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、 2026年1月28日 (水)
'''サイ'''(犀)は、奇蹄目'''サイ科'''(サイか、Rhinocerotidae)に分類される構成種の総称。
== 分布 ==
世界には5種のサイが現生しており、[[アフリカ大陸]]の東部と南部(シロサイ、クロサイ)、[[インド]]北部から[[ネパール]]南部(インドサイ)、[[マレーシア]]と[[インドネシア]]の限られた地域(ジャワサイ、スマトラサイ)に分布している。現生のサイは[[体毛]]がなく(或いは薄く)、[[寒冷]]地域には分布していない。
かつてサイ科の属する奇蹄目は、[[始新世]]から[[漸新世]]にかけて繁栄し、240[[属 (分類学)|属]]と多様性を誇った。サイの祖先たちは、ほぼ全ての地域(可住域)に分布した<ref name="Prothero 1989">Donald R. Prothero, Robert M. Schoch: ''Classification of the Perissodactyla.'' In: Donald R. Prothero, R. M. Schoch (Hrsg.): ''The evolution of the Perissodactyls.'' New York 1989, S. 530–537.米国サンディエゴ動物学協会、サンディエゴ1993年、頁82から91。</ref>。特に[[漸新世]]には陸上哺乳類史上最大の種([[パラケラテリウム]])が現れるなど、繁栄を極めた。しかし[[中新世]]以降は地球の寒冷化によって多くの種が絶滅し、また[[ウシ亜目]]などの[[反芻]]類の進化に押されて衰退し<ref>『哺乳類の進化』 98 - 99頁</ref>、更には人間の[[狩猟]]と[[乱獲]]、開発によって、現在の分布になったと考えられる。
== 形態 ==
[[シロサイ]]は体長370 - 400センチメートル、体重2,300キログラム<ref name="owen-smith" /><ref>Macdonald, D. (2001). ''The New Encyclopedia of Mammals.'' Oxford University Press, Oxford. ISBN 0198508239.</ref>(最大で3600kgという記録がある<ref>Groves, C. P. (1972). ''"Ceratotherium simum". Mammalian species.'' 8 (8): 1–6. doi:10.2307/3503966. JSTOR 3503966.</ref>)。現生種ではインドサイ・シロサイはオスがメスよりも大型になるが、他種は雌雄であまり大きさは変わらない<ref name="owen-smith" />。皮膚は非常に分厚く硬質で、1.5 - 5.0cmの厚みを持ち、格子構造になった[[コラーゲン]]が層をなしている。皮膚はあらゆる動物の中でも最硬といわれ、[[肉食獣]]の爪や牙を容易には通さない。[[インドサイ]]等は、だぶついた硬い皮膚が特徴的で、体全体が[[鎧]]で覆われているように見える。体色は[[灰色]]をしている種が多いが、サイは[[砂浴び|泥浴び]]を好み、水飲み場などでよくこれを行うので、土壌の色で茶色などを帯びたように見えることもある。[[スマトラサイ]]を除き[[体毛]]がない。しかし耳介の外縁や睫毛、尾の先端に毛を残している。幼獣は成獣より毛深く、[[成熟]]するにつれて体毛が薄くなる。スマトラサイは耳介も含めて全身が粗く長い茶褐色の体毛で被われているものの、野生種では泥にまみれるか、抜け落ち、あまり目立たない。
[[File:Greater one-horned rhinoceros at Chitwan.jpg|thumb|left|鎧のような皮膚と、頭部の角を持つインドサイ]]
非常に大きな[[頭蓋骨]]は、前後に長く、[[後頭骨]]が立ち上がっている。[[鼻骨]]は大きく前か上にせり出し、[[前上顎骨]]よりも前に飛び出る。角が接合する部分は、鼻骨の表面がカリフラワー状に荒れている。頭部に1本(インドサイ属)または2本(クロサイ・シロサイ・スマトラサイ)の角がある<ref name="owen-smith" />。ラテン語の呼称および英名のrhinocerosはこの角に由来し<ref name="owen-smith" />、古代ギリシャ語で鼻を指すrhisと角を指すcerasを組み合わせたものとされる<ref name="nakazato" />。スマトラサイでは後方の角が瘤状にすぎない個体もいたり<ref name="nakazato" />、ジャワサイのメスには角のない個体もいる<ref name="obara_c">[[小原秀雄]] 「スマトラサイ」「ジャワサイ」『動物世界遺産 レッド・データ・アニマルズ5 東南アジアの島々』・浦本昌紀・太田英利・松井正文編著、講談社、2000年、133-134頁。</ref>。