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[[ファイル:moongodhit.png|thumb|right|300px|王から酒を奉献されるクシュフ(カシュク)]]
 
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[[フルリ人]]の月神。この神の整数は30である。 クシュフ (Kushuh)は[[ヒッタイト]]の神カシュクと同一視されている。
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[[wikija:フルリ人|フルリ人]]の月神。この神の整数は30である。 クシュフ (Kushuh)は[[wikija:ヒッタイト|ヒッタイト]]の神カシュクと同一視されている。
  
カシュク(Kaškuḫ; Kašku) 、月の神([[フルリ人]]のクシュフ(Kuşuh))。[[ルウィ語]]でアルマ(Arma)と呼ばれた。
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カシュク(Kaškuḫ; Kašku) 、月の神([[wikija:フルリ人|フルリ人]]のクシュフ(Kuşuh))。[[wikija:ルウィ語|ルウィ語]]でアルマ(Arma)と呼ばれた。
  
 
== 私的解説 ==
 
== 私的解説 ==
 
[[ファイル:moonkougu.png|thumb|right|300px|王から酒を奉献されるクシュフ(カシュク)]]
 
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=== 名前の由来 ===
 
=== 名前の由来 ===
 
[[ファイル:kushmap.png|thumb|center|491px|月と魚と角の神の分布]]
 
[[ファイル:kushmap.png|thumb|center|491px|月と魚と角の神の分布]]
[[ヒッタイト]]の月神には、大別して2系統の名前があると思われるため、まずその点について述べたい。
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[[wikija:ヒッタイト|ヒッタイト]]の月神には、大別して2系統の名前があると思われるため、まずその点について述べたい。
 
* クシュフ(Kushuh)、カシュク(Kasku)
 
* クシュフ(Kushuh)、カシュク(Kasku)
 
* アルマ(Arma)
 
* アルマ(Arma)
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==== クシュフとカシュク ====
 
==== クシュフとカシュク ====
 
この2神の名は似通っており、子音でみると「K-S-K(h)」でほぼ一致する。「K」の子音は「H」あるいは「A」といった母音と交通性がある。また「S」という音も「K」という音と交通性があるため、クシュフやカシュクは「K-(K)S-K(h)」という子音を持つこととなる。<br>
 
この2神の名は似通っており、子音でみると「K-S-K(h)」でほぼ一致する。「K」の子音は「H」あるいは「A」といった母音と交通性がある。また「S」という音も「K」という音と交通性があるため、クシュフやカシュクは「K-(K)S-K(h)」という子音を持つこととなる。<br>
一方、エジプトの月神をみてみると、[[ヘルモポリス]]の月神[[トート]]の[[ヒエログリフ]]は[[Aker (god)|アケル]](Aker)と読めることがわかる。[[Aker (god)|アケル]]の「A」という子音は「K」という音と交通性があるため、この名は「(K)A-K」となる。こうして、[[Aker (god)|アケル]]とクシュフとカシュクの3つの名前を比較すると、構成する子音が近いことが分かる。
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一方、エジプトの月神をみてみると、[[wikija:ヘルモポリス|ヘルモポリス]]の月神[[wikija:トート|トート]]の[[wikija:ヒエログリフ|ヒエログリフ]]は[[wikipedia:Aker (god)|アケル]](Aker)と読めることがわかる。[[wikipedia:Aker (god)|アケル]]の「A」という子音は「K」という音と交通性があるため、この名は「(K)A-K」となる。こうして、[[wikipedia:Aker (god)|アケル]]とクシュフとカシュクの3つの名前を比較すると、構成する子音が近いことが分かる。
  
