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、 2022年10月21日 (金) 08:26
'''ネペレー'''('''Νεφέλη''', Nephelē)は、ギリシア神話に登場する'''[[雲]]'''のニュムペーあるいは女神である。長母音]]を省略して'''ネペレ'''とも表記される。[[イクシーオーン]]を罰する計略のため、[[ゼウス]]が[[ヘーラー]]に似せて象った雲から生まれた。[[イクシーオーン]]との間に[[ケンタウロス|ケンタウロス族]]を<ref>アポロドーロス、摘要(E)9・1。</ref>、オルコメノスの王[[アタマース]]との間に[[プリクソス]]、[[ヘレー]]を生んだ<ref name="AP191">アポロドーロス、1巻9・1。</ref><ref>ヒュギーヌス、1話。</ref><ref>ヒュギーヌス、2話。</ref><ref name="HY3">ヒュギーヌス、3話。</ref>。
== 神話 ==
=== イクシーオーンとネペレー ===
ゼウスは血縁者を殺したイクシーオーンの罪を浄化し、'''不死にしてやった'''だけでなく、神々の宴の席に招いた。ところがイクシーオーンはその恩を忘れ、ゼウスの妃であるヘーラーに横恋慕し、[[ヘーラー]]を口説いた。イクシーオーンの好意に悩んだヘーラーがゼウスに打ち明けると、ゼウスは雲からネペレーを作り出し、イクシーオーンの寝所に連れて行った<ref>ルキアーノス『神々の対話』。</ref>。するとイクシーオーンはヘーラーが自分の思いに応えたと勘違いし、ネペレーと交わった。イクシーオーンの思い上がった行為を見たゼウスは、イクシーオーンを四本輻の車輪に縛りつけ、永遠に回転するという罰を与えた<ref>ピンダロス「ピュティア祝勝歌」第2歌21行-41行。</ref><ref group="私注">イクシーオンが不死を得そうになりながら失敗する点はメソポタミア神話の[[アダパ]]、永遠の罰を受ける点は中国神話の[[桂男]]を彷彿とさせる。</ref>。
=== ケンタウロス族の誕生 ===
この交わりによってネペレーはケンタウロス族を生んだとされる。そこでケンタウロス族のエウリュティオーンや[[ネッソス]]はネペレーとイクシーオーンの子供といわれることがある。[[ピンダロス]]の異説によるとネペレーは1人の子供を生み、子供に'''ケンタウロス'''と名付けた。彼が[[マグネーシアー]]地方の[[ペーリオン山]]で牝馬と交わった結果、上半身は人間の身体、下半身は馬の身体を持つケンタウロス族が生まれた。さらに[[シケリアのディオドーロス]]によると、ネペレーが生んだのは人間の性質を備えた'''ケンタウロイ族'''であり<ref>シケリアのディオドロス、4巻69・5。</ref>、彼らはペーリオン山でニュムペーたちによって育てられたのち、牝馬と交わって馬と人間の性質を併せ持つ'''ヒッポケンタウロイ族'''をもうけたという<ref>シケリアのディオドロス、4巻69・6。</ref>。
一説によると、ネペレーを作り出したのはヘーラー自身である<ref>[[エウリーピデース]]『[[フェニキアの女たち]]』1192行への古註。</ref>。さらに[[オウィディウス]]がケンタウロス族のモニュコスに語らせた説によれば、ケンタウロス族の母はヘーラー自身である<ref>オウィディウス『変身物語』12巻。</ref>。
=== アタマースとの結婚 ===
その後、[[テッサリアー]]地方の王[[アイオロス]]の息子で、オルコメノスの王[[アタマース]]と結婚し、彼との間に息子プリクソスと娘ヘレーを生んだ。後にネペレーはアタマースの後妻[[イーノー]]の陰謀で殺されそうになったプリクソスをヘレーとともに連れ去り、[[ヘルメース]]から授かった空を飛ぶ[[金毛羊]]を与え、この羊の背に乗せてオルコメノスから異国に逃亡させた。しかし途中でヘレーは海に落ち、[[ダーダネルス海峡|ヘレースポントス]]の地名の由来となった。プリクソスは無事に[[コルキス]]に到着し、金毛羊をゼウスに捧げた<ref name="AP191" />。あるいは、プリクソスとヘレーは[[ディオニューソス]]によって狂気にかけられ、森の中をさまよっていたところをネペレーから金毛羊を授けられた<ref name="HY3" />。
