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ページの作成:「'''ゲッケイジュ'''（月桂樹<ref>辻井達一, 2006, p63</ref>、学名: Laurus nobilis）は、クスノキ科ゲッケイジュ属の常緑高木。英語名か…」
'''ゲッケイジュ'''（月桂樹<ref>辻井達一, 2006, p63</ref>、学名: Laurus nobilis）は、クスノキ科ゲッケイジュ属の常緑高木。英語名から'''ローレル'''ともよばれる<ref>平野隆久監修 永岡書店編, 1997, p22</ref><ref>辻井達一, 2006, p64</ref>。<!-- 地中海沿岸原産。雌雄異株で春に黄白色の小さな花が咲く。 （== 特徴 == の内容と重複するため、どうしても必要であれば復活させてください）-->葉に芳香があり古代から用いられた。乾燥した葉は香辛料ローリエになり、葉と小枝は丸く編んだ月桂冠がよく知られている。
リンネの『植物の種』(1753年) で記載された植物の一つである<ref>Linnaeus Carolus, 1753, Species Plantarum, Holmia[Stockholm], Laurentius Salvius, page369, https://www.biodiversitylibrary.org/page/358388</ref>。
== 名称 ==
[[英語]]の Noble Laurel（ノーブル・ローレル）を[[中国語]]に訳して「月桂樹」と名付けられ、それを[[日本]]では[[音読み]]して'''ゲッケイジュ'''の[[和名]]がつけられた{{sfn|田中孝治|1995|p=144}}{{sfn|辻井達一|2006|p=64}}。別名、英語名からローレル（{{lang-en|Laulel}}）{{sfn|山﨑誠子|2019|p=48}}、ベイツリー({{lang-en|Bay Tree}}) <ref>[http://tropical.theferns.info/viewtropical.php?id=Laurus+nobilis Useful Tropical Plants Database 2014]</ref> 、スイート・ベイ ({{lang-en|Sweet Bay}}) {{sfn|田中孝治|1995|p=144}} 、ベイ ({{lang-en|Bay}}) {{sfn|正木覚|2012|p=58}}、フランス語名から[[ローリエ]] ({{lang-fr|Laurier}}) {{sfn|田中孝治|1995|p=144}}{{sfn|山﨑誠子|2019|p=48}}とよばれる。
学名の小種名 ''nobilis''（ノビリス）は、「高貴」「気品ある」を意味する{{sfn|辻井達一|2006|p=63}}。
== 特徴 ==
[[地中海]]沿岸地域の原産といわれ、地中海沿岸地域に広く分布するが、寒さによく耐えることから[[ヨーロッパ]]、[[イギリス]]、[[アメリカ合衆国|アメリカ]]などに広く伝えられた{{sfn|辻井達一|2006|p=64}}。日本へは[[明治時代]]に渡来し、明治初年には[[開拓使]]の青山の[[圃場]]に入ったといわれており{{sfn|辻井達一|2006|p=64}}、[[日露戦争]]の戦勝記念として[[東郷平八郎]]、[[上村彦之丞]]の両海軍大将によって[[日比谷公園]]に植栽されて各地に広まった{{sfn|平野隆久監修 永岡書店編|1997|p=22}}{{sfn|辻井達一|2006|p=64}}{{sfn|正木覚|2012|p=58}}。日本では[[関東地方]]から[[九州]]までの範囲で植栽される{{sfn|山﨑誠子|2019|p=48}}。萌芽力が強く、海岸や屋上などの条件が悪いところでも、丈夫に育つ{{sfn|正木覚|2012|p=58}}。[[雌雄異株]]であるが、日本には雌株が少ない{{sfn|正木覚|2012|p=59}}。
