「邪視」の版間の差分
7行目: | 7行目: | ||
ちなみに邪視という言葉は博物学者南方熊楠による訳語であり、彼が'''邪視'''という概念を日本に紹介した<ref>鶴見和子, 1981, 南方熊楠, 講談社学術文庫, p191p</ref>。 | ちなみに邪視という言葉は博物学者南方熊楠による訳語であり、彼が'''邪視'''という概念を日本に紹介した<ref>鶴見和子, 1981, 南方熊楠, 講談社学術文庫, p191p</ref>。 | ||
− | == 中東とヨーロッパの邪視 == | + | == 地域毎の邪視 == |
+ | === 中東とヨーロッパの邪視 === | ||
いくつかの文化では、邪視は人々が何気なく目を向けた物に不運を与えるジンクスとされる。 他方ではそれは、妬みの眼差しが不運をもたらすと信じられた。南ヨーロッパそして中東では、青い瞳を持つ人間には邪視によって故意に、あるいは故意ではないものの、呪いを人々にかける力があるとして恐れた。 | いくつかの文化では、邪視は人々が何気なく目を向けた物に不運を与えるジンクスとされる。 他方ではそれは、妬みの眼差しが不運をもたらすと信じられた。南ヨーロッパそして中東では、青い瞳を持つ人間には邪視によって故意に、あるいは故意ではないものの、呪いを人々にかける力があるとして恐れた。 | ||
+ | ヨーロッパ人の間では、地中海沿岸が最も邪視の信仰が強い。 | ||
+ | |||
+ | また邪視の信仰は北ヨーロッパ、特にケルトの圏内へ広まった。 | ||
+ | |||
+ | == 邪視を防ぐ方法 == | ||
+ | === 中東とヨーロッパ === | ||
中東では、邪視に対抗するアミュレットとして青い円の内側に黒い円の描かれた塗られたボール(または円盤)が用いられた。 同様のお守りとしてファーティマの手がある。同様の目的で広くユーラシアでは天然石の虎目石や天眼石(縞瑪瑙)も利用される。 | 中東では、邪視に対抗するアミュレットとして青い円の内側に黒い円の描かれた塗られたボール(または円盤)が用いられた。 同様のお守りとしてファーティマの手がある。同様の目的で広くユーラシアでは天然石の虎目石や天眼石(縞瑪瑙)も利用される。 | ||
− | + | 邪視を防ぐ伝統的な方法として地中海沿岸の船の舳先に大きな目が描かれているのをしばしば目にする。 | |
− | + | 古代ローマでは、'''ファリックチャーム'''('''陽根'''の魔除け)が対邪視に有効とされた(cf.金精様:アイヌにも似た迷信があった)。同じく邪視から身を守る動作として'''コルナ'''または'''マノ・コルヌータ'''(人差し指と小指を伸ばして後の指は握り込む動作)、'''マノ・フィコ'''(親指を人差し指と中指の間に挟んで握り込む動作<ref>谷川健一『[https://books.google.co.jp/books?id=YvIzIGh9AaAC&pg=PA27&lpg=PA27&dq=%E5%A5%B3%E9%99%B0%E3%81%AB%E3%81%8E%E3%82%8A&source=bl&ots=8lWuAH--v_&sig=FvRXznrQa1Q9YBSd6g42cVBfoR8&hl=ja&sa=X&ved=0CDsQ6AEwBWoVChMI0oTAuY2KyAIVSSmUCh2Y6Qzd#v=onepage&q=%E5%A5%B3%E9%99%B0%E3%81%AB%E3%81%8E%E3%82%8A&f=false 古代歌謡と南島歌謡: 歌の源泉を求めて]』春風社, 2006年、p.27.</ref>で古代ローマでは男性器を表す)がある。また今日侮蔑の意味でつかわれるファックサインは、元来古代ローマでは上記のサイン同様に邪視除けのサインであった。<ref>著者: アルベルト・アンジェラ、 関口英子、 佐瀬奈緒美『[https://books.google.co.jp/books?id=NLw_DwAAQBAJ&pg=PT183&lpg=PT183&dq=%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%B3+%E9%82%AA%E8%A6%96&source=bl&ots=YS-x94l6_B&sig=ACfU3U2T7rop27tXQWrfitTevR26BtRkog&hl=ja&sa=X&ved=2ahUKEwig0bGyqIHrAhWEKqYKHbgfCUEQ6AEwBnoECB4QAQ#v=onepage&q=%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%B3%20%E9%82%AA%E8%A6%96&f=false 古代ローマ人の愛と性 官能の帝都を生きる民衆たち]』 | |
