第二話 怪物の出る水車場
2019/06/19

第二話 怪物の出る水車場
むかし、ある小滝の傍に水車場があった。その水車場にはニッセという小人がいた。この水車場の持ち主はけちで、皆がやるように、小麦がよく挽けるように、クリスマスにニッセへポリッジ(粥)とエール(麦酒)をやらなかった。おかげで、持主が水車に水を流すと、このニッセが車の心棒を止めて、動かなくするので、一粒の小麦も挽くことができなかった。
水車の持主は、これはみんなニッセの仕業なのだということをよく知っていた。ある晩、主人は水車場にでかけて、松脂とタールを鍋に入れ、火にかけた。水車に水を流すと、少しの間は回るのだが、すぐにぱったりと停まってしまった。主人は、車を回そうして、心棒を拗(ねじ)ったり、上の方を肩で押してみたりした。けれども、なんの効果もなかった。そうしているうちに、松脂とタールの鍋は熱く煮え立ってきた。主人は水車のあるところに降りて行く梯子の上の揚げ蓋を開けた。すると、思った通りニッセが梯子の段の上に立って、顎を大きく開けていた。揚げ蓋がすっぽりと口に入るくらい、大きな口を開けていたのだ。
「こんな大きな口を見たことがあるか。」とニッセは言った。
主人は、松脂とタールが煮えている鍋を、さっと取り上げると、松脂もなにもかも、ニッセの開いた口に投げ込んだ。そして、
「こんな熱い松脂に触ったことがあるか。」と、怒鳴った。
すると、ニッセは水車を放し、恐しく叫び、喚いた。
それから後は、水車場の水車が停まることはなくなった。小麦は何の差し障りもなく、簡単に挽けるようになった。
解説と註
怪物退治説話、怪物といっても一つ目小僧のような滑稽味もあり、座敷わらしや風の又三郎に似たところもある。ノルウェー神話には小人が多く出て来る。ちび魔(ニッセ) 一歳ぐらいの幼児の大きさで、老人の容貌を具えている小さい魔物。衣服は普通には灰色で、尖った赤いキャップを被り、ミケルマス祭日には農民の被るような円い帽子を被る。このちび魔の住む農家は繁昌すると言い伝える。悪戯をするが、台所や厩舎を一夜のうちに掃除したり、馬の手入れをしたり、真面目な手助けとなることもするという。
ニッセについて
トムテ(スウェーデン語Tomtar、英語Tomte、ノルウェーとデンマークでは ニッセ(nisse)、フィンランドではトントゥ(tonttu)と呼ばれる)は、北欧の民間伝承に登場する妖精である。小さな子供くらいの大きさで赤い帽子をかぶり、農家の守護神とされている。優しい性格で農家に繁栄をもたらすが、一方で気難しく、大事に扱われなければその家や捨て去ってしまう。また、いたずらをされた場合には仕返しをする。北欧圏では、クリスマス(ユール)にはトムテに粥(ポリッジ)を供える習慣がある。解説にはミケルマスとの関連が書かれているが、民話にもあるように、クリスマスと関連のある妖精のようである。
(Wikipedia「トムテ」より)
ミケルマス祭について
カトリック教会ではミカエルはガブリエル、ラファエルとともに9月29日が祝日になっており、これをミケルマス祭(聖ミカエル祭、Michaelmas)と呼んだ。カトリック以前からの古い祭礼であるらしい。参考:ミケル祭の聖者
原文:002_nisse.pdf