角はケラチンの繊維質の集合体で、骨質の芯はない(中実角)<ref name="owen-smith" /><ref name="nakazato" />。何らかの要因により角がなくなっても、再び新しい角が伸びる<ref name="nakazato" />。シロサイやクロサイでは最大1.5mにもなる<ref name="geo">[https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20141218/428850/ シロサイ] 日経ナショナルジオグラフィック</ref>。サイの角は肉食動物に抵抗するときなどに使われる。オスのほうがメスより角が大きい。目は小さく、視力は非常に弱い。シロサイは30mも離れると動かないものは判別できない<ref name="tow">[http://www.tomorrow-is-lived.net/wildlife/perissodactyla/w-rhinoceros.html Tomorrow is lived]</ref>。[[嗅覚]]は非常に発達する<ref name="owen-smith" />。聴覚も発達し、耳介は様々な方向へ向け動かすことができる<ref name="owen-smith" />。[[脳]]は哺乳類の中では比較的小さい(400 - 600g)。[[後腸]]をもつ[[後腸発酵]]草食動物で、必要とあらば樹皮のような硬い植物繊維質も食料源とすることができる。[[単胃]]であるため採食が頻繁で、[[反芻]]しない。体は硬い皮膚に覆われているが口先はやわらかく、感覚に優れている。口先の形状は種によって異なり、種によって[[食性]]が微妙に違うことを示している<ref>[http://animals.nationalgeographic.com/animals/mammals/black-rhinoceros/ ナショナルジオグラフィック Black Rhinoceros by Diceros bicornis]</ref>。吻端はシロサイを除いて尖る<ref name="nakazato" />。インドサイやクロサイは上唇の先端がよく動き、木の枝などを引き寄せることができる<ref name="owen-smith" />。シロサイは頭部が長くて唇が幅広く、丈が短い草本を一度に広い範囲で食べることに適している<ref name="owen-smith" />。
24本から34本の歯を持ち、[[小臼歯]]と[[大臼歯]]ですり潰す([[歯式]]は 1-2/0-1, 0/1-1, 3-4/3-4, 3/3)。アジアのサイの下顎[[切歯]]を除けば、[[犬歯]]および[[切歯]]は痕跡的である。これは突進時の衝撃への[[適応 (生物学)|適応]]と考えられている<ref>[http://www.newworldencyclopedia.org/entry/Rhinoceros Rhinoceros] New World Encyclopedia</ref>。アフリカのサイ2種は[[前歯]]を持たず<ref>[http://www.iheartrhinos.com/rhino-facts.html Rhinoceros Fact] iheartrhinos.com</ref>、その代わりに口先([[吻]])で餌を挟み取る。四肢は短く頑丈で、指趾は3本<ref name="nakazato" /><ref name="owen-smith" />。
乳頭は後肢の基部にあり、乳頭数は2個<ref name="nakazato" /><ref name="owen-smith" />。精巣は陰嚢内に下降しない<ref name="nakazato" /><ref name="owen-smith" />。陰茎は後方を向き、雌雄共に後方に向かって尿をする<ref name="nakazato" /><ref name="owen-smith" />。出産直後の幼獣はやや小型で、体重で比較すると母親の約4 %(インドサイ・シロサイ約65キログラム、クロサイ約40キログラム)しかない<ref name="owen-smith" />。
== 分類 ==
{{Cladogram|caption=現生種の系統樹<ref>Tougard, C. ''et al''. (2001) Phylogenetic relationships of the
five extant Rhinoceros species (Rhinocerotidae, Perissodactyla) based on mitochondrial cytochrome b and 12S rRNA genes.</ref>
|clades={{clade | style=font-size:70%;line-height:80%
|label1=[[サイ科|Rhinocerotidae]]
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|1=[[シロサイ|''Ceratotherium simum'']]
|2=[[クロサイ|''Diceros bicornis'']]
