ハプログループO1b2 (Y染色体)

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ハプログループO-M176 (Y染色体)(ハプログループO-M176 (Yせんしょくたい)、系統名称ハプログループO1b2とは、分子人類学で用いられる、人類のY染色体ハプログループの分類のうち、ハプログループO-M268のサブクレード(細分岐)の一つで、「M176」の子孫の系統である。2015年11月に ISOGG系統樹 が改訂されるまではハプログループO2bと呼ばれていた。

誕生

最も近縁のハプログループO1b1-K18との分岐は約31,108(95% CI 22,844 <-> 34,893)年前とされている。

O-M175のサブクレードのひとつで、稲作文化を伝えた弥生人(倭人)と推定される[1]。現代の日本人や朝鮮民族の男性に多いO-K10のY-DNAの最も近い共通祖先は約7,900 (95% CI 5,624 <-> 9,449)年前に誕生したと考えられる。


一方、中国大陸における稲作文化の担い手はハプログループO1b1a1a-M95であり、現在からおおよそ6,000年前~5,000年前(即ち紀元前4千年の間に多くのサブクレードを生み出していると見られるため、その頃に中国のある地方から東南アジアへ分布を広げたのかも知れない。この分布拡大は稲作の拡散[2]年代と一致しており、稲作を携えたO-M95に属すオーストロアジア人が中国南部から東南アジア、南アジアへ移住していった歴史が推定される。


稲作文化を伝えた弥生人(倭人)が、本来の稲作文化の担い手ではなかったことが推察され、興味深く感じる。彼らはどのようにして稲作の技術と稲を手に入れたのだろうか。


O-K10に属さないO-M176は日本人(広島、福島)、韓国人(ソウル、大田)、漢族(北京、吉林省)から低頻度ながらも検出されており、最も近い共通祖先が古いものでは25,800 (95% CI 23,400 <-> 28,400)年前まで遡ると推定されている。[3] O-M176のサブクレードに属するY-DNAを合計すると、現在日本人の約3割を占める[4]

分布

ハプログループO-M176は日本人及び朝鮮民族のおよそ3割の男性に見られる。[5] 満州族では33.7%(101人中34人)の高比率で観察された一例があるが[6]、その他の研究では0%(37人中0人)[7]、3.3%(30人中1人)[8]、3.8%(52人中2人)[9]、5.7%(35人中2人)[10]等の低比率で観察されている。また、モンゴル[6][11]、ブリヤート[8]、ウデヘ[12]、インドネシア人[4]、ミクロネシア人[4]、ベトナム人[4]、タイ人[8]、そして中国国内に居住するダウール族[10]、ナナイ[10]、エヴェンキ[4]、シボ族[10]、漢族[13]、四川省カンゼ・チベット族自治州新龍県のチベット族(カムパ)[14]、新疆昌吉地区の回族、湖南省の瑶族・苗族・カム族でも散発的に観察された例があるが、中国及びモンゴル以外の例は傍証が無く、更なる検証が必要であろう。東アジア北東部に水稲農耕をもたらした集団との考えがあり、現代日本人に高頻度でアイヌ民族には見られないことから、弥生時代以降の倭人(弥生人)の遺伝子と想定されている[15]

私的備忘録

「朝鮮半島や中国東北部の一部地域に多いO1b2a1a2a-L682と日本人に多いO1b2a1a1-47z/K7とでは、おおよそ七、八千年の開きがある。」とのことである。この時期に「O1b2a1a」群が2分されて、地理的あるいは文化的に別れてしまう何らかの「事情」あるいは「事件」があったのではないか、と想像する。


古代中国には伏羲と女媧という神々がいて、大雑把に言うと、彼らが人類の先祖である、という神話・伝承がある。日本ではイザナギ・イザナミの神話があって、彼らも「人類の先祖である」という形式ではあると思うが、中国神話の女媧に相当するイザナミは「焼き殺された神」とされており、これは焼畑農業との関連が示唆される、と個人的には思うが、「母なる神」の焼殺は中国神話との「大きな相違」であり、神話がどの時点で、どのような事情で2分されてしまったのかが非常に興味深いといえる。ちなみに焼畑は、飛騨地方では「ナギ」と呼ぶそうである。イザナギとの関連性はあるのだろうか[16]