[[常緑広葉樹]]の[[高木|中高木]]で、高さは9 - 12[[メートル]]ほどになる{{sfn|田中孝治|1995|p=144}}{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2014|p=235}}。株立ちすることも多い{{sfn|平野隆久監修 永岡書店編|1997|p=22}}。[[樹皮]]は灰白色から灰色で、皮目が散在する{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2014|p=235}}。一年枝や若枝は緑色をしている{{sfn|平野隆久監修 永岡書店編|1997|p=22}}{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2014|p=235}}。枝葉を傷つけると独特の芳香がある{{sfn|田中孝治|1995|p=144}}{{sfn|平野隆久監修 永岡書店編|1997|p=22}}。葉身は、長さ5 - 12[[センチメートル]] (cm) の狭長楕円形で、濃緑色の革質で光沢があり、葉縁は波打つ{{sfn|平野隆久監修 永岡書店編|1997|p=22}}{{sfn|山﨑誠子|2019|p=48}}。葉裏はやや硬い{{sfn|山﨑誠子|2019|p=48}}。
花期は[[春]]（4 - 5月）で、[[葉腋]]に短い[[花柄]]を出して、その先端に黄白色の小花を群がって咲かせる{{sfn|田中孝治|1995|p=144}}{{sfn|山﨑誠子|2019|p=48}}。[[雌雄異株]]で、日本の株は、ほとんどが雄株である{{sfn|平野隆久監修 永岡書店編|1997|p=22}}。果実は直径1 cmほどの球形で、10月頃に黒紫色に熟し香りがある{{sfn|正木覚|2012|p=58}}{{sfn|山﨑誠子|2019|p=48}}。
冬芽は葉芽が楕円形から卵形、花芽は球形をしている{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2014|p=235}}。側芽は（葉芽）は頂芽よりも小さく、そのすぐ下にある葉痕が白っぽくよく目立つ{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2014|p=235}}。葉痕には維管束痕が1個ある{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2014|p=235}}。
<gallery>
File:Laurus nobilis1.jpg|樹皮
File:Laurus nobilis (6).JPG|葉
File:Laurus-nobilis-flowers.JPG|葉のわきに群がって小さな花をつける
File:Laurus nobilis 20130409.jpg|花
File:Laurus nobilis unripe fruit.jpg|果実
</gallery>
== 利用 ==
[[庭木]]、公園樹としての利用のほか、[[ハーブ]]として、葉は[[香辛料]]（スパイス）として煮込み料理の香味づけに、葉や実は薬用として利用される。刈り取った枝葉を採集して、陰干ししたものが月桂葉（英：ローレル、またはベイリーブス、仏：ローリエ）である{{sfn|田中孝治|1995|p=144}}。
葉には[[精油]]1 - 3%が含まれており、精油成分は[[シネオール]]約50%、[[オイゲノール]]約1.7%、[[ゲラニオール]]、[[ピネン]]、[[テルピネン]]、[[セスキペルテン]]などである{{sfn|田中孝治|1995|p=144}}。果実には、[[ラウル酸]]の[[グリコシド]]を主成分とする[[脂肪油]]約25%と、シネオール、ピネン、ラウル酸などの精油約1%を含んでいる{{sfn|田中孝治|1995|p=144}}。ゲッケイジュに含まれる精油はヒトの味覚神経を刺激し、唾液や胃液の分泌を促して食欲増進作用があるほか、浴湯料として血液循環作用がある{{sfn|田中孝治|1995|p=144}}。
葉から蒸留した油から作られる香料は、英名ベイからベイラムとよばれ、さっぱりとした香りで男性用化粧品に多い{{sfn|辻井達一|2006|p=66}}。
=== 植栽 ===
庭木や[[生け垣]]に植栽される{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2014|p=235}}。生長が早く、剪定にも強いという特徴があり、刈り込みすぎや形が不揃いであっても、それを早くリカバリーすることができ、[[トピアリー]]を容易に作ることもできる{{sfn|山﨑誠子|2019|p=48}}。
=== 食用・薬用 ===
葉、実は、それぞれ'''月桂葉'''、'''月桂実'''という生薬名を持つ。ゲッケイジュがもつ芳香は、古代から香料や料理の香りづけに使われてきた{{sfn|辻井達一|2006|p=64}}。
