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ページの作成:「'''フレイヤ''' (Freja, Freyja) は、北欧神話における女神の1柱。ヴァン神族出身で、ニョルズの娘、フレイの双子の妹である…」
'''フレイヤ''' (Freja, Freyja) は、北欧神話における女神の1柱。ヴァン神族出身で、[[ニョルズ]]の娘、[[フレイ]]の双子の妹である<ref name="yamamuro122">山室 (1982), p. 122.</ref>。「ヴァンたちの女神」<ref name="#1">菅原、264頁。</ref>を意味する'''ヴァナディース''' (Vanadís) とも呼ばれる<ref name="Neckel252">ネッケル他編, 谷口訳 (1973), p. 252. （『[[スノッリのエッダ]]』第一部『[[ギュルヴィたぶらかし]]』35章）。</ref>。
'''フレイア'''、'''フレイアー'''、あるいはドイツ語風に'''フライア'''、'''フライヤ'''というカナ表記が用いられる。綴りについて、英語やドイツ語では（専門家以外は）Freyaが多く、Freiaなどもある。
生と死、愛情と戦い、豊饒と[[セイズ]]を司り、[[オーディン]]や[[ニョルズ]]とは対概念的な存在である<ref>菅原、262頁。</ref>。非常に美しく力のある女神とされ<ref>菅原、263頁。</ref>、豊饒神としての性格上性的に奔放であり、ヴァン神族では普通のこととされているものの、父ニョルズや兄[[フレイ]]とも肉体関係があったほか、[[霜の巨人]]や<ref name="#1"/>、ドヴェルグたちが<ref>菅原、268頁。</ref>身代金や報酬として彼女を望むなど、しばしば性的な欲望の対象になった<ref name="#1"/>。
== 名の由来 ==
:詳細は「[[:en:Freyja#Name|フレイヤの名称一覧]]」を参照
フレイヤという名は「婦人」という意味であり、最終的には[[ゲルマン祖語]]の *fraw(j)ōn（[[:en:Fraujaz|en]]）に由来する。フレイヤは[[古ザクセン語]]で「婦人、女主人」を意味する frūa や（現代ドイツ語の「婦人」を意味する Frau に対応する）[[古高ドイツ語]]の frouwa と[[同根語]]である{{sfnp|Orel|2003|p=112}}。フレイヤという神の名は、今日ではもう証明できない神の個人名を置き換えるのに用いられた[[形容語句]]に起源を持つと考えられている{{sfnp|Grundy|1998|pp=55{{ndash}}56}}。置き換えの結果、元の名前は完全に[[タブー]]となったか、他の既に知られている女神に引き写される、あるいは下位に置かれるなどの過程を経たかのいずれかであると考えられる。<!--; see "Relation to Frigg and other goddesses and figures" below.-->
== 概要 ==
=== 来歴 ===
フレイヤは[[ヴァン神族]]の出身であり、ヴァン神族と[[アース神族]]の抗争（ヴァン戦争）が終了し和解するにあたり、人質として父、兄とともに[[アースガルズ]]に移り住み<ref name="yamamuro122" />、アース神族にセイズをもたらした。
=== 関係者 ===
海神ニョルズと[[ニョルズの姉妹妻|ニョルズの妹]]の間の子であり、豊穣神フレイの双子の妹である<ref>[[#スノッリ, 谷口訳 (2008)|スノッリ, 谷口訳 (2008)]], p. 39. （『[[ヘイムスクリングラ]]』の『[[ユングリング家のサガ]]』）。</ref>。夫は[[オーズ]]<ref name="Neckel11">[[#ネッケル他編, 谷口訳 (1973)|ネッケル他編, 谷口訳 (1973)]], p. 11. （『古エッダ』の『[[巫女の予言]]』）。</ref><ref name="Snorri2008_52">[[#スノッリ, 谷口訳 (2008)|スノッリ, 谷口訳 (2008)]], p. 52. （『ユングリング家のサガ』）。</ref>（おそらくアース神族）。