'''サイ'''(犀)は、奇蹄目'''サイ科'''(サイか、Rhinocerotidae)に分類される構成種の総称。
== サイの文化 ==
サイは古代から人類と関係を持っていたと考えられている。現存する人類最古の絵画であるフランスのショーヴェ洞窟壁画にもサイ(絶滅したケブカサイと考えられているは描かれており、これは1〜3万年前のものである。
ビルマ、インド、マレーシアでは、サイが火を潰すとする伝説がある。神話のサイは badak api (マレー語) の名称で呼ばれ、badakは犀、apiは火を意味する。森林の中で火が燃え広がるとサイが現れ、それを踏み消すとされる<ref name="Rhino fire legends">http://www.sosrhino.org/knowledge/faq.php |title=Rhinoceros Frequently Asked Questions , Sosrhino.org , 2010-09-23</ref>。
日本や中国<ref>《国語・越語上》:“今 夫差 衣水犀之甲者億有三千。” 韋昭 注:“犀形似豕而大。今徼外所送,有山犀、水犀。”</ref>では、水犀(みずさい)と呼ばれる動物が絵画などに見られる。頭には角、背中に甲羅、足には蹄を持つとされる。
=== 水犀 ===
'''水犀'''(すいさい、みずさい)とは、幻獣の一種であり、別名通天犀(つうてんさい)とも呼ばれる。
==== 概要 ====
その姿は体は馬、牛の四肢と尻尾を持ち、背中には亀の甲羅があり、額に巨大な角を持っている。その角には高い妖力があり、水を張った容器に入れたら水が真っ二つに別れる、その角で火を起こせば数千里離れた場所からでも見える程に輝く炎が立つ、その角で杯を作れば毒酒でも毒を浄化できるなどの言い伝えがある。
==== モデル ====
実在するインドサイが口伝する中で、誤った知識の元美術的に装飾されてできたとする説がある。上記の水犀の口伝からアジアに分布するサイが角を目当てに乱獲された。
=== 犀龍 ===
長野県安曇野市安曇野から長野市信州新町の犀川流域にかけて、「小泉小太郎」という若者が母親の龍神(諏訪の神の化身といわれる)と犀川流域を開拓したという伝承がある。母の名を'''犀龍'''といい、川の名を犀川という。これは中国・プーラン族の[[グミヤー]]の天地創造神話の類話であって、『グミヤーが、「リ」という名の巨大な獣(サイに似ている)を殺して、まず皮をはいで天を創った。』という部分に対応するモチーフと考える。上田地域(千曲川流域か?)には「泉小太郎」という若者が養母を薪で殺した、という伝承があり、この養母が「犀(リー)」に相当するのだろう。
=== 李氷の揚子江治水 ===
漢代『蜀王本紀』に、「江水が水害になった。蜀守李氷は'''石犀'''を五つ作って、水精を制圧した」とある。「石」というものは神話的に「死んだもの」を暗喩する表現である。犀龍のように「水神」となった女神も「吊された女神」であって死者であることを暗喩する。これも「グミヤーの天地創造」、「小泉小太郎」の類話と考える。千曲市では、水害ではなく、干魃のさいに、石臼を水に沈めたそうである。これは石臼の女神が「犀の神」でもあり、この場合は「火」の性質が強くて干魃が起きると考えられて、それを水の力で鎮めようとしたものであろうか。
下諏訪には「火の雨」が降った際に、ババ穴、ジジ穴といわれる'''石'''造りの古墳に逃げ込んだ人々だけが助かった、という伝承がある<ref>[https://suwaarea-examine.com/rain_of_fire.html 【火の雨伝説】~ジジ穴とババ穴~]、諏訪の魅力を探る。まほろば諏訪圏。(最終閲覧日:26-01-31)</ref>。台湾では、人類の始祖は「岩」から生まれた男女である、という伝承が多い。「石の女神」は「死した母女神」であった、という点で両者は共通している。台湾には地震と火山に関する災害で、兄妹が臼に乗って難を逃れた、という話もある<ref>神々の物語、台湾原住民文学選5、紙村徹編、草風館、2006年8月1日出版、p133-134</ref>。
=== 私的考察 ===
神話上のサイには、火と水という両極端の性質があるようである。ただし、伝承全般を総合的に見るに、「水を鎮める」力の方が強いとされていると感じる。龍も架空だけれども水生動物だし、サイも水に関連の深い動物だから。もしかしたら、エジプトのカバの女神であるタウエレトとも関連する女神かもしれないと思う。
