「鴨建角身命」の版間の差分
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2022年11月1日 (火) 21:22時点における版
賀茂建角身命(かもたけつぬみのみこと、かもたけつのみのみこと)は、日本神話に登場する神である。鴨建角身命とも呼ばれる[1]。
目次
賀茂氏について
賀茂氏系の氏族は「賀茂」あるいは「鴨」を名乗るだけで数系統の系図に分かれる。いずれも元は同祖と思われるが、それぞれに都合があって系統を分けているように感じる。鴨建角身命は主に山城国(京都)の賀茂系氏族の祖とされている。
地祇系
古事記によると、三嶋湟咋(みしまのみぞくい)の娘の勢夜陀多良比売という美人を気に入った美和の大物主神は、赤い丹塗り矢に姿を変え、勢夜陀多良比売が用を足しに来る頃を見計らって川の上流から流れて行き、彼女の下を流れていくときに、ほと(陰所)を突いた。彼女は驚き走り回ったあと、すぐにその矢を自分の部屋の床に置くと麗しい男の姿に戻った。こうして二人は結ばれて、生まれた子が富登多多良伊須須岐比売命(ほとたたらいすすきひめ-)であり、後に「ほと」を嫌い比売多多良伊須気余理比売(ひめたたらいすけよりひめ)と名を変え、神武天皇の后となった。
比売多多良伊須気余理比売の兄弟にあたる天日方奇日方命の子孫が賀茂氏、三輪氏と言われている。
三嶋湟咋の婿に当たる大物主神は出雲系の大国主命と同一視されており、須佐之男命の子孫として扱われる。「地祇系」と呼ばれる賀茂氏の家系の役割は、彼らが天照大御神を介さない須佐之男命の子孫である、とするためではないか、と管理人は考える。
地祇系その2
比売多多良伊須気余理比売の息子神とされる神八井耳命の子孫の多氏系の氏族も賀茂氏系の氏族の扱いで良いと管理人は考える。何故なら、彼らは「須佐之男命の子孫である」という意識が強いように思えるからである。信濃国造、阿蘇国造の祖。
地祇系その3
三嶋湟咋は他に事代主命を婿とする伝承がある。この系統は摂津国、伊豆三島に拠点を置いたと思われる。秦氏とも関連する氏族と推察される。
天神系
神産巣日神あるいは高御産巣日神の子孫とされる賀茂氏。山城賀茂氏、葛城国造(→穂国造(東三河))、紀伊国造、伊勢国造、三島県主の祖。天照大御神と須佐之男命のいずれの子孫でもあることを避けるための群か。
天神系その2
邇芸速日命(天火明命)の子孫。邇芸速日命の父は天忍穗耳尊で、天照大御神と須佐之男命の子神である。天火明命の子孫には、賀茂系と思われる「父と娘」の祖神説話を持つ人々がおり、賀茂氏の一派と思われる。彼らの子孫は天照大御神と須佐之男命の子孫であると名乗り得るであろう。邇芸速日命(天火明命)と共に下った神々の中に、地祇系その3(三嶋系)と天神系の系譜に繋がる神々がいる。
他に穂積氏、熊野国造家や末羅国造家がいる。
物部氏からは参河国造家(三河)、遠淡海国造(遠江)、珠流河国造金刺氏(駿河)が出ている。信濃金刺氏とは別系統と言われているが、かなり近い間柄ではないか、と管理人は個人的に思う。
概要
別名には八咫烏、八咫烏鴨武角身命(やたからすかもたけつのみのみこと)がある。
山城の賀茂氏(賀茂県主)]]や葛城国造の始祖であり、賀茂御祖神社(下鴨神社)の祭神として知られる。地祇系賀茂氏とは別氏族である、という説もある(『鴨氏始祖伝』)。なお『山城国風土記』逸文では、賀茂県主の祖の賀茂建角身命(天神系)は神武天皇の先導をした後、大和の葛城(地祇系賀茂氏の本拠)を通って山城国へ至ったとしている。
『新撰姓氏録』によれば、賀茂建角身命は神魂命(かみむすびのみこと)の孫である。神武東征の際、高木神・天照大御神の命を受けて日向の曾の峰に天降り、大和の葛木山に至り、八咫烏に化身して神武天皇を先導し、金鵄として勝利に貢献した。
『山城国風土記』(逸文)によれば、大和の葛木山から山代の岡田の賀茂(岡田鴨神社がある)に至り、葛野河(高野川)と賀茂河(鴨川])が合流する地点(下鴨神社がある)に鎮まった。