[[フノス]]<ref name="Neckel251">[[#ネッケル他編, 谷口訳 (1973)|ネッケル他編, 谷口訳 (1973)]], p. 251. （『ギュルヴィたぶらかし』35章）。</ref><ref name="Snorri2008_52" />と[[ゲルセミ]]<ref name="Snorri2008_52" />という娘がいる。[[オッタル]]<ref>[[#ネッケル他編, 谷口訳 (1973)|ネッケル他編, 谷口訳 (1973)]], p. 212. （『古エッダ』の『[[ヒュンドラ|ヒュンドラの歌]]』）。</ref>という人間の愛人がいる。
=== 所有物 ===
フレイヤの住む館は[[フォールクヴァング]]といい、その広間[[セスルームニル]]は広くて美しいといわれており、そこで戦死者を選び取るとされている<ref>[[#ネッケル他編, 谷口訳 (1973)|ネッケル他編, 谷口訳 (1973)]], p. 53. （『古エッダ』の『グリームニルの歌』第14[[スタンザ|聯]]）。</ref><ref name="Neckel245">[[#ネッケル他編, 谷口訳 (1973)|ネッケル他編, 谷口訳 (1973)]], p. 245. （『ギュルヴィたぶらかし』24章）。</ref>。
[[ブリーシンガメン|ブリーシンガルの首飾り]]<ref>[[#ネッケル他編, 谷口訳 (1973)|ネッケル他編, 谷口訳 (1973)]], p. 90. （『古エッダ』の『{{仮リンク|スリュムルの歌|en|Þrymskviða|label=スリュムの歌}}』第13聯）。</ref>もしくは[[ブリーシンガメン|ブリージンガメン]]<ref name="Neckel252" />という、神をも魅了する黄金製（もしくは琥珀製）の首飾りを所持している。
=== 動物との関わり ===
[[豚]]が多産であることから、豊饒の女神であるフレイヤの聖獣とされている。
フレイヤは古ノルド語でそれぞれ蜂蜜と琥珀を意味するベイグルとトリエグルという2匹の巨大な猫が牽く車を持っており、移動手段としている<ref name="Neckel245" /><ref>[[#ネッケル他編, 谷口訳 (1973)|ネッケル他編, 谷口訳 (1973)]], p. 272. （『ギュルヴィたぶらかし』49章）。</ref>。[[ヒルディスヴィーニ]]という[[イノシシ|猪]]も持っていてこれに乗って移動することもある。愛人の[[オッタル]]が変身した姿ともいわれている<ref>[[#デイヴィッドソン, 米原他訳 (1992)|デイヴィッドソン, 米原他訳 (1992)]], p. 188.</ref>。
フレイヤ自身が動物に変身することがある。フレイヤは夜になると、[[ヤギ|牝山羊]]に変身して牡山羊と遊ぶという。他に着ると[[タカ目|鷹]]に変身できる鷹の羽衣をもっており、この羽衣は何度か[[ロキ]]に貸している。
== 主なエピソード ==
=== 愛を司る女神 ===
性に関してだらしない面があり、首飾りを手に入れる際も、製作した4人の[[ドワーフ#北欧におけるドワーフ|小人]]たちに求められるまま、4夜をともに過ごしたとされる<ref>[[#山室 (1982)|山室 (1982)]], p. 124.</ref>。人間や神々の中にも多くの愛人がいたという。特にお気に入りだったのが人間の男性オッタルで、彼を猪に変身させてそれに乗って移動することもあったという。そのためか、夫オーズに去られている。
フレイとも関係を持った事があるが、ヴァン神族において[[近親婚]]は日常的に行われる。『[[古エッダ]]』の『[[ロキの口論]]』においても、ロキから、フレイヤが兄と一緒にいるときに神々が乱入したことを指摘されている<ref>[[#ネッケル他編, 谷口訳 (1973)|ネッケル他編, 谷口訳 (1973)]], pp. 83-84.</ref>。
人間が恋愛問題で祈願すれば喜んで耳を傾けるともいわれている<ref name="Neckel245" />。
名前の類似から[[フリッグ]]（別名[[フリーン]]）と混同されやすい。また、愛の女神という点で、[[ローマ神話]]の[[ウェヌス]]と同一視されることもある。
