「西方の神名について」の版間の差分

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ローマのウェヌス(Venus)。ギリシアのウラノス(Uranus)、ポイニクス(phoenix)。インドのヴァルナ(Varna)、ヴィシュヌ(Viṣṇu)、ブラフマー(Brahmā)、シュメールのブラヌナ(Buranuna(ユーフラテス川のこと))など。水神として現れる傾向がやや多い気がする。
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ローマのウェヌス(Venus)。ギリシアのウラノス(Uranus)、ポイニクス(phoenix)。スラヴのペルーン(Perun)、インドのヴァルナ(Varna)、ヴィシュヌ(Viṣṇu)、ブラフマー(Brahmā)、シュメールのブラヌナ(Buranuna(ユーフラテス川のこと))など。水神として現れる傾向がやや多い気がする。
  
 
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2025年12月25日 (木) 07:38時点における版

図1

はじめに

ここで述べる「西方の神名」とは、主に印欧語系とセム語系の言葉になる。古代の地中海周辺で主に話されていた言語である。話者達は「印欧語とセム語は違うもの」と言うかもしれない。私は言語学の専門家ではなく、むしろ外国語は苦手だ。でもざっくりとした印象では特に古代における神名や昔からあるような基本的な名詞、例えば「水」のような言葉は語源から見ても、印欧語系とセム語系でさほど変わりはないように感じるのだ。古代において地中海周辺の人々は互いに交流し、各地の神々と自分の神を自然に比較して別々に分類したり、習合させたりしていた。だから言語体系によらず、神の名前も似通ってくるのは自然の流れだったと考える。

ヒッタイトの太陽女神

多民族国家であるヒッタイトは最高位の主神に太陽女神を置いていた。彼女の呼称は一つではなく、各民族がそれぞれ自分の太陽女神の名を使用して、それが他の民族の太陽女神とも同じものとして考えていたようである。くさび形文字で太陽神のことをウトゥ(UTU)と書いたが、ヒッタイトではこう書いてこれをイスタヌ、ティワズ、シャマシュ、ウトゥといった各地の太陽神・太陽女神を現す言葉として使用していた。日本では漢字を音読みと訓読みで読むように、くさび形文字で「UTU」と書いても、人によってそれをウトゥではなくイスタヌとかティワズと呼んでいたのだろう。[1]

ヒッタイトの人々、特に高位の人々には自らの太陽女神を直接名で呼ばない習慣があったようである。ヘバトも「アリンナの太陽女神は杉の国(レバノン)でヘバトと呼ばれている。」と言われており、ヒッタイトの人がヒッタイトの神の名としてみなしていたのかというとそうでもなかった。日本人がかぐや姫のことを「かぐや姫」と直接呼ばずに、「中国で嫦娥と呼ばれている女神」と言うようなものである。

接頭辞El-、Al-、En-など

図1にあるように、ウガリットのEl、Al、Il、メソポタミアのE、Er、Enなど神の名に接頭辞としてあ行の言葉がつくことがあった。ギリシア神話のアリアドネー(Ariadne)、アルテミス(Artemis)もその例と考える。これらの神は、まず接頭辞を外した部分が「固有の名」ではないかと考える。アリアドネーは「アドネー」、アルテミスは「テミス」である。アドネーという言葉は、これはこれでアドナイ(Adonai・ヘブライ語で「私の主」を意味する)に類似した言葉と考える。テミスという女神はギリシア神話では別に存在しているが、これもアルテミスと同様「月女神」なので、起源的にアルテミスとテミスは同じ女神なのだろう。この言葉は接尾語として使われる場合もある。

これらの接頭辞の語源は、個人的には中国語の「阿」ではないかと考える。中国では親しみを示す接頭辞である。「阿父」と書いて「父さん」とか「父ちゃん」とかそういう意味になる。

余談ではあるが、上記のように考えるとユーラシア大陸全体では印欧語、セム語を超えて広い範囲の言語で、似通った名前を持つ起源を同じくした神々がいると想像される。多くの人が神々に対して接頭辞で親しみや敬意を示すのに、日本語では「御」くらいが敬意を示す言葉で、これも「オン」とか「ゴ」と読むのだから日本語だけが特殊というか、他の言語とかけ離れている、という印象を受けるのだ。

