工芸・武術・詩吟・古史・医術・魔術など全技能に秀で、'''サウィルダーナハ'''(Samildánach、「百芸に通じた」の意<!--辺見の語釈-->)や<ref>Samildánach 『マグ・トゥレドの戦い』, Gray, 1982, pp=38/9 (CMT §53)</ref>、あるいは'''イルダーナハ'''(Ildánach、「諸芸の達人」)とあだ名されている<ref>『トゥレンの子らの最期』, Harvnb, O'Curry, 1863, pp=166/167、さらに脚注155で"The Ioldanach, that is, the Master of many (or all) Arts"と説明。</ref><ref>イルダーナについては、Harvnb, Squire, 1905, p-237, n1 では発音を Ildāna としている。</ref>'''ドルドナ'''(Dul-Dauna)は、民話によるその訛り<ref>Squire, 1905, p=237, Harvnb, Squire, 1905, p=237 では、Dul-dauna は 「盲目頑固 "Blind-Stubborn"」の意味になるが、これは Ioldanach (発音 Ildâna)「全ての知恵の達人 ("Master of All Knowledge")」の訛りと説明する。『よくわかる英雄と魔物』(PHP研究所、p. 22)でドルドナを「全知全能の意」と説明するのは端折り。</ref>。こうした彼の万能性からカエサルがガリア戦記の中でメルクリウスと呼んだガリアの神と同一視する学者もある<ref>グリーン, 1997, page=27</ref>。
==『トゥレンの子らの最期』==
近世(17世紀以降)の写本にのみ伝わる物語『[[トゥレンの子らの最期]]』によれば<ref>例)王立アイルランドアカデミー [[:en:Royal Irish Academy|RIA]] 23 M 25 (1684年)。{{harvp|Bruford|1966|p=264}}</ref>、題名主人公たる三兄弟(ブリアン、ヨハル、ヨハルヴァ)と、キアンら三兄弟(キアン、クー、ケータン<ref name=brekilien-v2-p050>{{harvnb|ブレキリアン|2011}}年、50頁のカナ表記</ref>)とのあいだには氏族間の紛争があった。キアンは、運悪くブリアンら兄弟と遭遇するが、ときは([[マグ・トレドの戦い]])の火ぶたが切られたばかり、内輪もめをしている状況ではなかった。キアンは豚に変身して難を避けようとした。しかしブリアンはこの変装を看破し、弟たちを魔法の杖で犬に変化させて追わせ、槍を投じて豚の姿のキアンを負傷させた。自分がキアンだと名乗る豚は、たっての願いにより、殺される前に人間の姿に戻ることを許される。ところがキアンは人間に戻るやいなや、次のような台詞を吐いた。「まんまとだましてやったぞ、お前たち。もし豚の姿のわしを殺したならば、豚の賠償を払えばよかったものを。しかし、わし自身の姿で殺すならば、古今金輪際、比肩するものない大きな賠償が支払われされることになろう。わしを殺した凶器が、犯人が誰だかわが息子(ルー)に訴えるだろう」という意味の宣告をした。そこでブリアンらは、そこらの石ころを打ちつけて証拠隠しを図った。肉塊となったキアンを埋葬したが、大地はこの同朋殺しを受け入れることを拒み、六度にわたり地上に吐き出した。結局、父親の埋められた場所をルーは突き止め、真相を察知してしまう<ref>『トゥレンの子らの最期』, {{harvnb|O'Curry|1863}}</ref><ref>{{harvnb|井村|1983}}年『ケルトの神話』</ref><ref>{{harvnb|ブレキリアン|2011}}年、35–52頁</ref>。
ルーは賠償として、シチリア島の王の二頭の馬 、ペルシア王ピサールの持つ槍、アーサル(Easal)の七匹の豚、仔犬[[ファリニシュ]]等々を請求した<ref>『トゥレンの子らの最期』, {{Harvnb|O'Curry|1863}} pp. 190–191。</ref><ref>{{harvnb|ブレキリアン|2011}}年、40–41頁</ref>。
この物語では、家系譜が古書と異なっている。物語ではディアン・ケヒトとミアハ父子(<small>家系図参照</small>)は登場するが<ref>『トゥレンの子らの最期』, {{Harvnb|O'Curry|1863}} pp. 158–161, 222–223(詩中)。</ref>、前者はキアンの父とされておらず、かわりにカンチャがキアンの父親となっている<ref name=fate-cainte/>。
== 脚注 ==