賀茂建角身命には建玉依比古命(たけたまよりひこのみこと)と建玉依比売命(建玉依姫命、たけたまよりひめのみこと)の2柱の御子神がいる。建玉依比古命は後に賀茂県主となる。建玉依比売命は、丹塗矢に化身した火雷神(ほのいかづちのかみ)を床の近くに置いていたところ、賀茂別雷命(かもわけいかづちのみこと、上賀茂神社の祭神)を懐妊し出産したとされる(『山城国風土記』逸文)。
三島溝咋耳
三輪山の大物主、あるいは事代主の舅としての賀茂氏の祖。鴨建角身命と同一視される。
『古事記』神武天皇段では、大物主神が三嶋湟咋の娘である勢夜陀多良比売(玉櫛媛)を見染め、丹塗矢に化して比売の陰部を突く。そして比売は驚いたが、その矢を床に置いたところたちまち壮夫となり、比売との間に富登多多良伊須須岐比売命(媛蹈鞴五十鈴媛命)が生まれたという。
『日本書紀』神代巻では、媛蹈鞴五十鈴媛命が大三輪神の子と記すとともに、事代主神が八尋熊鰐となって三島溝樴姫(玉櫛媛)のもとに通い、生まれた媛蹈鞴五十鈴媛命が神武天皇の后になったと記す。『日本書紀』神武天皇即位前庚申年8月16日条にも同様の記載があり、ここでは玉櫛媛は三島溝橛耳(溝咋耳命)の娘と記されている。
これらの文献を踏まえた上で、さらに溝喰神社の境内社には大物主神でなく事代主神が祀られていることから、事代主神を奉祀する地祇系の鴨氏と三島勢力との交流を指摘する説がある[2]。周辺には三島鴨神社・鴨神社といった神社や、鴨村・鴨林といった地名が残り、天神系か地祇系の鴨氏の勢力がうかがわれ、(要出典範囲、2020年11月)後世になってこの交流が記紀神話に再構成され、出雲系の神が上記の様に強調されたと考える説がある。
大阪府茨木市に三島溝咋耳一族を祀る溝喰神社がある。
ニギハヤヒ関連
『先代旧事本紀』巻第三天神本紀テンプレート:Sfnには、天降ったおりに高皇産霊尊から防衛(ふさぎのもり)として以下の三十二人に命じて随伴させたとある。
- 天香語山命(あめのかごやまのみこと)(天火明命の子、須佐之男命と天照大御神の孫)、 尾張連(おわりのむらじ)らの祖
- 天鈿売命(あめのうずめのみこと)、猿女君(さるめのきみ)らの祖
- 天太玉命(あめのふとたまのみこと)、忌部首(いむべのおびと)らの祖
- 天児屋命(あめのこやねのみこと)、中臣連(なかとみむらじ)らの祖
- 天櫛玉命(あめのくしみかたまのみこと)、鴨県主(かものあがたぬし)らの祖。天神玉命の子で、賀茂建角身命の父
- 天道根命(あめのみちねのみこと)、川瀬造(かわせのみやつこ)らの祖。神武天皇と同世代の神
- 天神玉命(あめのかむたまのみこと)、三嶋県主(みしまのあがたぬし)らの祖。神産巣日神の子で、天櫛玉命の父。
- 天椹野命(あめのくぬのみこと)、中跡直(なかとのあたい)らの祖。伊勢国造の一族。
- 天糠戸命(あめのぬかどのみこと)、鏡作連(かがみつくりのむらじ)らの祖
- 天明玉命(あめのあかるたまのみこと)、玉作連(たまつくりのむらじ)らの祖
- 天牟良雲命(あめのむらくものみこと)、度会神主(わたらいのかんぬし)らの祖。天児屋命の子で、天波与命の父
- 天背男命(あめのせおのみこと)、山背久我直(やましろのくがのあたい)らの祖。天底立命の子で、天日鷲神の父。
- 天御陰命(あめのみかげのみこと)、天照大神の孫神、天津彦根命の御子神(嫡男)、御上祝(三上直)(みかみのはふり・みかみのあたい)らの祖[3][4][5]
- 天造日女命(あめのつくりひめのみこと)、阿曇連(あずみのむらじ)らの祖
- 天世手命(あめのよむけのみこと)、久我直(くがのあたい)らの祖
- 天斗麻弥命(あめのとまねのみこと)または天戸間見命(あめのとまみのみこと)、上記の天御陰命と同神(天御陰命の別名、厳密には人型の天御陰命が化身した姿)である。額田部湯坐連(ぬかたべのゆえのむらじ)らの祖であるが、天戸間見命で名乗った場合の嫡流は凡河内国造(おうしこうちのくにのみやつこ)である凡河内氏(おうしこうちし)[3][4][5]。なお、他にも龍神に化身した天目一箇神(あめのまひとつのみこと)という別名もあり、この場合の嫡流は山背国造(やましろのくにのみやつこ)である[3][4][5]。他にも、天津麻羅命(あまつまらのみこと)等多数の別名がある[4]。
