アダパについて

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ウバイド期(紀元前5500年ごろ~3500年ごろ)のメソポタミア

アダパとはメソポタミア神話において、都市エリドゥの守護神であるエンキの使いとされる半神半人である。

半魚神としてのアダパ

球状アンフォラ文化
メソポタミアに関連した地域の位置関係

アダパは淡水魚である鯉として顕される一方で、海の向こうの「ディルムン」からやってきて人間に技術や知恵を授けてくれる渡来神としての性質を持っている。
本来川魚である淡水魚は海に住めず、その一方で海の魚は川に住めない(通し回遊を行う回遊魚以外は)。そのため、アダパの神話では、内陸地の淡水魚信仰と海洋民族の渡来神信仰が習合していると考える。

淡水魚(主に鯉神)として

  • 鯉は中央アジア原産で、洋の東西で食用とされる。

関連する神話

  • 中国では、鯉が滝を登ると竜になるということで、特別な魚とされた。
  • 古代エジプトでは、ラトポリス(現在のエスナ)において、ナイルパーチがネイト女神の象徴の一つとされていた。ナイルパーチが犠牲として捧げられたという点は、シュメールにおけるエンキ神の鯉と相関している。また、古代エジプト神話において、ネイト女神はエンキ神と同様「叡智の神」とされている。[1]
  • 古代エジプトの、ナイル川デルタ地帯の町、メンデスにおいては、ハトメヒトという女神が信仰された。女神の象徴である魚は、ナマズ(スキルベ)[2]、コイ、イルカ等諸説あるようである。[3]
  • ヨーロッパでは、古代に球状アンフォラ文化[4]が存在した地域と、それに隣接するヤムナ文化の西端が存在した地域では、現在も鯉は「聖なる魚」とみなされて、クリスマスのご馳走とされている。
  • ケルト神話の英雄フィン・マックールは「叡智の鮭」を食べて知恵を手に入れた。

考察

内陸部に起源を持つ信仰である。古代メソポタミアは北方に位置するコーカサス地方との交流が活発であるので、おそらく中央アジアの文化が北方の遊牧民を経由して伝播したものではないだろうか。コーカサス地方でも鯉は食用とされるようである。[5] 古代エジプトにおけるネイト女神はシュメールにおけるエンキ神と同様、原始の「水の神」とみなされており、当初は性も存在しなかったようである。そのため、時代が下ると様々な動物が彼女のトーテムとされるようになり、その内の一つにナイルパーチが存在した。
「原始の水」が創造神としてのみでなく、「人間に叡智をもたらすもの」として信仰の対象とされることは、シュメールでも古代エジプト神話でも一致している。ただし、古代エジプトでは、ハトメヒト女神の前身と思われるメヒト女神が獅子頭で顕され、セクメト女神とも関連がみられることから、本来古い時代の地母神は太陽女神である「獅子頭女神」として顕され、その後魚神としての性質も取り入れたものではないかと個人的には推察する。

半魚の海神として

関連する神話

  • フェニキアには海の神としてダゴンという半人半魚の神が信仰されていた。
  • ギリシア神話にはトリートーンという半人半魚の神がいる。トリートーンは大洪水の際に人類を助けてくれた神といわれており、メソポタミアのエンキと性質が類似している。トリトーンは上半身が人、下半身が魚、前足が馬だと言われている。
  • ギリシア神話のアテーナー女神には、トリトーンと関連するとみられる「トリトーネス」という称号が存在する。古代エジプト人はアテーナー女神をエジプトのネイト女神と同じ神であると考えていたこと、その名が水に関連する女神と推察されうることから、神話上「魚神」としての性質は乏しいものの、アテーナー女神にはそのような一面の痕跡が認められると考える。
  • ギリシア神話の太陽神であるアポローンはデルポイの託宣所にやってくる際にイルカの姿でやってきたと言われる。
  • インドのヒンドゥー教にはヴィシュヌという神が登場する。この神は大洪水の際に「角の生えた魚」として下生し、人類を助けてくれたと言われている。この魚は幼い頃は川に住んでいたが、成長するに従って巨大化し、海にも入りきれなくなるほどであったという。

考察

アダパはペルシャ湾(あるいはペルシャ湾の彼方にあるディルムン)に住むとされている。各地にアダパあるいはエンキに類似した性質の半人半魚神がみられるため、海辺に住まう人々を中心に、ギリシア、近東、インドで信仰されていた神だったのではないだろうか。この神の性質としては、淡水魚であるのか海の魚であるのかがはっきりしていないという点であると思う。彼らは川にも海にも住まう。(ただエンキについては「淡水の神」としての性質が強調されている。)
古代ギリシアの人々は、淡水というのは海の水が地表に染みだしてくるものと考えていた。ヒンドゥー教において水神としての性質を持つヴァルナは海の中に住居を持つが、雨水といった淡水に関わる神でもある。このようにみていくと、おそらく古代の人々は淡水と海水というものにそれほど大きな差違を見いださず、ただ「水」として纏まった概念で考えていたのかもしれないと思う。
また、エンキはフルリ人やヒッタイト人の神話に、契約の神として登場し、その点でも性質がヴァルナと類似している。