葉には[[シネオール]]と呼ばれる芳香成分が含まれ、葉を乾燥させたものを[[ローリエ]]（{{lang-fr|laurier}}）、ローレル（{{lang-en|laurel}}）、ベイリーフ（{{lang-en|bay leaves}}）<ref>「ベイリーフ」は[[シナニッケイ]]の葉に対しても使われる言葉である。</ref>などと呼び、肉料理などで使われる[[香辛料]]として広く流通している{{sfn|辻井達一|2006|p=64}}。[[カレー]]や[[シチュー]]などの煮込み料理に、好みの応じて1 - 3枚ほどのローリエ（ローレル）が使われる{{sfn|田中孝治|1995|p=144}}。
浴湯料として月桂葉を布袋に入れて[[風呂]]に浮かべておくと、[[肩こり]]、[[神経痛]]、[[リウマチ]]、[[冷え症]]、[[腰痛]]、[[筋肉痛]]などの痛みを和らげたり、疲労回復に役立つ{{sfn|田中孝治|1995|p=144}}。果実は健胃剤につかわれる{{sfn|平野隆久監修 永岡書店編|1997|p=22}}。民間では、実を日本薬局方アルコールやローションに1週間ほど浸した液が、頭髪の発毛・育毛剤として利用できる{{sfn|田中孝治|1995|p=144}}。
ゲッケイジュ葉には強い[[アルコール]]吸収抑制活性が認められる。その活性本体は、α-メチレン-γ-ブチロラクトン構造を有するコスチュノリド (costunolide) などの[[サポニン]]である[[セスキテルペン]]類であり、その[[作用機序]]として、[[胃液]]分泌の亢進や胃排出能抑制作用などが関与している<ref>吉川雅之、[https://doi.org/10.1271/kagakutoseibutsu1962.40.172 薬用食物の糖尿病予防成分] 『化学と生物』 2002年 40巻 3号 p.172-178, {{doi|10.1271/kagakutoseibutsu1962.40.172}}</ref>。
2001年、[[カゴメ]]株式会社総合研究所は、月桂樹の中に[[血管]]を拡張する作用を示す物質が含まれていることを明らかにした。なお、人体への効果については検証されていないという情報もある<ref>{{wikiref|id=Hfnet|reference=「健康食品」の安全性・有効性情報}}</ref>。
果実を搾って得られる[[ローレルオイル]]は主に[[石鹸]]の原料として使われ、ニキビ・フケ・体臭等を抑える効果が謳われている<ref>「[[アレッポ石鹸|アレッポの石鹸]]」HPより、[http://aleppo.jp/sabon.htm#%E7%9F%B3%E9%B9%B8%E3%81%AE%E5%8E%9F%E6%96%99 石鹸の原料]</ref>。
== 栽培 ==
水はけの良い土を選び、日なたから半日陰地で育てる{{sfn|正木覚|2012|p=58}}。土質は全般で、適度に湿度を持たせた土地に根を深く張る{{sfn|正木覚|2012|p=58}}。植栽適期は、4月下旬 - 5月、6月下旬 - 7月とされる{{sfn|山﨑誠子|2019|p=48}}。生長は早く、剪定期は3月 - 4月上旬か7月下旬 - 8月上旬とされ{{sfn|正木覚|2012|p=58}}、庭などの日当たり良い場所に植栽すると枝葉を伸ばすため、年に2 - 3回ほど刈り込む{{sfn|田中孝治|1995|p=144}}。施肥は1 - 2月に行う{{sfn|正木覚|2012|p=58}}。ゲッケイジュは風通しが悪いと虫がつきやすくなるため、風通しの良いところに植えるようにする{{sfn|山﨑誠子|2019|p=49}}。
== 文化 ==
ゲッケイジュは、[[ギリシャ神話]]の[[アポロン]]と[[ダプネー|ダフネ]]（ダプネー）の物語に由来し、美しい娘ダフネはアポロンの求愛を拒み、逃れようとして川の神である父親に変身を頼んで、ついには月桂樹に変えられたという{{sfn|辻井達一|2006|p=63}}<ref name="sanada">{{Cite web|author=真田久、宮下憲、嵯峨寿|url= https://tsukuba.repo.nii.ac.jp/record/6564/files/19.pdf |title=アテネオリンピック 2004の文化的側面 | website=つくばリポジトリ | work=筑波大学体育科学系紀要28巻|accessdate=2022-06-02|}}</ref>。これにちなみ、ダフネという呼称は[[古代ギリシア]]ではゲッケイジュのことを指していたが、現在では同じ芳香のある[[ジンチョウゲ属]]の学名に採用されている{{sfn|辻井達一|2006|p=64}}。
