失われたArk2:ヒエログリフ
アケルを構成する「平たい器」のヒエログリフが「sh」とも読みえて、メソポタミアの言葉と意味においても、発音においても共通性があると思われることが分かった。では、残る「口」を示すヒエログリフについても考察してみることとしよう。
「偉大なる」という言葉
この「口」で現されるヒエログリフは、神の名に関する場合には「偉大なる(WeretあるいはWer)」という言葉の一部として使われる場合が多い。例えば、「偉大なる(蛇の)母」と書く場合に、「偉大なる」という部分はヒエログリフで書くと「鳥(w)」+「口(r)」+「半月(t)」という組み合わせになる。[1]この組み合わせは様々な神々の名にみられ、定型化した言葉であることが分かる。まずはこの文字に注目してみたい。
Mehet-Weret
新王国時代(紀元前1570年頃 - 1070年頃)
ドイツ語版wikipedia:Mehet-weretより
ウェル(Weru)について
ウェル(Weru)とは亡き王に捧げる犠牲を神格化したもので、古王国時代から存在していた神である。そのヒエログリフは以下の通りである。
古王国時代(紀元前2686年頃 - 2185年前後)
ドイツ語版wikipedia:Weru (ägyptische Mythologie)より中王国時代(紀元前2040年頃 - 782年頃)
ドイツ語版wikipedia:Weru (ägyptische Mythologie)よりヘレニズム時代(紀元前300年頃 - 0年頃)
ドイツ語版wikipedia:Chnumより
ウェルを構成するヒエログリフを見ると、古い時代には「鳩」のヒエログリフのみで現されていることが分かる。エジプト人は現在でも鳩を食用とするが、この鳥が古代から食料や犠牲獣として重要視されていたことが分かる。「亡き王のための犠牲」とはおそらく「亡き王の食事」と考えられていたのではないだろうか。また、古い時代には葉とのヒエログリフのみで「Weru」と読んでいたことが覗える。要するに「r」の子音を示すとされている「口」のヒエログリフが無くても「Weru」という言葉は成立し得るのである。
ケプリ(Chepre)について
ケプリはフンコロガシの頭部で現される神で、太陽神ラーの一形態である「日の出」を示す神とされる。フンコロガシの転がる動物の糞が太陽を示すとされており、ナイル川の水がクヌム神の尿である、という信仰以外にここにも「糞尿信仰」とでもいうべき汚物に対する信仰があったことが覗える。それはともかくとして、ケプリのヒエログリフは以下の通りである。
ケプリを構成するヒエログリフを見てみると、フンコロガシを現すヒエログリフ以外で「音」を現していることが分かる。特に「口」を示すヒエログリフのみでも「ケプリ(chprあるいはkhpr)」と発音させているようである。すなわち「口」を意味するヒエログリフは、それ一文字でも「太陽」を示すと共に「kh(ch)」とも発音しうることが分かる。このように見ていると、アケル(Aker)のヒエログリフは、「平たい器」のヒエログリフのみならず「口」のヒエログリフも共に「k」と発音し得ることになり、全体として「アケク(Akek)」と読めることが分かる。
また「アケル」は「地平線に日が沈む図」で現されるとされているが「口」のヒエログリフが「日の出」を示すものであり、かつ「平たい器」が「日中の太陽」を示すヒエログリフであるならば、本来は「日の出から日中」という主に「午前中」を示す言葉であったことが覗える。
また「口」のヒエログリフがほぼ「r」という子音に固定されていることとも併せて考えれば、本来「k(ch)」と発音していた「日の出」を示すヒエログリフを、意図的に「r」という発音と「口」という意味に限定して使用していたのではないか、と思えるのである。そして主に「午前中」を示していた「アケル」という言葉も、意図的に「夕方」をイメージする言葉に作り替えられていたのではないだろうか。
関連項目
- 運命を定めるM:ヒエログリフ:偉大なる(weret)という言葉について
- 地平線の太陽:ヒエログリフ:アケルについて
外部リンク
Wikipedia
ページ
- 前ページ:失われたArk1:ヒエログリフ
参照
- ↑ ここに描かれる「鳥」のヒエログリフは本来の「g」ではなく、特に「w」と発音されている。