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11,558 バイト追加 、 2026年1月20日 (火)
インド神話において、死して「'''世界の秩序の根本となった'''」とされる原人プルシャはトヴァシュトリのことともされている。彼は神々と敵対的な神とはされていない。またトヴァシュトリにはヴァジュラを作り出すなど、「鍛冶神」のような性質を有していて、これはカフカスのナルト叙事詩のトレプシュに相当する神でもあると思う。カフカスでは伝承により2人の「鍛冶神」がおり、トレプシュの名の場合はインド系、クルダレゴンの場合はイランの鍛冶神カーディに類する名でイラン系の神といえる。インド系・イラン系の両方の鍛冶神が存在して、同じように機能しているのである<ref>よくよくの余談だが、クルダレゴンから「d」音を外してしまったのが、「指輪物語」のアラゴルンだと思っている。彼の場合は、鍛冶神ではなく、ティワズと遠く同語源と言えるアータルやアーサー王をイメージした軍神的存在として描かれる。でも、アラゴルンは最後に自ら「折れた剣」を打ち直して王として立つから、カーディやアータルが、遠くアーサー王と同起源の存在であることをトールキン教授は知っていたのではないか、と個人的には思う。</ref>。
 
=== インド神話の複合性 ===
インドは多民族国家なので、神話も単一的ではなく、いろんな民族の神話が集まって纏められた複合的なものと考える。よって似たような名前の神々が重複する可能性がある。彼らは類似した性質も有しているし、異なる性質も有していて、「同じ神」ともいえるし、「違う神」ともなり得る。ヒッタイト神話になぞらえれば、ヒッティ族のテシュブとフルリ人のタルは中央の神殿では「同じ神」として扱われるけれども、名前が異なるし、地方によって細かい神話の内容に違いがあったことと思われる。
 
話をインド神話に戻し、トヴァシュトリの系図を中心に見ることにする。トヴァシュトリはインド神話の「鍛冶神」ともいえ、婿にヴィヴァスヴァット、孫にヤミー、ヤマ、マヌ(人類の祖)がいる。インドラの父とされることもある。トヴァシュトリ自身がプルシャとされることもある。プルシャの子音を見ていくと「P-S(th)」である。これに近い名はヴィヴァスヴァットあるいはヴリトラである。ヴィヴァスヴァットは神々の側の存在で「不死」といえる。一方、ヴリトラはインドラに退治されてしまう蛇神である。すなわち、トヴァシュトリ周辺に関して、少なくとも「P-S(th)」の子音を持つ神に2種類の系統があることが分かる。これはイラン・インド外でも同様の状態で、壮族の布洛陀、日本の布津主は「不死の存在」といえる。女神としてはエジプト神話のバステト、ワジェト、ギリシア神話のアプロディーテなど。
 
一方、インド神話のプルシャ、ギリシア神話のアプシュルトス(メディアの弟)、エジプト神話のオシリス(wsjr)、ギリシア神話のプロセルピナ、語源的にはやや遠いけれどもギリシア神話のアトラースは「死す神」といえる。「BT」の神は広く2系統に分かれているのだ。
 
そして、中庸的な存在なのがゲルマンの鍛冶神'''ヴェルンド'''である。ヴェルンドは、自らを捕らえた王に対して報復した後、羽をつけて空に飛び去る。一種の変身である。人が鳥と化して飛び去る、というモチーフは「死」の暗喩なのだけれども、神話ではヴェルンドはやがて地上に降り立って新たな人生を生きると想像されるので、そういう意味では「死んではいない」存在である。だから、神話的には「死なないBT」と「死ぬBT」の神の中庸的な存在といえる。だから、「BT」の神は2系統に分かれるけれども、両者は無関係なのではなく、ヴェルンドの神話にあるように関連性があることが分かる。しかし、ともかくトヴァシュトリ関連の神話においては、2系統の「BT」の神が存在している。そして、ヴリトラというのは、「死ぬ神」であり、かつ「BT」の子音を持つので、プルシャに非常に近い存在と考えられる。そして、その母とされるのが女神・'''ダヌ'''である。ヴリトラが倒されて、そこから様々なものが発生した、という神話になれば、ヴリトラとプルシャは「ほぼ同一のもの」といえるのだが、インド神話ではヴリトラとプルシャは別の存在とされる。インド神話では「死ぬBT」の神が二柱いることになり、これはおそらく元は別々の部族の神話だったものが一つの神話にまとまったので、分けられてしまったのだと考える。蛇の姿で倒される神がヴリトラで、バラバラにされ世界の礎になるのがプルシャと区別されるようになってしまったのだろう。
 