=== 豊穣の女神 ===
兄のフレイと共に豊穣神としてアース神族の最重要神とされる。
霜の巨人からしばしば身柄を狙われている。たとえば、破壊されたアースガルズの城壁の建設を請け負った石工は、正体が山の巨人であったが、報酬として望んだのはフレイヤと太陽と月であった<ref name="Neckel11" /><ref>[[#ネッケル他編, 谷口訳 (1973)|ネッケル他編, 谷口訳 (1973)]], pp. 258-259. （『スノッリのエッダ』42章）。</ref>。また、巨人[[スリュム]]がアース神の[[トール]]の持つ最強の武器を盗み、返却の条件として出したのは自身とフレイヤとの結婚であった<ref>[[#ネッケル他編, 谷口訳 (1973)|ネッケル他編, 谷口訳 (1973)]], pp. 89-92. （『スリュムの歌』）。</ref>。巨人[[フルングニル]]が[[ヴァルハラ]]宮内で酒に酔った時は、フレイヤと[[シヴ]]だけを自分の国へ連れて行き後は皆殺しにするなどと豪語した<ref>[[#スノッリ, 谷口訳注 (1983)|スノッリ, 谷口訳注 (1983)]], pp. 24-25.</ref>。
=== 死者を迎える女神 ===
『古エッダ』や『ギュルヴィたぶらかし』では、戦場で死んだ勇敢な戦士を彼女が選び取り、オーディンと分け合うという記述がある。なぜ彼女が主神と対等に戦死者を分け合うとされているのか、理由ははっきりしていない。戦死者をオーディンの元へ運ぶのは[[ワルキューレ]]の役割であるため、フレイヤが彼女たちのリーダーだからと考える研究者もいる。あるいはフレイヤとオーディンの妻フリッグ（別名フリーン）は同じ女神の別の時期の名前であって2人は同一人物だった可能性もあるという。フレイヤがオーディンの妻ならば死者を夫と分け合うのは不自然なことではない。（詳しくは[[オーズ]]を参照。）さらに、キリスト教への改宗が進んだ時期にはフレイヤがフリッグの地位を占めるようになっていたとも考えられる。その一例として、アイスランドの首領の[[ヒャルティ・スケッギャソン]]が[[999年]]の[[アルシング]]の会場で旧来の神々を冒涜した際に謡った詩は、「2匹の犬つまり淫婦のフレイヤとオーディンを一緒にしろ」という趣旨の、2人の関係をほのめかす内容であった<ref>[[#山室 (1982)|山室 (1982)]], pp. 125-127.</ref>。
女性が死んだ際にフレイヤの元へ迎えられるという伝承もあり、サガにおいて、自殺すると決めた女性が、フレイヤの元で食事するまでは断食を続けると語る場面がある<ref>[[#山室 (1982)|山室 (1982)]], p. 126.</ref>。
=== 黄金を生み出す女神 ===
『[[巫女の予言]]』に登場する女性[[グルヴェイグ]]の正体は彼女だと考えられている。「グルヴェイグ（{{lang|non|Gullveig}}）」という名は「黄金の力」を意味し<ref>[[#ネッケル他編, 谷口訳 (1973)|ネッケル他編, 谷口訳 (1973)]], p. 122.</ref>、黄金の擬人化、または黄金の力が女性の姿をとった存在だとされている<ref>[[#ノルダル, 菅原訳 (1993)|ノルダル, 菅原訳 (1993)]], p. 168.</ref>。
フレイヤが行方不明になった夫を捜して世界中を旅する間に流した赤い涙は、地中に染み入って黄金になったとされている<ref name="Neckel251" />。そのため黄金は、フレイヤの名乗った別名から「マルデルの涙」と呼ばれることもある<ref>[[#山室 (1982)|山室 (1982)]], p. 127.</ref>。
=== その他 ===
グルヴェイグに関連したエピソードとして、グルヴェイグは「[[セイズ]]」という魔法を使って人々をたぶらかした<ref name="Neckel11" />が、フレイヤもセイズを使うことができ、オーディンに教えたとされている<ref>[[#山室 (1982)|山室 (1982)]] , p. 55.</ref>。セイズの本質は人の魂を操る事にあり、霊を呼び寄せて予言を受けたり、己の肉体から魂を分離して遠くで起きた事を知る事ができたという。セイズの使い手は女性とされ、男性が使う事は不快がられた（たとえば『ロキの口論』において、オーディンがセイズを使う事に対してロキが女々しいやり方だと罵倒している）。