=== 葉冠 ===
ギリシャやローマ時代からアポロンの聖樹として神聖視された樹木である。古代には[[ピューティア大祭|ピュティア競技祭]]など特定の競技会で優勝者に月桂樹や[[セロリ]]などで作られた葉冠が授与されており「神聖競技会」として特別視されており、賞金や高価な品物が授与される賞金競技会とは区別されていた<ref name="sanada" />。古代ギリシアでは葉のついた若枝を編んで「[[月桂冠]]」とし、勝利と栄光のシンボルとして勝者や優秀な者達、そして大[[詩人]]の頭に被せた{{sfn|辻井達一|2006|p=63}}。古代の四大競技祭のうち月桂冠が授与されていたのはデルフォイで行われたピュティア競技祭である<ref name="sanada" />。古代オリンピックでは[[オリーブ]]の葉冠が授与された<ref name="sanada" />。オリーブの木の幹で作られた葉冠には月桂樹の小枝を飾りに付けたものもある<ref name="sanada" />。
また月桂冠を得た詩人は[[桂冠詩人]]と呼ばれる{{sfn|辻井達一|2006|p=63}}。
=== ゲッケイジュを由来とする名称 ===
* [[日産・ローレル]] - かつて[[日産自動車]]から発売されていた[[Dセグメント]]相当の[[セダン]]。
** [[日産・ローレルスピリット]] - かつて日産自動車から発売されていた、[[日産・サニー|サニー]]をローレル風に仕立て上げた車。
* [[花王]]の[[生理処理用品|生理用品]]の商品名「[[ロリエ]]」は、月桂樹と[[月経]]の[[掛詞]]である。
* [[月桂冠 (企業)]] - 日本の酒造会社、及びその製品。
* [[ローレル賞]] - [[鉄道友の会]]が優秀な鉄道車両に贈る賞の1つ。
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
{{reflist}}
== 参考文献 ==
* {{Cite book|和書|author =鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|title =樹皮と冬芽：四季を通じて樹木を観察する 431種|date=2014-10-10|publisher =[[誠文堂新光社]]|series=ネイチャーウォチングガイドブック|isbn=978-4-416-61438-9|page =235|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|author =田中孝治|title =効きめと使い方がひと目でわかる 薬草健康法|date=1995-02-15|publisher =[[講談社]]|series=ベストライフ|isbn=4-06-195372-9|page =144|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|author =[[辻井達一]]|title =続・日本の樹木|date =2006-02-25|publisher =[[中央公論新社]]|series =中公新書|isbn =4-12-101834-6|pages =63 - 66|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|author =平野隆久監修 永岡書店編|title =樹木ガイドブック|date=1997-05-10|publisher =[[永岡書店]]|isbn=4-522-21557-6|page =22|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|author=正木覚 |title=ナチュラルガーデン樹木図鑑|publisher=[[講談社]] |date=2012-04-26 |page=58 |isbn=978-4-06-217528-9 |ref=harv }}
* {{Cite book|和書|author=山﨑誠子 |title=植栽大図鑑［改訂版］|publisher=[[エクスナレッジ]] |date=2019-06-07 |pages=48 - 49 |isbn=978-4-7678-2625-7 |ref=harv }}
== 外部リンク ==
* {{Wikicite | id= Hfnet |reference={{Hfnet|509|ゲッケイジュ（ゲッケイヨウ/ベイリーフ/ローレル）}} {{accessdate|2012-02-08}}}}