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|1=[[インドサイ|''Rhinoceros unicornis'']]
|2=[[ジャワサイ|''Rhinoceros sondaicus'']]
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世界には4属5種が現生している。しかし地質時代を含めるなら、これらは僅かな一部分でしかない。サイ科は絶滅した種を含めて分類すべきだが、本節ではまず現生種の分類とその特徴を記す。絶滅化石種を含めた分類は[[#化石種も含めた分類]]を参照。
以下の分類はOwen-Smith・(1986)・増井(1992)・MSW3(Grubb,2005)、和名はOwen-Smith(1986)・増井(1992)、英名はMSW3(Grubb,2005)に従う<ref name="grubb" /><ref>増井光子編著 「長鼻目(ゾウ目)、奇蹄目(ウマ目)ほかの分類表」『動物たちの地球 哺乳類II 5 ゾウ・サイ・シマウマほか』第9巻 53号、朝日新聞社、1992年、160頁。</ref>。
* シロサイ属 ''Ceratotherium''
** ''Ceratotherium simum'' [[シロサイ]] [[w:White_rhinoceros|White rhinoceros]]
* スマトラサイ属 ''Dicerorhinus''
** ''Dicerorhinus sumatrensis'' [[スマトラサイ]] [[w:Sumatran_rhinoceros|Sumatran rhinoceros]]<ref name="obara_c" />
* クロサイ属 ''Diceros''
** ''Diceros bicornis'' [[クロサイ]] [[w:Black_rhinoceros|Black rhinoceros]]<ref name="obara_a">小原秀雄 「クロサイ」『動物世界遺産 レッド・データ・アニマルズ6 アフリカ』小原秀雄・浦本昌紀・太田英利・松井正文編著、講談社、2000年、157頁。</ref>
* インドサイ属 ''Rhinoceros''
** ''Rhinoceros sondaicus'' [[ジャワサイ]] [[w:Javan_rhinoceros|Javan rhinoceros]]<ref name="obara_c" />
** ''Rhinoceros unicornis'' [[インドサイ]] [[w:Indian_rhinoceros|Indian rhinoceros]]<ref name="obara_b">[[小原秀雄]] 「インドサイ」『レッド・データ・アニマルズ4 インド、インドシナ』小原秀雄・浦本昌紀・太田英利・松井正文編著、[[講談社]]、[[2000年]]、151頁。</ref>
{{multiple image
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| header = 現生する5種
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| image1 = Waterberg Nashorn2.jpg
| caption1 = [[シロサイ]] この名称は、蘭語から英語への誤訳が原因とされる。最も大型。
| image2 = Ostafrikanisches Spitzmaulnashorn.JPG
| caption2 = [[クロサイ]] 尖った口先で葉や果実を摂取する。シロサイより気性が荒い。
| image3 = Sumatran Rhino 2.jpg
| caption3 = [[スマトラサイ]] 5種の中で最も小さく最も原始的な種。茶褐色の体毛がある。
| image4 = One horned Rhino.jpg
| caption4 = [[インドサイ]] 角は一本。Greater horned Rhinoとも呼ばれる。鎧が特徴。
| image5 = Muller-1839.jpg
| caption5 = [[ジャワサイ]] インドサイと似ている。角が一本。やや小柄。雌は角がない。
}}
== 進化 ==
[[File:Hyrachyus sp.jpg|thumb|ヒラキウスの化石。前肢4つ後肢3つの指、頭蓋骨の形状、歯などに注目。フランクフルト[[ゼンケンベルク自然博物館]]蔵]]
