速飄神
概要[編集]
『先代旧事本紀』の他の箇所では、 饒速日尊は、天神御祖の詔を受け、天盤船(あまのいわふね)に乗って 河内国河上の哮峰(いかるがのみね)に天降り坐し、 大倭国鳥見白庭山(とみしらにわのやま)に遷り坐す。
饒速日尊は、長髄彦の妹御炊屋姫(みかしやひめ)を娶り妊娠させるが、子が生まれる前に、 饒速日尊は死んでしまう。
高皇産霊尊、速飄神に命じて 「吾が神御子・饒速日尊を葦原中国に遣わしたが、汝天降って戻るように伝えろ」と。
速飄別命が勅を奉りて降り来た時には、饒速日尊は既に死亡していたとある。
天孫降臨に先だって遣わされた天椎彦について、父神・天国玉神は天椎彦のすでに死去したことを知り、 疾風を遣はして屍を天上に収めさせ喪屋を造って殯し八日八夜啼哭悲歌した。(日本書紀)
神社[編集]
- 武富佐神社:長野県長野市信州新町竹房にある神社。速瓢神として祀る。
- 狗天伯社:長野県長野市大字栗田668にある神社(小祠)。おそらく速飄神のことではないか。
私的考察[編集]
この神は、「疾風」という名で、記紀神話、というよりは民間伝承の中で活躍する神のように思える。それは、人身御供の娘を助ける、という伝承で有名な、長野県の霊犬・早太郎である。この犬神は長野県駒ヶ根市赤穂にある光前寺で生まれ、静岡県の矢奈比売神社で人身御供にされた娘を助けた、という伝承を持つ。この犬神の名前が「疾風」といったとみえ、長野県側では「早太郎(はやてたろう)」、静岡県側では、「悉平太郎(しっぷうたろう)」と呼ばれている。
他にも、犬を連れた狩人が犬のおかげで大蛇から守られた、という伝承や、高野御子神のように2匹の犬を連れた神の伝承などがある。速飄神とは「風のように早く走る犬神」のことで、風神でもあり、犬神でもあると考える。「伊農波夜(犬は早い)」という言葉がある赤衾伊農意保須美比古佐和氣能命は同じ神と考える。
日本の犬神の元、ともいえる中国神話の槃瓠にも、「暴風を収めた」という伝承があり、犬神には暴風を抑え、良い風を吹かせるような機能があるようである。また、日本・中国の「良き犬神」 に共通した性質として、「天の神に仕える忠実な部下」という性質があるように思う。槃瓠には帝嚳(俊)に仕え、主人のために化け物と戦った、という伝承がある。速飄神にも天の神に仕えて忠実な伝令を務める性質がある。猟師の主人に仕えて、犬が大蛇などと戦う、という話は日本の民間伝承に見える。
尚、速飄別神という暴風を起こす神もおり、記紀神話などでは速飄神との区別がはっきりとしていないようだが、「別」とつく神は息子神であることが多いので、別々の神であり、かつ速飄神が父神、速飄別神が息子神であろうと管理人は考える。
速飄神が「白犬」であるという話はないのだが、狩の神である高野御子神が白と黒の2頭の犬を連れていた、という伝承があり、伝承的な「黒犬」の性質を持たないことから、速飄神とは「白犬」のことと思われる。
また「伏」という字は「人」に「犬」と書き、犬神に通じる言葉と考える。長野県では鉢伏、八布施という地名が、犬神信仰と関連していると考えられる。速飄神を祀る武富佐神社のある竹房地区の名も同様である。また「竹」という地名は、「田子」や「多久」といった賀茂氏と関連する地名でもあるように思う。岡谷市鉢伏山信仰に関連し、名前に「早」がつく出早雄命も速飄神の別名なのではないか、と考える。
参考文献[編集]
関連項目[編集]
- 赤衾伊農意保須美比古佐和氣能命:「伊農波夜(犬は早い)」という言葉がある出雲の犬神。速飄神と同じ神と思われる。
- 出早雄命:人間よりの性質の犬神と考える。
- 早太郎
- 志那都比古神:同じ神か。
- 速飄別命:息子神か。