* {{Kotobank|2=日本大百科全書(ニッポニカ)}}
* {{Kotobank|月桂樹|デジタル大辞泉}}
* {{Kotobank|ローリエ|食の医学館}}
* {{Kotobank|ローレル|日本大百科全書(ニッポニカ)}}
* {{三省堂WD|月桂樹}}
{{デフォルトソート:けつけいしゆ}}
[[Category:ギリシア神話]]
[[Category:植物]]
[[Category:樹木]]
リンネの『植物の種』(1753年) で記載された植物の一つである<ref>Linnaeus Carolus, 1753, Species Plantarum, Holmia[Stockholm], Laurentius Salvius, page369, https://www.biodiversitylibrary.org/page/358388</ref>。
== 名称 ==
[[英語]]の Noble Laurel（ノーブル・ローレル）を[[中国語]]に訳して「月桂樹」と名付けられ、それを[[日本]]では[[音読み]]して'''ゲッケイジュ'''の[[和名]]がつけられた{{sfn|田中孝治|1995|p=144}}{{sfn|辻井達一|2006|p=64}}。別名、英語名からローレル（{{lang-en|Laulel}}）{{sfn|山﨑誠子|2019|p=48}}、ベイツリー({{lang-en|Bay Tree}}) <ref>[http://tropical.theferns.info/viewtropical.php?id=Laurus+nobilis Useful Tropical Plants Database 2014]</ref> 、スイート・ベイ ({{lang-en|Sweet Bay}}) {{sfn|田中孝治|1995|p=144}} 、ベイ ({{lang-en|Bay}}) {{sfn|正木覚|2012|p=58}}、フランス語名から[[ローリエ]] ({{lang-fr|Laurier}}) {{sfn|田中孝治|1995|p=144}}{{sfn|山﨑誠子|2019|p=48}}とよばれる。
学名の小種名 ''nobilis''（ノビリス）は、「高貴」「気品ある」を意味する{{sfn|辻井達一|2006|p=63}}。
== 特徴 ==
[[地中海]]沿岸地域の原産といわれ、地中海沿岸地域に広く分布するが、寒さによく耐えることから[[ヨーロッパ]]、[[イギリス]]、[[アメリカ合衆国|アメリカ]]などに広く伝えられた{{sfn|辻井達一|2006|p=64}}。日本へは[[明治時代]]に渡来し、明治初年には[[開拓使]]の青山の[[圃場]]に入ったといわれており{{sfn|辻井達一|2006|p=64}}、[[日露戦争]]の戦勝記念として[[東郷平八郎]]、[[上村彦之丞]]の両海軍大将によって[[日比谷公園]]に植栽されて各地に広まった{{sfn|平野隆久監修 永岡書店編|1997|p=22}}{{sfn|辻井達一|2006|p=64}}{{sfn|正木覚|2012|p=58}}。日本では[[関東地方]]から[[九州]]までの範囲で植栽される{{sfn|山﨑誠子|2019|p=48}}。萌芽力が強く、海岸や屋上などの条件が悪いところでも、丈夫に育つ{{sfn|正木覚|2012|p=58}}。[[雌雄異株]]であるが、日本には雌株が少ない{{sfn|正木覚|2012|p=59}}。
[[常緑広葉樹]]の[[高木|中高木]]で、高さは9 - 12[[メートル]]ほどになる{{sfn|田中孝治|1995|p=144}}{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2014|p=235}}。株立ちすることも多い{{sfn|平野隆久監修 永岡書店編|1997|p=22}}。[[樹皮]]は灰白色から灰色で、皮目が散在する{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2014|p=235}}。一年枝や若枝は緑色をしている{{sfn|平野隆久監修 永岡書店編|1997|p=22}}{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2014|p=235}}。枝葉を傷つけると独特の芳香がある{{sfn|田中孝治|1995|p=144}}{{sfn|平野隆久監修 永岡書店編|1997|p=22}}。葉身は、長さ5 - 12[[センチメートル]] (cm) の狭長楕円形で、濃緑色の革質で光沢があり、葉縁は波打つ{{sfn|平野隆久監修 永岡書店編|1997|p=22}}{{sfn|山﨑誠子|2019|p=48}}。葉裏はやや硬い{{sfn|山﨑誠子|2019|p=48}}。
