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、 2022年3月17日 (木) 08:32
'''蘇民将来'''(そみんしょうらい、非略体: '''<span lang="zh-hant">蘇</span>民將來'''、'''<span lang="zh-hant">蘓</span>民將耒'''、{{ndash}}<span lang="zh-hant">'''将耒'''</span><small>、など</small>)とは備後国風土記に記された人物のことであり、日本各地に伝わる[[説話]]、およびそれを起源とする[[民間信仰]]となっている。こんにちでも「蘇民将来」と記した[[護符]]は、日本各地の[[国津神]]系の神(おもに[[スサノオ]])を祀る神社で授与されており、災厄を払い、[[疫病]]を除いて、[[福]]を招く神として信仰される。また、除災のため、[[住居]]の門口に「蘇民将来子孫」と書いた札を貼っている家も少なくない<ref name=fujimaki>藤巻(1999)</ref>。なお、[[岩手県]]県南では、例年、この説話をもとにした盛大な[[蘇民祭]]がおこなわれる。[[陰陽道]]では天徳神と同一視された。
== 説話 ==
古くは[[鎌倉時代]]中期の[[卜部兼方]]『[[釈日本紀]]』に引用された『[[備後国風土記]]』の疫隈国社(えのくまのくにつやしろ。現[[広島県]][[福山市]][[素盞嗚神社 (福山市新市町戸手)|素盞嗚神社]]に比定される<ref group="注釈">素盞嗚神社境内は巨旦将来屋敷跡と伝わり、[[末社]]として疫隈国社も鎮座する。</ref>)の[[縁起]]にみえるほか、祭祀起源譚としておおむね似た形で広く伝わっている。
すなわち、旅の途中で宿を乞うた[[武塔神]](むたふ(むとう)のかみ、むとうしん)を裕福な弟の巨旦将来は断り、貧しい兄の蘇民将来は粗末ながらもてなした。後に再訪した武塔神は、蘇民の娘に[[茅]]の輪を付けさせ、蘇民の娘を除いて、(一般的・通俗的な説では弟の将来の一族を、)皆殺しにして滅ぼした。武塔神はみずから速須佐雄能神([[スサノオ]])と正体を名乗り、以後、[[茅の輪]]を付けていれば疫病を避けることができると教えたとする。<ref>[[#Matsumoto|松本 (1930)]], pp.5-6</ref>
== 蘇民将来の起源 ==
武塔神や蘇民将来がどのような神仏を起源としたものであるかは今もって判然としていない<ref name=fujimaki/>。
武塔神については、[[密教]]でいう「武答天神王」によるという説と、尚武の神という意味で「タケタフカミ(武勝神)」という説が掲げられる<ref>藤巻(1999)。原出典は[[秋本吉郎]]による日本古典文学大系『風土記』校注</ref>が、ほかに朝鮮系の神とする説もあり、[[川村湊]]は『牛頭天王と蘇民将来伝説』のなかで武塔神と妻女[[頗梨采女]](はりさいじょ)の関係と[[朝鮮]]土俗宗教である[[巫堂]](ムーダン)と[[バリ公主]]神話の関係について関連があるのではないかとの説を述べている<ref>川村(2007)</ref>。
蘇民将来についても、何に由来した神かは不明であるものの、災厄避けの神としての信仰は[[平安時代]]にまでさかのぼり、各地でスサノオとのつながりで伝承され、信仰対象となってきた<ref name=fujimaki/>。
== 祭祀 ==
蘇民将来の逸話を基に[[岩手県]]内を始め各地には[[蘇民祭]]が伝わっており、とくに[[奥州市]][[水沢市|水沢区]]の[[天台宗]]妙見山[[黒石寺]]の[[黒石寺蘇民祭]]をはじめとする岩手県内の蘇民祭は[[選択無形民俗文化財]]に選択されている。また、京都の[[八坂神社]]や[[伊勢国|伊勢]]・[[志摩国|志摩]]地方の年中行事では、厄除け祈願として、茅の輪くぐりや「蘇民将来」と記された護符の[[頒布]]、[[注連飾り]]などの[[祭祀]]が盛んに行われている。