行方不明のオーズを探す間にフレイヤは様々な異名を名乗った。たとえばMardöll（マルドル、マルデル）、Hörn（ホルン、ホーン）、Gefn（ゲヴン、ゲフン）、Sýr（スュール、シル）が知られている<ref name="Neckel252" />。
女神[[ゲフィオン]]（''Gefjun''）にはフレイヤとの共通点がみられる。フレイヤの別名の中には「ゲヴン」（''Gefn''）という、「ゲフィオン」に似た名前がある。またフレイヤが女性の死者を迎えるように、ゲフィオンも処女で死んだ女性を迎えている。[[山室静]]は2人を同一神格と考えるには材料が不十分としている<ref>[[#山室 (1982)|山室 (1982)]], p. 171.</ref>が、{{仮リンク|H.R.エリス・ディヴィッドソン|en|Hilda Ellis Davidson}}は「ゲフン」とゲフィオンが関連していると考えている<ref>[[#デイヴィッドソン, 米原他訳 (1992)|デイヴィッドソン, 米原他訳 (1992)]], p. 186.</ref>。
== フレイヤに由来する命名 ==
* [[第二次世界大戦]]中にドイツ軍が使用した対空レーダー「[[フライヤ (レーダー)|フライヤ]]」は彼女の名にちなんで命名された。
* 原子番号23の元素[[バナジウム]]（Vanadium）はこの女神の異名ヴァナディース（Vanadis）にちなんで命名された。
* 1862年に発見された[[小惑星]]も彼女にちなんで（76）「[[フレイア (小惑星)|フレイア]]（Freia）」と命名された。同様に、1884年に発見された小惑星には（240）「[[ヴァナディース (小惑星)|ヴァナディース]]（Vanadis）」と命名された。
== 脚注 ==
{{Reflist|2}}
== 参考文献 ==
* {{Cite journal |和書 |author=[[菅原邦城]] |title=北欧神話 |publisher=[[東京書籍]]|date=1984-10 |ref=菅原 (1984) }}
* {{Cite journal |和書 |author=[[スノッリ・ストゥルルソン]] |author2=[[谷口幸男]]訳注 |title=スノリ『エッダ』「[[詩語法]]」訳注 |journal=[[広島大学]]文学部紀要 |volume=第43巻No.特輯号3 |date=1983-12 |naid=40003290104 |ref=スノッリ, 谷口訳注 (1983) }}
* {{Cite book |和書 |author=スノッリ・ストゥルルソン |others=谷口幸男訳 |title=ヘイムスクリングラ - 北欧王朝史 - |volume=1 |series=1000点世界文学大系 北欧篇3 |publisher=プレスポート・北欧文化通信社 |date=2008-10 |isbn=978-4-938409-02-9 |ref=スノッリ, 谷口訳 (2008) }}
* {{Cite book |和書 |author=H.R.エリス・デイヴィッドソン |authorlink=:en:Hilda Ellis Davidson |others=米原まり子、一井知子訳 |title= 北欧神話 |publisher=[[青土社]] |date=1992-09 |isbn=978-4-7917-5191-4 |ref=デイヴィッドソン, 米原他訳 (1992) }}
* {{Cite book |和書 |editor=V.G.ネッケル他 |others=谷口幸男訳 |title=エッダ 古代北欧歌謡集 |publisher=[[新潮社]] |date=1973-08 |isbn=978-4-10-313701-6 |ref=ネッケル他編, 谷口訳 (1973) }}
* {{Cite book |和書 |author=シーグルズル・ノルダル|authorlink=シーグルズル・ノルダル |others=[[菅原邦城]]訳 |title=巫女の予言 エッダ詩校訂本 |publisher=[[学校法人東海大学出版部|東海大学出版部]] |date=1993-12 |isbn=978-4-486-01225-2 |ref=ノルダル, 菅原訳 (1993) }}