=== 二柱の女神とユミル ===
ヴリトラとプルシャのように「似ているけれども二柱いる」女神がいる。こちらも元はそれぞれ別の部族から持ち込まれた女神だったのではないかと思う。それがヤマの妹ヤミーと、インドラと戦うダヌ女神である。「'''北欧神話のユミルはインドのヤマ(そしてイランのジャムシード王)と語源が同じ'''」と言う文言は良く聞く話だし、その通りだと思う。地理的・神話的に近い存在のジャムシード王とヤマは「ほぼ同じ神」と言っても良いかもしれない。でも語源が同じだからといって「ユミル」まで「同じ」としてしまっていいのだろうか。ヤミーとかダヌだって同じ子音だし、アイルランドにもダヌという女神はいるし、ギリシアにはデーメーテール女神がいるし、エジプトにはオシリスの母・ヌト<ref>ヌト女神はおそらくデーメーテールに近い女神で、最初の「D」音が消えてしまった女神と思われる</ref>女神がいる。
{| class="wikitable"
|+ ダヌとヴリトラ(プルシャ)
!
! インド !! アイルランド !! ゲルマン !! ギリシア !! エジプト !! バビロニア
|-
! 母
| '''ダヌ''' || ダヌ || アウズンブラ || デーメーテール || ヌト || '''ティアマト'''
|-
! 子
| ヴリトラ(プルシャ) || ルチャテイン(ダナーンの神) || '''ユミル''' || ペルセポネー || オシリス(wsjr) || バシュム
|-
! 倒す神
| '''インドラ''' || 火矢 || オーディン || ハーデース || セト || '''マルドゥク'''
|}
上の表を見ると、倒される神のほとんどは「BT」の子音である。それに対して、彼らの「母神」の多くは権威ある女神であって、倒されてはいない。例外はインドラと戦うダヌと、マルドゥクと戦うティアマトである。'''倒される「BT」の子音の子神が「蛇神」なのもインドとバビロニアの神話だけ'''である。すなわち、'''マルドゥクとティアマトの神話と、インドラとダヌの神話にはかなり強い相関があり、インドラとダヌの起源はバビロニア神話に近いところにあったのだと推察できる'''。北欧神話の「DN」の子音を持つユミルは、元は「DN」の子音を持つ母女神が倒される話だったものが、子神との混同が起こり、母神の名が息子の名にされてしまうと共に、性別も男性に変更されてしまったものと考える。おそらく、ゲルマンの伝承では、ヴリトラとプルシャもインド神話ほど厳密に2つに分けられておらず、混合習合して「巨人」と考えられていたのだろう。それが母親とされるダヌ女神と入れ替わってしまったのだと思う。よって、'''ユミルの子音からその起源を探るのであれば、ヤマではなくてティアマトに子音の一致を求めるべき'''と考える。
 
タキトゥスの記述を見るに、ゲルマン神話の神々の中でインドラに近い名は「'''ヘルミヌスあるいはヘイムダル'''」だと思うので、ユミルを倒したのは、当初はヘルミヌスやヒュミルに近い名の神だったと考える。カフカス的にはヘミッツがシルドンと争う神話が類話といえよう。しかし、時代が下るとオーディンがゲルマン系神話の主神となったので、ユミルを倒す神はオーディンとされることになったと考える。オーディンの起源はインド神話のヴァーユだと思うので、インドのヴァーユがインドラに近い神だったように、オーディンはヘルミヌスに近い神だとされていたのかもしれないと考える。
== トゥイストー、トヴァシュトリとユミル ==
=== 私的考察 ===
そもそもユミルを「雌雄同体」とする意味が分からない。神話の登場人物なので、男性が子供を産む設定があっても、その特性が当人の性別に影響を与えることにはならないと言い切って良いと考えるからだ。例えば日本神話では、天照大御神と須佐之男が「誓約(うけい)」という通常の人間の男女にはない方法で、それぞれが子供を産むが、だからといって彼らを雌雄同体であると考える日本人がいるだろうか。天照大御神は織り姫で女神だし、須佐之男は自分勝手な男神であると、誰が疑うだろうか。
 
トゥイストーとユミルが「語源的に近い」という問題は、「近い」といえば「近い」し、「違う」といえば「違う」としか言えない。東アジアでいえば、饕餮とムーダンが語源的に近い程度には近いと考える。印欧語において細かな子音の発音が時代や地域によってどう変化するとか、そのようなことは印欧語に疎い私には分からない問題である。(でも、少なくとも神々の語源を探り子音を検討する場合には、英語のrとlの発音の区別が分からなくても問題ないように思う。古代の人は言語学者ではないので、自分の神と余所の神を比べるときに、「その音は言語学的に同じではあり得ない」とかそんなことをいちいち論じたりせずかなり適当にやってたのではないだろうか。)
== トゥイストーとマンヌス ==
比較宗教学者のブルース・リンカーン(Bruce Lincoln)は、ジョルジュ・デュメジルの三機能仮説を援用し、トゥイストーとマンヌスの伝説はインド・ヨーロッパ語族の原創造神話にさかのぼるものだとしている。<ref>Bruce Lincoln, The Indo-European Myth of Creation, ''History of Religions'' 15.2 (1975), pp. 121-45.</ref>
 
