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(くし)は、髪を梳(と)いて髪型を整えたり、髪を飾ったりする道具。英語でコーム (comb) と呼ぶこともある。

概要[編集]

形状は通常、板状であり、長辺の片方に等間隔の切り込みが入れられている。切り込みと切り込みの間の部分は歯と呼ばれる。古くはダニやシラミ、ノミといった吸血虫やふけ・埃などを取り除く衛生用具としての側面もあった[1]。時代が下がり、入浴や洗髪の習慣が普及するようになると、こういった衛生用具としての役目は小さくなっていった。

櫛の歴史と種類[編集]

櫛の歴史は古く、現代のヘアピンに近い単純なつくりのものを含めると、さらにその時代を遡ることになる。歯を備えた櫛は古代エジプトで既に広く使用されていたと考えられている[2]


日本では縄文時代早期(約7000年前)のものとみられる木製櫛が佐賀市の東名遺跡から出土している[3]。縄文時代には刻歯式の竪櫛が用いられたが、古墳時代には結歯式の竪櫛が多用された[4]。奈良時代には大陸から横櫛が伝来し横型刻歯式の挽歯櫛が一般的になった[4]。江戸時代には髪を結い上げる習慣に伴って櫛などの髪を整える道具類が発達した[5]

素材は、獣の骨や木材一般から、より櫛に適した木(ツゲ、マユミなど)や竹、鼈甲、象牙、金属、合成樹脂製などへと多様化し、形状や美しさもより高度なものへと発展してきた。

素材[編集]

日本では伝統的につげ櫛が高級品とされ、和泉櫛がつくられる和泉国近木荘(現・大阪府貝塚市)のような著名な産地もあった[6]

櫛の文化[編集]

日本語の櫛(クシ)[編集]

日本語では櫛は「霊妙なこと、不思議なこと」という意味の「奇(くすし)」や「聖(くしび)」との音の共通性から呪力を持つものとして扱われた[4]。他方では女性が髪を梳くことから女性格の象徴的な物品としても扱われた[4]

語の読みからは「苦死」に通じるため、道に落ちている櫛を拾うことは「苦と死を拾う」ことにつながり、縁起が悪いことと忌み嫌われる。どうしても拾わなくてはならない時は、足で踏んでから拾う。贈り物にするときは、忌み言葉として「かんざし」と呼ぶ。

櫛の呪力[編集]

日本では古来、櫛は別れを招く呪力を持っているとされ、現代の日本人でも櫛を贈答品にしたり、気軽に貸し借りしたりするのを嫌がる人は少なくない。一方で、魂の宿る頭に飾るものであることから、自らの分身として旅立つ人に手渡しもした。

  • 『古事記』には、伊邪那岐命が、妻の伊邪那美命が差し向けた追っ手(黄泉醜女)から逃れるために、櫛の歯を後ろに投げ捨てたところ筍に変わり、黄泉醜女がそれを食べている間に逃げることができたという記述がある[4]。このように「呪的逃走」に櫛が使われる場合を「逃走櫛型」と呼びたい。
  • 『古事記』で八俣遠呂智を退治しに出向く須佐之男命櫛名田比売を櫛に変えて自分の髪に挿した。
  • 天皇は斎宮]]として都を旅立つ皇族の少女を見送る儀式で、「別れの櫛」を手ずから髪に挿し、別れの言葉をかけた。彼女たちは身内か天皇に不幸があるまで都に帰ることはできず、巫女であるため任務を解かれるまで恋愛もできない。櫛を挿す儀式には俗縁を断つという意味があるとされる[4]。逆に成人式に当たる「髪上げの儀」では、大人社会への仲間入りの象徴として櫛が少女の髪に挿される。この儀式の直後に婚礼を済ませることもあった。
  • ドイツ童話の中には『白雪姫』のように、櫛が女性の生命活動を一時的に停止できる(気絶させたり、金縛りにしたりする)黒魔法の道具として登場することもある。
  • 古代中国の一部の呪術者の中には、『捜神記』の于吉のように体を洗わず、髪に櫛を入れないことで雨乞いをする者もいた。

私的考察[編集]

櫛は日本語では「魂」に通じ、持ち主の魂の象徴であるように思う。かつ、西王母の髪飾りである玉勝が神話的起源だと考える。よって、には

  • 大地や河川を留めてその秩序を守る。

という意味があるように思う。

伊邪那岐命の櫛は西王母玉勝が、伊邪那岐命の持ち物とされるようになり、黄泉の国の扉が開かれたりした場合、元の閉じられた状態に戻すためのアイテムとして使われるのはそのためではないだろうか。

櫛名田比売が櫛に変化するのは、櫛名田比売西王母的な女神で、特に八俣遠呂智退治では勝利をもたらす軍神としての性質があることを示すものではないだろうか。(櫛名田比売の項を参照のこと)

櫛が登場する神話・伝承[編集]

関連項目[編集]

参考文献[編集]

  • Wikipedia:(最終閲覧日:22-09-29)

参照[編集]

  1. 【モノごころ ヒト語り】櫛(くし)長い黒髪守る細かい歯『日本経済新聞』夕刊2018年11月17日(社会・スポーツ面)2018年12月2日閲覧。
  2. ポーラ文化研究所, 山村博美、村田孝子、津田紀代、増田佳江, 世界の櫛, 2008-10-10, 1996-01-20, ポーラ文化研究所コレクション, ISBN 4-938547-33-3, pages102
  3. 2006-10-18, http://www.47news.jp/CN/200610/CN2006101801000634.html, 国内最古の木製くし出土 佐賀市の東名遺跡, 共同通信, 2008-10-10
  4. 4.0 4.1 4.2 4.3 4.4 4.5 山形県立博物館ニュース 第99号 山形県立博物館、2019年10月1日閲覧。
  5. 沼津市歴史民俗資料館資料館だより vol.36 No.4 沼津市歴史民俗資料館、2019年10月1日閲覧。
  6. 伊藤伸史「和泉櫛のロマンひもとく◇義父の技に魅せられて1500年以上の歴史に迫る◇」『日本経済新聞』朝刊2018年8月16日(文化面)2018年8月16日閲覧。