==== 2)B-について ====メソポタミア文化圏には「B」のつく太陽神が多く、ヘバト(Hebat)女神の名もこの子音を含むため、この子音についても述べておく。<br>アッシリアの太陽神アッシュールに使われる楔形文字は、非常にシンプルで横に1本線を引いたものである。<br>この楔形文字の右側に月を示すと思われる楔形文字を加えたものは、USHあるいはBADと発音する。「U」という言葉は「w」や「v」という子音に通じ、古代エジプト的には「水」あるいは「月」を指す。この楔形文字を右側から読んだ場合には、U+ASHとなりUSHと読む。また、「太陽」という言葉は「B」という子音でも現されるため、左側を「B」と読み、右側を月を意味する「D」あるいは「T」と読むとすると、BADあるいはBATと読める。(楔形文字は右からも、左からも読む文字である。)意味としては、USHと同じ意味となる。この楔形文字は、神の名とするとき、ベール(Bel)と読む。これは天候神としての性質が強い太陽神エンリルや、都市神としての性質が強い太陽神マルドゥクの添え名である。そして、ウガリット神話においては「バアル」という天候神になる。「バアル」という読み言葉に「月」を意味する子音はないが、書き言葉である楔形文字に「月」が含まれるせいか、この神もウガリット神話において父神を追放する神となっている。そして、古代エジプト神話のセトとも同一視されていた。また、この楔形文字には、太陽を示す言葉と、月を示す言葉の2つが含まれており、月が右側(文字を人の顔に見立てれば、顔の左側)に描かれている。古代エジプトの太陽神ホルスの右目が太陽で、左目が月であることを考えると、メソポタミアにも同様の思想があったことが示唆されると感じる。これがラテン語のbellumという言葉になると「戦争」という意味になり、軍神としてのバアルから変化した言葉ではないかと思われる。<br>その右側の楔形文字は、シュメールの太陽神ウトゥを現す楔形文字である。この文字は「バッバル」とも読まれ、いずれの読み方でも「太陽神」とみなされていた。ウトゥという言葉は水を意味する「U」、月を意味する「T」から構成されており、月としての性質が非常に強い太陽神と考えられるが、一方のバッバル(BABBAR)は主に「B」という子音で構成され、本来ウトゥとは起源の異なる太陽神であることが示唆される。こうして古代メソポタミアでも、最古に位置するシュメールにおいて、2系統の太陽神がいたと思われ、その一方は「B」という子音を有していたことが分かる。しかし、そこに住んでいる人たちは、どちらも「同じ太陽」ということで、厳密な区別はせずに共存していたことが示唆されるのである。古代メソポタミアの言葉で「BABBAR」という言葉には「白い」とか「銀」という意味も含まれるとのことで、彼らが太陽をそのようなものと見ていたことが分かる。<br>一方、ヒエログリフで神の名を意味する「b」という子音は「脚」の形で現されることが多い。蛇に脚はないため、どうやらこの神は蛇神ではなさそうである、とそのような推察も可能なのではないだろうか。
=== 4.母音で表記される群 ===
これらのことから、本来「太陽」を示す言葉から派生した文字であっても、意味が分化していくうちに、「月」に対しても同じ言葉が用いられるようになっていったことが分かる。
===== 1-1)Ar-(Ir-, Er-)またはAl-(Il-, El-)等について =====
「Khr」という子音は、上記のように省略するにつれて、A, I, Eという母音に変化しうるため、これにrあるいはlがついたもの、または最初に母音がつかず、R-, L-で始まる神名も「太陽」を示す言葉と考えられる。おそらく、古代エジプトやメソポタミアを含めた地中海沿岸地域と西アジアにおいては、全体としては「r」という子音と「l」という子音の厳密な区別がついておらず、民族や地方によって好む子音を採用していたのではないだろうか。<br>
地中海東岸のウガリット付近にいくと、この接頭辞は「l」が付いた形で使われることが多くなるように感じる。「エール(El)」という言葉は、それ単独で「神」を意味し、ヘブライ語ではそのまま使用される。また、アラビア語に入ると「イラーフ(ilāh)」となり、イスラム教の「アッラーフ (Allāh) 」と同語源となる。古代のユダヤ人の神や、イスラム教の「アッラーフ」は、どうやら純粋な「太陽」を意味する「神」という言葉を語源にしているようである。<br>
地中海東岸地域の特徴として、これらの言葉は、接頭辞として使われるだけでなく、接尾語としても使われるようになっていることが挙げられる。例えばミカエル(Micha-el)、ガブリエル(Gabri-el)等である。<ref>「Al」という語句はアラビア語の定冠詞のようである。一方、「a」は英語の不定冠詞であるし、「the」は英語の定冠詞である。このような語句も「神」を意味する印欧語の接頭辞に由来するのであろうか? 興味深いことと感じる。</ref>
==== 2)U-、O- ====
[[ファイル:w.png|thumb|right|px|w,v,u,o 水瓶]]
UとOが使用される群は、「水」あるいは古代エジプトにおいては「偉大な」を意味する「w」から子音が失われたものと考えられる。その属性は「月」といえよう。例えば、ギリシア神話の海の神オーケアノス(Oceanus)、天の神ウーラノス(Uranus)がこれに相当すると思われる。また、古代エジプトにおいては、「ナイル川」の流れと水が信仰の対象として重要視されていたが、この蛇神信仰がエジプトの外にも広がると、オーケアノス(Oceanus)の例にもあるように、「海の水」という意味にも適用されるようになったと思われる。
===== 2-1)En-またはEm-等 =====
特に「En-」とつく言葉はメソポタミアの男性神に目立つと感じるのだが、これは本来的には「太陽」+「月」という意味であると思われる。ただし、古代メソポタミアにおいては、神の名に言外に発音しない「d」が付いて記載されるため、それを含めると「月」+「太陽」+「月」という意味になり、全体としては「月」の傾向が強くなる言葉といえるのではないだろうか。
===== 2-2)Nin- =====