花期は[[春]]（4 - 5月）で、[[葉腋]]に短い[[花柄]]を出して、その先端に黄白色の小花を群がって咲かせる{{sfn|田中孝治|1995|p=144}}{{sfn|山﨑誠子|2019|p=48}}。[[雌雄異株]]で、日本の株は、ほとんどが雄株である{{sfn|平野隆久監修 永岡書店編|1997|p=22}}。果実は直径1 cmほどの球形で、10月頃に黒紫色に熟し香りがある{{sfn|正木覚|2012|p=58}}{{sfn|山﨑誠子|2019|p=48}}。
冬芽は葉芽が楕円形から卵形、花芽は球形をしている{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2014|p=235}}。側芽は（葉芽）は頂芽よりも小さく、そのすぐ下にある葉痕が白っぽくよく目立つ{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2014|p=235}}。葉痕には維管束痕が1個ある{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2014|p=235}}。
<gallery>
File:Laurus nobilis1.jpg|樹皮
File:Laurus nobilis (6).JPG|葉
File:Laurus-nobilis-flowers.JPG|葉のわきに群がって小さな花をつける
File:Laurus nobilis 20130409.jpg|花
File:Laurus nobilis unripe fruit.jpg|果実
</gallery>
== 利用 ==
[[庭木]]、公園樹としての利用のほか、[[ハーブ]]として、葉は[[香辛料]]（スパイス）として煮込み料理の香味づけに、葉や実は薬用として利用される。刈り取った枝葉を採集して、陰干ししたものが月桂葉（英：ローレル、またはベイリーブス、仏：ローリエ）である{{sfn|田中孝治|1995|p=144}}。
葉には[[精油]]1 - 3%が含まれており、精油成分は[[シネオール]]約50%、[[オイゲノール]]約1.7%、[[ゲラニオール]]、[[ピネン]]、[[テルピネン]]、[[セスキペルテン]]などである{{sfn|田中孝治|1995|p=144}}。果実には、[[ラウル酸]]の[[グリコシド]]を主成分とする[[脂肪油]]約25%と、シネオール、ピネン、ラウル酸などの精油約1%を含んでいる{{sfn|田中孝治|1995|p=144}}。ゲッケイジュに含まれる精油はヒトの味覚神経を刺激し、唾液や胃液の分泌を促して食欲増進作用があるほか、浴湯料として血液循環作用がある{{sfn|田中孝治|1995|p=144}}。
葉から蒸留した油から作られる香料は、英名ベイからベイラムとよばれ、さっぱりとした香りで男性用化粧品に多い{{sfn|辻井達一|2006|p=66}}。
=== 植栽 ===
庭木や[[生け垣]]に植栽される{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2014|p=235}}。生長が早く、剪定にも強いという特徴があり、刈り込みすぎや形が不揃いであっても、それを早くリカバリーすることができ、[[トピアリー]]を容易に作ることもできる{{sfn|山﨑誠子|2019|p=48}}。
=== 食用・薬用 ===
葉、実は、それぞれ'''月桂葉'''、'''月桂実'''という生薬名を持つ。ゲッケイジュがもつ芳香は、古代から香料や料理の香りづけに使われてきた{{sfn|辻井達一|2006|p=64}}。
葉には[[シネオール]]と呼ばれる芳香成分が含まれ、葉を乾燥させたものを[[ローリエ]]（{{lang-fr|laurier}}）、ローレル（{{lang-en|laurel}}）、ベイリーフ（{{lang-en|bay leaves}}）<ref>「ベイリーフ」は[[シナニッケイ]]の葉に対しても使われる言葉である。</ref>などと呼び、肉料理などで使われる[[香辛料]]として広く流通している{{sfn|辻井達一|2006|p=64}}。[[カレー]]や[[シチュー]]などの煮込み料理に、好みの応じて1 - 3枚ほどのローリエ（ローレル）が使われる{{sfn|田中孝治|1995|p=144}}。
