射日神話
射日神話(しゃひしんわ)とは、東アジアを中心にした伝承で、「天上に複数の太陽(かつ(あるいは)月)が出現したが、英雄がこれらを射落として1つだけを残した。」という趣旨の話である。「太陽を射落とす話」が多いので、総称して射日神話という。中には太陽や月以外のものも射落とす話がある。また、射落とさず永遠に戦い続けるようなパターンもある。それ以外に日食や月食などと関連づけられることもある。中国の羿の物語が特に有名である。
私的解説[編集]
射日神話と黄帝・蚩尤が戦う「涿鹿の戦い」は実は「表裏一体」の話である。黄帝の側から見れば、これは天に逆らう悪しき蚩尤を倒す戦いである。蚩尤の側から見れば、これは「巨大すぎて干魃を起こす邪魔な太陽」を討ち果たす戦いなのだ。だから、蚩尤とは羿のことなのである。ただし、羿には「天帝にtw従ったのに、逆らった」という奇妙な矛盾した性質が付加されており、そこには誰か別の人物の性質が付加されたが故の「矛盾」があるように思う。各地の射日神話のうち、いくつかを挙げてみたい。
羿の物語[編集]
太陽を射落とす話、プラス犬と月[編集]
1昔、10の太陽が一度に出現して地上が混乱した。天帝は羿という神人に対応を求めた。羿は秩序を太陽達に求めたが応じられなかったため、1つを残して全て射落とした。(射日部)
2地上には平和が戻ったが、太陽達は天帝である帝夋の子であったため、羿は子供を殺された天帝の怒りを買って、天界を追放された。(天界追放部。これは蚩尤を倒した後、天に戻れなくなった魃女神と応竜に類似する部と考える。ともかく、役目を果たした者は「天に帰れなく」なるようである。)
3神々の世界(天界)を追放されて不老不死を失った羿と妻の嫦娥は、西王母に不老不死の薬を求めた。(霊薬入手部。これは一般的な「射日神話」にはない羿神話独自の展開と考える。ところで、嫦娥とは何者なのだろうか。彼女の名は「若」という文字のシナ・チベット祖語 *na-ŋに類似し、これは一般的には「息子神」として男性神を現す。蚩尤の「尤」と同じ意味と考える。すなわち、嫦娥とは「死して天に昇った蚩尤」を亡くなった女神(例えば女媧)に習合させたものと考える。彼は太陽をある程度射おとすことに成功したかもしれないが、彼自身も死んでしまったのである。すなわち、霊薬入手部の羿は蚩尤とは別の人物なのである。)
4嫦娥は、不老不死の薬を羿から盗み出して独り占めした。(窃盗部、地上に転落して、ある意味蚩尤から「天神」としての性質を奪われ、盗まれたといえるのは誰だろうか。それは魃女神と応竜である。蚩尤(嫦娥)が盗み出した、と言われる「不老不死の薬」とは、ある意味この二神のものだったのではないだろうか。そうすると、この部分の羿は「魃女神+応竜」ということになる。)
5そして嫦娥は、羿の元から逃げだし、月へ逃げ昇ってそこに住むこととなった。(逃走女神部、女神が夫から逃走するのは伏羲・女媧神話である。こうして「亡くなった女性の女神」は元の姿が何であろうが「月の女神」に変更されてしまった。しかしモン族の伝承に太陽の少女が月の青年と恋して追いかけられる話があるので、「亡くなった女神」とは太陽女神だったはずである。不老不死の薬とは本来何だったのだろう? 「太陽神」の力の一部となるような「火」というものだったのではないだろうか。でも嫦娥はほんのわずかしか盗み出せなかったので、月は太陽のように強く暖かく燃えることができない、とされているのかもしれない。)
6嫦娥と共に兎も月に昇り、月でそこにあった桂の木から不老不死の薬を作り続けることとなった。(神昇格部、こうして蚩尤は死んだ女神にとりつき、「月の神」になることには成功したのである。)
7羿は黒耳という猟犬を飼っており、その犬も不老不死となって天に昇った。(天狗誕生説話、天狗誕生説話は当然一般的な射日神話にはない。死んだ蚩尤がバラバラになって、月の豚になったり、天狗になったりする、という別の神話が混在していると考える。この場合の蚩尤は現在では盤固(おそらく若蛙という意味)と呼ばれると考える。黒というのは「熊」を示唆する暗喩的表現でもある。)