D-、J-、Y-、(U-)あるいはT-

印欧祖語のディヤウス(dyaus)という言葉は、「父なるデャウス」を意味するデャウシュ・ピター(dyauṣpitā)という言葉でもあり、ヒンドゥー教で「天(dyaus)の父(pita)」という天空神を示している。この名前は英語の「Thunder(雷)」という言葉が示すように「」を示す言葉なのだと考える。Y-という接頭語はJ-という接頭語から濁点を外したものである。ギリシア神話の主神ゼウス(Zeus)もこの群に入れる。

下エジプトの守護神とされる蛇女神は「ウアジェト(Wadjet)」という。この女神の名には「雷」を示す子音が二つ入っている。このように「D-」系の子音は接頭語以外でも使用された。特に古代エジプトでは女神の名として、接頭語ではなく接尾語として高頻度で使用された。ウアジェトだけでなく、ネクベト、メヒト、タウエレト等々である。

「J-」という接頭語は主にローマの神にみられる。ローマのユーピテル(Jupiter)、ユーノー(Juno)とエトルリアのユニ(Uni)は同じ女神と考えられているので「J-」から清音の「Y-」に変化し、更にア行の母音のみの音に変化した例もあるかもしれない。

「T-」にはヒッタイト神話のテシュブ(Teshub)や、北欧神話のトール(Tor)がある。いずれも高位の雷神で、学術的にもゼウス(Zeus)、ユーピテル(Jupiter)と同起源の言葉と正式に考えられている。ルウィの太陽神ティワズ(Tiwaz)は雷神ではないが、語源を同じくすると考えられている。いわゆる「火雷神」と言い得る性質を持っていたのかもしれない。

ヒッタイトの太陽神の一柱であるシワット(Šiwat)もティワズと同語源と考えられているルウィの神である。「T-」音が薄れて「S-」音になっている。この「S-」音が外れてしまえばワット(Wat)となりウアジェト(Wadjet)、ウトゥ(Utu)に近い名になる。インド神話のシヴァ(Shiva)はシワットに類する神名なのではないだろうか。シヴァには荒れる天候神(雷神を含む)という性質が含まれ、やはりかつては「火雷神」だったかもしれないと思う。

日本では阿遅鉏高日子根(アスキタカヒコネ)、伊豆能売(イノメ)、神阿多都比売(カムアツヒメ(木花之佐久夜毘売の本名))の名にこの子音がみられる。古い時代の神々と見えて、中国式に「阿」「伊」といった親しみを示す接頭語がついている例がある。阿遅鉏高日子根は雷神としての性質も持つ。日本では「火山の神」としての性質も強いように感じる。雷も火山も大きな音を立てて光と熱を発するからであろうか。「伊豆」という地名も関連する言葉であろう。伊豆は火山の多いところである。

TT、DD

「TT」と「T」の子音が二つ重なる場合は、「T」の音や意味を強調していると考える。後述するが「M」は「N」が二つ重なったもの、「W」は「V」が二つ重なったものと思われ似た子音なのだけれども、意味が強調されていると思われる。「D」が二つ重なる場合も同様だろう。

「TT」となる名前はケルトのテウタテス(Teutates)、ギリシアのティターン(Titan)。「DD」はギリシアのダイダロス(Daidalos)など。

語源は中国の「饕餮」だと考える。この子音を持つ神は「T」音が「雷」という意味を持つにもかかわらず、雷神の性質が強調されるのではなくて、むしろ雷神としては曖昧な性質の神となっているように思う。

B-、P-、W-、V-、F-、H-、O-あるいはU-

「B-」「P-」について。「P-」は濁音の「B-」を半濁音に変更したもの。神の名を示す言葉に「ベール(Bel)」という。これは荒れる天候神のエンリルや、太陽神マルドゥクの添え名である。他にもカナンの天候神バアル(Baal)、シュメールの太陽神バッバル(Bahbar)、ギリシア神話のプロセルピナ(Proserpina)、ポリュデウケース(ラテン語: Pollux)がある。接頭語を離れた例は、ヒッタイトの太陽女神ヘバト(Hebat)、アナトリアのキュベレー(Cybele)、古代メソポタミアの伝説的女王ク・バウ(Ku-Bau)など。ギリシア神話のアプロディーテー(Aphrodite)など。英語の「beauty(美)」、「burn(火が燃える、輝く)」などの言葉と関連があると考える。

「W-」「V-」は「B-」が変化したもの。ウェヌス(Venus)、ウェスタ (Vesta) など。ウェヌスは英語読みで「ヴィーナス (Venus)」となるし、日本人はこれを「ビーナス」と呼ぶので、特に日本語においては、「W-」、「V-」、「B-」の音はほぼ全てが「ば行」の濁音で現されて区別がつきにくい。