[[メソポタミア]]の側には、神の名ではないが、最古の部類に属する都市の名前に[[キシュ]](Kish)というものがある。こちらも「K-(K)S」という子音から構成されており、クシュフやカシュクと音が近い。そして、[[キシュ]]を構成する楔形文字の「キ」の部分は[[エンキ]]という神の「キ」の部分と一致している。「K-K」という子音はエジプトの[[Aker (god)|アケル]]・[[トート]]とも共通した子音であるため、おそらく古くは月神のことを「K-K」という子音で現す習慣が広く存在しており、その流れを組むものが[[ヒッタイト]]のクシュフとカシュクであるのだと思われる。<br>
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[[wikija:メソポタミア|メソポタミア]]の側には、神の名ではないが、最古の部類に属する都市の名前に[[wikija:キシュ|キシュ]](Kish)というものがある。こちらも「K-(K)S」という子音から構成されており、クシュフやカシュクと音が近い。そして、[[wikija:キシュ|キシュ]]を構成する楔形文字の「キ」の部分は[[wikija:エンキ|エンキ]]という神の「キ」の部分と一致している。「K-K」という子音はエジプトの[[wikipedia:Aker (god)|アケル]]・[[wikija:トート|トート]]とも共通した子音であるため、おそらく古くは月神のことを「K-K」という子音で現す習慣が広く存在しており、その流れを組むものが[[wikija:ヒッタイト|ヒッタイト]]のクシュフとカシュクであるのだと思われる。<br>
  
 
==== アルマ ====
 
==== アルマ ====
アルマ(Arma)という名は「K」という子音が「A」という母音と交通性があることを考えると、本来は「K(A)-M」という音から変化したものではないかと思われる。この子音を持つ神にはエジプトの[[クヌム]](Khnum)がいる。また「M」という子音は「N」と交通性があるため、[[コンス]](Khonsu)も同系統の名前と思われる。
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アルマ(Arma)という名は「K」という子音が「A」という母音と交通性があることを考えると、本来は「K(A)-M」という音から変化したものではないかと思われる。この子音を持つ神にはエジプトの[[wikija:クヌム|クヌム]](Khnum)がいる。また「M」という子音は「N」と交通性があるため、[[wikija:コンス|コンス]](Khonsu)も同系統の名前と思われる。
 
子音の変化が
 
子音の変化が
 
* 「K」→「S」→「H」→「A」→消失
 
* 「K」→「S」→「H」→「A」→消失
 
と変化するものだとすると、
 
と変化するものだとすると、
* 「K」が残されている群 → [[クヌム]]、[[コンス]]
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* 「K」が残されている群 → [[wikija:クヌム|クヌム]]、[[wikija:コンス|コンス]]
 
* 「A」へと変化した群 → アルマ
 
* 「A」へと変化した群 → アルマ
* 子音が消失した群 → [[ミン]]
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* 子音が消失した群 → [[wikija:ミン|ミン]]
であるといえる。[[クヌム]]、[[コンス]]、[[ミン]]はいずれも[[上エジプト]]の月神であるため、本来は同じ神であったものが細分化されたものだと思われる。
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であるといえる。[[wikija:クヌム|クヌム]]、[[wikija:コンス|コンス]]、[[wikija:ミン|ミン]]はいずれも[[wikija:上エジプト|上エジプト]]の月神であるため、本来は同じ神であったものが細分化されたものだと思われる。
  
