蛇の尾を持つホルス:ヒエログリフ

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「蛇」を意味する子音のついた「太陽神」が古代の地中海周辺地域で、古い時代から強く信仰されていたことは明かである。古代エジプトのホルス神の名には、本来「蛇」を意味する子音がないのだが、時代が下ってその役割が細分化され、新たな名前や役割が付加されるようになると「蛇」を意味する子音を持つ新しい名前もいくつか誕生したようである。その中でも、エジプト外から持ち込まれ、後にホルス神と習合したと思われる「もう一つの鷹神」に注目してみたい。

コロン(Choron)について

この神はコロン(Choron)あるいはハウロン(Hauron、Huron、Horan)といい、カナン(パレスチナ)からエジプトに持ち込まれ、第18王朝の時代にはホルス神と習合して「王の保護者」とされたハヤブサの神である。当時、ホルス神の一形態であるハロエリス神が「神々の父」と呼ばれたことを併せ考えれば、コロン神が同様に「神々の父」であり「神の子」とされた王の「精神的父」とみなされたことと思われる。ハヤブサの神という形態をとるという点「HR」という子音からみてホルス神と近い起源の神であると思われる。しかし、この神の名には「n」という「蛇」を示す言葉が末尾につけられており、それが大きな特徴といえる。ウェールズ語で太陽のことをハウル(Haul)というため、おそらく本来は「n」のつかない太陽神であり、かつホルスと同様ハヤブサの神であったと推察されるが、歴史の流れの中のいずれかの段階で「n」という子音が付加されて作られた神名といえるであろう。
この神のヒエログリフは以下の通りである。比較のために、ホルスのヒエログリフも挙げる。

コロンのヒエログリフをホルスと比較した場合、ライオンやエジプトハゲワシといった「王権の保護者の象徴」としてのヒエログリフが発音しない文字として付加され、そのような性格が強調された神であることが分かる。また「ウズラの雛」を現すヒエログリフは「w」とも発音し、この子音の変遷過程からみれば、かつては「b」と読まれていた可能性が大きい文字であると思われる。そのように読んでみると「コロン」とは「k(h)-b-n」という子音で現される神とも成り得る。「月」を意味する「n」を「t」と置き換えれば、これはヒッタイトのヘバト(Hebat)女神と同様の子音構造を持つ言葉となり「月」の要素を併せ持つ太陽神ということになるであろう。
一方、ホルス神の名における口のヒエログリフを「k」と読み、かつ糸のヒエログリフを「k」と読んでみることとしよう。そうすると、ホルスの名は「khk」、すなわちケク(khk)となる。古代エジプトにおいて「ケク」とは「蛙」のことを指す言葉であり、蛙神も重要な神である。要するに、古代エジプトにおけるホルス神は本来「蛙に属するハヤブサ神」であり「王権の保護者である蛇の尾を持つハヤブサ神」とは、同じ「ハヤブサ」で象徴される神であり「似ていても異なるもの」なのである。
また、コロン神の名前は「ベテホロン」という町をソロモン王らが建設したとして、旧約聖書にも登場する。[1]「ベテホロン」とは「ホロン」に「ベテ」という接頭辞をつけたもので、古代エジプト的に述べれば「ベテ」とは「Buto」、すなわちウアジェト女神のことと思われる。おそらく、コロン神に「ベテ」という言葉を接頭辞的に付加して「蛇神」としての性質を強めた名ではないだろうか。古代イスラエルの中には、このように「蛇神的ハヤブサ神」を信仰する傾向も一部か全体かは別として、存在していたようである。

ハト(Hat)という接頭辞について

エジプトの神名に目立つ「ハト(Hat)」という接頭辞であるが、Hという子音はKhからKが消失したものと考えると本来は「K-t」というものであったと考える。「B」という子音に「t」という「蛇」を示す言葉を付加して「蛇の太陽神」という意味を持たせているのだとすると「K-t」という接頭辞、すなわち「ハト(Hat)」という接頭辞も、同様に「K」という子音で現される神名に「蛇神」という意味を付加するために作られた言葉であろう。

蛇の名を持つホルス

古代エジプトでは、コロン神と同様、その名に「蛇」を持つホルス神の別名が複数あるため、その考察を行ってみたい。また、ホルス神はヌンという女神の息子という伝承もあり、その場合には母女神が「蛇女神」でもあるということで、その名がいかなるものであろうとも「蛇」に属するハヤブサ神となってしまうという点には注意が必要であると思われる。

  1. ホルス・ベフデティは王と共に戦う姿のホルス神である。「蛇」を現す「d」や「t」の子音が付加されている。
  2. 古代エジプトにおいて、ファラオは太陽神であるホルスの化身とされたり、あるいは太陽神ラーの息子とみなされたりしていたため、しまいに「王権の保護者」としてのホルスはラー神と習合して「ラー・ホルアクティ(Ra-Harakhte)」と呼ばれるようになった。この場合のホルス神には「月」を意味する「t」や「n」の子音が付加されている。

以上のように「王権」にかかわる姿のホルス神には「月」を意味するヒエログリフが付加されていることがわかる。王権による武力とは「国家の保護者」として侵入してくる外敵と戦う場合にはたのもしい存在であるが、その一方で節度を失えば外国を侵略する略奪者、侵略者とも成り得る存在である。古代エジプトの王権にかかわる「月」を意味する文字は、このように「保護者」としては頼もしいが、略奪者としては恐ろしい存在である、とそのような2面性を持っていたと思われるのである。

関連項目

参照

  1. 歴代志下、第8章

外部リンク

Wikipedia

Wikipedia以外

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