サイの進化は、他の[[奇蹄目]]の進化よりも複雑である。サイは[[新生代]]初期に多種多様な変化を遂げた。特に[[漸新世]]から[[中新世]]においては他の奇蹄目と同様に豊富な種をもっていた。ほぼ全ての可住域に[[適応放散]]した。<ref name="Prothero 1989" />しかし、現在は絶滅の方向に向かっているように見受けられる<ref>Martin, E. B. 1984. "They're Killing off the Rhino." National Geographic, 165:404-422.</ref>。サイのいくつかの系統には、[[平行進化]]の痕跡が見られるため<ref name="名前なし-1">[https://ncse.com/cej/5/2/basic-created-kinds-fossil-record-perissodactyls Title: Basic Created Kinds and the Fossil Record of Perissodactyls. Author(s): James S. Monroe] National Center for Science Education 米カルフォルニア機関</ref>、ここでは最古のサイから現生のサイへ続く系統に絞って記述する。したがって、記述は主に[[始新世]]と[[漸新世]]に限定される。
サイは[[始新世]]前期、約4700万年前<ref name="Tougard">Christelle Tougard, Thomas Delefosse, Catherine Hänni und Claudine Montgelard: '' Phylogenetic Relationships of the Five Extant Rhinoceros Species (Rhinocerotidae, Perissodactyla) Based on Mitochondrial Cytochrome b and 12S rRNA Genes.'' Molecular Phylogenetics and Evolution 19, 2001, S. 34–44.</ref>に他の[[奇蹄目]]から分岐した。角のない小さなサイの祖先[[ヒラキウス]](''Hyrachyus'')属の''Hyrachyus eximius'' は、北米で発見された。このサイはサイというより、[[バク]]や小さな[[馬]]に似ている。これをサイ上科でなくバク上科に分類する専門家も多い<ref name="名前なし-1"/>。[[ウマ科]]の最古の祖先として有名な[[ヒラコテリウム]](''Hyracotherium'')ともよく似ている。このヒラキウスから、最古のサイとされる[[ヒラコドン科]]トリプロプス(''Triplopus'')が誕生した。
しかしこの説には若干の疑いが残っている。始新世中期後半のヒラキウスと、始新世後期のトリプロプスの種の間に、歯科形態の類似性が見られることがこの説の根拠となっているが、ヒラキウスの蹄の数は前肢4つ後肢3つであるのに対しトリプロプスは四肢すべてが3つの蹄である等の相違点もあるからだ。またヒラコドン科の多くが体長5フィート肩高1.5-2フィート程度の大型動物であるのに対し、ヒラコドン科トリプロプスが特筆すべき小ささであることも注意すべき点である<ref>Lucas, S. G. et al. 1981. "The Systematics of Forstercooperia, a Middle to Late Eocene Hyracodontid (Perissodactyla: Rhinocerotoidea) from Asia and Western North America." Journal of Paleontology, 55:826-84 1.</ref>。
いずれにせよ、始新世後期までにサイは、[[ヒラコドン科]]、[[アミノドン科]]、[[サイ科]]の3科になった。これらは、しばしばサイ上科(''Rhinocerotoidea'')としてまとめられる。
[[File:Hyracodon.jpg|thumb|right|220px|ヒラコドン。角がない。仔馬のよう。]]
{{clear|left}}
;ヒラコドン科 {{Sname||Hyracodontidae}}
*主要な記事: [[ヒラコドン科]]
[[始新世]]中期から[[中新世]]前期(5580-2200万年前)にかけて北米、ヨーロッパ、アジアに広がっていた。絶滅した科。[[角]]を持たない。ヒラコドン科は「走るサイ(running rhinos)」として知られ、脚が細長く快速に疾走することができ、現生のサイよりも馬に似ていた。ただ、歯の構造は既にサイそのものだった。最小のヒラコドン科の種は犬程度の大きさだったが、最大のものは[[パラケラテリウム]](''Paraceratherium'')で、体長10メートル体高7メートル体重15トン程度と推定されており、これは史上最大の陸上哺乳類であると考えられている。[[キリン]]のように木から葉を食べた。なお、この科が後述のサイ科の祖先であることがわかっている。
[[File:Metamynodon.jpg|thumb|right|220px|アミノドン科メタミノドン。角がない。水生生活に適応。]]
;アミノドン科 {{Sname||Amynodontidae}}
*主要な記事: [[アミノドン科]]
[[始新世]]中期から[[漸新世]]前期にかけて北米、ヨーロッパ、アジアに広く分散、生息していた。一部の種は漸新世後期まで残っていたものの、絶滅した。角を持たない。アミノドン科は「水生サイ(aquatic rhinos)」として知られている。この科の種は[[カバ]]のような生態や外観をもち、川や湖に生息し、水草も食べるなど、カバと同じような水生[[適応 (生物学)|適応]]を多く持つ。祖先がバク類であることは判明しているが、他の2科に比べその祖先が不明確。日本の[[炭田]]でも化石が発見されており、[[ワタナベサイ]](''Amynodon watanabei'')などの例がある。