「O-」「U-」は「B-」音の濁音が清音化したもの。ギリシアのコレー(Kore)、ゲルマンのコルンムーメ(独:Kornmöhme)など。ローマのケレース(Ceres)はコレーが変化したものか。

一部は清音のF-、H-に変化している。ギリシアのヘスティア(Hestia)など。

BN

ローマのウェヌス(Venus)。ギリシアのウラノス(Uranus)、ポイニクス(phoenix)。スラヴのペルーン(Perun)、インドのヴァルナ(Varna)、ヴィシュヌ(Viṣṇu)、ブラフマー(Brahmā)、シュメールのブラヌナ(Buranuna(ユーフラテス川のこと))など。水神として現れる傾向がやや多い気がする。

BT

ローマのウェスタ (Vesta)。カフカスのバトラズ(Batraz)、ワステルジュ(Wastyrdzhi)。ケルトのブリギッド(Brigit)。インドのヴァーユ(Vayu)、北欧のオーディン(Odin)、フレイア(Freyja)など。風神として現されることが多いが、そうでない場合もある。

K-、C-、S-、H-、(I-、E-)など

K-、S-、H-の子音は、特に接頭語となった場合、互いに交通性がある場合がある。エジプトのクヌム(Khnum)、ギリシアのヘルメース(Hermes)、インドのハヌマーン(Hanuman)など。これらの子音が省略されると母音のみになる。フランス語では「H」の音を発音しないので「Hermes」と書いて「エルメス」と呼ぶように。I-、E-は「Il-」系の接頭語が縮まった場合の他、K-、S-、H-が省略された場合があると考える。

KM

エジプトのクヌム(Khnum)、ギリシアのヘルメース(Hermes)、インドのハヌマーン(Hanuman)の他、ギリシアのクロノス(Cronus)、ヒッタイトのクマルビ(Kumarbi)など。

ST

エジプト神話のセト(Set)、トーマのサートゥルヌス(Saturnus)、カフカスのサタナ(Satana)など。

Estanという言葉について

英語版のwikipediaで、Estanという言葉を検索すると「-stan」というページが開かれる。「stan」とはペルシャ語で、「場所」や「国」を示す言葉で、その語源はインド・ヨーロッパ祖語に遡り、英語で「to stand」という意味なのだと記載されている。[2]この言葉は中央アジアの多くの国の名前として、現在でも残されている(パキスタン、タジキスタン等)。

このようにみると、「Estan」とは、「Eの土地」という意味となるのだが、では「E」とは何を意味するのかということになる。



4.母音で表記される群

2-2)Nin-

メソポタミア神話の特徴としては、女神にNin-がつくものが多い(ニンフルサグ(Nin-hursag)、ニンマー(Nin-mah)等)。ただし、これは必ずしも絶対と言うことではなさそうである。例えば、ニヌルタ(Ninurta)という男性神も存在する[3]。「NIN」を示す楔形文字は以下の通りである。

神の名として使用する「NIN」という言葉は、上図の左2文字の楔形文字で現される。そのまま読むと「SAL+TUG2」ということになり、「NIN」とは似ても似つかない読み方になるため、なぜこれを「NIN」と読むのかについて考察してみたい。一番左側の文字は「SAL」と読むため、ヒエログリフにおける「sh」という言葉と似た意味合いを持つと考えられる。ヒエログリフにおける「sh」とは、「池」を意味し、四角形の形で現される。これは境界が一定な「太陽」を意味する言葉と思われる。
一方、ヒエログリフには「月の形が一定でないこと」から由来したと考えられる「境界の曖昧な池」を示すものも存在し、エジプトではこちらは「n」と呼ぶようである。すなわち、「月」を意味する。そうすると、一番左側の楔形文字は、「池」を意味する「S」の子音を使用していても、形が三角形であり「月を意味する池」となりそうである。そうすると、「N」という意味も含むため、神の名としたときに「N」と発音するのだと思われる。
その右隣の楔型文字は、「TUG」と読む。「TUG2」と書くのは他にも「TUG」と読む楔形文字が存在するため、区別をつけるためだと思われる。「T」という子音は「月」を意味するため、意味が同じという点でこの楔形文字は「N」とも読み得ると感じる。そのため、「神の名」として2つ並べる場合には「NIN」と読み、その意味は「月」+「月」ということになるのであろう。