− | |||
河出書房新社,2014年.</ref> | 河出書房新社,2014年.</ref> | ||
− | |||
− | + | その一方でプリアーポスは侮辱の意味でも使われたことから両面性を持ち合わせたサインでもある可能性が残る。 | |
− | + | === 日本 === | |
+ | 同様に日本でも縄文時代に儀式に用いられたと考えられている男性器を模した石棒が出土している。 | ||
+ | === 南アメリカ === | ||
+ | ブラジルでは、 マノ・フィコの彫刻を幸運のチャームとして常に持ち歩く。これらの風習は、邪視文様を'''ほと(女陰)'''として見たときに対応する男性器の象徴で対抗する、あるいは眼に対して先端恐怖症を想起させる事や、見るに堪えない見苦しいもので対抗する呪術の方法である。 | ||
+ | === 北アメリカ === | ||
+ | 邪視の迷信は[[ヨーロッパ]]から[[アメリカ州]]に持ち込まれた。[[1946年]]に[[アメリカ合衆国]]の[[マジシャン (奇術)|マジシャン]]、[[アンリ・ガマシュ]]が出版した邪視についてのいくつかのテキストは[[アメリカ合衆国南部]]の[[ブードゥー教|ヴードゥー]]医に影響を与えた。 | ||
== 関連項目 == | == 関連項目 == | ||
38行目: | 48行目: | ||
* [[天眼石]]・天眼[[天珠]]・[[虎目石]] | * [[天眼石]]・天眼[[天珠]]・[[虎目石]] | ||
* [[眼状紋]]/[[蛇の目]]/[[猪目]] | * [[眼状紋]]/[[蛇の目]]/[[猪目]] | ||
− | |||
− | |||
* [[獣眼]]及び[[蛇眼]](スリット型瞳孔→[[瞳孔#動物の瞳孔]])・[[車輪眼]]([[重瞳]]ともいわれる[[多瞳孔症]]も含まれる)・[[四白眼]]・[[三白眼]] - [[人相学]]で[[凶相]]とされ[[犯罪]]傾向が強いとされる。 | * [[獣眼]]及び[[蛇眼]](スリット型瞳孔→[[瞳孔#動物の瞳孔]])・[[車輪眼]]([[重瞳]]ともいわれる[[多瞳孔症]]も含まれる)・[[四白眼]]・[[三白眼]] - [[人相学]]で[[凶相]]とされ[[犯罪]]傾向が強いとされる。 | ||
* [[心眼]]・[[浄眼]]([[仏教]])・[[慧眼]](炯眼・洞察眼)・[[清眼]](正眼・青眼・星眼・晴眼) - 邪視・魔眼の対義語で[[洞察]]や正しい[[八識|見識]]によって真実を見抜く(看破する)、または邪悪なものを取り除く眼のこと。それができる人物や事象を[[見鬼]](けんき:[[鬼]]≒この世ならざるものを見る事)とも呼ぶ。 | * [[心眼]]・[[浄眼]]([[仏教]])・[[慧眼]](炯眼・洞察眼)・[[清眼]](正眼・青眼・星眼・晴眼) - 邪視・魔眼の対義語で[[洞察]]や正しい[[八識|見識]]によって真実を見抜く(看破する)、または邪悪なものを取り除く眼のこと。それができる人物や事象を[[見鬼]](けんき:[[鬼]]≒この世ならざるものを見る事)とも呼ぶ。 |
2025年1月4日 (土) 05:32時点における版
邪視(じゃし)は、世界の広範囲に分布する民間伝承の一つ。悪意を持って相手を睨みつけることにより、対象者に呪いを掛ける魔力。イーヴィルアイ(evil eye)、邪眼(じゃがん)、魔眼(まがん)とも言われる。
様々な民族の間でこの災いに対する信仰は形成されている。また、邪視、邪眼はしばしば魔女とされる女性が持つ特徴とされ、その視線は様々な呪いを犠牲者にもたらす。
邪視によって人が病気になり衰弱していき、ついには死に至ることさえあるという。
ちなみに邪視という言葉は博物学者南方熊楠による訳語であり、彼が邪視という概念を日本に紹介した[1]。
地域毎の邪視
中東とヨーロッパの邪視