* {{Cite book |和書 |author=山室静|authorlink=山室静 |title=北欧の神話 神々と巨人のたたかい |publisher=[[筑摩書房]] |series=世界の神話 8 |date=1982-09 |isbn=978-4-480-32908-0 |ref=山室 (1982) }}
* {{cite book |last=Orel |first=Vladimir |authorlink= |year=2003 |title=A Handbook of Germanic Etymology |publisher=Brill Publishers |isbn=90 04 12875 1 |ref=harv}}
* {{cite book |last=Grundy |first=Stephan |authorlink= |editor-last=Billington |editor-first=Sandra |editor2-last=Green |editor2-first=Miranda |contribution=Freyja and Frigg |title=The Concept of the Goddess |publisher=[[Routledge]] |year=1998 |location= |url=https://books.google.com/books?id=IoW9yhkrFJoC&printsec=frontcover&source=gbs_ge_summary_r&cad=0#v=onepage&q&f=false |isbn=0-415-19789-9 |ref=harv}}
== 関連項目 ==
* [[コルンムーメ]]
== 参照 ==
{{デフォルトソート:ふれいや}}
[[Category:北欧神話]]
[[Category:豊穣神]]
[[Category:死と再生の神]]
[[Category:軍神]]
[[Category:冥界神]]
'''フレイア'''、'''フレイアー'''、あるいはドイツ語風に'''フライア'''、'''フライヤ'''というカナ表記が用いられる。綴りについて、英語やドイツ語では（専門家以外は）Freyaが多く、Freiaなどもある。
生と死、愛情と戦い、豊饒と[[セイズ]]を司り、[[オーディン]]や[[ニョルズ]]とは対概念的な存在である<ref>菅原、262頁。</ref>。非常に美しく力のある女神とされ<ref>菅原、263頁。</ref>、豊饒神としての性格上性的に奔放であり、ヴァン神族では普通のこととされているものの、父ニョルズや兄[[フレイ]]とも肉体関係があったほか、[[霜の巨人]]や<ref name="#1"/>、ドヴェルグたちが<ref>菅原、268頁。</ref>身代金や報酬として彼女を望むなど、しばしば性的な欲望の対象になった<ref name="#1"/>。
== 名の由来 ==
:詳細は「[[:en:Freyja#Name|フレイヤの名称一覧]]」を参照
フレイヤという名は「婦人」という意味であり、最終的には[[ゲルマン祖語]]の *fraw(j)ōn（[[:en:Fraujaz|en]]）に由来する。フレイヤは[[古ザクセン語]]で「婦人、女主人」を意味する frūa や（現代ドイツ語の「婦人」を意味する Frau に対応する）[[古高ドイツ語]]の frouwa と[[同根語]]である{{sfnp|Orel|2003|p=112}}。フレイヤという神の名は、今日ではもう証明できない神の個人名を置き換えるのに用いられた[[形容語句]]に起源を持つと考えられている{{sfnp|Grundy|1998|pp=55{{ndash}}56}}。置き換えの結果、元の名前は完全に[[タブー]]となったか、他の既に知られている女神に引き写される、あるいは下位に置かれるなどの過程を経たかのいずれかであると考えられる。<!--; see "Relation to Frigg and other goddesses and figures" below.-->
