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2014年5月17日 (土) 18:47時点における最新版
古代エジプトでは、「らせん状のもの」を意味しているメヘン(mehen)という名前は、神話における蛇神とゲームに関連している。[1]
蛇神
メヘンの名は、まずコフィン・テキストに認められるようになった。[2][3]メヘンは例えばアムドゥアトという葬祭用の文書の中では、夜、太陽神ラーが旅をしている間、周囲を取り巻いて守護する蛇の神として描かれている。[4][5]
R・ハニング(Hannig)によるドイツ語・エジプト語辞書によると、メヘン(mḥn)またはメヘネト(mḥnt)という蛇はウロボロスと同じものだとのことである。[6][7]
蛇神とメヘン・ゲームの関連
神話とメヘン・ゲームの正確な関連性は知られていない。例えば、ゲームが神話の内容に由来するのか、神話の内容がゲームに由来するのかも不明である。
メヘンとして知られる物は、墓の壁画の研究より、信仰の対象としてよりはゲームとして描かれる事が知られている。壁画には、ゲームの盤と道具がそこに描かれているからである。現代的にどのように遊ばれたかを考慮して、ルールの復元が試みられているが、ゲームの遊び方とルールは正確には知られていない。
私的解説
メヘンその1
ドイツ語版wikipedia:Mehen (Ägyptische Mythologie)よりメヘンその2
フランス語版wikipedia:Mehenよりメヘト-ウェレット
中王国時代(紀元前2040年頃 - 782年頃)
ドイツ語版wikipedia:Mehet-weretよりメヒト
新王国時代(紀元前1570年頃 - 1070年頃)
ドイツ語版wikipedia:Mehitより
メヘンのヒエログリフはメヘト-ウェレットの「メヘト」に相当する部分と近似しており、メヘンとは「洪水」を意味する蛇神から発生した神であることが分かる。(メヘト-ウェレットの方が起源的にはメヘンよりも古いと思われる。)メヘト-ウェレットは神話的に「混沌の水」を現す蛇神であるが、一方でメヒトやネイトといった「獅子頭」で現される女神達とも類似した名を持っている。下エジプトの女神ネイトは
- 混沌の水の象徴
- 獅子と蛇をトーテムに持つ
- 太陽神ラーの母神とされることがある
- 機織りの女神である(人の運命の機も織る)
等の複合的な性質を持つ母神である。太陽神ラーが地下世界の混沌の水の中を船に乗って旅するという図は、いったん地下の黄泉の国に沈んだ太陽神(要するに亡くなった太陽神)が、朝になって再び生まれ変わって復活する、という思想の現れでもあるため、メヘンはラーを産み出す母神が、太陽が再び生まれ出ずるまで、太陽を包み込んで守る母神の羊膜そのものの姿で現されているのだとも思われる。メヘンがラーを守護するのは、この蛇神がラーの母神であるネイトでもあるからなのであろう。古代エジプトにおいて、ファラオは太陽神そのものとみなされていたため、太陽神の母神であるということは、ファラオにとっても「母神」に相当することになる。
古代エジプトの王権は、基本的に母系に継承され、第1王女の夫になるものがファラオとされた。そのため、第1王女と第1王子が結婚するという近親婚が日常的に行われていたのである。このように夫の運命を定めるものが「妻」であるとするならば、その延長線上で、人の運命を定める神も母神であると考えられたのではないかと思う。そう考えると、メヘン・ゲームの起源は
- 人の運命を定める母神の加護を得ることに成功するか否か
ということを占うようなものであったと考えられる。特に死後の世界で、太陽神ラーがメヘンから受けているような手篤い加護を、自分自身も得られるか否かということは、古代エジプト人にとって重要な事項ではなかったのではないだろうか。「ゲームが先か、神話が先か」ということになれば、当然「神話が先」であったのではないだろうか。メヘン・ゲームの原型となる盤はナカダ3期(紀元前3200-3000年)には登場している。そしてこの時期にはメヘン・ゲームの名の由来となる蛇神もすでに登場している。しかし、その当初の姿は必ずしも「蛇」だけの神とは思われないため、ゲームの起源となった神のトーテムが蛇よりも更に古い時代の神に求められるのであれば、ゲームそのものは、神が「蛇」のトーテムを身につけた時期にほぼ同時発生的に誕生したものといえるのかもしれないと思う。
関連項目
参照
- ↑ Discussion of the game by ロンドン大学
- ↑ コフィン・テキストとはエジプト第1中間期(紀元前2180年頃~前2040年頃)に棺に書かれ始めた文章のことである。
- ↑ リチャード・H・ウィルソン(Wilkinson, Richard H)、(2003)、「古代エジプトの神々大全(The Complete Gods and Goddesses of Ancient Egypt)」、Thames & Hudson. p. 174
- ↑ アムドゥアト(Amduat)は、「死後の世界とは何か」あるいは「地下世界に隠された場所の書」という意味の言葉で、エジプト新王国(紀元前1570年頃~前1070年頃)時代にの葬式用の文章として重要なものであった。
- ↑ エリック・ホーヌング(Erik Hornung)、「古代エジプトの死後の世界の書(The Ancient Egyptian Books of the Afterlife)」、ISBN 0-8014-8515-0
- ↑ ウロボロス (Ouroboros, uroboros) は、古代の象徴の1つで、己の尾を噛んで環となったヘビもしくは竜を図案化したものである。みずからの尾をくわえたヘビ(または竜)の図の原形は、紀元前1600年頃の古代エジプト文明におけるメヘンの図にまでさかのぼる。
- ↑ Hannig, R. 1995、「ファラオの言葉:ドイツ語・エジプト語辞書(Die Sprache der Pharaonen: Großes Handwörterbuch Ägyptisch-Deutsch)」
外部リンク
Wikipedia
Wikipedia以外
- Educational pdf printable、遊び方の復元を試みたメヘン・ボードゲームのルール、バーミンガム博物館とアート・ギャラリー学校の連携による