楔形文字の読み方について軽く説明しておくこととする。例えば「TUG2」の楔形文字は「G」と読む楔形文字と「T」と読み得る楔形文字から構成されている。要するに、この2文字を併せて「TUG」と読むのである。こうして見ていくと、「TUG2」という文字の中で、真に「月」を意味する言葉は横に2本線の楔形文字で現される「TAB」ということになる、ということが分かる。楔形文字は、このように2文字を併せて、繋げて読む場合もあるし、どちらかのみしか読まない場合もあるのである。また、文字を左側から読む場合もあるが、右側から読む場合もあり、読む方向は一定ではない。
2文字を組み合わせて片方の音でしか読まない点は、例えば漢字の「囲」と「井」がどちらも「い」と読むような点と類似しているといえる。

5.その他、Hat-等

エジプトにはHat-が付く神が複数みられる。例えばホルスの妻ハトホル(Hat-hor)である。ハト(Ha-t-)という言葉は前半の「ハ(Ha)」が「太陽」、後半の「ト(t)」が「月」を示す言葉であるので、「太陽」と「月」の双方の意味を持つ接頭辞といえる。これらの神々が現実のどちらの性質を持つのか、ということは、この後に続く名前等によるのではないだろうか。

エスタンについての考察

ヒッタイトとは、紀元前15世紀頃に、アナトリア半島(現在のトルコ)に存在した国であり、多民族国家であった。この国は太陽女神を最高神としていたが、他民族国家であるため、人々は自らの神の名でこの女神のことを呼んでいた。そのため、この女神を指す名は非常に多いのである。また、近年に至るまで男性神と考えられていたことから、研究者レベルではともかくとして、一般的には欧米でもその事実がまだ広く知られていないようである。この神の名を、これまでの考察から調べてみたい。ヒッタイトの主要民族であるヒッティ族(ヒッタイト人)は、この女神のことをアリニッティと呼んでおり、神を祀る神殿のある都市をアリンナといった。この女神の名の属性を調べてみると、以下のようになる。

ヒッタイト他の太陽女神の名
ヒッティ族 アリニッティ(Arinniti) 「太陽(A)」+「太陽(r)」+「月(nni)」+「月(ti)」
ヒッティ族・ハッティ族 イスタヌ(Istanu) 「太陽(I)」+「太陽(s)」+「月(ta)」+「月(nu)」
ハッティ族 エスタン(Estan) 「太陽(E)」+「太陽(s)」+「月(ta)」+「月(n)」
E-stanとして「Eの土地」とすれば、「太陽の土地」という意味になる
フルリ人 ヘバト(Hebat)、ケバ(Kheba)、ケパト(Khepat) 「太陽(He)」+「太陽(ba)」+「月(t)」
ルウィ語 ティワズ(Tiwaz)、ティヤズ(Tijaz) 「月(Ti)」+「月(wa)」+「太陽(z)」
以下比較参考
フリギア(トルコの一地方)の地母神 キュベレー(Cybele) 「太陽(Cy)」+「太陽(be)」+「太陽(le)」
ギリシア神話の最高女神 ヘーラー(Hera) 「太陽(He)」+「太陽(ra)」
ギリシア神話の古い地母神 ガイア(Gaia) 「太陽(Ga)」+「太陽(i)」+「太陽(a)」
ローマ神話の最高女神 ユーノー(Juno) 「月(Ju)」+「月(no)」
ミタンニの太陽神 ミトラ(Mitra) 「月(Mi)」+「月(t)」+「太陽(ra)」
ミタンニの契約神 ヴァルナ(Varuna) 「月(Va)」+「太陽(ru)」+「月(na)」
旧約の神 ヤハウェ(YahwehあるいはJHVH) 「太陽(Ya)」+「太陽(h)」+「月(we)」+「太陽(h)」