浴湯料として月桂葉を布袋に入れて[[風呂]]に浮かべておくと、[[肩こり]]、[[神経痛]]、[[リウマチ]]、[[冷え症]]、[[腰痛]]、[[筋肉痛]]などの痛みを和らげたり、疲労回復に役立つ{{sfn|田中孝治|1995|p=144}}。果実は健胃剤につかわれる{{sfn|平野隆久監修 永岡書店編|1997|p=22}}。民間では、実を日本薬局方アルコールやローションに1週間ほど浸した液が、頭髪の発毛・育毛剤として利用できる{{sfn|田中孝治|1995|p=144}}。
ゲッケイジュ葉には強い[[アルコール]]吸収抑制活性が認められる。その活性本体は、α-メチレン-γ-ブチロラクトン構造を有するコスチュノリド (costunolide) などの[[サポニン]]である[[セスキテルペン]]類であり、その[[作用機序]]として、[[胃液]]分泌の亢進や胃排出能抑制作用などが関与している<ref>吉川雅之、[https://doi.org/10.1271/kagakutoseibutsu1962.40.172 薬用食物の糖尿病予防成分] 『化学と生物』 2002年 40巻 3号 p.172-178, {{doi|10.1271/kagakutoseibutsu1962.40.172}}</ref>。
2001年、[[カゴメ]]株式会社総合研究所は、月桂樹の中に[[血管]]を拡張する作用を示す物質が含まれていることを明らかにした。なお、人体への効果については検証されていないという情報もある<ref>{{wikiref|id=Hfnet|reference=「健康食品」の安全性・有効性情報}}</ref>。
果実を搾って得られる[[ローレルオイル]]は主に[[石鹸]]の原料として使われ、ニキビ・フケ・体臭等を抑える効果が謳われている<ref>「[[アレッポ石鹸|アレッポの石鹸]]」HPより、[http://aleppo.jp/sabon.htm#%E7%9F%B3%E9%B9%B8%E3%81%AE%E5%8E%9F%E6%96%99 石鹸の原料]</ref>。
== 栽培 ==
水はけの良い土を選び、日なたから半日陰地で育てる{{sfn|正木覚|2012|p=58}}。土質は全般で、適度に湿度を持たせた土地に根を深く張る{{sfn|正木覚|2012|p=58}}。植栽適期は、4月下旬 - 5月、6月下旬 - 7月とされる{{sfn|山﨑誠子|2019|p=48}}。生長は早く、剪定期は3月 - 4月上旬か7月下旬 - 8月上旬とされ{{sfn|正木覚|2012|p=58}}、庭などの日当たり良い場所に植栽すると枝葉を伸ばすため、年に2 - 3回ほど刈り込む{{sfn|田中孝治|1995|p=144}}。施肥は1 - 2月に行う{{sfn|正木覚|2012|p=58}}。ゲッケイジュは風通しが悪いと虫がつきやすくなるため、風通しの良いところに植えるようにする{{sfn|山﨑誠子|2019|p=49}}。
== 文化 ==
ゲッケイジュは、[[ギリシャ神話]]の[[アポロン]]と[[ダプネー|ダフネ]]（ダプネー）の物語に由来し、美しい娘ダフネはアポロンの求愛を拒み、逃れようとして川の神である父親に変身を頼んで、ついには月桂樹に変えられたという{{sfn|辻井達一|2006|p=63}}<ref name="sanada">{{Cite web|author=真田久、宮下憲、嵯峨寿|url= https://tsukuba.repo.nii.ac.jp/record/6564/files/19.pdf |title=アテネオリンピック 2004の文化的側面 | website=つくばリポジトリ | work=筑波大学体育科学系紀要28巻|accessdate=2022-06-02|}}</ref>。これにちなみ、ダフネという呼称は[[古代ギリシア]]ではゲッケイジュのことを指していたが、現在では同じ芳香のある[[ジンチョウゲ属]]の学名に採用されている{{sfn|辻井達一|2006|p=64}}。
=== 葉冠 ===
