「アータル」の版間の差分
| (同じ利用者による、間の6版が非表示) | |||
| 5行目: | 5行目: | ||
アヴェスター語において、''ātar''は熱源や光源の属性であり、その主格単数形は''ātarš''であり、ペルシア語の''ātaš''(火)の語源である。 | アヴェスター語において、''ātar''は熱源や光源の属性であり、その主格単数形は''ātarš''であり、ペルシア語の''ātaš''(火)の語源である。 | ||
| − | かつては、アヴェスター語の āθrauuan / aθaurun(ヴェーダ語 atharvan)という一種の祭司と語源的に関連すると考えられていたが、現在ではその可能性は低いとされている(Boyce, 2002:16)。以前は不明とされていた ātar の最終的な語源(Boyce, 2002:1)は、現在ではインド・ヨーロッパ祖語の*h<sub>x</sub>eh<sub>x</sub>tr- | + | かつては、アヴェスター語の āθrauuan / aθaurun(ヴェーダ語 atharvan)という一種の祭司と語源的に関連すると考えられていたが、現在ではその可能性は低いとされている(Boyce, 2002:16)。以前は不明とされていた <s>ātar の最終的な語源(Boyce, 2002:1)は、現在ではインド・ヨーロッパ祖語の*h<sub>x</sub>eh<sub>x</sub>tr-「火」に由来すると考えられている。</s>これにより、ラテン語 ater(黒)や、アルバニア語 vatër(定形:vatra)「炉」「暖炉」と同根語となる。アルバニア語のこの語はルーマニア語 vatră「炉」「暖炉」へ借用され、さらにそこからセルボ・クロアチア語 vatra「火」やウクライナ語 vatra「たき火」へと広まった<ref>jstor:40997529, The Prehistory of the Albanian Vowel System: A Preliminary Exploration, Studies in Slavic and General Linguistics, volume32:Evidence and Counter-Evidence: Essays in honour of Frederik Kortlandt. v 1: Balto-Slavic and Indo-European Linguistics, p591–608, Vermeer Willem, 2008, "Romanian also famously borrowed ''vatër'' 'hearth' with patently Tosk ''va-'' and proceeded to spread it to wherever Vlachs expanded subsequently."</ref><ref>https://books.google.com/books?id=tzU3RIV2BWIC&q=atars&pg=PA202, Encyclopedia of Indo-European Culture - James Mallory - Google Boeken, 2012-08-27, isbn:9781884964985, Mallory J. P., Adams Douglas Q., 1997, Taylor & Francis</ref>。 |
後期ゾロアスター教では、''ātar''(中世ペルシア語:𐭠𐭲𐭥𐭥𐭩 ''ādar'' または ''ādur'')は、図像学的に火そのものと同一視されており、火は中世ペルシア語では 𐭠𐭲𐭧𐭱 ''ātaxsh'' と呼ばれ、ゾロアスター教の主要な象徴の一つだった。 | 後期ゾロアスター教では、''ātar''(中世ペルシア語:𐭠𐭲𐭥𐭥𐭩 ''ādar'' または ''ādur'')は、図像学的に火そのものと同一視されており、火は中世ペルシア語では 𐭠𐭲𐭧𐭱 ''ātaxsh'' と呼ばれ、ゾロアスター教の主要な象徴の一つだった。 | ||
| 16行目: | 16行目: | ||
=== アヴェスターにおいて === | === アヴェスターにおいて === | ||
==== ガーサでは ==== | ==== ガーサでは ==== | ||
| − | + | 最も古代のテキストにおいて、「アータル」は'''判断が下される手段'''であり、預言的な'''熱による試練'''(アヴェスター語:ガルモ・ヴァラ、熱の試練)を反映している(ボイス 1996年:第6章)。正義はアタルによって執行される(ヤスナ31.3、34.4、36.2、47.2)、燃え盛るアタル(31.19、51.9)、アタルの熱を通して(43.4)、燃え盛って輝く溶けた金属を通して(アヤンガ・クシュシュタ30.7、32.7、51.9)。火の試練を乗り越えた者は、肉体的および精神的な力、知恵、真実、愛とともに平穏を得る(30.7)。しかし、最古の文献におけるアータルへの言及の中で、アフラ・マズダーとは独立して言及されているのは一度だけである。この例外では、アータルは男性三人称単数で言及されている。「彼は手でつかむことで罪人を見抜く」(ヤスナ34.4)。全体として、「火による試練は全部で30種類ほどあったと言われている」(ボイス、2002:1)。 | |
| + | |||
| + | ==== ガーサ以降の文書 ==== | ||
| + | ガーサの中における罪を察知する媒体としてのアータルの役割は、アヴェスターの後期のテキストには直接的に示されていない。しかし、正義によってアングラ・マイニュを焼き尽くし消滅させる寓話として、修正された形で再登場する。「そこでは、アシャ・ヴァヒシュタ(善なる思考)は時折、家庭の炉の火と同一視されている」。そこでは、「物質界と精神界における同一視は、アシャに関するゾロアスター教の教えの主要な教義をより際立たせている」(Dhalla, 1938:170)。それでもなお、熱による試練という古代の制度の痕跡はヴェンディダード4.54-55に存在し、真実に反する発言や約束の神聖さを侵害する行為は鞭打ち刑に処され、「罪を察知する力を持つ、燃え盛る黄金色の水」を飲むことで摘発される。この一節に関するゼンド訳・注釈では、「燃え盛る」を「硫黄と硫黄を含む」と訳し、この「罪を察知する液体」を摂取することで無罪か有罪かが確定したと記している。同様に、デンカードでは、アヴェスター文献の校訂を行ったとされるササン朝時代の高僧アダルバド・マラスパンドが、聖典の正確さの証として、胸に9升分の「燃えない溶融亜鉛」を塗られたとされている。 | ||