「火」の性質は、彼女が生前は「太陽女神」だったことに由来するものと考える。「干魃を起こす」というのは、中国の魃女神の流用であろう。
== 分布 ==
== 形態 ==
シロサイは体長370 - 400センチメートル、体重2,300キログラム<ref name="owen-smith" >Norman Owen-smith 「サイ」祖谷勝紀訳『動物大百科 4 大型草食獣』今泉吉典監修 D.W.マクドナルド編、平凡社、1986年、52-51頁。</ref><ref>Macdonald, D. (2001). ''The New Encyclopedia of Mammals.'' Oxford University Press, Oxford. ISBN 0198508239.</ref>(最大で3600kgという記録がある<ref>Groves, C. P. (1972). ''"Ceratotherium simum". Mammalian species.'' 8 (8): 1–6. doi:10.2307/3503966. JSTOR 3503966.</ref>)。現生種ではインドサイ・シロサイはオスがメスよりも大型になるが、他種は雌雄であまり大きさは変わらない<ref name="owen-smith" />。皮膚は非常に分厚く硬質で、1.5 - 5.0cmの厚みを持ち、格子構造になったコラーゲンが層をなしている。皮膚はあらゆる動物の中でも最硬といわれ、肉食獣の爪や牙を容易には通さない。インドサイ等は、だぶついた硬い皮膚が特徴的で、体全体が鎧で覆われているように見える。体色は灰色をしている種が多いが、サイは泥浴びを好み、水飲み場などでよくこれを行うので、土壌の色で茶色などを帯びたように見えることもある。スマトラサイを除き体毛がない。しかし耳介の外縁や睫毛、尾の先端に毛を残している。幼獣は成獣より毛深く、成熟するにつれて体毛が薄くなる。スマトラサイは耳介も含めて全身が粗く長い茶褐色の体毛で被われているものの、野生種では泥にまみれるか、抜け落ち、あまり目立たない。
非常に大きな頭蓋骨は、前後に長く、後頭骨が立ち上がっている。鼻骨は大きく前か上にせり出し、前上顎骨よりも前に飛び出る。角が接合する部分は、鼻骨の表面がカリフラワー状に荒れている。頭部に1本(インドサイ属)または2本(クロサイ・シロサイ・スマトラサイ)の角がある<ref name="owen-smith" />。ラテン語の呼称および英名のrhinocerosはこの角に由来し<ref name="owen-smith" />、古代ギリシャ語で鼻を指すrhisと角を指すcerasを組み合わせたものとされる<ref name="nakazato" />。スマトラサイでは後方の角が瘤状にすぎない個体もいたり<ref name="nakazato" >中里竜二 「においづけでなわばりを確認 サイ」『動物たちの地球 哺乳類II 5 アザラシ・アシカ・オットセイほか』第9巻 53号、朝日新聞社、1992年、146-150頁。</ref>、ジャワサイのメスには角のない個体もいる<ref name="obara_c">小原秀雄「スマトラサイ」「ジャワサイ」『動物世界遺産 レッド・データ・アニマルズ5 東南アジアの島々』・浦本昌紀・太田英利・松井正文編著、講談社、2000年、133-134頁。</ref>。角はケラチンの繊維質の集合体で、骨質の芯はない(中実角)<ref name="owen-smith" /><ref name="nakazato" />。何らかの要因により角がなくなっても、再び新しい角が伸びる<ref name="nakazato" />。シロサイやクロサイでは最大1.5mにもなる<ref name="geo">[https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20141218/428850/ シロサイ] 日経ナショナルジオグラフィック</ref>。サイの角は肉食動物に抵抗するときなどに使われる。オスのほうがメスより角が大きい。目は小さく、視力は非常に弱い。シロサイは30mも離れると動かないものは判別できない<ref name="tow">[http://www.tomorrow-is-lived.net/wildlife/perissodactyla/w-rhinoceros.html Tomorrow is lived]</ref>。