系統樹

出典の明記、2018年6月 ハプログループO系統の分岐については2017年9月10日改訂のISOGGの系統樹(ver.12.244)による[17]

  • O1b2(旧O2b) (P49, M176) - 日本列島朝鮮半島[8]、及び満州の一部に多い。
    • O1b2* - 韓国[3]、日本[18]
    • O1b2a (F1942/Page92)
      • O1b2a1 (CTS9259)
        • O1b2a1a (F1204,F3356,K10)
          • O1b2a1a1 (47z, K7) - 日本人琉球民族)で高頻度(約22%)、朝鮮民族で中頻度(約9%)、中国人で低頻度(約0.19%[19])に見られる。
            • O-BY45877 - 日本[18]、韓国[19](ソウル[3])、中国(上海市[3]、四川省[3]成都市[19]、安徽省安慶市[19]、河北省廊坊市[19]、山西省忻州市定襄県[19]
            • O-K2 - 日本(東京[3]、岩手[3]、青森[3])、韓国[3]
              • O1b2a1a1a (CTS1875) - 日本
                • O-Z24594
                  • O-Y165665 - 韓国[3]
                  • O-CTS1583
                    • O1b2a1a1a1 (CTS10682) - 日本(東京[3]、熊本[3]、大阪[3]
                • O-Y126418 - 日本(東京[3]、石川[3])、中国(山西省[3]
              • O1b2a1a1b (Z24598, Z24599)
                • O-Y181118 - 韓国(釜山[3])、中国(河北省[3]
                • O-Z24597 - 日本(東京[3]、山口[3]
              • O1b2a1a1c (CTS203) - 日本[18](東京[3]
                • O-ACT4054 - 日本[18](宮城[3])、中国(河南省[3]
              • O-Y178266 - 日本(東京[3])、韓国(ソウル[3])、中国(北京[3]
          • O1b2a1a2 (F2868,F3110,K4)
            • O1b2a1a2a (L682) - 朝鮮民族で高頻度(約19%[20])、日本人で中頻度(9%以下)、中国人で低頻度(約0.32%[19])に見られる。 満州族、ウデゲ族、ナナイ族などにも見られる。
              • O1b2a1a2a1 (CTS723) - 朝鮮半島
                • O-FT324383/MF173439 - 韓国[3]、日本[3]
                • O-Y24057/MF200829 - 韓国[3]、中国(山東省[3]
                  • O1b2a1a2a1a (CTS7620)
                    • O-MF14346 - 韓国[3]
                    • O-CTS4595/Y26377 - 日本[3][18]、中国(ナナイ族[3]
                  • O1b2a1a2a1b (A12448) - 韓国[3]
                    • O1b2a1a2a1b1 (PH40) - 韓国[3]、中国(北京[3])、日本[18]
            • O1b2a1a2b (F940) - 漢民族(湖南省、重慶市、広西チワン族自治区、江西省、河南省等)に稀に見られる[19][3][21]
          • O1b2a1a3 (CTS10687) - 日本[18](東京[3]等)、韓国・朝鮮[19]、中国[19]、モンゴル[18]で稀に見られる
            • O1b2a1a3a (CTS1215)
        • O1b2a1b (CTS562) - 韓国・朝鮮[3][18]、日本[3][18]、中国[3][19]で稀に見られる
      • O1b2a2 (Y72638) - 日本(広島[3])、中国(吉林省[3]

頻度

国内の頻度

日本国内ではハプログループD1bと並んで多くの地域で多数派を占める。

  • 沖縄 19.4%(沖縄県立開邦高等学校)[33]、22.2%[4]、23.0%[34]、26.5%(沖縄県立八重山高等学校及び沖縄県立八重山商工高等学校)[33]、28.9%(沖縄県立宮古高等学校)[33]
  • 九州 27.1%(佐賀県立致遠館高等学校)[33]、32.1%[4]、34.0%(長崎市)[35]、35.3%(福岡市)[35]
  • 徳島 30.0%[4]、33.5%[35]
  • 大阪市 28.2%[35]
  • 金沢市 28.0%(成人男性)[35]、32.6%(学生)[35]
  • 静岡 34.4%[4]
  • 川崎市 34.3%[35]
  • 東京 31.6% (JPT)[3]、32.7%[36]
  • 千葉 31.8%[36]
  • 青森 30.4%(青森県立八戸北高等学校及び青森県立三本木高等学校)[33]、30.8%[4]
  • 札幌市 27.7%(成人男性)[35]、31.8%(学生)[35]