| + | |||
| + | 年代順に見ると、裁きの媒体としてのアータルから、燃え盛る火を司る神アタル・ヤザタへの移行は急激である。古いガーサ・アヴェスター語文献では熱(そして火)が厳しい裁きと関連付けられているのに対し、新しいアヴェスター語文献では、アータルという神は火そのものを完全に体現し、火そのものによって表象されているとされ、暖かさと光、そして成長に不可欠なものと関連付けられている。しかしながら、アシャ・ヴァヒシュタとアータルとの関連は後世にも引き継がれ、両者はしばしば一緒に言及されている(ヤスナ62.3、ニャーシェス5.9など)。守護者としての役割においても同様であり、「悪霊が善なる真理の創造を襲ったとき、善なる思考と火が介入した」(ヤシュト13.77) | ||
| + | |||
| + | |||
| + | |||
| + | |||
| + | |||
| + | It is in the later texts that ''Atar'' is personified as "the son" of Ahura Mazda (standard appellation, ''[[Yasna]]'' 25.7 et al.) and is addressed as "full of glory and full of healing remedies" (''Nyash'' 5.6). In ''Yasna'' 17.11, ''Atar'' is "master of the house", recalling the role of the hearth fire in the Gathas. The same passage enumerates the "five kinds of fire": | ||
| + | # ''atar berezi-savah'', "the highly beneficent ''atar''", qualified in ''Zend'' texts as "the fire that eats food but drinks no water", and the kind of fire that burns in an ''[[Atash Behram|Atash-Behram]]'', the highest grade of [[fire temple]]. | ||
| + | # ''atar vohu-fryana'', "the ''atar'' of good affection", cognate with [[bhaga]] and [[Friendship|friend]]), later qualified as "the fire diffusing goodness", and "the fire that consumes both water and food". | ||
| + | # ''atar urvazishta'', "the ''atar'' of greatest bliss", later qualified as "the fire of happy life", and "the fire that drinks water but eats no food". | ||
| + | # ''atar vazishta'', "the ''atar'' most swift", later qualified as the fire in clouds, i.e. lightning, and as "the fire that neither drinks water nor eats food". | ||
| + | # ''atar spenishta'', "the ''atar'' most holy",<ref name="Boyce_AmeshaSpenta">{{citation|chapter = Aməša Spənta|last = Boyce|first = Mary|title = Encyclopaedia Iranica|volume = 1|year = 1983|location = New York|publisher = Routledge & Kegan Paul|pages = 933–936}}.</ref> cognate Balto-Slavic ''[[wikt:Appendix:Proto-Slavic/svętъ|šventas]]'' "holy") ( described in "Zend" texts as "the fire of prosperity" and as the spiritual fire burning before [[Ahura Mazda|Ohrmuzd]]. | ||
| + | The description of the fires in the Sassanid era commentaries (the ''Zend'' texts) differs slightly from those described in the ''[[Bundahishn]]'' ("Original Creation", completed in the 11th or 12th century). In the latter, the description of the first and last kind of fire is reversed. | ||
== Adl(アラビア語) == | == Adl(アラビア語) == | ||
2026年1月17日 (土) 06:08時点における最新版
アータル (Atar、𐬁𐬙𐬀𐬭) はゾロアスター教に登場する火の神。ゾロアスター教における聖なる火の概念であり、抽象的な表現として「燃えつつ燃え尽きぬ火」あるいは「見える火と見えない火」と説明されることもある (ミルザ、1987:389)。これは、同名のヤザータを通じて、アフラ・マズダとそのアシャ(善行)の可視的な現れと見なされている。
アフラ・マズダーが生み出したヤザタの一柱で、アフラ・マズダーの息子とされる[1][2]。パフラヴィー語ではアードゥル (Adur)、アーダル (Adar) と呼ばれる[3]。