ギリシャやローマ時代からアポロンの聖樹として神聖視された樹木である。古代には[[ピューティア大祭|ピュティア競技祭]]など特定の競技会で優勝者に月桂樹や[[セロリ]]などで作られた葉冠が授与されており「神聖競技会」として特別視されており、賞金や高価な品物が授与される賞金競技会とは区別されていた<ref name="sanada" />。古代ギリシアでは葉のついた若枝を編んで「[[月桂冠]]」とし、勝利と栄光のシンボルとして勝者や優秀な者達、そして大[[詩人]]の頭に被せた{{sfn|辻井達一|2006|p=63}}。古代の四大競技祭のうち月桂冠が授与されていたのはデルフォイで行われたピュティア競技祭である<ref name="sanada" />。古代オリンピックでは[[オリーブ]]の葉冠が授与された<ref name="sanada" />。オリーブの木の幹で作られた葉冠には月桂樹の小枝を飾りに付けたものもある<ref name="sanada" />。
また月桂冠を得た詩人は[[桂冠詩人]]と呼ばれる{{sfn|辻井達一|2006|p=63}}。
=== ゲッケイジュを由来とする名称 ===
* [[日産・ローレル]] - かつて[[日産自動車]]から発売されていた[[Dセグメント]]相当の[[セダン]]。
** [[日産・ローレルスピリット]] - かつて日産自動車から発売されていた、[[日産・サニー|サニー]]をローレル風に仕立て上げた車。
* [[花王]]の[[生理処理用品|生理用品]]の商品名「[[ロリエ]]」は、月桂樹と[[月経]]の[[掛詞]]である。
* [[月桂冠 (企業)]] - 日本の酒造会社、及びその製品。
* [[ローレル賞]] - [[鉄道友の会]]が優秀な鉄道車両に贈る賞の1つ。
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
{{reflist}}
== 参考文献 ==
* {{Cite book|和書|author =鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|title =樹皮と冬芽：四季を通じて樹木を観察する 431種|date=2014-10-10|publisher =[[誠文堂新光社]]|series=ネイチャーウォチングガイドブック|isbn=978-4-416-61438-9|page =235|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|author =田中孝治|title =効きめと使い方がひと目でわかる 薬草健康法|date=1995-02-15|publisher =[[講談社]]|series=ベストライフ|isbn=4-06-195372-9|page =144|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|author =[[辻井達一]]|title =続・日本の樹木|date =2006-02-25|publisher =[[中央公論新社]]|series =中公新書|isbn =4-12-101834-6|pages =63 - 66|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|author =平野隆久監修 永岡書店編|title =樹木ガイドブック|date=1997-05-10|publisher =[[永岡書店]]|isbn=4-522-21557-6|page =22|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|author=正木覚 |title=ナチュラルガーデン樹木図鑑|publisher=[[講談社]] |date=2012-04-26 |page=58 |isbn=978-4-06-217528-9 |ref=harv }}
* {{Cite book|和書|author=山﨑誠子 |title=植栽大図鑑［改訂版］|publisher=[[エクスナレッジ]] |date=2019-06-07 |pages=48 - 49 |isbn=978-4-7678-2625-7 |ref=harv }}
== 外部リンク ==
* {{Wikicite | id= Hfnet |reference={{Hfnet|509|ゲッケイジュ（ゲッケイヨウ/ベイリーフ/ローレル）}} {{accessdate|2012-02-08}}}}
* {{Kotobank|2=日本大百科全書(ニッポニカ)}}
* {{Kotobank|月桂樹|デジタル大辞泉}}
* {{Kotobank|ローリエ|食の医学館}}
* {{Kotobank|ローレル|日本大百科全書(ニッポニカ)}}
* {{三省堂WD|月桂樹}}
{{デフォルトソート:けつけいしゆ}}
[[Category:ギリシア神話]]
[[Category:植物]]
[[Category:樹木]]