京都祇園社の祇園祭は、元来は[[御霊]]を鎮めるためにおこなわれたのが最初であったが、平安時代末期には[[疫病神|疫神]]を鎮め、退散させるために[[花笠]]や[[山車]]を出して市中を練り歩く「やすらい(夜須礼)」の祭祀となった。山車につけられた[[山鉾]]は空中の疫鬼を追いこむための呪具、花笠は追い立てられた厄鬼を集めて[[マツ]]の呪力で封じ込めるための呪具であり、また、祭りの際の踊りは、本来、地に這う悪霊を踏み鎮める呪法であった<ref name=fujimaki/>。悪霊や疫鬼は、これらによって追い立てられて祇園感神院([[八坂神社]])に集められるが、そこには蘇民将来がおり、また、疫鬼の総元締めであるスサノオが鎮座して、その強い霊威によって悪霊や疫鬼の鎮圧・退散が祈願されたのである<ref name=fujimaki/>。
== 護符 ==
[[ファイル:Japanese Crest Seimei Kikyou.svg|thumb|140px|{{small|[[晴明紋]]|}}]]
現存する最古の蘇民将来符と目されているものは、長岡京右京六条条間南小路北側から出土した「蘇民将来之子孫者」
と書かれた札である<ref>{{Cite news |和書|title=最古の蘇民将来札~長岡京から出土したお守り~ |newspaper=伊勢新聞 |date=2002-01-20 |author=三重大学人文学部文化学科 考古学研究室 |url=http://faculty.human.mie-u.ac.jp/~koukogaku/archeologue/ise_n_p/7somin.html |accessdate=2020-05-18}}</ref><ref>{{Cite journal|和書|author = 上村和直
|title = 信仰・祭祀13「お札で、願いがかなうかしら」
|date = 2011-08
|publisher = 財団法人京都市埋蔵文化財研究所・京都市考古資料館
|journal = リーレット京都
|issue = 272
|url = https://www.kyoto-arc.or.jp/news/leaflet/272.pdf
|format =PDF}}</ref>。
蘇民将来の[[護符]]は、避疫の利益があるとされ、スサノオ(牛頭天王)と縁の深い寺社で頒布されている<ref group="注釈">蘇民将来符は、旧暦・新暦の正月といった特定時期に、氏子・檀家といった特定の者のみに頒布されるものが多く、下記寺社においていつでも誰でもが入手できるとは限らない。</ref>。護符は、紙札、木札、茅の輪、[[ちまき]]、角柱など、さまざまな形状・材質のものがある。また、単に「蘇民将来」といえば護符そのものを指すこともある。護符には「蘇民将来子孫也」「蘇民将来子孫之門」といった文言や<ref name=蘇民/>、[[五芒星|晴明紋]]が記されていることが多い。家内安全や無病息災のお守りとして門口に吊されたり、[[鴨居]]に飾られるなどする。[[八坂神社]]や[[信濃国分寺]]八日堂で頒布されるものが特に有名である。また、[[金神]]や[[歳徳神]]同様、蘇民将来も[[方位神]]として陰陽道に取り込まれ天徳神という名で呼ばれている。
; 八坂神社([[京都市]])
: [[祇園祭]]の行われる7月には社頭や各[[山鉾]]にて「蘇民将来子孫也」と記した「'''厄除粽'''(ちまき)」が授与される。[[7月31日]]には[[摂末社|摂社]]「疫神社」において「夏越祭」が行われ「'''茅之輪守'''」が授与される。他につり下げ型の'''八角木守'''もある。
; 信濃国分寺八日堂([[長野県]][[上田市]])
: 六角柱の[[こけし]]型をなす。[[上田市]]指定有形民俗文化財に指定されているほか、毎年1月7日から8日にかけての八日堂縁日での頒布習俗が「上田市八日堂の蘇民将来符頒布習俗」として国の[[選択無形民俗文化財]]に選択されている。
; [[陸奥国分寺]]薬師堂([[仙台市]][[若林区]])
: 八角柱で房のついたつり下げ型をなす。
; [[岩木山神社]]([[青森県]][[弘前市]])
: 紙製のお札で呪文と晴明紋が記されている。
; [[黒石寺]](岩手県[[奥州市]]水沢区〈旧[[水沢市]]〉)
: 当寺は[[黒石寺蘇民祭]]で有名。六角柱のつり下げ型をなす。
; [[笹野観音]]([[山形県]][[米沢市]])