== 概要 ==
=== 来歴 ===
フレイヤは[[ヴァン神族]]の出身であり、ヴァン神族と[[アース神族]]の抗争（ヴァン戦争）が終了し和解するにあたり、人質として父、兄とともに[[アースガルズ]]に移り住み<ref name="yamamuro122" />、アース神族にセイズをもたらした。
=== 関係者 ===
海神ニョルズと[[ニョルズの姉妹妻|ニョルズの妹]]の間の子であり、豊穣神フレイの双子の妹である<ref>[[#スノッリ, 谷口訳 (2008)|スノッリ, 谷口訳 (2008)]], p. 39. （『[[ヘイムスクリングラ]]』の『[[ユングリング家のサガ]]』）。</ref>。夫は[[オーズ]]<ref name="Neckel11">[[#ネッケル他編, 谷口訳 (1973)|ネッケル他編, 谷口訳 (1973)]], p. 11. （『古エッダ』の『[[巫女の予言]]』）。</ref><ref name="Snorri2008_52">[[#スノッリ, 谷口訳 (2008)|スノッリ, 谷口訳 (2008)]], p. 52. （『ユングリング家のサガ』）。</ref>（おそらくアース神族）。[[フノス]]<ref name="Neckel251">[[#ネッケル他編, 谷口訳 (1973)|ネッケル他編, 谷口訳 (1973)]], p. 251. （『ギュルヴィたぶらかし』35章）。</ref><ref name="Snorri2008_52" />と[[ゲルセミ]]<ref name="Snorri2008_52" />という娘がいる。[[オッタル]]<ref>[[#ネッケル他編, 谷口訳 (1973)|ネッケル他編, 谷口訳 (1973)]], p. 212. （『古エッダ』の『[[ヒュンドラ|ヒュンドラの歌]]』）。</ref>という人間の愛人がいる。
=== 所有物 ===
フレイヤの住む館は[[フォールクヴァング]]といい、その広間[[セスルームニル]]は広くて美しいといわれており、そこで戦死者を選び取るとされている<ref>[[#ネッケル他編, 谷口訳 (1973)|ネッケル他編, 谷口訳 (1973)]], p. 53. （『古エッダ』の『グリームニルの歌』第14[[スタンザ|聯]]）。</ref><ref name="Neckel245">[[#ネッケル他編, 谷口訳 (1973)|ネッケル他編, 谷口訳 (1973)]], p. 245. （『ギュルヴィたぶらかし』24章）。</ref>。
[[ブリーシンガメン|ブリーシンガルの首飾り]]<ref>[[#ネッケル他編, 谷口訳 (1973)|ネッケル他編, 谷口訳 (1973)]], p. 90. （『古エッダ』の『{{仮リンク|スリュムルの歌|en|Þrymskviða|label=スリュムの歌}}』第13聯）。</ref>もしくは[[ブリーシンガメン|ブリージンガメン]]<ref name="Neckel252" />という、神をも魅了する黄金製（もしくは琥珀製）の首飾りを所持している。
=== 動物との関わり ===
[[豚]]が多産であることから、豊饒の女神であるフレイヤの聖獣とされている。
フレイヤは古ノルド語でそれぞれ蜂蜜と琥珀を意味するベイグルとトリエグルという2匹の巨大な猫が牽く車を持っており、移動手段としている<ref name="Neckel245" /><ref>[[#ネッケル他編, 谷口訳 (1973)|ネッケル他編, 谷口訳 (1973)]], p. 272. （『ギュルヴィたぶらかし』49章）。</ref>。[[ヒルディスヴィーニ]]という[[イノシシ|猪]]も持っていてこれに乗って移動することもある。愛人の[[オッタル]]が変身した姿ともいわれている<ref>[[#デイヴィッドソン, 米原他訳 (1992)|デイヴィッドソン, 米原他訳 (1992)]], p. 188.</ref>。
フレイヤ自身が動物に変身することがある。フレイヤは夜になると、[[ヤギ|牝山羊]]に変身して牡山羊と遊ぶという。他に着ると[[タカ目|鷹]]に変身できる鷹の羽衣をもっており、この羽衣は何度か[[ロキ]]に貸している。
== 主なエピソード ==
=== 愛を司る女神 ===
