神を救うことになるので、この点も修験道的と思う。また主人公は女神(蛇)に劣らず水を操る力(通力とか法力と呼ばれるもの)を有していたと思われるので、自然界に働きかける特別な能力を持っていた、という点では主人公も「八卦」の伏羲に繋がるようなシャーマン的な性質の持ち主であったことを示している。名前にも「八」がつくし。この場合、主人公には「母なる水等の神」の特別な恩寵があり、女神と特別な関係だった、ともいえるし、その「特別性」が主人公を他の人々に対して、一段上の特別な人間にもしている、と思う。
主人公が川の女神と特別な関係にあって、人々の中でも特殊な地位にある、という物語は長野県の「泉小太郎」の物語にも似る。物語の起源としては近いのではないだろうか。
#伝説 #岐阜県 #飛騨 #蛇 #川 #沼 #疫神 #修験道 #シャーマン #伏羲 #八卦 #女神
by admin. ⌚ 2022年06月20日(月) 06:23:13 伝説,神話,起源・由来,固有地名 <871文字> 編集
「ひだぶり街道物語 岐阜新聞社」 32p
宮川村の人身御供伝説。
前半は八岐大蛇的な若い娘の生贄を求める大蛇の話。
後半は娘自身が大蛇を倒す話。蛇が金物(特に針)を嫌う点は三輪山伝説に類似している。蛇(化け物)退治の英雄は登場しない。
村の水田の開墾由来譚であり、お寺での断食供養の由来譚でもある。
女性の力が開墾(村全体の収入や生活の安定の元となる事業)を可能にしたり、悪者の存在を解決する点は、岩見の乙子狭姫 の伝承と似る。かつては女神が直接農作物の豊穣をもたらす、という伝承があり、それが崩れたものか。飛騨地方の縄文時代の信仰を知る上での資料となり得るような古い時代に起源のある物語なのでは、と思う。(生きているままの女神に対する信仰の片鱗が残っているから。)
お寺での断食供養はやや「犠牲的」な祭りといえるが、若い女性が女神(水や豊穣の神)の代理人あるいは祭祀者として神を祀っていた縄文時代の祭祀の名残かもしれないと思う。
宮川村は縄文時代のイノシシ、クマ、蛇などの動物をかたどった動物意匠紋土器が岐阜県で初めて出土した地とのこと。石棒も出土しているようである。(石棒を「金精様」と呼ぶのは岐阜県の習慣だろうか?)
#伝説 #岐阜県 #飛騨 #蛇 #こんにゃく #針 #怪物退治 #開墾
by admin. ⌚ 2022年06月19日(日) 14:51:28 伝説,神話,起源・由来,固有地名 <573文字> 編集
「長野のむかし話 長野県国語教育学会編」 189-191p
イェンゼンのことは個人的には好きではないのだが、「芋といえばハイヌウェレ」というくらい(?)ハイヌウェレ型神話は有名な話である。この物語は一般的なハイヌウェレ型神話よりも更に古い時代の「ハイヌウェレ型神話」といえると考える。
西欧では「末子成功譚」が多いが、東アジアから環太平洋周辺地域のオーストロネシア語族の文化圏の中には「兄と弟」の組み合わせで、原因は様々だが、弟が唐突に死ぬ、というパターンの物語がままある。本物語もそのような国際的な物語の1つであって、台湾やポリネシア等に類話がみられる。
本物語に限っていえば、これはホトトギスという鳥の由来譚と、5月の端午の節句に芋汁を食べることの由来譚でもある。芋名月は日本では中秋の行事とされることが多いが、鬼無里では5月の節句の行事であったことが分かる。そして、兄が鳥の化身であり、弟が山芋の化身であることが分かる。これを動物神や植物神の擬人化、とみるのか、人を動物や植物になぞらえている、とみるのか、ということになるが、管理人は後者であると思う。
なぜ、人間を動物や植物になぞらえるのか、といえば、その理由は「階級」や「身分」というものを示し、誰が「上の身分」で、誰が「下の身分」であるかを示しているし、それぞれの社会的役割を示しているものとも考える。兄は「鳥」であって、木の枝の高いところに住み、弟たちを支配する。山芋は、地面の下に存在し、一番低いところに生息するものなので、それが「身分の低さ」を示すし、支配しかされない。そのような観点から見れば、本物語は「身分の低い者は上位の者の食べ物である」とか「上位の者は身分の低い者の生殺与奪件を握る」という階級社会の理論や思想を示す、社会学的な物語あるいは「説話」とすらいえると考える。
階級社会の発生は、父系文化の発生と一致し、良渚文化にまで遡る。本物語に暗喩される「身分的に上位の者は下位の者を食い物にして当然である」という思想が、父系文化と階級社会を支えてきた思想だと理解すれば、大国が小国を一方的に「悪者」と決めつけて理不尽に攻撃するようなことを正当化する根本的な思想が、5500年ほど前に長江下流域の水稲耕作民から発生したものであって、人類はそこから5000年以上たっても、「父系文化の根本的思想」から抜け出すことができないでいることが分かる。この思想の問題の根は山芋の根よりも更に深いところまで潜り込んでいるように思える。そして、鬼無里・長野市信州新町あたりには、古い時代のハイヌウェレ型神話に関係する民話・伝承が多く残され、独特な地域であるなあ、と思う。(今のところ信州新町はなんだか「泥棒村」みたいなノリになっちゃっていて、呆れかえるばかりである。まあ、ここのところ1600年くらいはそういうノリだったのかもしれませんがー;。)
参照:序列殺人