[[メソポタミア]]の側であるが、[[エンキ]](Enki)が守護神とされる[[シュメール]]の都市[[エリドゥ]]は紀元前4900年頃に建設されたと言われている。[[エンキ]]を構成する楔形文字は「En-Ki」という2文字で構成されているのだが、楔形文字は反対側から読むことも可能なため、逆から読むとキエン(Ki-En)となる。<br>
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[[wikija:メソポタミア|メソポタミア]]の側であるが、[[wikija:エンキ|エンキ]](Enki)が守護神とされる[[wikija:シュメール|シュメール]]の都市[[wikija:エリドゥ|エリドゥ]]は紀元前4900年頃に建設されたと言われている。[[wikija:エンキ|エンキ]]を構成する楔形文字は「En-Ki」という2文字で構成されているのだが、楔形文字は反対側から読むことも可能なため、逆から読むとキエン(Ki-En)となる。<br>
一方、[アッカド]]の月神[[シン]](Sin)を構成する楔形文字は「En-Si」と書き、後ろから読んで「[[シン]]」という。「K」という子音と「S」という子音は交通性があるため、[[エンキ]]を逆向きに読んだ「キエン」という名と「シン」の名はほぼ同じものとなることが分かる。<br>
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一方、[[wikija:アッカド|アッカド]]の月神[[wikija:シン|シン]](Sin)を構成する楔形文字は「En-Si」と書き、後ろから読んで「[[wikija:シン|シン]]」という。「K」という子音と「S」という子音は交通性があるため、[[wikija:エンキ|エンキ]]を逆向きに読んだ「キエン」という名と「[[wikija:シン|シン]]」の名はほぼ同じものとなることが分かる。<br>
また、図像を見ると[[ヒッタイト]]の月神は両肩から羽根を生やしているが、[[エンキ]](キエン)は両肩から川が流れ出していることが分かる。その川の中にはこの神の象徴とされる魚が泳いでいる。[[エンキ]]の両肩から流れ出しているのは[[チグリス川]]と[[ユーフラテス川]]である。この2つの川が古代[[メソポタミア]]に豊穣をもたらすものであった。おそらく[[ヒッタイト]]の月神の両肩に生えている羽根は、[[エンキ]]の肩から流れ出している「川」から変化したものだと思われる。このように両肩から超常的なものが存在している図像は、更に時代が下ると[[シャー・ナーメ]](1010年)において、両肩から蛇を生やしている蛇王[[ザッハーク]](Zahhak)へと変遷するように思われる。[[ザッハーク]]という名は「Zah-ha-k」という子音に分解され、「Z」が「S」や「K」、「H」という言葉と交通性があるとすると
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また、図像を見ると[[wikija:ヒッタイト|ヒッタイト]]の月神は両肩から羽根を生やしているが、[[wikija:エンキ|エンキ]](キエン)は両肩から川が流れ出していることが分かる。その川の中にはこの神の象徴とされる魚が泳いでいる。[[wikija:エンキ|エンキ]]の両肩から流れ出しているのは[[wikija:チグリス川|チグリス川]]と[[wikija:ユーフラテス川|ユーフラテス川]]である。この2つの川が古代[[wikija:メソポタミア|メソポタミア]]に豊穣をもたらすものであった。おそらく[[wikija:ヒッタイト|ヒッタイト]]の月神の両肩に生えている羽根は、[[wikija:エンキ|エンキ]]の肩から流れ出している「川」から変化したものだと思われる。このように両肩から超常的なものが存在している図像は、更に時代が下ると[[wikija:シャー・ナーメ|シャー・ナーメ]](1010年)において、両肩から蛇を生やしている蛇王[[wikija:ザッハーク|ザッハーク]](Zahhak)へと変遷するように思われる。[[wikija:ザッハーク|ザッハーク]]という名は「Zah-ha-k」という子音に分解され、「Z」が「S」や「K」、「H」という言葉と交通性があるとすると
 