アヴェスター語において、ātarは熱源や光源の属性であり、その主格単数形はātaršであり、ペルシア語のātaš(火)の語源である。
かつては、アヴェスター語の āθrauuan / aθaurun(ヴェーダ語 atharvan)という一種の祭司と語源的に関連すると考えられていたが、現在ではその可能性は低いとされている(Boyce, 2002:16)。以前は不明とされていた ātar の最終的な語源(Boyce, 2002:1)は、現在ではインド・ヨーロッパ祖語の*hxehxtr-「火」に由来すると考えられている。これにより、ラテン語 ater(黒)や、アルバニア語 vatër(定形:vatra)「炉」「暖炉」と同根語となる。アルバニア語のこの語はルーマニア語 vatră「炉」「暖炉」へ借用され、さらにそこからセルボ・クロアチア語 vatra「火」やウクライナ語 vatra「たき火」へと広まった[4][5]。
後期ゾロアスター教では、ātar(中世ペルシア語:𐭠𐭲𐭥𐭥𐭩 ādar または ādur)は、図像学的に火そのものと同一視されており、火は中世ペルシア語では 𐭠𐭲𐭧𐭱 ātaxsh と呼ばれ、ゾロアスター教の主要な象徴の一つだった。
解説[編集]
人間に知恵と安寧をもたらし、世界を邪悪から守護する「勇敢で善き戦士」として崇拝されたという。また、稲妻となり、雨を遅らせようとした悪魔を退治する神話もある。
讃歌『ザムヤード・ヤシュト(Yasht)』においては、光輪(クワルナフ(Khvarenah))を奪い合い、邪竜アジ・ダハーカと戦った。ある時は、アジ・ダハーカは光輪を奪い取るべく罵詈雑言を吐きながらアータルに迫った。アータルは、自分がアジ・ダハーカの体の中に入って口の中で燃え上がり、アジ・ダハーカが地上に来られないように、決して世界を破壊できないようにする、と言った。アジ・ダハーカはアータルのこの言葉に萎縮して退いたという[6][7]。アータルはミスラとしばしば行動を共にしており、二人でアジ・ダハーカと戦うこともあった[6]。
アヴェスターにおいて[編集]
ガーサでは[編集]
最も古代のテキストにおいて、「アータル」は判断が下される手段であり、預言的な熱による試練(アヴェスター語:ガルモ・ヴァラ、熱の試練)を反映している(ボイス 1996年:第6章)。正義はアタルによって執行される(ヤスナ31.3、34.4、36.2、47.2)、燃え盛るアタル(31.19、51.9)、アタルの熱を通して(43.4)、燃え盛って輝く溶けた金属を通して(アヤンガ・クシュシュタ30.7、32.7、51.9)。火の試練を乗り越えた者は、肉体的および精神的な力、知恵、真実、愛とともに平穏を得る(30.7)。しかし、最古の文献におけるアータルへの言及の中で、アフラ・マズダーとは独立して言及されているのは一度だけである。この例外では、アータルは男性三人称単数で言及されている。「彼は手でつかむことで罪人を見抜く」(ヤスナ34.4)。全体として、「火による試練は全部で30種類ほどあったと言われている」(ボイス、2002:1)。
ガーサ以降の文書[編集]
ガーサの中における罪を察知する媒体としてのアータルの役割は、アヴェスターの後期のテキストには直接的に示されていない。しかし、正義によってアングラ・マイニュを焼き尽くし消滅させる寓話として、修正された形で再登場する。「そこでは、アシャ・ヴァヒシュタ(善なる思考)は時折、家庭の炉の火と同一視されている」。そこでは、「物質界と精神界における同一視は、アシャに関するゾロアスター教の教えの主要な教義をより際立たせている」(Dhalla, 1938:170)。それでもなお、熱による試練という古代の制度の痕跡はヴェンディダード4.54-55に存在し、真実に反する発言や約束の神聖さを侵害する行為は鞭打ち刑に処され、「罪を察知する力を持つ、燃え盛る黄金色の水」を飲むことで摘発される。この一節に関するゼンド訳・注釈では、「燃え盛る」を「硫黄と硫黄を含む」と訳し、この「罪を察知する液体」を摂取することで無罪か有罪かが確定したと記している。同様に、デンカードでは、アヴェスター文献の校訂を行ったとされるササン朝時代の高僧アダルバド・マラスパンドが、聖典の正確さの証として、胸に9升分の「燃えない溶融亜鉛」を塗られたとされている。
年代順に見ると、裁きの媒体としてのアータルから、燃え盛る火を司る神アタル・ヤザタへの移行は急激である。古いガーサ・アヴェスター語文献では熱(そして火)が厳しい裁きと関連付けられているのに対し、新しいアヴェスター語文献では、アータルという神は火そのものを完全に体現し、火そのものによって表象されているとされ、暖かさと光、そして成長に不可欠なものと関連付けられている。しかしながら、アシャ・ヴァヒシュタとアータルとの関連は後世にも引き継がれ、両者はしばしば一緒に言及されている(ヤスナ62.3、ニャーシェス5.9など)。守護者としての役割においても同様であり、「悪霊が善なる真理の創造を襲ったとき、善なる思考と火が介入した」(ヤシュト13.77)
It is in the later texts that Atar is personified as "the son" of Ahura Mazda (standard appellation, Yasna 25.7 et al.) and is addressed as "full of glory and full of healing remedies" (Nyash 5.6). In Yasna 17.11, Atar is "master of the house", recalling the role of the hearth fire in the Gathas. The same passage enumerates the "five kinds of fire":
- atar berezi-savah, "the highly beneficent atar", qualified in Zend texts as "the fire that eats food but drinks no water", and the kind of fire that burns in an Atash-Behram, the highest grade of fire temple.