考察:補足

太陽神セクメト
古代エジプトの女神
太陽神(破壊相) 獅子神(破壊相) 魚神(豊穣相)
セクメト セクメト
ネイト ネイト
メヒト ハトメヒト

太陽神としての魚神であるが、古代エジプトにおいて魚神としてみなされた神で、有力なのはネイト女神であった。またナイル川の河口付近の都市で信仰されたハトメヒト女神という神がいた。古代エジプトは太陽信仰が盛んであり、ハトメヒト女神の前身といえるメヒト女神やネイト女神は、獅子頭を持つ太陽神としてもみなされていたようである。おそらく、そこにメソポタミアを経由したか、あるいは直接北方よりもたらされた魚神信仰が習合したのではないかと推測するのだが、こうして古代エジプトにおける「叡智の女神」にはそもそも「太陽神」としてもみなされていたところに、「魚神」としての性質が習合したのではないだろうか。
その思想が再びカナン地方やシリアを経由してバビロニアにもたらされた結果、バビロニアの太陽神ネルガル(男神)に魚神としての性質が付加され、そこにアダパがさらに習合したのではないかと考える。こうして、「水の人(Aplu)」という称号がネルガルに付されることとなったが、これがギリシア神話の太陽神であるアポローンの語源となっている。ネルガルは戦争の際に敵を焼き尽くすような炎を持つ神として信仰されており、アポローンもまた戦争に関しては有能な神である。また、アポローンには「日の差さない場所で産まれるように」と呪いをかけられた、という神話が残されており、「冥界の太陽神」(冥界は「日の差さない場所」である)であるネルガルとの関連を伺わせる。そして、ネルガルとアポローンには、「叡智の神」としての性質はやや欠けるところがある点も共通している点と個人的には考える。ネルガルはギリシア方面に取り入れられると、そこで非常に人気の高かったイルカ神と習合し、デルポイのアポローン神話が誕生したのであろう。
ケルト神話のフィン・マックールは「太陽のように明るい髪をしている」人物とされ、「勇者としての太陽神」としての性質はネルガルやアポローンと一致しているが、その一方魚や水に関連して「叡智の神」である点はアテーナーと共通している。ギリシア神話において、娘アテーナーと同様「叡智の女神」とされたメーティス女神は夫であるゼウスに食べられてしまい、それ故にゼウスは「叡智」を手に入れることとなった。(そのため、父親の胎内で産まれたアテーナーはゼウスの額を割って産まれたとされる。)上位の神が、下位の魚神を食べて「叡智」を手に入れるという点で、フィン・マックールの神話とアテーナー誕生の神話は一致している。そこから考えると、フィン・マックールは、「強い力を持ち集団の頂点に立つべき神」と「太陽神」としての性質を持つ存在であり、神話の起源的にはギリシア神話の影響を受けているといえると考える。


太陽神としての性質には乏しいが、ギリシア神話におけるアテーナーには「水の神」としての性質の痕跡はより多く残っているようである。一方太陽女神としての性質であるが、古代エジプト神話において「悪の神」とされる蛇神アペプは、かつては太陽神であったと言われている。(ネイト女神はアペプの母とされ、アペプとも関連の深い神である。)ギリシア神話における「悪の神」とされる蛇神にメドゥーサがおり、アテーナーはメドゥーサの首を兜や胸当てに付けて、外的から身を守っている。
ネイト女神の豊穣相が魚神であり「叡智の神」である一方で、その破壊相が蛇神アペプであったとすると、それはギリシア神話におけるアテーナーとメドゥーサの関係と一致する。とすれば、アペプがかつて太陽神であったとすれば、メドゥーサもまた太陽女神であり、その激しい破壊をもたらす力は、「叡智の力」に制御されて、アテーナーの守護の力に変換されており、アテーナーとメドゥーサが同じ神の異なる相であれば、アテーナーもまたかつては太陽神であったであろう、とその程度に推察できる程度の痕跡しか残されていないと感じる。(同様にネイト女神にも「太陽神」としての性質は乏しい傾向にあると思われる。古代エジプト神話(そしてメソポタミアでも同様であるのだが)において、灼熱の太陽は必ずしも歓迎される存在ではなく、むしろ不吉な「破壊神」としての性質が当初は強かったのである。エジプトではそれが後に「王権の象徴」とされるようになり、メソポタミアでは「敵を破壊する軍神」とみなされるようになったが、一方「豊穣相の母神」には相応しからぬ性質のため、豊穣性が強調されるようになればなるほど、「太陽神」としての性質は弱められたのではないかと個人的には思われる。)

