彼女の図像は通常、直立または戴冠し、ポロスまたはディアデムを冠し、時にはベールを被った既婚女性として、威厳のある母性的な姿をしている<ref>Elderkin, G. W. “The Marriage of Zeus and Hera and Its Symbol.” American Journal of Archaeology 41, no. 3 (1937): pp. 424–35. https://doi.org/10.2307/498508.</ref>。ヘーラーは合法的な結婚の守護女神である。結婚式を司り、結婚を祝福し、合法化し、出産時の危害から女性を守る。彼女の神聖な動物は、牛、カッコウ、クジャクなどである。ヘーラーは不老不死の象徴としてザクロを手にした姿で描かれることもある。ローマ神話ではユーノーと呼ばれている<ref name="Larouse">''Larousse Desk Reference Encyclopedia'', The Book People, Haydock, 1995, p. 215.</ref>。
== 概要 ==
ヘーラーはオリュンポス十二神の一柱であるとともに、「神々の女王」でもあった。威厳のある天界の女王として絶大な権力を握り、権威を象徴する王冠と王笏を持っている。虹の女神[[イーリス]]と季節の女神[[ホーラー]]たちは、ヘーラーの腹心の使者や侍女の役目を務めた。また、[[アルゴス]]、[[スフィンクス|スピンクス]]、[[ヒュドラー]]、[[ピュートーン]]、[[ラードーン]]、[[かに座#神話|カルキノス]]、[[さそり座#神話|大サソリ]]などの怪物を使役する場面もある。世界の西の果てにある不死の[[黄金の林檎|リンゴ]]の園・[[ヘスペリデス]]の園を支配していた。結婚・産児・主婦<ref>呉茂一『ギリシア神話 上巻』新潮社、1956年、78頁。</ref>を守護する女神であり、古代ギリシアでは一夫一婦制が重視されていた。嫉妬深い性格であり、[[ゼウス]]の浮気相手やその間の子供に苛烈な罰を科しては様々な悲劇を引き起こした。夫婦仲も良いとは言えず、ゼウスとよく口論になっている。また、多くの神々や英雄たちの物語がヘーラーの敵意を軸にして展開することも多く見られる<ref>バーナード・エヴスリン『ギリシア神話小事典』225頁。</ref>。
毎年春になるとナウプリアのカナートスの聖なる泉で沐浴して苛立ちを全て洗い流し、処女性を取り戻し<ref>パウサニアス、2巻38・2。</ref><ref>シブサワ・コウ 『爆笑ギリシア神話』 光栄、9頁。</ref>、[[アプロディーテー]]にも劣らず天界で最も美しくなる。この時期にはゼウスも他の女に目もくれずにヘーラーと愛し合うという<ref group="私注">「春の女神」である点は、ゲルマン神話の[[エオステレ]]との共通項のように思われる。</ref>。
聖鳥は[[クジャク|孔雀]]、[[カッコウ|郭公]]、[[ツル|鶴]]で聖獣は[[ウシ|牝牛]]。その象徴は[[ユリ|百合]]、[[ザクロ|柘榴]]、[[リンゴ|林檎]]、[[松明]]である。[[ローマ神話]]においては[[ユーノー]](ジュノー)と同一視された<ref name="G" />。
このヘーラー(Hērā)の名が「英雄(ヒーロー)」(Hērōs, ヘーロース)<ref>呉茂一『ギリシア神話 上巻』新潮社、1956年、79頁。</ref>の語源となっているという推測は、アウグスティヌスやセビーリャのイシドルスの著書に記されている<ref>G・ヴィーコ, 2018, 新しい学(上), 中公文庫, pages593p</ref>。
== 語源 ==