'''塗山氏女'''(とざんしのむすめ)は、夏の[[禹]]の妃で、[[啓]]の母。名は女嬌(Nǚjiāo (ヌゥー・ジャオ) )<ref>『史記索隠』夏本紀所引『系本』</ref>、女趫<ref>『漢書』古今人表</ref>、女憍<ref>『大戴礼記』帝繋</ref>ともいう。ともいう。「美しい女」という意味の名である。
塗山氏の長女<ref name="retsujoden">『列女伝』母儀伝</ref>として生まれた。塗山は寿春の東北にあった国という<ref>『史記索隠』夏本紀</ref>。[[禹]]は辛の日に塗山氏をめとったが、4日後の甲の日には黄河の治水のために家を出てしまい、帰ってこなくなった。[[啓]]が生まれても、[[禹]]は子育てに協力しようとしなかった<ref>『史記』夏本紀</ref>。塗山氏はひとりで家の留守を預かり、[[啓]]を教育した<ref name="retsujoden"/>。
== 私的解説 ==
『世本』に「塗山氏、名は[[塗山氏女女媧]]は夫である」とある。また、『準南氏』に「女媧が蘆灰を積んで淫水を止めた」という話があり、古来女媧は禹の治水を助けたと伝えられている。よって、聞一多は[[禹]]の変身した姿である熊を見て逃げ出してしまう。要は彼女は「[[逃走女神女媧]]」の一種であって、逃げ出した後に石と化す('''死'''の暗喩)ところは、月に逃げてヒキガエルと化してしまうは塗山氏女であると述べている。上代中国語で「[[嫦娥日]]と、神話的に結果が「'''死」のことを/*nit/(ニット)と読んだようである。日本語で「ニチ」と読み、ベトナム語では太陽のことをmặt trời(マットゥロイ)と呼ぶ。いずれも'''」を意味する、という点で「塗山氏女の名'''同じ女神'''」といえる。ただし、塗山氏女は「普通の女性」的に描かれていて、[[嫦娥]]のような[[西王母]]的な性質には乏しい。また蛇身人頭の女神でもないので[[女媧]]的とも言いがたい。そのくらい「女神」としてはかなり地位が低下して崩れた存在である、といえる。から派生した言葉と考える。
「MT」の子音を持って、[[塗山氏女]]の夫である[[禹]]は統治(治水)に成功した[[黄帝]]になぞらえられている面があり、[[嫦娥]]の夫である[[羿]]は弓の名手であって、やはり[[黄帝]]になぞらえられている面がある。[[黄帝]]に実在の人物としてのモデルが存在したとすれば、その人物は「'''妻とはあまりうまくいっていなかった'''」と推察される状況である。から派生したと考えられる女神群は、中国本土よりも周辺の沿海部、北は朝鮮・日本、南はインドネシア、ニューギニア、南太平洋まで広く「母神」として信仰されていたと思われる。国際的には女媧よりも重要な女神群と考える。遠くエジプトのヌト女神、セクメト、テフヌトといった獅子女神たちも広く同類であろう。
女神が石に変じる、という点は「死の暗喩」であると考える。塗山氏女が夫に追いかけられている点は、「物めぐり婚」の変形であろう。禹と塗山氏女が兄妹であるとはされていないが、「'''準兄妹始祖婚'''」といえる神話だと考える。そして'''禹の名前も伏羲から派生した名ではないだろうか'''。禹は「毒蛇」という意味であるし、蛇神という性質も伏羲と一致する。
ただ、獣(熊)と化した夫の姿を見てしまったことが、夫婦の決別と塗山氏女の死に繋がるので、これは「見るな」の[[禁忌]]を伴う[[プシューケー]]型神話・伝承の起源の一つに繋がると考えられる。また、異形の夫との関わりの中でやはり「見るな」の禁忌が関わってくる「[[青ひげ]]型神話・伝承」の起源にも繋がる可能性がある。 また、塗山氏女の夫の[[禹]]は熊に変身して治水を行った、とされているが、本来「熊」をトーテムにしていたのは塗山氏女の方だったのではないだろうか。そうだとすれば、塗山氏女は[[檀君神話]]の熊女と連続性がある女神といえることになると考える。塗山氏女は古くは太陽女神であったのだろう。
== 参考文献 ==
== 関連項目 ==
=== 派生したと思われる神話・伝承 ===
* '''[[プシューケー媽祖]]'''(Māzǔ、マーツー):道教の女神。海で溺れ死んだともと言われる。* [[青ひげ松浦佐用姫]]:九州北部の海上交通安全の女神。* [[蛇頭松姫大神]]:丹後半島の蛇婿譚の女神。夫を差し置いて祟る女神。* [[鬼神のお松]]:古代の松姫は東国へ移動し、時代が下るほど俗信化する。後ろ暗いところのある男性は背後に注意しなければならない、という教訓譚的な話か。
* [[巫山神女]]
* [[メリュジーヌ]]:西欧では蛇婿譚よりも蛇嫁譚が有名か。
* メドゥーサ:メドゥーサは蛇女神なので、女媧に通じる女神と考える。ペルセウスという英雄に倒される。ペルセウスの名は伏羲に類する名前と考える。
* ネイト:古代エジプトの女神
=== 同じと思われる女神 ===
* '''[[嫦娥女媧]]''':他彼女に類する女神群。** [[洛嬪]]* [[柳花夫人]]* ムルア・サテネ:ヴェマーレ族の族長的な女神。「ムルア」は女媧女神の名と一致すると考えて良いかと思う。サテネの方は、台湾の伝承ではパイワン族の伝説的な女頭目・女戦士としてサラアツという女神が登場する。蛇をごちそうとして食べる<ref>神々の物語、台湾原住民文学選5、神村徹編、草風館、2006年8月1日出版、p407-408</ref>。アミ族の神話にはタバタプという「石と化す」女神がいて、おそらく元はサラアツと同じ女神と推察する<ref>神々の物語、台湾原住民文学選5、神村徹編、草風館、2006年8月1日出版、p62-66</ref>。台湾、すなわち馬家浜文化の段階で、この女神は祖神であるモアトコ・モアカイ、女首長であるサラアツ、石と化すタバタプの3系統の名を持っていたことが分かる。その後、中国では、「石と化す」性質がモアトコ(塗山氏女)に纏められてしまったのだろう。日本ではモアトコはいわゆる「松姫」系の女神、サラアツは「アジ」という雷神を示す接頭語、タバタプは須勢理姫に変化したと考える。例えば[[伊邪那美命]]:子供の出生に関して死する女神であるところが一致している。は「サラアツ+ムルア」という名前で、パイワン系の氏族の中で「女首長女媧」とかそういう意味で使われていたのではないかと思う。須勢理姫の方はアミ族系の女神の名だと考える。** [[天照大御神]]'''モアトコ''':台湾パイワン族の神話に登場する女神。娘に'''モアカイ'''という中国神話の混沌のような女神がいる。サプルガンという男と結婚する。サプルガンの名は伏羲に類する名前と考える。娘の方は、中国神話における女媧に相当する女神と考える<ref>神々の物語、台湾原住民文学選5、神村徹編、草風館、2006年8月1日出版、p291-293</ref>。
=== その他 ===
* [[禁忌グミヤー]]:グミヤーの世界創造は女媧の天地修復と似ているように思う。
== 脚注 ==
{{DEFAULTSORT:とさんし}}
[[Category:中国神話]]
[[Category:吊された女神]]
[[Category:逃走女神]]
[[Category:準兄妹始祖婚|*]]