性に関してだらしない面があり、首飾りを手に入れる際も、製作した4人の[[ドワーフ#北欧におけるドワーフ|小人]]たちに求められるまま、4夜をともに過ごしたとされる<ref>[[#山室 (1982)|山室 (1982)]], p. 124.</ref>。人間や神々の中にも多くの愛人がいたという。特にお気に入りだったのが人間の男性オッタルで、彼を猪に変身させてそれに乗って移動することもあったという。そのためか、夫オーズに去られている。
フレイとも関係を持った事があるが、ヴァン神族において[[近親婚]]は日常的に行われる。『[[古エッダ]]』の『[[ロキの口論]]』においても、ロキから、フレイヤが兄と一緒にいるときに神々が乱入したことを指摘されている<ref>[[#ネッケル他編, 谷口訳 (1973)|ネッケル他編, 谷口訳 (1973)]], pp. 83-84.</ref>。
人間が恋愛問題で祈願すれば喜んで耳を傾けるともいわれている<ref name="Neckel245" />。
名前の類似から[[フリッグ]]（別名[[フリーン]]）と混同されやすい。また、愛の女神という点で、[[ローマ神話]]の[[ウェヌス]]と同一視されることもある。
=== 豊穣の女神 ===
兄のフレイと共に豊穣神としてアース神族の最重要神とされる。
霜の巨人からしばしば身柄を狙われている。たとえば、破壊されたアースガルズの城壁の建設を請け負った石工は、正体が山の巨人であったが、報酬として望んだのはフレイヤと太陽と月であった<ref name="Neckel11" /><ref>[[#ネッケル他編, 谷口訳 (1973)|ネッケル他編, 谷口訳 (1973)]], pp. 258-259. （『スノッリのエッダ』42章）。</ref>。また、巨人[[スリュム]]がアース神の[[トール]]の持つ最強の武器を盗み、返却の条件として出したのは自身とフレイヤとの結婚であった<ref>[[#ネッケル他編, 谷口訳 (1973)|ネッケル他編, 谷口訳 (1973)]], pp. 89-92. （『スリュムの歌』）。</ref>。巨人[[フルングニル]]が[[ヴァルハラ]]宮内で酒に酔った時は、フレイヤと[[シヴ]]だけを自分の国へ連れて行き後は皆殺しにするなどと豪語した<ref>[[#スノッリ, 谷口訳注 (1983)|スノッリ, 谷口訳注 (1983)]], pp. 24-25.</ref>。
=== 死者を迎える女神 ===
『古エッダ』や『ギュルヴィたぶらかし』では、戦場で死んだ勇敢な戦士を彼女が選び取り、オーディンと分け合うという記述がある。なぜ彼女が主神と対等に戦死者を分け合うとされているのか、理由ははっきりしていない。戦死者をオーディンの元へ運ぶのは[[ワルキューレ]]の役割であるため、フレイヤが彼女たちのリーダーだからと考える研究者もいる。あるいはフレイヤとオーディンの妻フリッグ（別名フリーン）は同じ女神の別の時期の名前であって2人は同一人物だった可能性もあるという。フレイヤがオーディンの妻ならば死者を夫と分け合うのは不自然なことではない。（詳しくは[[オーズ]]を参照。）さらに、キリスト教への改宗が進んだ時期にはフレイヤがフリッグの地位を占めるようになっていたとも考えられる。その一例として、アイスランドの首領の[[ヒャルティ・スケッギャソン]]が[[999年]]の[[アルシング]]の会場で旧来の神々を冒涜した際に謡った詩は、「2匹の犬つまり淫婦のフレイヤとオーディンを一緒にしろ」という趣旨の、2人の関係をほのめかす内容であった<ref>[[#山室 (1982)|山室 (1982)]], pp. 125-127.</ref>。
女性が死んだ際にフレイヤの元へ迎えられるという伝承もあり、サガにおいて、自殺すると決めた女性が、フレイヤの元で食事するまでは断食を続けると語る場面がある<ref>[[#山室 (1982)|山室 (1982)]], p. 126.</ref>。
=== 黄金を生み出す女神 ===