[[File:Elasm062.jpg|thumb|right|220px|サイ科エラスモテリウム。氷期を生き抜いた。]]
;サイ科 Rhinocerotidae
サイ科(Rhinocerotidae)は[[始新世]]後期に[[ユーラシア]]大陸で誕生し、すべての現生のサイはこれに属している。かつて、サイ科の種は小型且つ豊富だった。[[漸新世]]中期における絶滅の波が小型種のほぼ全てを一掃するまでは、少なくとも26属がユーラシアと北アメリカに生息していた。この絶滅の波の後でも、いくつかの独立した系統は生き残った。''Menoceras'' は豚程度大きさで、鼻の上部に左右に並ぶ角を持っていた。北米の[[テレオケラス]](''Teleoceras'')は樽型の胴体と短い肢を持ち、約500万年前まで生息していた。アメリカでは[[鮮新世]]にすべてが絶滅した。
現生のサイは、[[中新世]]にアジアから拡散し始めたと考えられている。最新の[[氷期]]を生き抜いた[[ケブカサイ]](''Coelodonta antiquitatis''/毛深犀)と[[エラスモテリウム]](''Elasmotherium'')がそれにあたり、この両種は1万年前という最近までヨーロッパに定住していた。ケブカサイは中国周辺で約100万年前にいた事が確認されており、60万年前にはヨーロッパに到着していた。20万年前にヨーロッパで再び確認され、[[ケナガマンモス]]同様繁栄していた。しかし、最終的には初期の人間によって狩られ、絶滅した。またエラスモテリウムは体長5メートル、体高2メートル、体重5トン、前頭骨に巨大な一本の角、[[長冠歯]]、早く走れる長い肢を持ち、更新世中期氷河時代を生き抜いた巨大なサイとして知られている。[[ユニコーン]]伝説の正体と考えられることもある<!-- <ref>[http://tocana.jp/2016/03/post_9250.html やはり伝説のユニコーンは実在していた! 2万6千年前の人類と「エラスモテリウム」の出会いで判明か!?] tocana.jp</ref> -->{{出典無効|date=2017年7月}}。
角のあるサイは、[[漸新世]]終盤から[[中新世]]にかけてやっと歴史に登場した。現生のサイで最古の属は、1500万年以上前に出現したスマトラサイ属(''Dicerorhinus'')である。前後2本の角をもつ。スマトラサイは他の現生種との関係よりケブカサイとの関係が密接だった。インドサイ属(''Rhinoceros'')の[[ジャワサイ]]と[[インドサイ]]の2種は、イッカクサイとも呼ばれ、角を1つ持つ。中新世中期までその祖先を遡れる。インドサイとジャワサイは密接に関連しながら、アジアにおけるサイの主流となった。インドサイとジャワサイの祖先は200-400万年前に分岐した<ref>{{Cite book | author = Lacombat, Frédéric | year = 2005 | chapter = The evolution of the rhinoceros | pages = 46–49 | editor = Fulconis, R. | title = Save the rhinos: EAZA Rhino Campaign 2005/6 | location = London | publisher = European Association of Zoos and Aquaria }}</ref>。現生のアフリカのサイの起源は、中新世後期(600万年前)の''Ceratotherium neumayri''や''Paradiceros mukiri''など諸説ある。現生種の両系統は、クロサイの祖先と思われる''Diceros praecox''の化石が示す鮮新世前期(150万年前)に分岐したとされる。シロサイとクロサイは現在も非常に近縁かつ密接に関係し、互いに交尾し正常に子孫を残すことができる<ref >{{cite journal|first=Terry J.|last=Robinson |author2=V. Trifonov |author3=I. Espie |author4=E.H. Harley|date=January 2005|title=Interspecific hybridization in rhinoceroses: Confirmation of a Black × White rhinoceros hybrid by karyotype, fluorescence in situ hybridization (FISH) and microsatellite analysis|journal=Conservation Genetics |volume=6|issue=1|pages=141–145|doi=10.1007/s10592-004-7750-9|url=http://www.springerlink.com/openurl.asp?genre=article&doi=10.1007/s10592-004-7750-9