=== 私的解説 ===
トゥイストーが「双子のイスト(TT)」という意味であれば、これは「二人の雷神」という意味と考える。この場合の「雷神」は西欧の文化圏なので「太陽神」とか「火神」とか「鍛冶神」に置き換えて考えることも可能だろう。近い神としてはローマのヤヌスの「ヤ」が「2」という意味を示すと考える。マンヌスはその雷神の子孫で、人類の祖なのだし、インドのマヌは「大洪水」を生き延びた神なので、古い起源としては、時代的には「'''二人の雷神を擁する[[河姆渡文化]]'''」あたりにあるのだろう。そこから更に時代が下った中国では、'''「デーヴァ」という男性の神のトーテムが豚から熊に置き換わった'''と思われる。おそらく、「'''豚の神は熊の神に殺され食われたのだから、熊になった'''」とでも言い張ったのではないだろうか。やはり直接の起源的には[[良渚文化]]が疑わしいように思う。そうやって、「熊トーテムの人(王)」とでも言うべき存在となったのが「'''マンヌス'''」だと考える。大洪水を生き延びた苗族の[[チャンヤン]]も名前に2つの「n」が含まれるので、彼も潜在的には'''熊'''なのだろう。
 
また、ケルト世界では「大洪水(水)を操る神」として海神マナナン・マク・リールとされたのではないだろうか。
 
デュメジルの述べる「インド・ヨーロッパ語族の原創造神話」というものがどういうものなのかは知らない。そもそも王権に関する「三機能」が明確な社会組織的に整備されたのは良渚文化あたりであって、更に「軍人階級」の起源は「'''チャンヤンを倒した女神が7人の「物(牛刀を管理する男性の組織)」を定めた'''」とされる古い時代に遡るから、元々印欧語族が考え出したものではないと考える。そのことは考古学的に「父系の王権がいつどこで発生したのか」という研究から証明できるのではないだろうか。もっとも長江文明の先駆的な在り方は最近分かってきたことだから、デュメジルが知ることはなかったのかもしれない。神話学者は、なるべく中国の最新の考古学的研究の成果に常にアンテナを張るべきと考える。最近の学者がデュメジルを元に研究したら、考古学的資料との相違が目立つばかりになって、恥をかくのは研究者自身ということになりかねないのではないだろうか。
== 注 ==
== 参考文献 ==
<!* Wikipedia:[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%82%A5%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%BC トゥイストー](最終閲覧日:26-01-この節には、記事本文の編集時に実際に参考にした書籍等のみを記載して下さい。書籍の宣伝目的の掲載はおやめ下さい。-->20)* {{Cite book |和書 |author=* タキトゥス |others=[[泉井久之助]]訳 |title=, 泉井久之助訳, ゲルマーニア |publisher=[[, 岩波書店]] |series=[[, 岩波文庫]] |date=, 1979-04 |edition=, 改訳版 |, isbn=:978-4-00-334081-3 |, chapter=:2 ゲルマーニアの太古 |, pages=:pp. 29-35 |ref=, タキトゥス,泉井訳 1979 }}* {{Cite book |和書 |last=* Dronke |first=, Ursula Miriam |authorlink=, アーシュラ・ドロンケ |others=[[山室静]]訳 |chapter=, 山室静訳, ゲルマン神話 |title=[[ブリタニカ百科事典|, ブリタニカ国際大百科事典]] |volume=, 6巻 |publisher=[[TBSブリタニカ|, ティビーエス・ブリタニカ]] |year=, 1973 |page=609|id={{, p609, 全国書誌番号|74006376}}、{{NCID|:74006376、NCID:BN01561461}} |ref=ドロンケ,山室訳 1973 }} 
<small>※以下は翻訳元の英語版記事での参考文献であるが、翻訳に際して直接参照していない。</small>
* Jacob, Alexander (2005). ''Ātman: A Reconstruction of the Solar Cosmology of the Indo-Europeans.'' Georg Olms Verlag. ISBN 3-487-12854-3.
== 関連項目 ==
* '''[[アータル]]''':'''ゲルマン民族の起源について、神話からの考察'''
* [[祝融]]
* [[マンヌス]]
** [[マトゥヌス]]:ガリアのケルト系の熊神。マンヌスと類似した性質を持っていたのではないかと考える。
* [[トヴァシュトリ]]

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