* 「K(z)ah-k(h)-k」
 
* 「K(z)ah-k(h)-k」
という音で構成されることが分かる。これらは[[ヒッタイト]]の月神と共通している子音構造であると同時に、都市[[キシュ]](Kish)にも近い音である。おそらく蛇王[[ザッハーク]]の起源は、[[メソポタミア]]・[[ヒッタイト]]に由来する月神なのであろう。要するに、その図像においては、[[ヒッタイト]]の月神は[[メソポタミア]]の[[エンキ]]と共通性があるのである。<br>
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という音で構成されることが分かる。これらは[[wikija:ヒッタイト|ヒッタイト]]の月神と共通している子音構造であると同時に、都市[[wikija:キシュ|キシュ]](Kish)にも近い音である。おそらく蛇王[[wikija:ザッハーク|ザッハーク]]の起源は、[[wikija:メソポタミア|メソポタミア]]・[[wikija:ヒッタイト|ヒッタイト]]に由来する月神なのであろう。要するに、その図像においては、[[wikija:ヒッタイト|ヒッタイト]]の月神は[[wikija:メソポタミア|メソポタミア]]の[[wikija:エンキ|エンキ]]と共通性があるのである。<br>
また[[エンキ]]を逆に読むキエン(Ki-en)という名は、「K-N」という子音で構成されており、エジプトの[[クヌム]]、[[コンス]]と共通した構成の名前といえる。また、古代の[[ガザ]]では魚の姿をした海神[[ダゴン]](Da-gon)が祀られている、[[ダゴン]]のゴン(gon)の部分は「K」が「G」へと変化したもので、魚の姿をした[[エンキ]]と共通した姿を持っている。おそらく第18王朝(紀元前1570年頃~1293年頃)の頃に[[古代エジプト]]に登場し、ハヤブサの神[[ホルス]]と習合したコロン(Choron)という神の本来的な原型は[[メソポタミア]]における[[エンキ]]、[[古代エジプト]]における[[コンス]]、[[クヌム]]といった「水源の神」「農業に関わる豊穣の神」であったと思われる。元々が「水源の神」であるので、海の近くに行くと「海神」へと変遷するのである。しかし、月神が「攻撃性の高い神」であるという思想が台頭してくると、次第に攻撃性の高い神へと変遷していったのであろう。コロン(Choron)は猛禽類の姿で現されるが、[[メソポタミア]]における[[エンキ]]の図の腕にも猛禽類が停まっていることが分かる。要するに[[エンキ]]のトーテムは
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また[[wikija:エンキ|エンキ]]を逆に読むキエン(Ki-en)という名は、「K-N」という子音で構成されており、エジプトの[[wikija:クヌム|クヌム]]、[[wikija:コンス|コンス]]と共通した構成の名前といえる。また、古代の[[wikija:ガザ|ガザ]]では魚の姿をした海神[[wikija:ダゴン|ダゴン]](Da-gon)が祀られている、[[wikija:ダゴン|ダゴン]]のゴン(gon)の部分は「K」が「G」へと変化したもので、魚の姿をした[[wikija:エンキ|エンキ]]と共通した姿を持っている。おそらく第18王朝(紀元前1570年頃~1293年頃)の頃に[[古代エジプト]]に登場し、ハヤブサの神[[ホルス]]と習合したコロン(Choron)という神の本来的な原型は[[wikija:メソポタミア|メソポタミア]]における[[wikija:エンキ|エンキ]]、[[wikija:古代エジプト|古代エジプト]]における[[wikija:コンス|コンス]]、[[wikija:クヌム|クヌム]]といった「水源の神」「農業に関わる豊穣の神」であったと思われる。元々が「水源の神」であるので、海の近くに行くと「海神」へと変遷するのである。しかし、月神が「攻撃性の高い神」であるという思想が台頭してくると、次第に攻撃性の高い神へと変遷していったのであろう。コロン(Choron)は猛禽類の姿で現されるが、[[wikija:メソポタミア|メソポタミア]]における[[wikija:エンキ|エンキ]]の図の腕にも猛禽類が停まっていることが分かる。要するに[[wikija:エンキ|エンキ]]のトーテムは
 