- atar vohu-fryana, "the atar of good affection", cognate with bhaga and friend), later qualified as "the fire diffusing goodness", and "the fire that consumes both water and food".
- atar urvazishta, "the atar of greatest bliss", later qualified as "the fire of happy life", and "the fire that drinks water but eats no food".
- atar vazishta, "the atar most swift", later qualified as the fire in clouds, i.e. lightning, and as "the fire that neither drinks water nor eats food".
- atar spenishta, "the atar most holy",[8] cognate Balto-Slavic šventas "holy") ( described in "Zend" texts as "the fire of prosperity" and as the spiritual fire burning before Ohrmuzd.
The description of the fires in the Sassanid era commentaries (the Zend texts) differs slightly from those described in the Bundahishn ("Original Creation", completed in the 11th or 12th century). In the latter, the description of the first and last kind of fire is reversed.
Adl(アラビア語)[編集]
アラビア語でのアドル(ʿadl、عدل)は「正義」、「公正」、「誠実」などを意味する。なお、定冠詞付きのアル・アドル(Al-ʿAdl、العدل)はアッラーフの99の美名のうちの1つであり、非常にめでたい響きを持つ。そのため、アラビア語圏を含むイスラーム圏の組織名などに使われることがある。アーディル(ʿādil、عادل)と同語源。
参考文献[編集]
- Wikipedia:アータル(最終閲覧日:26-01-16)
- 池上正太, オリエントの神々, 新紀元社, Truth In Fantasy 74, 2006-12, p227, isbn:978-4-7753-0408-2
- カーティス・ヴェスタ・サーコーシュ, 薩摩竜郎訳, ペルシャの神話, 丸善, 丸善ブックス 096, 2002-02, isbn:978-4-621-06096-4
- 草野巧, 幻想動物事典, 新紀元社, ファンタジー事典シリーズ, 1997-05, p4, isbn:978-4-88317-283-2
- ヒネルズ・ジョン・R., 井本英一、奥西峻介訳, ペルシア神話, 青土社, 1993-10, isbn:978-4-7917-5272-0
- Wikipedia:アドル(最終閲覧日:26-01-16)
関連項目[編集]
- アルタイオス:ガリアの軍神。アータルが起源か?
脚注[編集]
- ↑ カーティス,薩摩訳 2002, p. 23.
- ↑ ヒネルズ,井本ら訳 1993, p. 66.
- ↑ ヒネルズ,井本ら訳 1993, p. 65.
- ↑ jstor:40997529, The Prehistory of the Albanian Vowel System: A Preliminary Exploration, Studies in Slavic and General Linguistics, volume32:Evidence and Counter-Evidence: Essays in honour of Frederik Kortlandt. v 1: Balto-Slavic and Indo-European Linguistics, p591–608, Vermeer Willem, 2008, "Romanian also famously borrowed vatër 'hearth' with patently Tosk va- and proceeded to spread it to wherever Vlachs expanded subsequently."
- ↑ https://books.google.com/books?id=tzU3RIV2BWIC&q=atars&pg=PA202, Encyclopedia of Indo-European Culture - James Mallory - Google Boeken, 2012-08-27, isbn:9781884964985, Mallory J. P., Adams Douglas Q., 1997, Taylor & Francis
- ↑ 6.0 6.1 カーティス,薩摩訳 2002, p. 24.
- ↑ ヒネルズ,井本ら訳 1993, pp. 68-69.
- ↑ テンプレート:Citation.