ユーノー(Juno)とヤハウェ(YHWHあるいはJHVH)は、子音として発音しない「J」を有しているようである。これは書き言葉では「J」と現され、「月」であることを示すが、話し言葉では「y」と発音され「i」に連なる音として「太陽」であることを示すこととなる。この発音しない「J」を中庸的に「太陽」+「月」と解釈すれば、ユーノー女神の属性に「太陽」の傾向がやや混じり、一方ヤハウェに対しては「月」の傾向がやや強まる名と成り得るであろう。
上記の表を見て分かることだが、アナトリアで新石器時代より信仰されていたと考えられているキュベレーや、ギリシア神話における古い地母神であるガイアといった、古い時代の女神達の名は、彼らが直接太陽神としてみなされていなくても「太陽」の属性が非常に強いものとなっている。古代の地中海周辺世界には、「太陽は大地から生まれる、故に太陽と大地は同じものである」という思想があったようである。時代が下って様々な新興民族が勃興してくるようになると、「王権の象徴」としても使われる太陽神は新しい民族の神に入れ替わってしまい、古き太陽女神達は「豊穣をもたらす地母神」としての性質のみが強く残されることとなったのではないだろうか。
紀元前15世紀に存在したヒッタイトにおいて存在した太陽神の様々な名のほとんどは、「月」としての属性も有し、「月」の名を持つ太陽神が好戦的な性質を持つように、古い時代の女神達よりも好戦的な神々として考えられていたのではないかと思う。その名における「太陽」と「月」の割合は、2:1あるいは1:1であった。
古代インドと共通の神々を持つヒッタイトの隣国ミタンニに目を向けると、ミトラやヴァルナといった神々の名は「太陽」と「月」の割合が2:1であることが分かる。ミタンニの支配階級である「戦士階級」は自らのことを「maryannu」と呼んでおり、これは子音で見ると「月(ma)」+「太陽(r)」+「太陽と月(y)」+「太陽(a)」+「月(n)」+「月(nu)」となって、3:4で「月」の属性が強い言葉であることが分かる。これらのことから、インド系の印欧語族に近い人々であったであろうと想像されているミタンニの支配階級は「好戦的な月太陽信仰」が強く、おそらく好戦的な人々であったであろうことが推察される。
どうやら時代が下って戦乱の多い時代に入ると、好戦的な神々が台頭し、かつての豊穣の太陽地母神達は主に「大地の神」とみなされるようになり、「月」の属性を持つ「太陽地母神」へ最高神の地位を譲るようになったようである。このように、神の名に「月」と「太陽」の意味を持つ言葉をさまざまに配合して名と意味をつけることが古代世界で行われており、その直接の発祥はエジプトのネクベト女神、メソポタミアのベル神にみられるように、古代エジプトとメソポタミア文明の両方にまたがる文化にあるようである。その中で、「太陽」と「月」の子音の割合が2:1である「ヘバト」という名を持つ女神は「太陽」を意味する割合がその名の中に多い方であり、当時としては比較的温厚な女神とみなされていたのではないだろうか。
古代エジプトの第18王朝と第19王朝の狭間の時代(紀元前1300年前後)にエジプトを出て以来、独特の宗教文化を育んできた古代ユダヤ人の神はヤハウェ(YHVH)である。書き言葉におけるこの神の名は4文字の子音で現され、実際に何と発音したのかは定かではない。しかし、古代の神々の名をみれば明かなように、彼らの名のとって大切なのは常に「子音」であった。それを知れば、その神がどのような「配合」から誕生した神であるのか、どの程度好戦的な神であるのか、つまり、それを信仰する人々がどの程度「好戦的」であるのかが分かるのである。ヤハウェの名には少なく見積もっても5:3、多くみれば3:1の割合で「太陽」を示す子音が含まれており、ヘバト女神以上に温厚な性質を持つ神であったことが示唆される。人間の子供を犠牲に捧げることを禁じ、周辺地域に住む「月」の割合が高い「好戦的な太陽神」を信仰する人々を非難し続けた古代ユダヤ人の行動は「神と人とはYHVHの名のように温厚であるべきである」という信念から生まれたものであることが分かる。ただし、当時の政治状況から考えて、神の名から「月」の要素を完全に取り去ることは危険であると判断されたのであろう。そして「好戦的な太陽神」に繋がる「王権」というものを彼らが非常に警戒し、紀元前10世紀に至るまで「王」というものを持たなかったこともまた、彼らの信念の現れであったのであろう。
だが、その信念を維持し続けることがいかに厳しいものであったのかということは、彼らの苦難の歴史をみれば明かであるように思う。彼らを常に迫害し続けた人々は、キアンやトール、あるいはオーディンといった「月」の名を持つ神々を信奉していた人々の末裔であり、そのような人々は常に自らの行動を正当化するための強引な理論を用意していた。曰、彼らの神は、月の名を持つ「ネルガル(偉大なる月、という意味)」と同じ神であり、死に神であり、それを「神」と認めない者は人間として扱わず殺しても構わない存在なのだから、殺して当然なのである、ということである。月の名を持つ「ローマ(Roma)」で発達したこの恐ろしき一神教は、このような論理でユダヤ人迫害の歴史だけでなく、十字軍も植民地支配も当然のように「正当化」してきた歴史があるのではないだろうか。このような論理がまかり通る社会で、穏やかさと温厚さを信念を持って選ぶことは、確かに非常に「厳しい生き方」を敢えて選ぶことにも通じるのではないかと、そう思わざるを得ないのである。