}}</ref>。
上記の3科以外にも、北米で一般化した''Aphelops''、[[テレオケラス]](''Teleoceras'') のように、新生代には多くの種が発生した。
== 生態 ==
[[File:Lake Nakuru Kenya, Feb 2007.jpg|thumb|木陰で休むシロサイの群れ。[[ケニア]]の[[ナクル湖]]。]]
[[File:Sumatran rhinoceros four days old.jpg|thumb|生後4日の[[スマトラサイ]]とその親]]
[[草原]]や[[森林]]、[[熱帯雨林]]、[[湿地]]に生息する。スマトラサイとジャワサイは、特に河川や沼の周辺に好んで生息する。サイは[[夜行性]]あるいは[[薄明薄暮性]]である。母親とその幼獣を除けば主に基本的に単独で生活するが、シロサイは若獣が連れ添ったり幼獣がいないメスで6 - 7頭の群れを形成することもあり大規模な群れを形成することもある<ref name="nakazato" /><ref name="owen-smith" />。短期間であれば日陰や水浴びなどの際に集合することもある<ref name="nakazato" /><ref name="owen-smith" />。雄は通常、[[縄張り]]を持ち、[[尿]]や[[糞]]、足跡(スマトラサイ)などでマーキングする<ref name="Estes1991">{{cite book|author=Richard Estes|title=The Behavior Guide to African Mammals: Including Hoofed Mammals, Carnivores, Primates|url=https://books.google.com/?id=g977LsZHpcsC&pg=PA323|year=1991|publisher=University of California Press|isbn=978-0-520-08085-0|pages=323–}}</ref>。そして一生のほとんどを自分のなわばりの中で暮らす<ref name="tow">[http://www.tomorrow-is-lived.net/wildlife/perissodactyla/w-rhinoceros.html Tomorrow is lived]</ref>。縄張りの大きさは、2〜100平方キロメートルと様々ある。縄張りは厳密ではなく、繁殖期以外は他者の侵犯を見逃したり、縄張りが重なりあう。食料事情や繁殖の為に、縄張りの大きさも変動する。昼間は木陰で休む、水場で水を飲む、水浴びや泥浴びをして体温調節したりする。水浴びや泥浴びを好み、前者は体温の上昇・後者は虫を避ける(皮膚は分厚いが表皮は薄くすぐ下に血管が通っているため)効果があると考えられている。薄明時や夕方に食物を摂取する。
[[File:White rhinoceros or square-lipped rhinoceros, Ceratotherium simum. (17349074222).jpg|thumb|left|泥浴びするシロサイ|170px]]
食性は[[植物食]]<ref name="owen-smith" />。近くに水場があれば毎日水を飲むが、アフリカ大陸に分布する種は4 - 5日は水場へ行かないこともある<ref name="owen-smith" />。また、[[塩]]や[[ミネラル]]を摂取することが重要で、塩を舐める行為が社会的意味をもっている<ref>[http://www.bioexpedition.com/rhinoceros-feeding/ RHINOCEROS FEEDING bioexpedition.com]</ref>。またスマトラサイやジャワサイは塩分を摂るために海水を飲むことがある<ref name="IZY">
{{cite journal | journal = International Zoo Yearbook | year = 2006 | volume = 40 | issue = 1 | pages = 150–173 | title = Rhinoceros behaviour: implications for captive management and conservation | last = Hutchins | first = M. |author2=M.D. Kreger | publisher = Zoological Society of London | doi = 10.1111/j.1748-1090.2006.00150.x
}}
</ref>。
クロサイやインドサイは最高時速55kmで走ると言われる<ref>[http://www.wwf.org.za/act_now/rhino_conservation/rhino_facts/ Rhino facts], World Wildlife Fund</ref>(インドサイについては要出典)。
