M神列伝2:ヒエログリフ

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本項では、「フクロウ」と「セネト・ゲーム」のヒエログリフを中心として、神に関して「m」で発音される他のヒエログリフとの関連性を考察してみることとする。

マフデト(Mafdet)のヒエログリフ

ミイラが横たわっているベッドがマフデトである。

マフデトは初期の頃のエジプトの女神である。この女神は蛇や蠍から守ってくれる女神として、ネコ科の動物あるいはマングースとして描かれ、ネコ頭の神として現されたとのことである。
ヒエログリフを見ると「草刈鎌」を意味すると思われる「m」と、セネト・ゲーム盤の「m」が同じ意味で使われていることが分かる。また、「ウアジェトの目」とされる左目のヒエログリフが、本来の「d」ではなくて「m」で現され、これも同じ意味で使用されているようである。
マフデトは一貫として、ネコ科の動物の姿で現される神であるが、隼やハゲワシの神としてもみなされている。また、「蛇」を示す「t」も髓所に使われている。
古い時代には、「王権の保護者」としての性質を示す「ウアス杖」のヒエログリフが使われており、その点がこの神の特徴といえる。また、古王国時代から中王国時代にかけては、「荷車」を示すと思われるヒエログリフも使われている。西洋では広く「北斗七星」のことを「荷車」とみなしており、その起源は古代メソポタミアにあると思われる。古代エジプトにおいて、「北斗七星」は地平線に沈まないことから「滅びない星々」と考えられており、その点から「王権の保護者」としてもみなされる習慣があったのではないかと考える。[1]古い時代にはこのように「永遠性」を示す女神であったので、永遠のものと考えられたミイラのベッドの部分にも描かれているのであろう。

マアト(Maat)のヒエログリフ

マアト女神

マフデトと同じヒエログリフを使用する女神にマアトという神がいるため、そのヒエログリフも考察してみたい。マアトとは、あの世で来世を定めるときに、死者の生前の行いを裁くと言われている神である。頭に「真理の象徴」とされているダチョウの羽をつけている姿で現される。
奇妙なことであるが、古い時代にはマアトのヒエログリフに「王権を保護する男性神」の姿が見える。また、「草刈鎌」と「月」を意味するヒエログリフも、マフデトと同様に認められ、古くはマフデトと同様、「王権の永遠性を保護する神」であったことが示唆される。おそらく、古代エジプトにおける「王」とは、「神から人の命の緒を刈る権利を授かった者」と考えられており、それが「人が生まれた時にへその緒を切り取る母女神」という考えと習合して、「王権の保護する神」が「生と死を操る鎌を持った母女神」へと変化したものではないだろうか。古代エジプトにおいて、「王が人民を保護する者である」という思想が語られるようになったのは、新王国時代になってからのようである。古い時代には、「神と等しい王」とは「神と同様に人を生かすことも殺すこともできる者」と考えられていたのであろう。
また、マアト女神の特徴は、女神を示す「c」や、真理の羽を示す「h」を示す音が、名前の中に含まれていないことであると思う。逆にその点の音を発音して、「月」を意味するヒエログリフを取り除けば、その読み方は「cah」と読めるともいえると感じる。「c」という言葉が「k」と交通性のある言葉とすれば、「カー(kah)」とも読めるのではないだろうか。
時代が下ってヒエログリフが省略されるようになっていくと、「月」を意味する言葉が優先して残されているように感じる。マアトは「審判の神」としてだけでなく、人の「生と死を操る鎌を持った母女神」として考えられていたのであろう。

アメミット(Ammit)のヒエログリフ

アメミット

マアト女神と共に、「冥界の審判」に関わる存在としてアメミット(Ammit)と呼ばれる獣神がいるため、そのヒエログリフも考察してみたい。この獣神は、生前に悪事を働いた者、すなわちマアトの審判で「悪人」とされた者、の心臓を貪り喰い、来世に転生できなくする、と考えられていた存在であった。
アメミットは最初にくる「ア(a)」を示すヒエログリフ以外、ほとんどが「月」や「冥界」を意味する言葉で構成されている。本来は「m」と発音しなくても、「月」を意味するヒエログリフを当てはめて「m」と呼ばせる傾向が強いようである。また、「ネコ科の獣」を示すヒエログリフが使われており、そのような獣神であると考えられていたようである。
アメミットを示す「決定詞」の一部に「唐竿を打つ人」のヒエログリフがみられる。冥界へ向かう人の魂を「脱穀」して選別するような神として捉えられていたのかもしれないと考えると、興味深い。脱穀の結果、実が入っている良い穀物の中身だけが残り、良くない穀物が取り除かれるように、悪人の魂も選別されて取り除かれると考えられていたのであろう。
また、アメミットを示すヒエログリフの一部には、「ハゲワシ」と「草刈鎌」が認められる。アメミットには「人の魂を刈り取ってむさぼり食う神」としての性質も本来は含まれていたのではないだろうか。そしてその性質の大部分は「月」によるものと考えられていたようである。

まとめ

本項より、以下のヒエログリフが、共通して「人の運命を決定する月」を意味することが明かとなった。本項より、以下のヒエログリフが、共通して「人の運命を決定する月」を意味することが明かとなった。また、「草刈鎌」で現される「月の神」は死者の死後の世界に関わる神であり、その鎌で「人間の魂の緒」を刈り取る存在だと考えられていたのではないかと思う。そしてその姿が動物として現される時には、ネコ科の動物や、ジャッカルといった「死体を貪り喰う動物」の姿として現され、それがその神の本質的な性質を示していると考える。
また、そのように「人をむさぼり喰う神」であるマフデトは、古い時代には「王権の保護者」ともみなされており、「王」という存在が「むさぼり喰う神」の代理人であり、かつそのようにふるまって良い存在と考えられていたとすれば、古代エジプトにおいて、「王権と共にあった月信仰」とは、庶民の命をむさぼり喰うことを王者に肯定する神であり、庶民にとっては「恐ろしい神」であったのだと思われる。
実際、古代エジプトにおいて、庶民を意味するヒエログリフは「レキト」という鳥で現されるのだが、古い時代にはレキトは、絞首刑にしたり、力づくで隷属させる存在として描かれ、彼らが「保護されるべき対象」としてみなされるようになったのは、新王国時代になってからだったのである。
つまり、新王国以前に当然とみなされていた「強権な王」の象徴が「草刈鎌」のヒエログリフであった。

参照

  1. 「北斗七星」には他にも「犠牲獣の脚」という見方があったようである。

外部リンク

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