考察に関する問題点

本項には、一般的に述べられている説と私の持論との間の相違が激しい部分があるため、その点を挙げておく。

エスタンの性別について

ファイル:Yazilikaya reliefs 42 43.JPG
テシュブとヘバト – ヤズルカヤ遺跡のレリーフ
画面右側のスカートを履いている人物がヘバト女神である。
この写真では明かでないが、ヘバト女神の後ろには
息子神のシャッルマの像が刻まれている。
(ポーランド語版wikipediaより)
ファイル:YazilikayaTexier.jpg
壁画全体の構図
(ハンガリー語版wikipediaより)

欧米のサイトでは、Wikipediaを初めとしてこの女神を「God(すなわち「男性神」)」として記載しているものが多数みられるため、その点について思うことを少々書いておく。

古代ヒッタイトにはアリンナという都市が存在し、そこに太陽女神が存在するのだが、その女神が神としては1柱であり、複数の呼称を持っていると言うことは、学術論文のレベルでは明かになっているようであるが、一般のサイトで認知されるまでには知識が普及していないように感じる。欧米のサイトでは

  • Hebatのみが太陽女神である
  • HebatとEstanのみが太陽女神である

という記述が目立つようである。

個人的には、太陽女神であるヘバト(Hebat)の名をつけた皇妃が存在すること。この名から派生した名を持つ神と思われるケルト神話におけるエスニウ(Ethniu)も女神であること。また、「エスター(Esther)」は欧米では女性名であること等は、アリンナの太陽神が女神であることの状況証拠と成り得るであろうと考える。

イスタヌ(Istunu)については、司法神も兼ねているとのことであるが、ギリシア神話のテミス、ローマ神話のユースティティアがいずれも女神であるのだから、女神であってはならないという理由が存在しないと考える。

関連項目

参照

  1. ヒッタイトにおける太陽神として、最高神であるヘバト女神が知られている。イスタヌはかつて、ヒッタイトにおける男性の太陽神であると考えられていたようだが、近年ではヘバト女神と同じもの(すなわち女神)であることが知られるようになっている。英語版wikipediaでは未だに「He」という言葉を使い、男性神として扱っているが、本サイトでは女神として扱う。「シュメールの太陽神ウツ(UTU)はボアズキョイ文書に頻繁に登場するだけでなく、複数の名を持っている。ハッティ族のエスタン、ヒッタイト人のイスタヌ、ルウィ人のティワト、アナトリア語のティヤト、フルリ人のシメギ、アッカド語のシャマス、シュメール語のウツである。...エスタンはハッティ族から女神として信仰され、通称は『女王』であった。」(Reallexikonder Assyriologyより)
  2. 日本語で一番理解しやすい使用例としては、「ガソリンスタンド」とか「野球場のスタンド(観覧席)」なのではないだろうか。
  3. ただし、この神は本来女神であった可能性も否定はできない。

参考リンク

  • Wikipedia
ヒッタイト・ミタンニ メソポタミア・ウガリット ローマ・ギリシャ ヨーロッパ・エジプト ペルシャ・インド他 その他
ヒッタイト
ボアズキョイ
ヤズルカヤ
ハットゥシャ(写真)
ハッティ
フルリ人
フルリ語
ルウィ語
スタン
ヘバト
ヘバト(写真)
イスタヌ
テシュブ
シャッルマ
ミタンニ
ミスラ
ヤズルカヤ
ヴァルナ



メソポタミア
シュメール
アッカド語
シュメール語
エンキ
エンリル
ニンリル
エラ
イシュタル
イナンナ
ナンナ
ニンフルサグ
ニンガル
ウツ
ウガリット
エール
タニト
アナト
太陽翼
ベル
楔形文字
ローマ神話
デウス
ユーピテル
マグナ・マーテル
ユーノー
ユースティティア
ギリシア神話
ゼウス
テミス
ポセイドーン
ハーデース
オーケアノス
ウーラノス








北欧神話
ヴァルハラ
トール
ユグドラシル
フレースヴェルグ
ケルト神話
エスニウ
エジプト
ハトホル
ホルス
クヌム
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ウアジェト
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