嗅覚は非常に発達する<ref name="owen-smith" />。聴覚も発達し、耳介は様々な方向へ向け動かすことができる<ref name="owen-smith" />。脳は哺乳類の中では比較的小さい(400 - 600g)。後腸をもつ後腸発酵草食動物で、必要とあらば樹皮のような硬い植物繊維質も食料源とすることができる。単胃であるため採食が頻繁で、反芻しない。体は硬い皮膚に覆われているが口先はやわらかく、感覚に優れている。口先の形状は種によって異なり、種によって食性が微妙に違うことを示している<ref>[http://animals.nationalgeographic.com/animals/mammals/black-rhinoceros/ ナショナルジオグラフィック Black Rhinoceros by Diceros bicornis]</ref>。吻端はシロサイを除いて尖る<ref name="nakazato" />。インドサイやクロサイは上唇の先端がよく動き、木の枝などを引き寄せることができる<ref name="owen-smith" />。シロサイは頭部が長くて唇が幅広く、丈が短い草本を一度に広い範囲で食べることに適している<ref name="owen-smith" />。
24本から34本の歯を持ち、小臼歯と大臼歯ですり潰す(歯式は 1-2/0-1, 0/1-1, 3-4/3-4, 3/3)。アジアのサイの下顎切歯を除けば、犬歯および切歯は痕跡的である。これは突進時の衝撃への適応 適応と考えられている<ref>[http://www.newworldencyclopedia.org/entry/Rhinoceros Rhinoceros] New World Encyclopedia</ref>。アフリカのサイ2種は前歯を持たず<ref>[http://www.iheartrhinos.com/rhino-facts.html Rhinoceros Fact] iheartrhinos.com</ref>、その代わりに口先(吻)で餌を挟み取る。四肢は短く頑丈で、指趾は3本<ref name="nakazato" /><ref name="owen-smith" />。
;保護
:サイ科の5種すべてが絶滅の危機にあり、国際自然保護連合IUCNはジャワサイ、クロサイ、スマトラサイの3種を絶滅危惧 IA 類、絶滅寸前(Critically Endangered)に指定した。とりわけ[ジャワサイ ''Rhinoceros sondaicus'' は、地球上で最も数が少ない大型獣として知られており、1967年から1968年に行われた調査では生息数が25頭まで減少したとされた。保護対策には、広報活動、生息域の保全、あらかじめ角を落とす、サイには無害で人間には有害な寄生虫薬の角への注入、WWFなどの保護団体による角へのチップ埋め込み、検疫スキャナーで検知可能な染料による角の染色、空港での検疫など、多岐に渡る。保護活動は一定の成果を生んでいるものの、生息域の治安悪化などで成果が水泡に帰する場合もある。
===文化への影響===
サイは古代から人類と関係を持っていたと考えられている。現存する人類最古の絵画であるフランスの[[ショーヴェ洞窟]]壁画にもサイ(絶滅したケブカサイと考えられている{{要出典|date=2016年8月}})は描かれており、これは1〜3万年前のものである。
1515年、[[アルブレヒト・デューラー]]は、サイが[[リスボン]]に輸入された時の様子を描いた無名の画家のスケッチを元にして、有名な[[犀 (木版画) | 犀の木版画]]を創作した。デューラーは実物を見ることができず{{要出典|date=2016年8月}}、描写はいくぶん不正確だが、この[[木版画]]は「動物を描写した作品のうち、これほど芸術分野に多大な影響を与えたものはおそらく存在しない」とまでいわれている作品でもある<ref>Clarke, T. H. (1986). The Rhinoceros from Dürer to Stubbs: 1515–1799. London: Sotheby's Publications. ISBN 0-85667-322-6. 20ページ</ref>。『犀』は西洋において何度も参照され、絵画や彫刻に影響を与えた。『犀』は『[[動物図譜]]』に記載され、日本にも伝わり、[[谷文晁]]がそれを模写をした『犀図』を残している<ref>『平賀源内展カタログ』(2003年)p.118</ref>。