* 魚、山羊、猛禽類
 
* 魚、山羊、猛禽類
 
だったのであり、猛禽類の姿で現されるコロン(Choron)はその一形態だったのである。<br>
 
だったのであり、猛禽類の姿で現されるコロン(Choron)はその一形態だったのである。<br>
[[古代エジプト]]において、月神は[[クヌム]]神に象徴されるように「羊」で現される傾向が強い。「鳥」としては特定のトーテムが無いように思われるが、[[ヘルモポリス]]のアケル・[[トート]]は鴾の姿で現される。また月神の[[ヒエログリフ]]は「ウズラの雛」「ハト」といった鳥で現される。こうして見てみると「月神」に象徴される「鳥」というのは、本来猛禽類よりももっと穏やかな鳥で現されたのではないかとも思う。特定の鳥に偏る傾向が乏しくても、「月神」が「鳥神」でもあったという思想があったため、それが[[ヒッタイト]]の月神の「翼」にも繋がっているのであろう。エジプトの月神には「魚」としての性質も乏しいように思われるが、王国時代に先立つ[[ナカダ文化]](ナカダI期(紀元前4400-3500年)あるいはII期(紀元前3500-3200年))からは、神話的動物を描いた[[魚型パレット]]か見つかっている。[[ナカダ文化]]は[[上エジプト]]の[[テーベ]]周辺に興った文化であるが、この地域は後に[[ミン]]の信仰が盛んとなった地域であったので、古い時代には[[メソポタミア]]の[[エンキ]]と同じく月の神が「魚」として現される文化もあったのではないかと考える。[[ナカダ文化]]から発掘された「[[魚型パレット]]」は月神の象徴であったのであろう。<br>
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[[wikija:古代エジプト|古代エジプト]]において、月神は[[wikija:クヌム|クヌム]]神に象徴されるように「羊」で現される傾向が強い。「鳥」としては特定のトーテムが無いように思われるが、[[wikija:ヘルモポリス|ヘルモポリス]]のアケル・[[wikija:トート|トート]]は鴾の姿で現される。また月神の[[wikija:ヒエログリフ|ヒエログリフ]]は「ウズラの雛」「ハト」といった鳥で現される。こうして見てみると「月神」に象徴される「鳥」というのは、本来猛禽類よりももっと穏やかな鳥で現されたのではないかとも思う。特定の鳥に偏る傾向が乏しくても、「月神」が「鳥神」でもあったという思想があったため、それが[[wikija:ヒッタイト|ヒッタイト]]の月神の「翼」にも繋がっているのであろう。エジプトの月神には「魚」としての性質も乏しいように思われるが、王国時代に先立つ[[wikija:ナカダ文化|ナカダ文化]](ナカダI期(紀元前4400-3500年)あるいはII期(紀元前3500-3200年))からは、神話的動物を描いた[[魚型パレット]]か見つかっている。[[wikija:ナカダ文化|ナカダ文化]]は[[wikija:上エジプト|上エジプト]]の[[wikija:テーベ|テーベ]]周辺に興った文化であるが、この地域は後に[[wikija:ミン|ミン]]の信仰が盛んとなった地域であったので、古い時代には[[wikija:メソポタミア|メソポタミア]]の[[wikija:エンキ|エンキ]]と同じく月の神が「魚」として現される文化もあったのではないかと考える。[[wikija:ナカダ文化|ナカダ文化]]から発掘された「[[魚型パレット]]」は月神の象徴であったのであろう。<br>
[[ミン]]は本来農業に関する豊穣の神であったが、後には商人や鉱山における労働者の守り神となった神でもある。[[ヒッタイト]]における月神は工具を持った姿で現されるが、これはおそらく金属に関わる仕事のうち、鉱石を掘り出す仕事や、金属全般を加工する職人の神とみなされていたからではないだろうかと思う。[[ヒッタイト]]の月神のこのような性質は、[[古代エジプト]]の[[ミン]]の性質と共通している。<br>
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[[wikija:ミン|ミン]]は本来農業に関する豊穣の神であったが、後には商人や鉱山における労働者の守り神となった神でもある。[[wikija:ヒッタイト|ヒッタイト]]における月神は工具を持った姿で現されるが、これはおそらく金属に関わる仕事のうち、鉱石を掘り出す仕事や、金属全般を加工する職人の神とみなされていたからではないだろうかと思う。[[wikija:ヒッタイト|ヒッタイト]]の月神のこのような性質は、[[wikija:古代エジプト|古代エジプト]]の[[wikija:ミン|ミン]]の性質と共通している。<br>
また、コロン(Choron)から派生したと思われる名に、[[ギリシア神話]]の伝令神[[ヘルメース]]がいる。[[ヘルメース]]の聖獣に鴾があり、これはアケル・[[トート]]と共通した性質である。また、[[ヘルメース]]は本来農業に関わる豊穣神であったが、後には伝令神や商人の神へと変遷し、その姿はエジプトの[[ミン]]と共通している。そして[[ヘルメース]]は「翼のついた帽子」を被るとされており、「翼」を持つ点では[[ヒッタイト]]の月神と一致する。要するに[[ヒッタイト]]や[[古代ギリシア]]の「男性形の月神」は、[[メソポタミア]]と[[古代エジプト]]の「男性形の月神」達を複合したものと共通した性質を持っており、それぞれに影響を受けた神だといえる。また、[[ヒッタイト]]の月神に影響を与えた、[[エンキ]]、[[キシュ]]、[[クヌム]]、[[ミン]]、[[コンス]]、アケル・[[トート]]といった神々は、メソポタミアやエジプトでこそ細分化されて役割が異なるものとされているが、本来はみな同じ「月の神」であるという意識が多くの人々にあったのであろうし、語源的にもそれぞれ似通っていることが分かる。その中でも
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また、コロン(Choron)から派生したと思われる名に、[[wikija:ギリシア神話|ギリシア神話]]の伝令神[[wikija:ヘルメース|ヘルメース]]がいる。[[wikija:ヘルメース|ヘルメース]]の聖獣に鴾があり、これはアケル・[[wikija:トート|トート]]と共通した性質である。また、[[wikija:ヘルメース|ヘルメース]]は本来農業に関わる豊穣神であったが、後には伝令神や商人の神へと変遷し、その姿はエジプトの[[wikija:ミン|ミン]]と共通している。そして[[wikija:ヘルメース|ヘルメース]]は「翼のついた帽子」を被るとされており、「翼」を持つ点では[[wikija:ヒッタイト|ヒッタイト]]の月神と一致する。要するに[[wikija:ヒッタイト|ヒッタイト]]や[[wikija:古代ギリシア|古代ギリシア]]の「男性形の月神」は、[[wikija:メソポタミア|メソポタミア]]と[[wikija:古代エジプト|古代エジプト]]の「男性形の月神」達を複合したものと共通した性質を持っており、それぞれに影響を受けた神だといえる。また、[[wikija:ヒッタイト|ヒッタイト]]の月神に影響を与えた、[[wikija:エンキ|エンキ]]、[[wikija:キシュ|キシュ]]、[[wikija:クヌム|クヌム]]、[[wikija:ミン|ミン]]、[[wikija:コンス|コンス]]、アケル・[[wikija:トート|トート]]といった神々は、メソポタミアやエジプトでこそ細分化されて役割が異なるものとされているが、本来はみな同じ「月の神」であるという意識が多くの人々にあったのであろうし、語源的にもそれぞれ似通っていることが分かる。その中でも
* [[エンキ]](キエン)あるいは[[クヌム]]から派生したコロン(Choron)
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* [[wikija:エンキ|エンキ]](キエン)あるいは[[wikija:クヌム|クヌム]]から派生したコロン(Choron)
 
