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2026年1月29日 (木) 05:58時点における版
サイ(犀)は、奇蹄目サイ科(サイか、Rhinocerotidae)に分類される構成種の総称。
分布
世界には5種のサイが現生しており、アフリカ大陸の東部と南部(シロサイ、クロサイ)、インド北部からネパール南部(インドサイ)、マレーシアとインドネシアの限られた地域(ジャワサイ、スマトラサイ)に分布している。現生のサイは体毛がなく(或いは薄く)、寒冷地域には分布していない。
かつてサイ科の属する奇蹄目は、始新世から漸新世にかけて繁栄し、240属と多様性を誇った。サイの祖先たちは、ほぼ全ての地域(可住域)に分布した[1]。特に漸新世には陸上哺乳類史上最大の種(パラケラテリウム)が現れるなど、繁栄を極めた。しかし中新世以降は地球の寒冷化によって多くの種が絶滅し、またウシ亜目などの反芻類の進化に押されて衰退し[2]、更には人間の狩猟と乱獲、開発によって、現在の分布になったと考えられる。
形態
シロサイは体長370 - 400センチメートル、体重2,300キログラム[3][4](最大で3600kgという記録がある[5])。現生種ではインドサイ・シロサイはオスがメスよりも大型になるが、他種は雌雄であまり大きさは変わらない[3]。皮膚は非常に分厚く硬質で、1.5 - 5.0cmの厚みを持ち、格子構造になったコラーゲンが層をなしている。皮膚はあらゆる動物の中でも最硬といわれ、肉食獣の爪や牙を容易には通さない。インドサイ等は、だぶついた硬い皮膚が特徴的で、体全体が鎧で覆われているように見える。体色は灰色をしている種が多いが、サイは泥浴びを好み、水飲み場などでよくこれを行うので、土壌の色で茶色などを帯びたように見えることもある。スマトラサイを除き体毛がない。しかし耳介の外縁や睫毛、尾の先端に毛を残している。幼獣は成獣より毛深く、成熟するにつれて体毛が薄くなる。スマトラサイは耳介も含めて全身が粗く長い茶褐色の体毛で被われているものの、野生種では泥にまみれるか、抜け落ち、あまり目立たない。
非常に大きな頭蓋骨は、前後に長く、後頭骨が立ち上がっている。鼻骨は大きく前か上にせり出し、前上顎骨よりも前に飛び出る。角が接合する部分は、鼻骨の表面がカリフラワー状に荒れている。頭部に1本(インドサイ属)または2本(クロサイ・シロサイ・スマトラサイ)の角がある[3]。ラテン語の呼称および英名のrhinocerosはこの角に由来し[3]、古代ギリシャ語で鼻を指すrhisと角を指すcerasを組み合わせたものとされる[6]。スマトラサイでは後方の角が瘤状にすぎない個体もいたり[6]、ジャワサイのメスには角のない個体もいる[7]。角はケラチンの繊維質の集合体で、骨質の芯はない(中実角)[3][6]。何らかの要因により角がなくなっても、再び新しい角が伸びる[6]。シロサイやクロサイでは最大1.5mにもなる[8]。サイの角は肉食動物に抵抗するときなどに使われる。オスのほうがメスより角が大きい。目は小さく、視力は非常に弱い。シロサイは30mも離れると動かないものは判別できない[9]。嗅覚は非常に発達する[3]。聴覚も発達し、耳介は様々な方向へ向け動かすことができる[3]。脳は哺乳類の中では比較的小さい(400 - 600g)。後腸をもつ後腸発酵草食動物で、必要とあらば樹皮のような硬い植物繊維質も食料源とすることができる。単胃であるため採食が頻繁で、反芻しない。体は硬い皮膚に覆われているが口先はやわらかく、感覚に優れている。口先の形状は種によって異なり、種によって食性が微妙に違うことを示している[10]。吻端はシロサイを除いて尖る[6]。インドサイやクロサイは上唇の先端がよく動き、木の枝などを引き寄せることができる[3]。シロサイは頭部が長くて唇が幅広く、丈が短い草本を一度に広い範囲で食べることに適している[3]。 24本から34本の歯を持ち、小臼歯と大臼歯ですり潰す(歯式は 1-2/0-1, 0/1-1, 3-4/3-4, 3/3)。アジアのサイの下顎切歯を除けば、犬歯および切歯は痕跡的である。これは突進時の衝撃への適応 適応と考えられている[11]。アフリカのサイ2種は前歯を持たず[12]、その代わりに口先(吻)で餌を挟み取る。四肢は短く頑丈で、指趾は3本[6][3]。
乳頭は後肢の基部にあり、乳頭数は2個[6][3]。精巣は陰嚢内に下降しない[6][3]。陰茎は後方を向き、雌雄共に後方に向かって尿をする[6][3]。出産直後の幼獣はやや小型で、体重で比較すると母親の約4 %(インドサイ・シロサイ約65キログラム、クロサイ約40キログラム)しかない[3]。
生態
草原や森林、熱帯雨林、湿地に生息する。スマトラサイとジャワサイは、特に河川や沼の周辺に好んで生息する。サイは夜行性あるいは薄明薄暮性である。母親とその幼獣を除けば主に基本的に単独で生活するが、シロサイは若獣が連れ添ったり幼獣がいないメスで6-7頭の群れを形成することもあり大規模な群れを形成することもある[6][3]。短期間であれば日陰や水浴びなどの際に集合することもある[6][3]。雄は通常、縄張りを持ち、尿や糞、足跡(スマトラサイ)などでマーキングする[13]。そして一生のほとんどを自分のなわばりの中で暮らす[9]。縄張りの大きさは、2〜100平方キロメートルと様々ある。縄張りは厳密ではなく、繁殖期以外は他者の侵犯を見逃したり、縄張りが重なりあう。食料事情や繁殖の為に、縄張りの大きさも変動する。昼間は木陰で休む、水場で水を飲む、水浴びや泥浴びをして体温調節したりする。水浴びや泥浴びを好み、前者は体温の上昇・後者は虫を避ける(皮膚は分厚いが表皮は薄くすぐ下に血管が通っているため)効果があると考えられている。薄明時や夕方に食物を摂取する。
