バジ
バジは台湾原住民の伝承に登場する邪視の持ち主。邪視の伝承の原型ではないだろうか。バリという名もある。
邪視男バジの話[編集]
台湾のパイワン族中部パイワン群チャジャアプス社(ライ社)に次のような伝承がある。
昔バジという男がいた。その親指の節間と両眼とに、怪光あり。これに射られた者はみな死んだ。よって、家人が食事を与える時は、頭に布を被らせた。ある日、漢人がバジを殺して、その首を布に包んで持ち帰った。ウジジジュジで包みを開くと、その目はなお赤く光り、漢人はみなこれに射られて死んだ。バジの住んだ家の跡は未だにあるという。[1]。
バリ[編集]
台湾のパイワン族中部パイワン群カビヤガン社の伝承。
昔バリになった(目から光の出る)人がいた。彼が見るものは何でも死んでしまった。配下は彼を恐れて、山の中に家を作り、彼をそこへ送った。しかし、食べ物は与えていた。その費用が大変なので、バリを殺そうとした。バリは切りつけられると、怒って睨みつけたので、切りつけた本島人は死んでしまってわずかしか残らなかった。バリが死んだので、首を取って布に包み、家に持ち帰った。ところが、見物に来た人たちはみなバリの目を見ると死んでしまった。「これはいけない」ということで生き残った人々は首を川へ持って行って淵の中に入れた。それからそこは常に不吉で、そこへ行くとみな病気になるそうだ[2]。
おそらく類話[編集]
祟り[編集]
兵庫県美方郡小代村熱田では昔悪い事をする人があったのでみんなで殺したが、それから祟りがあり色々と災いが起こったので神として祀ったという[3]。
私的解説[編集]
兵庫県美方香美町郡小代区新屋、現在は廃村となり、熱田集落跡、とのこと。約800年前に尾張国熱田神宮に仕えた田野氏が移住して開いた集落である。善光寺から勧請されたとも言われる薬師如来像が祀られている観音堂がある。但馬牛再興の地として名高く、豪雪地帯で「秘境」と呼ばれていた。兵庫県だけれども、東国の気配が感じられる集落である[4]。
私的解説[編集]
台湾原住民の「邪視」男は、その眼が赤く、怪しい光を放つ、というのが定番のようである。「射られた」という言葉にあるように、これは「弓矢」のような武器に長けた者のことを指していると思われる。また、「火」のような光線を放つことから、祝融のように火を自在に操る神のことを連想させる。
おそらくこれは、弓の名人である羿のような黄帝型の英雄神と、祝融のような火神を習合させた合成神ではないか、と考える。ここから
が派生したと考える。中東より西にはバジのような人の害を避けるにはどうしたら良いか、という考えが広がったが、中国よりも東では邪視の思想はあまり広がらず、死んで「悪神としての水神」と化してしまったバジにどう対応するのか、という点に重点が置かれたのではないだろうか。その結果、河伯に人身御供を妻として捧げて慰撫したり、首を切られた河伯になぞらえた人身御供の首をはねたりしていたと思われる。この「はねられた首」を饅頭におきかえて神に捧げるようになったのだろう。
関連項目[編集]
脚注[編集]
- ↑ 神々の物語、台湾原住民文学選5、紙村徹編、草風館、2006、p322、『番慣』第五巻ノ一、p192
- ↑ 神々の物語、台湾原住民文学選5、紙村徹編、草風館、2006、p323、『原語』pp271-273
- ↑ 怪異・妖怪伝承データベース、国際日本文化研究センター(最終閲覧日:25-01-06)
- ↑ 純血種が奇跡的に残った”和牛の聖地”廃村「熱田集落」(最終閲覧日:25-01-06)