: 八角柱の形状。紙製で梵字や五芒星を記したものもある。
; [[円福寺]]([[千葉県]][[銚子市]])
: 木製板状で[[梵字]]と呪文が記されている。
; [[竹寺]]([[埼玉県]][[飯能市]])
: 六角柱のこけし型。
; [[妙楽寺]](長野県[[佐久市]])
: 木製板状で梵字と呪文・晴明紋が記されている。
; [[津島神社]]([[愛知県]][[津島市]])
: 六角柱のこけし型。
; [[松下社]]([[三重県]][[伊勢市]][[二見町 (三重県)|二見町]])
: 注連飾りの形状をしており、木札に「蘇民将来子孫家門」などと記す<ref name=蘇民/>。伊勢志摩地方でよく見られる形式<ref name=蘇民>{{cite web|url=http://www.futami-somin.com/somin.htm |title=牛頭天王と蘇民将来|publisher=民話の駅 蘇民|accessdate=2020-8-31}}</ref>。
; [[祇園神社 (神戸市兵庫区)|祇園神社]]([[神戸市]][[兵庫区]])
: 六角柱のこけし型。紙の一端を[[こより]]状にしたものもある。
; [[八雲神社]]([[栃木県]][[茂木町]])
: [[八雲神社]]の総本社である[[八坂神社]]のもの<ref>{{Cite web |url=https://www.jinjakentei.jp/sp/column/column_000028.html |title=7回 八坂神社「蘇民将来守」 / ご当地「授与品」あれこれ |publisher=公益財団法人 日本文化興隆財団 |accessdate=2021-01-02}}</ref>と同じ六角柱のつり下げ型<ref>{{Cite web |url=http://www.yakumojinja.com/enkaku/pg85.html |title=授与品 |publisher=茂木 八雲神社 |accessdate=2021-01-02}}</ref>。
=== 参照 ===
== 参考文献 ==
* [[秋本吉郎]] 『日本古典文学大系2 風土記』岩波書店、1958年4月。
* [[藤巻一保]] 「蘇民将来」『歴史と旅増刊 もっと知りたい神と仏の信仰事典』秋田書店、1999年1月。
* [[川村湊]] 『牛頭天王と蘇民将来伝説 消された異神たち』[[作品社]]、2007年8月。ISBN 978-4861821448
== 関連項目 ==
*
== 外部リンク ==
* [https://www.k-shinichi.com/spot?id=7 新市町観光協会~素盞嗚神社(天王さん)]
* [http://museum.umic.jp/somin/category_top/s_index.html 蘇民将来符{{ndash}}その信仰と伝承:八日堂蘇民将来符]
* {{地域文化資産ポータル2|from=11|ContentID=262|name=蘓民将来符 ~願いは永久に~ 上田市八日堂蘓民将来符頒布習俗の記録|date=20160302121007}}
<!-- * [http://www.ne.jp/asahi/maroudo/somin/index.html 「客神の足跡」:祭り・芸能・信仰(渡来の文化)]{{リンク切れ|date=2015年1月}} -->
* {{NAID外部リンク|110007330856|川村湊著, 『牛頭天王と蘇民将来伝説-消された異神たち-』, 作品社, 二〇〇七年九月一一日刊, 四六判, 三九九頁 KAWAMURA Minato, Gozu Tenno and Legends of Somin Shorai}}
* {{Cite journal |和書|author = 松本信廣 |authorlink = |title =外者款待傳説考 |date =1930.3 |publisher =三田史学会 |journal =史学 |volume =9 |issue =1 |issn =03869334 |pages =1-26 |ref =Matsumoto }}
{{DEFAULTSORT:そみんしようらい}}
[[Category:日本神話]]