No.152, No.151, No.150, No.149, No.148, No.147, No.146[7件]
「シルクロードの民話 パミール高原」 52-67p
女主人公が「7つの扉のついた地下室」に住んでいる点は、明らかに「イナンナの冥界下り」と共通したモチーフと思われる。イナンナが下る冥界にも7つの扉がある、とされる。この点の類話は「山のなかに閉じこめられた王女」である。
神話では、イナンナは姉エレシュキガルの支配する冥界を「自分のもの」と考えて下り、そこで冥界の女王である姉の怒りを得て殺された、とされるが、それはイナンナとエレシュキガルが「一体となったことを示している、とも解釈できる。少なくとも、本作の女主人公はイナンナ的ではあるが、冥界を住処としており、エレシュキガルともいえる性質を併せ持つ。彼女の住処に許しなく踏み込む者は、そこは「冥界」であるので、当然のように死ぬ。
一方、女主人公の夫は、父王の怒りを受けて旅に出る。これは「人身御供」の象徴ともいえるが、物語的には、「上位の者の怒りを得て、主人公が流転する」という点で、中国のゲイ神話、日本の日本武尊を思わせる。なにがしかの禁忌を破って、異界を流転する夫とそれを再生させようとする妻、という点ではエンリルとニンリル的でもある。
えん罪であるけれども、女主人公が夫を裏切った(ように見え)る、という点は、テーセウスとアリアドネーの神話が根底にあり、「二人が何故決裂したのか」という点について、アリアドネーの側にえん罪といえる理由があったのではないか、という理由付けの物語のようにも思える。
夫以外の男が妻にちょっかいを出しており、それが原因で争いが起きる、という点は、ラーマヤーナ的な「略奪婚」の要素であると思う。従って妻を略奪した「怪物」は最終的には退治されるが、この物語では怪物を倒すのは、妻自身となっており、とても強いヒロインの物語といえる。妻の貞節を賭けて騙される話。
妻が夫を男装して捜し求める点は、「兄たちを探す乙女」の変形版といえる。
全体としては、テーセウスとアリアドネーの物語のモチーフが一番強く、そこに「妻のえん罪」という要素が大きく関わる物語といえます。でも、本作の「妻」はイスラム圏の物語なのに、こんなに女性が強く、魔女的で、物語の主導権を握る存在であっていいのだろうか? と異教徒の私の方がむしろ思うくらい、女主人公の行動力と活躍が強く前面に出ており、夫を勝たせるのか、略奪者を勝たせるのか、それは「女神の恩寵次第で決まる」という、「ネミの森」のような太古の女神信仰の影響が強く残されている物語だと感じます。日本武尊の物語でも、日本武尊の人生を左右する存在として伯母の倭姫が大きく関わってきますし、大国主命は貝の女神に命を再生させて貰います。ゲイ神話的に主人公が流転するモチーフは、東アジア的な要素だと思う。ゲイもまた、妻の嫦娥に振り回される存在でもあります。しかも、テーセウスとアリアドネーのように、ゲイと嫦娥も決裂します。ゲイと嫦娥の神話が西に広がって、テーセウスとアリアドネーの物語に変化する過程で「えん罪」という要素が独自の形で入り込んできた物語といえるのかもしれないと思います。
女主人公が「見てはならない」(当人の魔力によっても「見ることができない」)存在である点も、太古の女神の姿を彷彿とさせると感じます。これは「鶴の恩返し」とも共通のモチーフです。
類話は「美しい娘」である。
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by admin. ⌚ 2022年02月07日(月) 14:06:42 民話 <1585文字> 編集
「シルクロードの民話 パミール高原」 29-52p
全体の流れは「3人男」の変形版といえる。
3人の男性が流転する点、最後に「幸せな結婚」が一人の男だけに訪れる点である。西欧の民話によく見られる「末子成功」の型ではない。その点は東洋的といえると思う。
妻が略奪される点、最終的に救い出す点は、「ラーマヤーナ的」といえる。いわゆる「怪物退治」の変形版である。
主人公が隠者的(獣の王)な生活を経て、人としての再生を得る点は、オルフェウス的でもあるし、ギルガメシュ叙事詩のエンキドゥを思わせる。あるいはシヴァの原型と言われるインダス文明のパシュパティを彷彿とさせる。
息子の一人が川に流される、という点は「人身御供」を思わせる。これが転じて、サルゴン大王やモーセの伝説が派生しているように思われる。
優れた医者が死者を生きかえらせる能力をも持つ、という点はアスクレーピオス神話を思わせる。地中海周辺に発達したこの神話は、イエス・キリスト神話に受け継がれるように思う。人が神の領域に踏み込むような能力を持つことの是非を問うような深い考察を伴うギリシャで語られるアスクレーピオス神話とは異なり、単純に遠い異世界(ローマ)での、夢のような憧れの出来事として、アスクレーピオス神話の片鱗は登場する。元々はオルフェウス的な神話だったものが、キリスト教の影響を受けて変化したものか?