#昔話 #長野県 #北信 #鬼無里 #ほととぎす #鳥 #山芋 #植物 #ハイヌウェレ #序列殺人
by admin. ⌚ 2022年04月18日(月) 06:21:35 昔話,起源・由来 <1281文字> 編集
「妖精の誕生 トマス・カイトリー」 105-106p
教会に奉納された杯の由来譚である。
物語の骨格は「怪物退治」の省略された「呪的逃走」のみの話。
教会が絡む物語なので、教会そのものが逃走の「助け手」となる。日本でもお堂等に逃げ込んで鬼をやり過ごすような話があったと思う。
古代の神々の役目であった「呪的逃走」の助け手を、確立された世界宗教も引き継いだ一例といえる。
トロールの酒を捨てるところは、メソポタミア神話の「アダパの物語」を思わせる。
もちろんアダパよりもずっと現代に近い時代の物語であるので、他人が差し出した怪しい飲み物などは飲まないのが常識ではあるが。
物語的には「杯」は、「魔法の大釜」が著しく変形したものであろうか。
類話は「スヴェンド・フェリングと女エルフ」、「フェアリーの宴会」である。
参照:アダパ 、トロール
#伝説 #スカンジナビア #デンマーク #北欧 #トロール #踊り #魔法のアイテム #酒 #魔法の大釜 #不死の霊薬 #呪的逃走 #馬 #教会 #カトリック #椀貸伝説
by admin. ⌚ 2022年02月23日(水) 12:00:03 伝説,起源・由来,固有地名 <497文字> 編集
「妖精の誕生 トマス・カイトリー」 86-88p
ドゥエルガル(dvergr)の性質を示すものとして、カイトリーが紹介した物語。「妖精の誕生」の目次では民話とされているが、神話である。神々の武器をロキがどのようにして手に入れたのか、という由来譚になっている。 参照:シフの髪を切った話
小人とは、この物語のように魔法のアイテムを作る、主に地下に住む鍛治師とされている。
この物語についての「妖精の誕生」でのカイトリーの解説には、個人的には何も言えない。(というか、何が言いたいのかよく分からない。)
シフの髪を切った話は、「怪物退治譚」の変形で、宝物探報が主な目的となった「イアーソーン型」である。物語の導入部分は、上位の神トールとの対立であるので、「ゲイ流譚型」といえる。
物語としては、流れに疑問を感じる不自然な場面がいくつかあり、欠損を思わせる。それは、
1.何故ロキがシヴの髪を刈ってしまうのか。なぜ、自然に髪が伸びるまで待てないのか。という点
2.手に入れた魔法のアイテムはいわば「賠償品」であって、最初からロキのものではないのだが、なぜロキは品物を自慢したりしたのか。そして、なぜ命を賭けた賭けをしたのか。という点
の2点である。
「シヴの髪を刈る行為」は、「長く豊かな髪」は女性らしさの象徴でもあり、夫の自慢でもあるので、それは「女性の死」の暗喩であると思う。つまり、ロキはシヴを殺してしまったので、その再生のために冥界を流転する旅に出ることになる。旅には、シヴの再生の目的と、もっと人の現実世界に近い「賠償」のため、という2つの側面がある。ロキの旅に2段階あるのは、最初の旅のみでは、再生に足りない、あるいは賠償が足りない、とされる理由が本来あったのではないだろうか。そのため、さらなる目的物を得るためにロキは命を賭けなければならないのである。一つの命を再生させるために、新たな命が必要とされる、というのはよくある神話のパターンである。
そして、旅の目的を果たしてロキは帰還するが、結局は成功と認められないことになる。従ってロキは殺されねばならない。この展開にも2面性があり、ロキはシヴの再生のために最初から命を差し出さねばならない、という神話的目的と、「賠償に失敗したから」という現実的な目的が入り交じっているように思う。「口をきけないようにする」という展開は、「ロキの死」を暗喩している。
民話では、物語の最後は「めでたし めでたし」で終わることが多いが、西欧の神話では特に悲劇で終わることが多い。登場人物のほとんどが死んでしまう「ニーベルンゲン」のような物語もある。ただし、本物語は、「北欧神話」という大きな物語群の中で、「神々の武器の由来譚」としての位置を与えられたこと、ロキの最期がラグナロクに位置づけられたことなどから、ロキの死は暗示されるだけで、物語の上では死なない、ということに変更されたのではないか、と思われる。男神が女神を再生させる、という点ではイナンナとタンムーズ的ともいえる。タンムーズも冥界のイナンナの怒りを買ったことが、彼の死の原因とされている。
類話はケルト神話の「トゥレンの息子達 」である。主人公達は、人の命を奪い、上位の神に賠償するために財宝を探索する「イアーソン型」かつ「ゲイ流譚型」の旅をする。試練が2部制になっている点、最期に主人公達が亡くなる点等が共通である。
#神話 #北欧 #イアーソーン #ゲイ流譚 #魔法のアイテム #イナンナとタンムーズ #損害賠償 #小人 #ドワーフ
by admin. ⌚ 2022年02月16日(水) 18:29:28 民話,神話,起源・由来,多エピソード保有人名 <1491文字> 編集
「フェアリーのおくりもの トマス・カイトリー」 27-28p
いわゆる「名前当て」の物語。教会の由来譚でもある。
魔物に建築をさせる物語は、日本の役小角にもある。
「名前当て」の類話は、トゥンダである。
#民話 #デンマーク #トロール #教会 #建築 #名前当て