硬い皮膚と大きな体躯を持つことで、肉食獣に襲われて捕食されることはあまり多くない<ref>[http://www.awf.org/content/wildlife/detail/rhinoceros Wildlife: Rhinoceros]. AWF. Retrieved 2012-02-24.</ref>。しかし、幼獣はその限りではない<ref>1985年から1995年の間にインドのカジランガ国立公園において行われた調査では、インドサイのトラによる捕食が密猟に次ぐ脅威になっているとの報告があり、178頭のサイが公園内で虎の被害に遭ったと報告している。ただし、この中の149頭(83.7%)は幼獣である [http://www.animalinfo.org/species/artiperi/rhinunic.htm]。</ref>。
胎生。オス同士ではクロサイとシロサイは前方の角を、他種は下顎の牙状の歯<!-- スマトラサイを除きobara_aでは犬歯、owen-smith・nakazatoは門歯 -->を使い激しく争う。妊娠期間15 - 18か月(スマトラサイは8か月とされるが、他種と比較すると極端に短いため未確認とされている)。種によってまちまちだが、オスは約8-10歳で性的に[[成熟]]し、メスは5-7歳で成熟する。飼育下での寿命は35〜50年、野生では25〜40年程度と言われている。
== 人間との関係 ==
===密猟と保護対策===
[[File:Nas-Horn.jpg|thumb|150px|犀角]]
[[File:Rhinoceros horn libation cup with design of lotus flower and grape.jpg|thumb|清代の犀角杯、東京国立博物館所蔵。]]
前述のとおり現生のサイは5種で、そのいずれもが絶滅の危機に瀕している。かつて人間はサイを[[狩猟]]し[[食糧]]としていたとされるが、現在の生息数減少の主な原因は、生息域の開発と、角を目当てにした[[密猟]]で、2008年から急増し現在進行形の脅威である<ref>[https://www.afpbb.com/articles/-/3009519 ケニアの2013年サイ密猟数、前年の2倍に] [[フランス通信社]] 2014年03月01日観覧</ref><ref name=BBC>[http://www.bbc.co.uk/news/resources/idt-sh/rhino_poaching The unlikely figures behind a secret trade](BBC News)</ref>。サイの角は、コカイン、ヘロイン、金よりも高値で取引され、場所によっては1キロ当たり25,000ドルから60,000ドルで取引される<ref name=BBC/>。
;用途
:角は工芸品、[[ジャンビーヤ]]と呼ばれる中東の短剣の柄、[[漢方薬]]の[[犀角]]、その他の[[伝統医学]]の材料として珍重されている<ref name=BBC/>(もっとも角に薬としての効用はほぼない{{要出典|date=2016年8月}})。
;保護
:サイ科の5種すべてが絶滅の危機にあり、[[国際自然保護連合]]IUCNは[[ジャワサイ]]、[[クロサイ]]、[[スマトラサイ]]の3種を絶滅危惧 IA 類、絶滅寸前(Critically Endangered)に指定した。とりわけ[[ジャワサイ]] ''Rhinoceros sondaicus'' は、地球上で最も数が少ない大型獣として知られており、1967年から1968年に行われた調査では生息数が25頭まで減少したとされた{{要出典|date=2016年8月}}。保護対策には、広報活動、生息域の保全、あらかじめ角を落とす、サイには無害で人間には有害な寄生虫薬の角への注入、WWFなどの保護団体による角へのチップ埋め込み、検疫スキャナーで検知可能な染料による角の染色、空港での検疫など、多岐に渡る。保護活動は一定の成果を生んでいるものの、生息域の治安悪化などで成果が水泡に帰する場合もある。
===文化への影響===
サイは古代から人類と関係を持っていたと考えられている。現存する人類最古の絵画であるフランスの[[ショーヴェ洞窟]]壁画にもサイ(絶滅したケブカサイと考えられている{{要出典|date=2016年8月}})は描かれており、これは1〜3万年前のものである。
1515年、[[アルブレヒト・デューラー]]は、サイが[[リスボン]]に輸入された時の様子を描いた無名の画家のスケッチを元にして、有名な[[犀 (木版画) | 犀の木版画]]を創作した。デューラーは実物を見ることができず{{要出典|date=2016年8月}}、描写はいくぶん不正確だが、この[[木版画]]は「動物を描写した作品のうち、これほど芸術分野に多大な影響を与えたものはおそらく存在しない」とまでいわれている作品でもある<ref>Clarke, T. H. (1986). The Rhinoceros from Dürer to Stubbs: 1515–1799. London: Sotheby's Publications. ISBN 0-85667-322-6. 20ページ</ref>。『犀』は西洋において何度も参照され、絵画や彫刻に影響を与えた。『犀』は『[[動物図譜]]』に記載され、日本にも伝わり、[[谷文晁]]がそれを模写をした『犀図』を残している<ref>『平賀源内展カタログ』(2003年)p.118</ref>。
