そのためか、アフロディーテ、アルテミスの神話、ディオニューシアカを見ても、エロースの矢は「人々の恋愛成就のため」の矢というよりは、通常では起きえないような異質な恋情を引き起こし、関係者の立場を悪くするような、一種の「天罰」としての性質が強いように思う。おそらく、エロースの神話は[[ニムロド]]型の神話が独自の形で変化し発展したものであろう。また、「エロースの矢」は、それに当たっても人は死ぬことはないが、そのために起きた恋情には「欲望」が強く伴っており、射られたものは恋愛に誠実さを示すのではなく、自らの欲望をかなえることを優先するようである。このように、「エロースの矢」には、標的とされた人間の運命を変えてしまうような、いわば「トリックスター」的な面があるように思う。子音構成からいっても、エロースは北欧神話のロキと関連する神なのではないだろうか。類似した子音構成としては、ガリア神話の[[エスス]]、ゲルマン神話の[[エオステレ]]等がいる。おそらくこれらの神々の起源は[[紅山文化]]にあるのであり、彼らの前身は[[紅山文化]]の太陽女神であって兎子(Tùzǐ)ではないかと思う。[[紅山文化]]では太陽女神の[[玉兎]]は木に吊されて祀られた、とされており、これは[[エスス]]の[[人身御供]]と共通する思想のように思う。[[エオステレ]]は春の女神でもあり、兎の女神でもある。また、兎に関する神話では、特に男性神の場合、「賢い神(悪賢い神)」「叡智の神」といった、良くない性質での賢さを示す神で現されることが多いように感じる。その性質は北欧神話のロキとも共通する。「エロースの矢」が性的な欲望を見境なく惹起する点は、兎が春の性的欲望と多産の神とされたことと関連すると考える。
特にディオニューソスが関連するものは、酒による酩酊の上でのレイプという側面が強いようである。ディオニューソスは明確な植物神であり、残虐なやり方で生贄を求める明確な神話がある神である。特に[[ディオニューソス]]が関連するものは、酒による酩酊の上でのレイプという側面が強いようである。[[ディオニューソス]]は明確な植物神であり、狂乱を伴って、残虐なやり方で生贄を求める明確な神話がある神である。[[ディオニューソス]]自身が酒による酩酊で人を操る存在だが、ディオニューシアカではその[[ディオニューソス]]を非日常的な狂乱へ導くスイッチのような役割をエロースが担う。そして、おそらく「生贄を酒で酩酊させてレイプする」とは、メソポタミア神話のエンリルとニンリルの神話のように、「花嫁としての生贄」の神話が変化したものと思われる。エンリルは冥界でニンリルを騙して交わい子供を生ませるが、ディオニューシアカではそれが「酔いによる酩酊」へと書き換えられているように思う。全体から見れば、「男性形の植物神が再生のために妻という名前の[[人身御供|生贄]]を求める神話」で[[人身御供|生贄]]を求める側の男性神がエロースと[[ディオニューソス]]で二重に分けられた物語といえる。また、[[ディオニューソス]]の機能を'''影で操る'''存在としてエロースが存在している、という点が興味深い。日本神話と比較すれば、[[高御産巣日神]]が[[天若日子]]の機能を調節しているのであり、調節がうまく果たされなければ下位の[[天若日子]]が罰を受けて死ぬことになる。[[ディオニューソス]]も[[天若日子]]も、死にたくなければ上位の神の「調節」に従うしかないのである。本来、権威ある始原神であったエロースの姿が窺える神話である。例えば「レイプされるニンフ」が元は下位の女神ではなく、各地方の「太母」であったとするならば、エロースと[[ディオニューソス]]の仕事は、まさに太母の権威を低下させて殺し、支配し征服する神話の変形ともいえると考える。
== 参考文献 ==