人の先祖としてのアダパ

関連する神話

  • 旧約聖書におけるアダムとイヴの神話のうち、アダムに関して、「人類(聖書の場合はユダヤ人)の先祖」とみなされる点と「楽園を喪失している」という点が共通している。

考察

アダパとアダムは、「人類の先祖」とみなされる点と、「楽園を喪失している」という点で共通しているが、アダムはヘブライ語で「地面」という言葉を語源に持ち、アダパとは語源的に起源が異なるように思う。
また、本来アダパは半神半人のような存在で、人の世界と神の世界を行き来する存在とみなされる傾向が強かったが、時代が下って、「人間の先祖」としての性質が強調されるようになると、「人間界に留まった理由」として「楽園を喪失した」とされるようになったと思われる。その理由として、古代メソポタミアの神話には神がより良い住環境から、より悪い住環境へと住まいを移す神話が複数みられるため、そのような神話群と相互に影響を受け、かつ個別に発達した結果、「人の先祖が楽園を喪失した」という神話が発生したのだと思われる[6]
アダムの神話はその発生起源において、メソポタミアのどの段階での「楽園喪失」神話の影響も受け得たと考える。アダムの妻のイヴとはフルリ人の女神ヘバに由来すると考えられており、その夫のアダムが土から造られたものであるということは、本来季節の象徴である地母神が、種を撒き、植物神である夫神を育て、収穫し、死に至らしめ、自らも死に至るが、また次の季節に双方が再生して新たな種まきと収穫を繰り返すという、農耕民族的な神話が根底にあったのではないかと個人的には想像する。ということは、アダムとイヴは植物神とその母にして妻である女神の組み合わせが原型であり、本来はニンフルサグの創造神話に近いものではなかったかと思う。

今後について

  • Wikipedia日本語サイトの「ダゴン」の項が今ひとつの内容のように思うので、いつか英語版を訳せればと思います。
  • とりあえずはメソポタミアの神話を引き続き訳す予定。(2014/1/17)

参照

  1. ネイト女神は紀元前3100年頃より信仰されていた。また、ナイルパーチはエジプトで食される。
  2. スキルベとは体に縞のあるナマズの一種で、アフリカに住む。当然食用に供されたようである。
  3. 参考サイト:ハトメヒトエジプト博物館Ⅶアーカイブ
    ハトメヒト女神の象徴となる魚が何であるかということを証拠資料と共に確認できるサイトがみつけられなかったので、個人的には結論を保留としておく。ただし、ナマズは第18王朝の頃(紀元前14世紀後半)にはナイルの上流でもミイラ化されており、信仰の対象とされていたということは事実のようである。ただ、ナイルデルタの河口付近の住民であれば、ギリシャ方面のイルカ信仰が伝播する可能性もあると考える。あるいは大雑把に「魚類全体の神」とみなされていたかもしれないと思うので、種の特定にそれほど深いこだわりをもって追求するのは個人的には避けたいところである。
  4. 紀元前3400年ごろから紀元前2800年ごろにかけてのヨーロッパの古代文化
  5. これ旨いのか?:グルジア風魚の素揚げスープ掛け
  6. メソポタミアにおける「楽園喪失」の神話群
    ネルガルの冥界への婿入り譚
    エンリルとニンリルの神話
    イナンナ(イシュタル)とドゥムジ(タンムーズ)の神話等

用語解説

参考リンク

  • Wikipedia
メソポタミア ヨーロッパ ケルト 古代エジプト フェニキア・カナン ギリシア・トルコ その他
近東
メソポタミア
ウバイド文化
シュメール
エリドゥ
ディルムン
イシュタル
イナンナ
エンキ
エンリル
タンムーズ
バビロニア
ネルガル
回遊
コイ
球状アンフォラ文化
ヤムナ文化
コーカサス
クリスマス











ケルト神話
フィン・マックール













古代エジプト
エスナ
エジプト神話
アペプ
セクメト
ネイト
ハトメヒト
ナイルパーチ
ナマズ目






フェニキア
フルリ人
ダゴン
旧約聖書
アダム
イヴ









ヒッタイト
ギリシア神話
ギリシャ
古代ギリシア
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アテーナー
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ゼウス
トリートーン
メーティス
メドゥーサ
イルカ




インド
ヒンドゥー教
ヴァルナ
ヴィシュヌ