食性は植物食[3]。近くに水場があれば毎日水を飲むが、アフリカ大陸に分布する種は4-5日は水場へ行かないこともある[3]。また、塩やミネラルを摂取することが重要で、塩を舐める行為が社会的意味をもっている[14]。またスマトラサイやジャワサイは塩分を摂るために海水を飲むことがある[15]。
クロサイやインドサイは最高時速55kmで走ると言われる[16](インドサイについては要出典)。
硬い皮膚と大きな体躯を持つことで、肉食獣に襲われて捕食されることはあまり多くない[17]。しかし、幼獣はその限りではない[18]。
胎生。オス同士ではクロサイとシロサイは前方の角を、他種は下顎の牙状の歯を使い激しく争う。妊娠期間15 - 18か月(スマトラサイは8か月とされるが、他種と比較すると極端に短いため未確認とされている)。種によってまちまちだが、オスは約8-10歳で性的に成熟し、メスは5-7歳で成熟する。飼育下での寿命は35〜50年、野生では25〜40年程度と言われている。
人間との関係
密猟と保護対策
前述のとおり現生のサイは5種で、そのいずれもが絶滅の危機に瀕している。かつて人間はサイを狩猟し食糧としていたとされるが、現在の生息数減少の主な原因は、生息域の開発と、角を目当てにした密猟で、2008年から急増し現在進行形の脅威である[19][20]。サイの角は、コカイン、ヘロイン、金よりも高値で取引され、場所によっては1キロ当たり25,000ドルから60,000ドルで取引される[20]。
- 用途
- 角は工芸品、ジャンビーヤと呼ばれる中東の短剣の柄、漢方薬の犀角、その他の伝統医学の材料として珍重されている[20]。
- 保護
- サイ科の5種すべてが絶滅の危機にあり、国際自然保護連合IUCNはジャワサイ、クロサイ、スマトラサイの3種を絶滅危惧 IA 類、絶滅寸前(Critically Endangered)に指定した。とりわけ[ジャワサイ Rhinoceros sondaicus は、地球上で最も数が少ない大型獣として知られており、1967年から1968年に行われた調査では生息数が25頭まで減少したとされた。保護対策には、広報活動、生息域の保全、あらかじめ角を落とす、サイには無害で人間には有害な寄生虫薬の角への注入、WWFなどの保護団体による角へのチップ埋め込み、検疫スキャナーで検知可能な染料による角の染色、空港での検疫など、多岐に渡る。保護活動は一定の成果を生んでいるものの、生息域の治安悪化などで成果が水泡に帰する場合もある。
文化への影響
サイは古代から人類と関係を持っていたと考えられている。現存する人類最古の絵画であるフランスのショーヴェ洞窟壁画にもサイ(絶滅したケブカサイと考えられているテンプレート:要出典)は描かれており、これは1〜3万年前のものである。
1515年、アルブレヒト・デューラーは、サイがリスボンに輸入された時の様子を描いた無名の画家のスケッチを元にして、有名な 犀の木版画を創作した。デューラーは実物を見ることができずテンプレート:要出典、描写はいくぶん不正確だが、この木版画は「動物を描写した作品のうち、これほど芸術分野に多大な影響を与えたものはおそらく存在しない」とまでいわれている作品でもある[21]。『犀』は西洋において何度も参照され、絵画や彫刻に影響を与えた。『犀』は『動物図譜』に記載され、日本にも伝わり、谷文晁がそれを模写をした『犀図』を残している[22]。
ビルマ、インド、マレーシアでは、サイが火を潰すとする伝説がある。神話のサイは badak api (マレー語) の名称で呼ばれ、badakは犀、apiは火を意味する。森林の中で火が燃え広がるとサイが現れ、それを踏み消すとされる[23]。なお、この事実が確認されたことはない。しかし、この伝説は映画「The Gods Must Be Crazy(邦題ミラクル・ワールド ブッシュマン)」で紹介され有名になった。
日本や中国[24]では、水犀(みずさい)と呼ばれる動物が絵画などに見られる。頭には角、背中に甲羅、足には蹄を持つとされるテンプレート:要出典。平安末期の国宝鳥獣人物戯画の乙巻には、虎・象・獅子・麒麟・竜といった海外の動物や架空の動物とともに水犀が描かれている。江戸末期の北斎漫画にも水犀が描かれている。世界遺産 日光東照宮の拝殿東面、妻虹梁下にも水犀(通天犀とも)が彫刻されている。
中国では、現在でも犀の角で作られた彫刻や工芸品が重宝され売買されている。中国の検索サイトで犀角を検索すると、検索結果に価格や鑑定方法が挙がる(2016年現在)。西洋諸国のサーカスでは、サイを使うショープログラムがある。現在、多くの国の動物園でサイは飼育展示されている。
韓国のサンヨン自動車が製造/販売するSUV「ムッソー」は同車の韓国語版記事によると車名の由来は韓国語でサイを意味する「무소」から来ているとされ、実際初代の車名ロゴの「M」からはサイの角らしきものが生えている。
サイを用いた用語