8黒耳は嫦娥と月を飲み込んだ。(月食説話、これは「亡くなった女神」の亡くなった場面を再々現したものといえる。天狗説話が後から射日に付け加えられたので、女媧的な女神は2回殺されることになってしまったと思われる。)
9黒耳は天界で新たな役割を得、嫦娥と月を吐き出した。(月食説話及び天狗誕生説話、女神を殺した天狗は罰として殺されて月神に変化した、とするとまた蚩尤神話の死の場面の繰り返しになってしまうので、黒耳となった蚩尤は門番としての新たな地位を得ることとなった。)
10この後、羿は傲慢さ故に弟子あるいは継子に殺されて食べられてしまうことになる。これはあまりに凄惨で特殊な描写なので、月と門番に変化した蚩尤以外の誰かの話と考える。むしろ、この「弟子あるいは継子」が蚩尤であって、その復讐劇が「涿鹿の戦い」ではないか、と思う。羿神話は複数の神話が集まってできただけでなく、時系列も混乱して造られているように思う。
11時系列の整理。黄帝側。蚩尤が父親の黄帝を殺して食べ、更に妻の女媧を殺したので、怒った妹の魃女神が新たな黄帝となって蚩尤を倒した。魃女神は太陽女神であり、殺された女媧女神は応竜として水神となり、祀られた。
12時系列の整理。蚩尤側。蚩尤は妻と共に父親の黄帝を殺し、真の父親である炎帝の仇を討った。妻は太陽女神だったが、あまりにも傲慢に威張るので、殺して蚩尤が太陽神になろうとした。しかし、油断したところを生意気な妹の魃に狙われ、蚩尤もまた殺されてしまった。新たな黄帝となった魃は、蚩尤をバラバラにし、世界の土台にして2度と人間に生まれ変わってこないように画策した。蚩尤の一部は月の豚になり、また一部は天狗にもなった。「月の豚」は単なる豚ではなく、天から地上を見下ろす「蚩尤の目」でもあって、その体内には蚩尤の魂が宿っているとされた。
ちなみに、蚩尤の父親を炎帝(豚)と考える場合には蚩尤は「若豚」と呼ばれるし、蚩尤の父親を黄帝(蛙)と考える場合にはこれを「若蛙」と呼ぶように思う。蚩尤という名前が「若い豚」という意味と考えるし、「盤固」という名の時は「若い蛙」という意味なのだろう。
私的解説[編集]
「月の神」が女神なのか男神なのかという点は、2種類の説があってそれは「殺された太陽女神」が月になったというヴェマーレ族のラビエのような伝承と、伝統的に「殺された肉(豚肉)の巨人」が「月」になる(そして太陽を追いかけ続ける)、というものである。嫦娥の名前は蚩尤と類似しているので、月に関しては、殺された蚩尤と殺された太陽女神の2説を1つに纏めてしまったのが嫦娥だと考える。そこで彼女はどちらの性質も持つ。ある意味「半陰陽の神」といったら彼女のようなものを言うのではないだろうか。
治療する犬神[編集]
苗族の神話史詩「金銀歌」は次のように言う。英雄昌札が日月を射た時、最後に残った一対の日月を傷つけた。人々は天狗に日月を治療するように頼み、天狗に五十斤の米を与えることを約束した。しかし天狗が日月を治療したあとも人間はその約束を果たさなかったので、腹が減ると日月を食べるようになった。それが日月食である[1]。
私的解説[編集]
漢族の黒耳はいったん「嫦娥を食べるけれども吐き出す」ことで再生させる。苗族の天狗は「傷ついた日月を再び空を巡れるように癒す」。すなわち、どちらも「死んだ日(月)を再生させる力を持つ」とみなされていたように思う。ギリシア神話のサートゥルヌスもいったん食べた子供達を吐き出すことで再生させている。漢族の伏羲は、妹と共にウリの中にこもり、またそこから妹を取り出す。このように考えると、犬神には「医薬神」を超えて、死者を生き返らせるような能力があるとみなされ、今天に出ている太陽は、「天狗が再生させてくれた太陽」ともいえるのではないだろうか。羿と黒耳の伝承は、名族の射日神話に影響を受けたものであることが分かる。
射日神話的神話[編集]
私的考察・射日神話考[編集]
関連項目[編集]
- 蚩尤:射日神話の主人公といえる。