稲作・遺跡・土器との関連

崎谷満は稲の品種を根拠にしてO-M176に属す集団は2800年前に中国江南から山東半島、日本列島、朝鮮半島へ水稲栽培をもたらしたと主張しているが中国江南にはO-M176が殆ど発見されていない研究結果から信憑性は低いとされている[15]。O-M176は現代では日本及び韓国・朝鮮に高頻度であり、それら以外の地域に起源をもつと結論付けられる様な証拠が現時点では未だに無い。

縄文時代終末から弥生時代にかけて広くみられる刻目突帯文土器に似た土器が沿海州南西部のシニ・ガイ文化にみられる[37] ことから、刻目突帯文土器およびこれを携えたハプログループO1b2に属す弥生人の起源を沿海州南西部に求める見方がある。

参考文献

関連項目

参照

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  3. 3.00 3.01 3.02 3.03 3.04 3.05 3.06 3.07 3.08 3.09 3.10 3.11 3.12 3.13 3.14 3.15 3.16 3.17 3.18 3.19 3.20 3.21 3.22 3.23 3.24 3.25 3.26 3.27 3.28 3.29 3.30 3.31 3.32 3.33 3.34 3.35 3.36 3.37 3.38 3.39 3.40 3.41 3.42 3.43 YFull Haplogroup YTree v5.05 at 30 July 2017. Accessed 17 August 2017.
  4. 4.00 4.01 4.02 4.03 4.04 4.05 4.06 4.07 4.08 4.09 4.10 4.11 4.12 4.13 4.14 4.15 4.16 Hammer, Michael F.; Karafet, Tatiana M.; Park, Hwayong; Omoto, Keiichi; Harihara, Shinji; Stoneking, Mark; Horai, Satoshi (2006). "Dual origins of the Japanese: Common ground for hunter-gatherer and farmer Y chromosomes". Journal of Human Genetics 51 (1): 47–58. doi:10.1007/s10038-005-0322-0. PMID 16328082
  5. ただし、朝鮮半島や中国東北部の一部地域に多いO1b2a1a2a-L682と日本人に多いO1b2a1a1-47z/K7とでは、おおよそ七、八千年の開きがある。
  6. 6.0 6.1 6.2 6.3 Katoh, Toru; Munkhbat, Batmunkh; Tounai, Kenichi; Mano, Shuhei; Ando, Harue; Oyungerel, Ganjuur; Chae, Gue-Tae; Han, Huun; Jia, Guan-Jun; Tokunaga, Katsushi; Munkhtuvshin, Namid; Tamiya, Gen; Inoko, Hidetoshi (2005). "Genetic features of Mongolian ethnic groups revealed by Y-chromosomal analysis". Gene 346: 63–70. doi:10.1016/j.gene.2004.10.023. PMID 15716011.
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  10. 10.0 10.1 10.2 10.3 Yali Xue, Tatiana Zerjal, Weidong Bao, Suling Zhu, Qunfang Shu, Jiujin Xu, Ruofu Du, Songbin Fu, Pu Li, Matthew E. Hurles, Huanming Yang, and Chris Tyler-Smith, "Male Demography in East Asia: A North–South Contrast in Human Population Expansion Times." Genetics 172: 2431–2439 (April 2006). DOI: 10.1534/genetics.105.054270
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  31. O1bまでしか特定されていない。論文中の系統名称は2012年時点のものであることに注意。
  32. 田島等の2004年の論文"Genetic Origins of the Ainu inferred from combined DNA analyses of maternal and paternal lineages"にある、O(O1a,O2を除く)=28.6%による。その分布域から、O(O1a,O2を除く)≒O1b2と推定したもの。
  33. 33.0 33.1 33.2 33.3 33.4 Shoji Totsuka, The Super Science High School Consortium, Youichi Sato, and Masashi Tanaka, "A study of the geographic distribution of Y chromosomal and mitochondrial DNA haplogroups in Japanese population by Super Science High School Consortium (SSH)." Anthropological Science (Japanese Series) Vol. 124(2), 85–91, 2016.
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