=== 神話・伝承 ===
ナナイの神話によれば、原初、太陽は3個あり、世界は混沌としていた<ref name="ogihara57">荻原(1989)pp.57-61</ref>。ハダウ(ハドー)という創造神が太陽征伐にあたり、混沌世界に秩序をもたらし、人間や生き物を創造した<ref name="ogihara57" /><ref|group="注釈">この世のはじめの天空には複数の太陽と月があったが、余分の太陽・月が征伐されて1個ずつとなり、地上に秩序がおとずれたとする「射日神話」はアムール川地域のすべての民族にみられる</ref><ref name="ogihara57" />。また、原初世界は水ばかりで大地はなかったが、水鳥がもぐり、水底から土をすくい上げ、それがもとになって大地が形成された<ref name="ogihara57" /><ref group="注釈">ナナイでは、アムール川地域の考古資料として知られる「岩絵」(ペトログラフ)が、複数の太陽のために岩がまだ粘土のように軟らかだった時代に人びとが描いたものだという伝承ものこっている</ref><ref name="ogihara57" />。つくられた大地は平坦だったが、大蛇が川の谷間を掘り起こして起伏が生じた。
生き残った最初の人間<ref group="私注">何から「生き残った」のかの記載がWikipediaにないため分からない。「大洪水」だろうか?</ref>は兄妹だが夫婦となって<ref name="ogihara57" />、人びとの死体の処理について相談するが、2人とも年寄りなので、死体を全部葬れるか心配して床についた<ref group="注釈">最初の人間2人が兄妹で人類・民族ないし氏族の始祖になったという伝承は、アムール川流域のツングース系諸族とパレオアジア諸族に幅広く認められる</ref><ref name="ogihara57" /><ref group="私注">兄妹婚始祖譚は中国神話の伏羲と女媧、日本神話のイザナギとイザナミ等、かなり拾い範囲で認められるモチーフである。</ref>。夫は百人の人がかかっても抱えきれないほどの大木の夢を見た。その樹皮は蛆虫で、根は巨大な蛇、葉は丸い金属製の鏡で、花は鈴だった<ref group="私注">いわゆる「世界樹」であろうか。いわゆる「世界樹」であろうか。これが彼らの保護者(あるいは親や兄弟といった近親)である熊の化身であって、太陽神(これも熊の象徴)が頂点にいるのではないか、と思われる。</ref>。そのこずえには無数の金属製の角があった。目を覚ました老人は妻に内緒で、この大樹を探しだし、弓矢で角と鏡と鈴を撃ち落として家に持ち帰って寝台の下に隠して寝た。そうすると夢枕に白っぽい老人が現れ、煙突の穴を空けるよう命じた。そうすれば、角と鏡と鈴は1組老人の手元に残り、それ以外のものは穴から飛び出して大シャーマンにふさわしい者を見つけるだろうと宣した。こうして複数の大シャーマンが立ち現れ、死者を弔った<ref group="私注">これも「射日神話」の一種であり、特に'''こずえの角'''は中国神話の'''八咫烏'''に相当する「太陽」の象徴だと思う。シャーマンが射落とされた太陽(神)の一部だったり、化身だったりする、という考えの表れだと考える。そして、老人もまた「太陽神」の化身なのであろう。「太陽神」の化身であり、地上に降りた「火の神」がシャーマンであり、異界との仲介者である、という概念はインド神話の'''アグニ'''と共通する概念ではないだろうか。そうすると、老人もまたシャーマンであり、中国神話の伏羲に相当する存在と言える。</ref>。これらの道具は実際のシャーマンの道具として伝承されており、神話学者には、これらを着用して大樹(世界樹)に扮することでシャーマンは自然界との仲介者になったのではないかと考える学者もいる<ref>『世界神話事典』(2005)p.65</ref><ref>シャーマンは太陽神(地上における「火の神」に扮することで神々の世界との仲介者になった、ともいえるのではないだろうか。シャーマンの踊りと歌は、火が燃えるさまを示したものともいえると考える。</ref>。
英雄叙事詩の分野では、英雄メルゲン(マルゴ)、女英雄プヂを主人公とする口承が伝わっており、チュクチ・モンゴル的な特徴が認められる<ref name="ogihara57" />。ウリチ族やオロチ族にも同様の影響関係がみとめられるが、ニヴフやアイヌの英雄叙事詩はこられとは性格を異にしている<ref name="ogihara57" />。一方、上述の創世神話にはチュクチ・モンゴル的要素は認められない<ref name="ogihara57" />。