- 灰色のサイ(Gray Rhino) - 金融市場において破局的な結果を招くと多くの者に予見されているにもかかわらず、軽視されがちな材料(問題)を示す。普段の性格はおとなしいが、一度暴走し始めると誰も手に負えなくなるサイの性格に由来する[25]。
出典
関連項目
脚注
- ↑ Donald R. Prothero, Robert M. Schoch: Classification of the Perissodactyla. In: Donald R. Prothero, R. M. Schoch (Hrsg.): The evolution of the Perissodactyls. New York 1989, S. 530–537.米国サンディエゴ動物学協会、サンディエゴ1993年、頁82から91。
- ↑ 『哺乳類の進化』 98 - 99頁
- ↑ 3.00 3.01 3.02 3.03 3.04 3.05 3.06 3.07 3.08 3.09 3.10 3.11 3.12 3.13 3.14 3.15 3.16 3.17 引用エラー: 無効な
<ref>タグです。 「owen-smith」という名前の引用句に対するテキストが指定されていません - ↑ Macdonald, D. (2001). The New Encyclopedia of Mammals. Oxford University Press, Oxford. ISBN 0198508239.
- ↑ Groves, C. P. (1972). "Ceratotherium simum". Mammalian species. 8 (8): 1–6. doi:10.2307/3503966. JSTOR 3503966.
- ↑ 6.00 6.01 6.02 6.03 6.04 6.05 6.06 6.07 6.08 6.09 6.10 引用エラー: 無効な
<ref>タグです。 「nakazato」という名前の引用句に対するテキストが指定されていません - ↑ 小原秀雄「スマトラサイ」「ジャワサイ」『動物世界遺産 レッド・データ・アニマルズ5 東南アジアの島々』・浦本昌紀・太田英利・松井正文編著、講談社、2000年、133-134頁。
- ↑ シロサイ 日経ナショナルジオグラフィック
- ↑ 9.0 9.1 Tomorrow is lived
- ↑ ナショナルジオグラフィック Black Rhinoceros by Diceros bicornis
- ↑ Rhinoceros New World Encyclopedia
- ↑ Rhinoceros Fact iheartrhinos.com
- ↑ Richard Estes, he Behavior Guide to African Mammals: Including Hoofed Mammals, Carnivores, Primates, https://books.google.com/?id=g977LsZHpcsC&pg=PA323, 1991, University of California Press, isbn:978-0-520-08085-0, p323–
- ↑ RHINOCEROS FEEDING bioexpedition.com
- ↑ International Zoo Yearbook, 2006, volume40, issue1, p150–173, Rhinoceros behaviour: implications for captive management and conservation, Hutchins M., M.D. Kreger, Zoological Society of London, doi:10.1111/j.1748-1090.2006.00150.x
- ↑ Rhino facts, World Wildlife Fund
- ↑ Wildlife: Rhinoceros. AWF. Retrieved 2012-02-24.
- ↑ 1985年から1995年の間にインドのカジランガ国立公園において行われた調査では、インドサイのトラによる捕食が密猟に次ぐ脅威になっているとの報告があり、178頭のサイが公園内で虎の被害に遭ったと報告している。ただし、この中の149頭(83.7%)は幼獣である [1]。
- ↑ ケニアの2013年サイ密猟数、前年の2倍に フランス通信社 2014年03月01日観覧
- ↑ 20.0 20.1 20.2 The unlikely figures behind a secret trade(BBC News)
- ↑ Clarke, T. H. (1986). The Rhinoceros from Dürer to Stubbs: 1515–1799. London: Sotheby's Publications. ISBN 0-85667-322-6. 20ページ
- ↑ 『平賀源内展カタログ』(2003年)p.118
- ↑ Rhinoceros Frequently Asked Questions.{{{date}}} - via {{{via}}}.
- ↑ 《国語・越語上》:“今 夫差 衣水犀之甲者億有三千。” 韋昭 注:“犀形似豕而大。今徼外所送,有山犀、水犀。”
- ↑ 灰色のサイ.{{{date}}} - via {{{via}}}.