- 天背斗女命(あめのせとめのみこと)、尾張中嶋海部直(おわりのなかじまのあまべのあたい)らの祖
- 天玉櫛彦命(あめのたまくしひこのみこと)、間人連(はしひとのむらじ)らの祖
- 天湯津彦命(あめのゆつひこのみこと)、安芸国造(あきのくにのみやつこ)らの祖。櫛明玉命の子
- 天神魂命(あめのかむたまのみこと)または三統彦命(みむねひこのみこと)、葛野鴨県主(かどののかものあがたぬし)らの祖。神産巣日神の子で、天櫛玉命の父
- 天三降命(あめのみくだりのみこと)、豊田宇佐国造(とよたのうさのくにのみやつこ)らの祖。天活玉命の裔で、宇佐津彦命の父
- 天日神命(あめのひのかみのみこと)、対馬県主(つしまのあがたぬし)らの祖。高御産巣日神の子。
- 乳速日命(ちはやひのみこと)、広沸湍神麻続連(ひろせのかむおみのむらじ)らの祖。中臣氏、添縣主の祖神
- 八坂彦命(やさかひこのみこと)、伊勢神麻続連(いせのかむおみのむらじ)らの祖。長白羽神の子で、一説に八坂刀売神の父
- 伊佐布魂命(いさふたまのみこと)、倭文連(しどりのむらじ)らの祖。角凝魂命の子で、天底立命の父
- 伊岐志迩保命(いきしにほのみこと)、山代国造(やましろのくにのみやつこ)らの祖。思金神の子。
- 活玉命(いくたまのみこと)、新田部直(にいたべのあたい)の祖。高御産巣日神の子で、天押立命の父
- 少彦根命(すくなひこねのみこと)、鳥取連(ととりのむらじ)らの祖。天湯河板挙の子で、建日穂命の父
- 事湯彦命(ことゆつひこのみこと)、取尾連(とりおのむらじ)らの祖。活津日子根命の子。
- 八意思兼神(やごころのおもいかねのかみ)の子・表春命(うわはるのみこと)、信乃阿智祝部(しなののあちのいわいべ)らの祖。信乃阿智祝部については阿智神社も参照。
- 天下春命(あめのしたはるのみこと)、武蔵秩父国造(むさしのちちぶのくにのみやつこ)らの祖
- 月神命(つきのかみのみこと)、壱岐県主(いきのあがたぬし)らの祖
さらに五部(いつとも)が供領(とものみやつこ)として副い従った、とある。
- 天津麻良(あまつまら) 物部造(もののべのみやつこ)らの祖
- 天津勇蘇(あまつゆそ) 笠縫部(かさぬいべ)らの祖
- 天津赤占(あまつあかうら) 為奈部(いなべ)らの祖
- 富々侶(ほほろ) 十市部首(とおちべのおびと)らの祖
- 天津赤星(あまつあかぼし) 筑紫弦田物部(つくしのつるたもののべ)らの祖
私的解説(考察)
当然「天神系」「地祇系」とも同祖であろう。
葛城の賀茂氏の祖神が大物主、大阪と三嶋の賀茂氏の祖神が事代主とされているのではないだろうか。大物主系は、須佐之男命を賀茂氏の祖神にするための一派と管理人には思われる。神武経由の賀茂氏系の氏族は出雲系の氏族ではないにも関わらず、暗に須佐之男命の子孫と名乗れることになる。
またニギハヤヒに関する系図を見るに、大阪・葛城の賀茂氏と三嶋氏は同祖である。
参考文献
関連項目
私注
参照
- ↑ ブリタニカ国際大百科事典-小項目電子辞書版。
- ↑ 事代主は出雲の大国主の子として記述されるが、『日本の神々』では、一説として事代主は本来出雲系でなく鴨系だと指摘している。
- ↑ 3.0 3.1 3.2 御上祝家系図(三上氏)(コマ番号84-97) / 諸系譜. 第28冊(国立国会図書館デジタルコレクション)
- ↑ 4.0 4.1 4.2 4.3 「御上神社沿革考 : 近江国野洲郡三上村鎮座」 大谷治作 編 / 出版: 太田治左衛門 / 出版年月日: 明32.2(国立国会図書館デジタルコレクション)
- ↑ 5.0 5.1 5.2 三枝部造 甲斐野呂氏後裔 輿石氏系図(コマ番号84-92) / 諸系譜. 第6冊(国立国会図書館デジタルコレクション)