イスタヌ

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ヒッタイトの壁画におけるヘバト女神
(紀元前1000~900年頃)

イスタヌ(Istanu) (Ištanu; ハッティ族:Estan, "太陽女神") はヒッタイトとハッティ族の太陽女神である。ルウィ語では「ティワズ(Tiwaz)」あるいは「ティヤズ(Tijaz)」という。

女神は司法の神であり、冠または頭飾りの上に太陽鳥をのせて、ゆがんだ杖を持った姿で描かれた。

私的解説

本項では、最新の学説に基づき、イスタヌを女神として扱っています。そのため、原文とは神の性別が異なっています。

イスタヌの語源について

本項では、イスタヌ(Istanu)の語源について考察を行ってみたい。
古代において、神の名に「t」や「n」という子音をつけるのは、当初は神のトーテムを「蛇」に変えるための作業であったと思われる。例えばヘバト女神の名が登場する時代には、「ヘバト(Hebat)」と「t」という子音を語尾につけても、「ヘバ(Heba)」のままで使用していても、一般的にはどちらも「同じ神」として認識されていたようである。おそらく時代が下ると、蛇を意味する子音の一部は「女性の名前につける子音」として習慣的に女神の名につけるものへと移行していったのではないだろうか。
各地の神々の名を見てみると、古代エジプトでは女神の名の末尾に「-t」という子音をつけ、「パン」を意味する半月状のヒエログリフがその音に充てられていることが分かる。一方、メソポタミアでは女神の名前の頭に「Nin-」という文字をつけることが多い。そして、これがウガリットといった地中海東岸地域へ移ると、女神の末尾に「-nin」という子音をつけることになるようである。そしてこれが省略されて縮まると「-n」という子音が名前の一番最後につけられることになる。要するに

  • 「-t」と、末尾に「-t」が付く場合 → エジプト的
  • 「Nin-」と、名前の頭に「Nin-」が付く場合 → メソポタミア
    • 「-nin」あるいは「-n」と末尾に「-n」が付く場合 → 地中海東岸地域的

となる。このように考えると、イスタヌ(Istanu)あるいはエスタン(Estan)という名前は、語尾に「n」が付くという点で、地中海東岸地域的な名前であるといえる。これらの名前から「n」という子音を省くと

  • イスト(Ist)あるいはエスト(Est)

となる。こうすると、名前の末尾に「t」が付くこととなり、これはエジプト的な名前ということになる。要するに、イスタヌやエスタンはエジプト風な女神の名に、地中海東岸地域的な語尾変化が付け加わったもの、といえる。
また、「I」あるいは「E」という母音が「K」あるいは「H」という子音と交通性があり、かつ「s」という子音も「k」という子音と交通性があることを考えると、イスト(Ist)あるいはエスト(Est)は

という女神の名と交通性があることが分かる。ヘケトは月神クヌムの配偶神とされる蛙の女神で、多産の象徴であると共に、出産を助けたり、治療を行うという医療的な神でもあった。古代エジプトにおける「蛙」神はヘバト女神のような「循環をもたらす太陽神」と共通な性質を持つ場合が多いため、ヘケト女神も本来は「循環をもたらす太陽神」であり、月神クヌムと一対で水源や世界を形成する神であったと思われる。図像で示されることは少ないが、おそらくヒッタイトにおけるヘバト女神も「蛙」がトーテムの一部としてみなされていたであろう。また「蛙の太陽女神」を現すのに、

という主に2種類の名が存在し、どちらも同じ意味であると人々が考えていたことが分かる。要するにイスタヌあるいはエスタンの語源は古代エジプトの「ヘケト」であり、意味するところは「豊穣の太陽の蛙」であった。

関連項目

外部リンク

原文