この金毛羊は[[おひつじ座]]の由来ともなっており<ref>{{cite web|title=おひつじ座 |accessdate=2019/11/26 |url=http://www.kotenmon.com/era/19_belierl.html |publisher=エラトステネスの星座物語}}</ref>、さらにこの物語は後の[[イアーソーン]]と[[アルゴナウタイ]]の冒険につながっている。
== 悲劇作品 ==
[[三大悲劇詩人]]の1人[[ソポクレース]]は現存しない[[ギリシア悲劇|悲劇]]『アタマース』においてネペレーを女神として描いている。ネペレーはアタマースとの間にプリクソスとヘレーを生んだが、アタマースは女神の妻を捨てて人間の女イーノーと結婚した。ネペレーは怒って天に昇り、オルコメノスを[[旱魃]]で苦しめた。イーノーの陰謀によってネペレーの子供たちは旱魃を鎮めるための生贄にされそうになったが、子供たちは人語を話す不思議な羊の予言によって危険を逃れた。またネペレーはアタマースに罪を償わせようとしたが、ゼウスの[[祭壇]]で殺されそうになったアタマースを[[ヘーラクレース]]が助けた<ref>[[アリストパネース]]『[[雲 (戯曲)|雲]]』257行への古註a。</ref>。
== 解釈 ==
アポロドーロスはイーノーがネペレーの子供たちを殺そうとしたことについて述べた直後に<ref name="AP191" />、ヘーラーがアタマースとイーノーに怒り、狂気を送って狂わせたことに言及している<ref>アポロドーロス、1巻9・2。</ref>。一般的にヘーラーの怒りは彼らがディオニューソスを養育したことに起因すると考えられているが、当該箇所においてはデォニューソスが原因であるとは語られていない。{{仮リンク|民族精神医学|fr|ethnopsychoanalysis}}を創始した{{仮リンク|ジョルジュ・ドゥヴルー|en|George Devereux}}はこの点に注目し、ヘーラーの怒りはイーノーとアタマースがディオニューソスを養育したことではなくネペレーの子供たちを殺そうとしたことに起因していると考え、アタマースの物語におけるネペレーとヘーラーとの間に緊密な関係があることを指摘している。ドゥヴルーによればネペレーはヘーラーの分身ともいうべき存在であり、ヘーラーはネペレーに加えられた屈辱に対してネペレー同様に怒りを感じている<ref>ジョルジュ・ドゥヴルー、p.71。</ref>。[[イギリス]]の[[詩人]][[ロバート・グレーヴス]]によれば、先妻ネペレーと後妻イーノーの争いは、侵入者である牧畜民の[[アイオリス人]]と、穀物の女神イーノーの信仰を受容していた先住民の[[イオニア人]]との信仰上の対立を象徴したものである<ref>ロバート・グレーヴス、70話1。</ref>。
== 参考文献 ==
* [[アポロドーロス]]『ギリシア神話』[[高津春繁]]訳、[[岩波文庫]](1953年)
* 『ギリシア悲劇全集11 [[ソポクレース]]断片』[[岩波書店]](1991年)
* [[シケリアのディオドロス|ディオドロス]]『神代地誌』飯尾都人訳、龍溪書舎(1999年)
* [[ヒュギーヌス]]『ギリシャ神話集』[[松田治]]・青山照男訳、[[講談社学術文庫]](2005年)
* [[ルキアノス]]『神々の対話 他六篇』[[呉茂一]]・山田潤二訳、岩波文庫(1953年)
* 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』岩波書店(1960年)
* [[ロバート・グレーヴス]]『ギリシア神話(上)』[[高杉一郎]]訳、[[紀伊国屋書店]](1962年)
* {{仮リンク|ジョルジュ・ドゥヴルー|en|George Devereux}}『女性と神話 ギリシア神話にみる両性具有』加藤康子訳、[[新評論]](1994年)
== 関連項目 ==
== 参照 ==
}
{{DEFAULTSORT:ねへれ}}
[[Category:ギリシア神話]]
[[Category:女神]]
[[Category:雲]]
[[Category:ヘーラー]]