という名は、様々な地域に広まり、地域によって様々な性質を得ることとなっていったようである。特に「K」という子音は「R」という音とも交通性があり、かつ「M」と「N」にも交通性がある点を考えると、
 
という名は、様々な地域に広まり、地域によって様々な性質を得ることとなっていったようである。特に「K」という子音は「R」という音とも交通性があり、かつ「M」と「N」にも交通性がある点を考えると、
 
* コロン(Choron) → ローマ(Roma)
 
* コロン(Choron) → ローマ(Roma)
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== 関連項目 ==
 
== 関連項目 ==
* [[wikib1:月神について:ヒエログリフ]]:古代エジプトの月神について
+
* [[wikib1:神に礼拝する王|神に礼拝する王]]:クシュフの図について
* [[wikib1:我が名はホークアイ:ヒエログリフ]]:アケル・トートについて
+
* [[wikib1:月神について:ヒエログリフ|月神について:ヒエログリフ]]:古代エジプトの月神について
* [[wikib1:蛇の尾を持つホルス:ヒエログリフ]]:コロンについて
+
* [[wikib1:我が名はホークアイ:ヒエログリフ|我が名はホークアイ:ヒエログリフ]]:アケル・トートについて
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* [[wikib1:蛇の尾を持つホルス:ヒエログリフ|蛇の尾を持つホルス:ヒエログリフ]]:コロンについて
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* [[鍛冶師のカーヴェ]]:[[ザッハーク]]について
 
* [[魚型パレット]]
 
* [[魚型パレット]]
 +
* [[サバジオス]]:[[wikija:バチカン|バチカン]]とコロンの関係について
 +
* [[ペタソス帽]]:[[wikija:ヘルメース|ヘルメース]]の帽子について
 +
* [[ヘバト]]:太陽女神と月神の関係について
  
 
== 参照 ==
 
== 参照 ==
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== 原文 ==
 
== 原文 ==
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* [[wikipedia:Hittite mythology|Hittite mythology]]
 
* [[wikipedia:Kusuh|Kusuh]]
 
* [[wikipedia:Kusuh|Kusuh]]
  
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{{DEFAULTSORT:くしゆふ}}
 
[[Category:ヒッタイト神話]]
 
[[Category:ヒッタイト神話]]
 
[[Category:フルリ神話]]
 
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[[Category:コロン|*]]

2014年4月29日 (火) 18:54時点における最新版

王から酒を奉献されるクシュフ(カシュク)

フルリ人の月神。この神の整数は30である。 クシュフ (Kushuh)はヒッタイトの神カシュクと同一視されている。

カシュク(Kaškuḫ; Kašku) 、月の神(フルリ人のクシュフ(Kuşuh))。ルウィ語でアルマ(Arma)と呼ばれた。

私的解説

王から酒を奉献されるクシュフ(カシュク)