このように、洋の東西の様々な民話や神話のモチーフがちりばめられながら、最後に主要な登場人物全てが「めでたし めでたし」となるところが、神話や民話を越えて、「文芸作品」と呼ぶに相応しい物語といえると思います。
距離的に近いせいか、全体としてはインド神話との共通のモチーフ(思想)が多いように思います。
全体としてはイスラム的な文化の影響を受けている平和的な民話ですが、アスクレーピオス神話(しかもローマが出てくる)がちょこっと絡む点が、微妙にカトリックの匂いがする、と個人的には思います。
おそらく、「死者を生き返らせる」という思想は、
英雄の技 → 隠者の技(獣の王、オルフェウス等) → 医者の技(アスクレーピオス) → キリストの技(キリスト教外ではミトラスの技?)
と変遷しているのだと思われる。
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by admin. ⌚ 2022年02月04日(金) 18:39:58 民話 <1031文字> 編集
女神ハンナハンナが行方不明になったテリピヌを探し出して目覚めさせた、というヒッタイトの神話である。
「兄たちを探す乙女」の神話的起源に一番近い物語ではあるまいか、と思う。
語源的にも、ハンナハンナはメソポタミアのイナンナ、テリピヌはドゥムジと同一であると思う。
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by admin. ⌚ 2022年02月04日(金) 14:49:12 神話 <186文字> 編集
「ソヴィエト諸民族民話集」 220-231p
瓜子姫と天邪鬼的な物語。結婚に関する物語ではなく、「兄たちを探す物語」となっている。
「兄達」は柳の化身であるので、元はタンムーズやアッティスといった植物の化身の神話の男神と同じものといえる。
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by admin. ⌚ 2022年02月04日(金) 12:51:16 民話 <205文字> 編集
「シルクロードの民話 パミール高原」 26-29p
「イナンナとエレシュキガル」の変形版。
女性と麦が同一視されている。元は植物と豊穣の女神に関する神話が、イスラム的な文化の影響を受け
女神が流転したり、直接豊穣をもたらしたりするエピソードが変形して、家庭内(家庭円満)のささやかな
悪意のない呪術の物語へと変化したものと思われる。
結婚に関わる物語である点は、瓜子姫的な要素の片鱗を思わせる。
男性を軸として、妻が入れ替わる物語は、シヴァとサティーとパールヴァティーの関係を思わせる。
西欧の類和としては「青ひげ」がある。
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by admin. ⌚ 2022年02月03日(木) 07:48:32 民話 <326文字> 編集
「シルクロードの民話 パミール高原」 14-26p
「難題嫁」「呪的逃走」「イナンナとエレシュキガル」の変形版。
人身御供を伺わせるのではなく、男が復讐のために結婚する、というモチーフは「アラビアンナイト」に通じる。
女性の流譚という意味では、鉢里公主的である。「兄たちを探す乙女」の変形版と思う。
女性が男性の苦難を助ける、という点ではテーセウスとアリアドネー的でもある。
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by admin. ⌚ 2022年02月03日(木) 07:35:19 民話 <301文字> 編集
「シルクロードの民話 パミール高原」 68-81p
主人公が家を出る下りは「ゲイ流譚」的である。
女主人公に「見るな」の禁忌があり、閉じこもった暮らしを送り、彼女の怒りを買ったものは死に至る、という点は「王女のハンカチ」と共通する。
略奪婚を試みる悪しき王の結末は、「怪物退治」の一型といえる。女主人公の助力がある点で、「テーセウスとアリアドネー」型の物語といえる。この物語では女主人公ではなく、主人公の方が鳥に化生する。馬との関連もわずかであるが示唆される。女主人公は杏と関連づけられる。
当人の姿以外のものが異性の心を捉えるという点は、日本の「髪長姫」を連想させる。
参照:絵姿女房
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