ビルマ、インド、マレーシアでは、サイが火を潰すとする伝説がある。神話のサイは badak api ([[マレー語]]) の名称で呼ばれ、badakは犀、apiは火を意味する。森林の中で火が燃え広がるとサイが現れ、それを踏み消すとされる<ref name="Rhino fire legends">{{cite web|url=http://www.sosrhino.org/knowledge/faq.php |title=Rhinoceros Frequently Asked Questions |publisher=Sosrhino.org |accessdate=2010-09-23}}</ref>。なお、この事実が確認されたことはない。しかし、この伝説は映画「The Gods Must Be Crazy(邦題[[ミラクル・ワールド ブッシュマン]])」で紹介され有名になった。
日本や中国<ref>《国語・越語上》:“今 夫差 衣水犀之甲者億有三千。” 韋昭 注:“犀形似豕而大。今徼外所送,有山犀、水犀。”</ref>では、[[水犀]](みずさい)と呼ばれる動物が絵画などに見られる。頭には角、背中に[[甲羅]]、足には蹄を持つとされる{{要出典|date=2016年8月}}。平安末期の国宝[[鳥獣人物戯画]]の乙巻には、[[虎]]・[[象]]・[[ライオン|獅子]]・[[麒麟]]・[[竜]]といった海外の動物や架空の動物とともに水犀が描かれている。江戸末期の[[北斎漫画]]にも水犀が描かれている。[[世界遺産]] [[日光東照宮]]の[[拝殿]]東面、妻[[虹梁]]下にも水犀(通天犀とも)が彫刻されている。
中国では、現在でも犀の角で作られた彫刻や工芸品が重宝され売買されている。中国の検索サイトで犀角を検索すると、検索結果に価格や鑑定方法が挙がる(2016年現在)。西洋諸国の[[サーカス]]では、サイを使うショープログラムがある。現在、多くの国の動物園でサイは飼育展示されている。
韓国の[[雙龍自動車|サンヨン自動車]]が製造/販売する[[スポーツ・ユーティリティ・ビークル|SUV]]「[[雙龍・ムッソー|ムッソー]]」は同車の韓国語版記事によると車名の由来は韓国語でサイを意味する「무소」から来ているとされ、実際初代の車名ロゴの「M」からはサイの角らしきものが生えている。
===サイの輸送===
2010年代以降、ナミビアではサイの[[遺伝的多様性]]を確保するため、生息地間で空輸を行うようになった。現地ではサイの空輸を[[ヘリコプター]]で[[逆さ吊り]]にして行っていたことから、[[コーネル大学]]の研究者がサイの健康への影響調査を実施、結果として横向きや横ばいの姿勢よりも逆さ吊りの方が血流に問題が生じないことが明らかになった。この研究は2021年に[[イグノーベル賞]]を受賞した<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.bbc.com/japanese/58510845 |title=サイを逆さづりで運ぶのは安全? イグ・ノーベル賞が発表 |publisher=BBC |date=2021-09-10 |accessdate=2021-09-10}}</ref>。
===サイを用いた用語===
* 灰色のサイ(Gray Rhino) - [[金融市場]]において破局的な結果を招くと多くの者に予見されているにもかかわらず、軽視されがちな材料(問題)を示す。普段の性格はおとなしいが、一度暴走し始めると誰も手に負えなくなるサイの性格に由来する<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.ifinance.ne.jp/glossary/souba/sou456.html |title=灰色のサイ |website=金融経済用語集 |publisher=fvgate Inc.|accessdate=2021-10-06}}</ref>。
== 出典 ==
* {{Cite book|和書
|author = [[遠藤秀紀]]
|title = 哺乳類の進化
|year = 2002
|publisher = [[東京大学出版会]]
|isbn = 978-4-13-060182-5
|pages = 92 - 99, 186 - 190, 222 - 235頁
}}
== 関連項目 ==
* [[グミヤー]]:グミヤーは犀で世界を創造する。
* [[小泉小太郎伝説]]:小太郎は犀川流域を開拓したと言われている。
{{デフォルトソート:さい}}
[[Category:奇蹄目]]
[[Category:犀|*]]
[[Category:中国神話]]
[[Category:日本神話]]