名前の由来

月と魚と角の神の分布

ヒッタイトの月神には、大別して2系統の名前があると思われるため、まずその点について述べたい。

  • クシュフ(Kushuh)、カシュク(Kasku)
  • アルマ(Arma)

クシュフとカシュク

この2神の名は似通っており、子音でみると「K-S-K(h)」でほぼ一致する。「K」の子音は「H」あるいは「A」といった母音と交通性がある。また「S」という音も「K」という音と交通性があるため、クシュフやカシュクは「K-(K)S-K(h)」という子音を持つこととなる。
一方、エジプトの月神をみてみると、ヘルモポリスの月神トートヒエログリフアケル(Aker)と読めることがわかる。アケルの「A」という子音は「K」という音と交通性があるため、この名は「(K)A-K」となる。こうして、アケルとクシュフとカシュクの3つの名前を比較すると、構成する子音が近いことが分かる。

メソポタミアの側には、神の名ではないが、最古の部類に属する都市の名前にキシュ(Kish)というものがある。こちらも「K-(K)S」という子音から構成されており、クシュフやカシュクと音が近い。そして、キシュを構成する楔形文字の「キ」の部分はエンキという神の「キ」の部分と一致している。「K-K」という子音はエジプトのアケルトートとも共通した子音であるため、おそらく古くは月神のことを「K-K」という子音で現す習慣が広く存在しており、その流れを組むものがヒッタイトのクシュフとカシュクであるのだと思われる。

アルマ

アルマ(Arma)という名は「K」という子音が「A」という母音と交通性があることを考えると、本来は「K(A)-M」という音から変化したものではないかと思われる。この子音を持つ神にはエジプトのクヌム(Khnum)がいる。また「M」という子音は「N」と交通性があるため、コンス(Khonsu)も同系統の名前と思われる。 子音の変化が

  • 「K」→「S」→「H」→「A」→消失

と変化するものだとすると、

  • 「K」が残されている群 → クヌムコンス
  • 「A」へと変化した群 → アルマ
  • 子音が消失した群 → ミン

であるといえる。クヌムコンスミンはいずれも上エジプトの月神であるため、本来は同じ神であったものが細分化されたものだと思われる。

メソポタミアの側であるが、エンキ(Enki)が守護神とされるシュメールの都市エリドゥは紀元前4900年頃に建設されたと言われている。エンキを構成する楔形文字は「En-Ki」という2文字で構成されているのだが、楔形文字は反対側から読むことも可能なため、逆から読むとキエン(Ki-En)となる。
一方、アッカドの月神シン(Sin)を構成する楔形文字は「En-Si」と書き、後ろから読んで「シン」という。「K」という子音と「S」という子音は交通性があるため、エンキを逆向きに読んだ「キエン」という名と「シン」の名はほぼ同じものとなることが分かる。
また、図像を見るとヒッタイトの月神は両肩から羽根を生やしているが、エンキ(キエン)は両肩から川が流れ出していることが分かる。その川の中にはこの神の象徴とされる魚が泳いでいる。エンキの両肩から流れ出しているのはチグリス川ユーフラテス川である。この2つの川が古代メソポタミアに豊穣をもたらすものであった。おそらくヒッタイトの月神の両肩に生えている羽根は、エンキの肩から流れ出している「川」から変化したものだと思われる。このように両肩から超常的なものが存在している図像は、更に時代が下るとシャー・ナーメ(1010年)において、両肩から蛇を生やしている蛇王ザッハーク(Zahhak)へと変遷するように思われる。ザッハークという名は「Zah-ha-k」という子音に分解され、「Z」が「S」や「K」、「H」という言葉と交通性があるとすると