いくつかの文化では、邪視は人々が何気なく目を向けた物に不運を与えるジンクスとされる。 他方ではそれは、妬みの眼差しが不運をもたらすと信じられた。南ヨーロッパそして中東では、青い瞳を持つ人間には邪視によって故意に、あるいは故意ではないものの、呪いを人々にかける力があるとして恐れた。
ヨーロッパ人の間では、地中海沿岸が最も邪視の信仰が強い。
また邪視の信仰は北ヨーロッパ、特にケルトの圏内へ広まった。
邪視を防ぐ方法
中東とヨーロッパ
中東では、邪視に対抗するアミュレットとして青い円の内側に黒い円の描かれた塗られたボール(または円盤)が用いられた。 同様のお守りとしてファーティマの手がある。同様の目的で広くユーラシアでは天然石の虎目石や天眼石(縞瑪瑙)も利用される。
邪視を防ぐ伝統的な方法として地中海沿岸の船の舳先に大きな目が描かれているのをしばしば目にする。
古代ローマでは、ファリックチャーム(陽根の魔除け)が対邪視に有効とされた(cf.金精様:アイヌにも似た迷信があった)。同じく邪視から身を守る動作としてコルナまたはマノ・コルヌータ(人差し指と小指を伸ばして後の指は握り込む動作)、マノ・フィコ(親指を人差し指と中指の間に挟んで握り込む動作[2]で古代ローマでは男性器を表す)がある。また今日侮蔑の意味でつかわれるファックサインは、元来古代ローマでは上記のサイン同様に邪視除けのサインであった。[3]
その一方でプリアーポスは侮辱の意味でも使われたことから両面性を持ち合わせたサインでもある可能性が残る。
日本
同様に日本でも縄文時代に儀式に用いられたと考えられている男性器を模した石棒が出土している。
南アメリカ
ブラジルでは、 マノ・フィコの彫刻を幸運のチャームとして常に持ち歩く。これらの風習は、邪視文様をほと(女陰)として見たときに対応する男性器の象徴で対抗する、あるいは眼に対して先端恐怖症を想起させる事や、見るに堪えない見苦しいもので対抗する呪術の方法である。
北アメリカ
邪視の迷信はヨーロッパからアメリカ州に持ち込まれた。1946年にアメリカ合衆国のマジシャン、アンリ・ガマシュが出版した邪視についてのいくつかのテキストはアメリカ合衆国南部のヴードゥー医に影響を与えた。
関連項目
- アペプ:エジプト神話の神。戦う際に魔法の視線を使った、とされる。
- ハムサ - 中東を中心に使用される、邪視からの護符。
- バロール - ケルト神話の神、邪視を持つと言われる。
- サリエル - 大天使。邪視を持つため、堕天使と考えられる事がある。見ただけで相手を身動き出来なくさせたり、死に至らしめる。
- メドゥーサ - ギリシャ神話に登場する女神。あるいは悪魔。眼を合わせたものを石に変える魔眼を持つという。
- バジリスク - ヨーロッパの想像上の生き物であり、蛇の王。見たものは命を落とすと言われている。
- コカトリス - ヨーロッパの想像上の生き物でニワトリの身体と蛇の尾を持つ。上記のバジリスクと同一視されることがある。
- カトブレパス - 西エチオピアに住むとされた動物。眼を見た人間は即死するとされる。
- ファロステンプレート:要曖昧さ回避
- 天眼石・天眼天珠・虎目石
- 眼状紋/蛇の目/猪目
- 獣眼及び蛇眼(スリット型瞳孔→瞳孔#動物の瞳孔)・車輪眼(重瞳ともいわれる多瞳孔症も含まれる)・四白眼・三白眼 - 人相学で凶相とされ犯罪傾向が強いとされる。
- 心眼・浄眼(仏教)・慧眼(炯眼・洞察眼)・清眼(正眼・青眼・星眼・晴眼) - 邪視・魔眼の対義語で洞察や正しい見識によって真実を見抜く(看破する)、または邪悪なものを取り除く眼のこと。それができる人物や事象を見鬼(けんき:鬼≒この世ならざるものを見る事)とも呼ぶ。
- 狐の窓 - 「狐の穴」「狐格子」とも呼ばれる。この世ならざるものを看破する浄眼の法のひとつ。現在ではおまじないとされている。
- 金精神
- 金剛杵
- マラ石
- ミシャグジ - 諏訪を中心に中部地方全域、関東地方の一部、近畿地方の一部まで広がる縄文中期頃を起源とした古代信仰の一つで、石棒や樹木を神体とする。
- 漫画『ダンダダン』 - 邪視(EVIL EYE)が登場。憎悪の視線を受けると、自殺したくなる。
脚注
- ↑ 鶴見和子, 1981, 南方熊楠, 講談社学術文庫, p191p
- ↑ 谷川健一『古代歌謡と南島歌謡: 歌の源泉を求めて』春風社, 2006年、p.27.
- ↑ 著者: アルベルト・アンジェラ、 関口英子、 佐瀬奈緒美『古代ローマ人の愛と性 官能の帝都を生きる民衆たち』 河出書房新社,2014年.