ビルマ、インド、マレーシアでは、サイが火を潰すとする伝説がある。神話のサイは badak api ([[マレー語]]) の名称で呼ばれ、badakは犀、apiは火を意味する。森林の中で火が燃え広がるとサイが現れ、それを踏み消すとされる<ref name="Rhino fire legends">{{cite web|url=http://www.sosrhino.org/knowledge/faq.php |title=Rhinoceros Frequently Asked Questions |publisher=Sosrhino.org |accessdate=2010-09-23}}</ref>。なお、この事実が確認されたことはない。しかし、この伝説は映画「The Gods Must Be Crazy(邦題[[ミラクル・ワールド ブッシュマン]])」で紹介され有名になった。
日本や中国<ref>《国語・越語上》:“今 夫差 衣水犀之甲者億有三千。” 韋昭 注:“犀形似豕而大。今徼外所送,有山犀、水犀。”</ref>では、[[水犀]](みずさい)と呼ばれる動物が絵画などに見られる。頭には角、背中に[[甲羅]]、足には蹄を持つとされる{{要出典|date=2016年8月}}。平安末期の国宝[[鳥獣人物戯画]]の乙巻には、[[虎]]・[[象]]・[[ライオン|獅子]]・[[麒麟]]・[[竜]]といった海外の動物や架空の動物とともに水犀が描かれている。江戸末期の[[北斎漫画]]にも水犀が描かれている。[[世界遺産]] [[日光東照宮]]の[[拝殿]]東面、妻[[虹梁]]下にも水犀(通天犀とも)が彫刻されている。
中国では、現在でも犀の角で作られた彫刻や工芸品が重宝され売買されている。中国の検索サイトで犀角を検索すると、検索結果に価格や鑑定方法が挙がる(2016年現在)。西洋諸国の[[サーカス]]では、サイを使うショープログラムがある。現在、多くの国の動物園でサイは飼育展示されている。
韓国の[[雙龍自動車|サンヨン自動車]]が製造/販売する[[スポーツ・ユーティリティ・ビークル|SUV]]「[[雙龍・ムッソー|ムッソー]]」は同車の韓国語版記事によると車名の由来は韓国語でサイを意味する「무소」から来ているとされ、実際初代の車名ロゴの「M」からはサイの角らしきものが生えている。
===サイを用いた用語===
* 灰色のサイ(Gray Rhino) - [[金融市場]]において破局的な結果を招くと多くの者に予見されているにもかかわらず、軽視されがちな材料(問題)を示す。普段の性格はおとなしいが、一度暴走し始めると誰も手に負えなくなるサイの性格に由来する<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.ifinance.ne.jp/glossary/souba/sou456.html |title=灰色のサイ |website=金融経済用語集 |publisher=fvgate Inc.|accessdate=2021-10-06}}</ref>。
== 出典 ==
* {{Cite book|和書|author = Wikipedia:[[遠藤秀紀]https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%82%A4 サイ](最終閲覧日:26-01-30)|title = ** 遠藤秀紀, 哺乳類の進化|year = , 2002|publisher = [[, 東京大学出版会]]|, isbn = :978-4-13-060182-5|pages = 92 , p92 - 99, 186 - 190, 222 - 235頁}}
== 関連項目 ==
* [[塗山氏女]]:中国神話で石と化して亡くなった女神。
* [[グミヤー]]:グミヤーは犀で世界を創造する。
* [[李氷]]:石犀を作って水神を鎮める。
* [[小泉小太郎伝説]]:小太郎は犀川流域を開拓したと言われている。
[[Category:日本神話]]
[[Category:獣]]
[[Category:水生生物]]
[[Category:動物]]
[[Category:石|*]]