  • 「K(z)ah-k(h)-k」

という音で構成されることが分かる。これらはヒッタイトの月神と共通している子音構造であると同時に、都市キシュ(Kish)にも近い音である。おそらく蛇王ザッハークの起源は、メソポタミアヒッタイトに由来する月神なのであろう。要するに、その図像においては、ヒッタイトの月神はメソポタミアエンキと共通性があるのである。
またエンキを逆に読むキエン(Ki-en)という名は、「K-N」という子音で構成されており、エジプトのクヌムコンスと共通した構成の名前といえる。また、古代のガザでは魚の姿をした海神ダゴン(Da-gon)が祀られている、ダゴンのゴン(gon)の部分は「K」が「G」へと変化したもので、魚の姿をしたエンキと共通した姿を持っている。おそらく第18王朝(紀元前1570年頃~1293年頃)の頃に古代エジプトに登場し、ハヤブサの神ホルスと習合したコロン(Choron)という神の本来的な原型はメソポタミアにおけるエンキ古代エジプトにおけるコンスクヌムといった「水源の神」「農業に関わる豊穣の神」であったと思われる。元々が「水源の神」であるので、海の近くに行くと「海神」へと変遷するのである。しかし、月神が「攻撃性の高い神」であるという思想が台頭してくると、次第に攻撃性の高い神へと変遷していったのであろう。コロン(Choron)は猛禽類の姿で現されるが、メソポタミアにおけるエンキの図の腕にも猛禽類が停まっていることが分かる。要するにエンキのトーテムは

  • 魚、山羊、猛禽類

だったのであり、猛禽類の姿で現されるコロン(Choron)はその一形態だったのである。
古代エジプトにおいて、月神はクヌム神に象徴されるように「羊」で現される傾向が強い。「鳥」としては特定のトーテムが無いように思われるが、ヘルモポリスのアケル・トートは鴾の姿で現される。また月神のヒエログリフは「ウズラの雛」「ハト」といった鳥で現される。こうして見てみると「月神」に象徴される「鳥」というのは、本来猛禽類よりももっと穏やかな鳥で現されたのではないかとも思う。特定の鳥に偏る傾向が乏しくても、「月神」が「鳥神」でもあったという思想があったため、それがヒッタイトの月神の「翼」にも繋がっているのであろう。エジプトの月神には「魚」としての性質も乏しいように思われるが、王国時代に先立つナカダ文化(ナカダI期(紀元前4400-3500年)あるいはII期(紀元前3500-3200年))からは、神話的動物を描いた魚型パレットか見つかっている。ナカダ文化上エジプトテーベ周辺に興った文化であるが、この地域は後にミンの信仰が盛んとなった地域であったので、古い時代にはメソポタミアエンキと同じく月の神が「魚」として現される文化もあったのではないかと考える。ナカダ文化から発掘された「魚型パレット」は月神の象徴であったのであろう。
ミンは本来農業に関する豊穣の神であったが、後には商人や鉱山における労働者の守り神となった神でもある。ヒッタイトにおける月神は工具を持った姿で現されるが、これはおそらく金属に関わる仕事のうち、鉱石を掘り出す仕事や、金属全般を加工する職人の神とみなされていたからではないだろうかと思う。ヒッタイトの月神のこのような性質は、古代エジプトミンの性質と共通している。
また、コロン(Choron)から派生したと思われる名に、ギリシア神話の伝令神ヘルメースがいる。ヘルメースの聖獣に鴾があり、これはアケル・トートと共通した性質である。また、ヘルメースは本来農業に関わる豊穣神であったが、後には伝令神や商人の神へと変遷し、その姿はエジプトのミンと共通している。そしてヘルメースは「翼のついた帽子」を被るとされており、「翼」を持つ点ではヒッタイトの月神と一致する。要するにヒッタイト古代ギリシアの「男性形の月神」は、メソポタミア古代エジプトの「男性形の月神」達を複合したものと共通した性質を持っており、それぞれに影響を受けた神だといえる。また、ヒッタイトの月神に影響を与えた、エンキキシュクヌムミンコンス、アケル・トートといった神々は、メソポタミアやエジプトでこそ細分化されて役割が異なるものとされているが、本来はみな同じ「月の神」であるという意識が多くの人々にあったのであろうし、語源的にもそれぞれ似通っていることが分かる。その中でも

という名は、様々な地域に広まり、地域によって様々な性質を得ることとなっていったようである。特に「K」という子音は「R」という音とも交通性があり、かつ「M」と「N」にも交通性がある点を考えると、

  • コロン(Choron) → ローマ(Roma)

という言葉にも変化し得る。ローマ(Roma)という地名は、コロン(Choron)と非常に近縁性の高い言葉であることが分かる。

関連項目

参照

ミカエル・ジョーダン(Michael Jordon)、神々の百科事典(Encyclopedia of Gods)、Kyle Cathie Limited, 2002

原文