『[[巫女の予言]]』に登場する女性[[グルヴェイグ]]の正体は彼女だと考えられている。「グルヴェイグ（{{lang|non|Gullveig}}）」という名は「黄金の力」を意味し<ref>[[#ネッケル他編, 谷口訳 (1973)|ネッケル他編, 谷口訳 (1973)]], p. 122.</ref>、黄金の擬人化、または黄金の力が女性の姿をとった存在だとされている<ref>[[#ノルダル, 菅原訳 (1993)|ノルダル, 菅原訳 (1993)]], p. 168.</ref>。
フレイヤが行方不明になった夫を捜して世界中を旅する間に流した赤い涙は、地中に染み入って黄金になったとされている<ref name="Neckel251" />。そのため黄金は、フレイヤの名乗った別名から「マルデルの涙」と呼ばれることもある<ref>[[#山室 (1982)|山室 (1982)]], p. 127.</ref>。
=== その他 ===
グルヴェイグに関連したエピソードとして、グルヴェイグは「[[セイズ]]」という魔法を使って人々をたぶらかした<ref name="Neckel11" />が、フレイヤもセイズを使うことができ、オーディンに教えたとされている<ref>[[#山室 (1982)|山室 (1982)]] , p. 55.</ref>。セイズの本質は人の魂を操る事にあり、霊を呼び寄せて予言を受けたり、己の肉体から魂を分離して遠くで起きた事を知る事ができたという。セイズの使い手は女性とされ、男性が使う事は不快がられた（たとえば『ロキの口論』において、オーディンがセイズを使う事に対してロキが女々しいやり方だと罵倒している）。
行方不明のオーズを探す間にフレイヤは様々な異名を名乗った。たとえばMardöll（マルドル、マルデル）、Hörn（ホルン、ホーン）、Gefn（ゲヴン、ゲフン）、Sýr（スュール、シル）が知られている<ref name="Neckel252" />。
女神[[ゲフィオン]]（''Gefjun''）にはフレイヤとの共通点がみられる。フレイヤの別名の中には「ゲヴン」（''Gefn''）という、「ゲフィオン」に似た名前がある。またフレイヤが女性の死者を迎えるように、ゲフィオンも処女で死んだ女性を迎えている。[[山室静]]は2人を同一神格と考えるには材料が不十分としている<ref>[[#山室 (1982)|山室 (1982)]], p. 171.</ref>が、{{仮リンク|H.R.エリス・ディヴィッドソン|en|Hilda Ellis Davidson}}は「ゲフン」とゲフィオンが関連していると考えている<ref>[[#デイヴィッドソン, 米原他訳 (1992)|デイヴィッドソン, 米原他訳 (1992)]], p. 186.</ref>。
== フレイヤに由来する命名 ==
* [[第二次世界大戦]]中にドイツ軍が使用した対空レーダー「[[フライヤ (レーダー)|フライヤ]]」は彼女の名にちなんで命名された。
* 原子番号23の元素[[バナジウム]]（Vanadium）はこの女神の異名ヴァナディース（Vanadis）にちなんで命名された。
* 1862年に発見された[[小惑星]]も彼女にちなんで（76）「[[フレイア (小惑星)|フレイア]]（Freia）」と命名された。同様に、1884年に発見された小惑星には（240）「[[ヴァナディース (小惑星)|ヴァナディース]]（Vanadis）」と命名された。
== 脚注 ==
{{Reflist|2}}
== 参考文献 ==
* {{Cite journal |和書 |author=[[菅原邦城]] |title=北欧神話 |publisher=[[東京書籍]]|date=1984-10 |ref=菅原 (1984) }}
* {{Cite journal |和書 |author=[[スノッリ・ストゥルルソン]] |author2=[[谷口幸男]]訳注 |title=スノリ『エッダ』「[[詩語法]]」訳注 |journal=[[広島大学]]文学部紀要 |volume=第43巻No.特輯号3 |date=1983-12 |naid=40003290104 |ref=スノッリ, 谷口訳注 (1983) }}
* {{Cite book |和書 |author=スノッリ・ストゥルルソン |others=谷口幸男訳 |title=ヘイムスクリングラ - 北欧王朝史 - |volume=1 |series=1000点世界文学大系 北欧篇3 |publisher=プレスポート・北欧文化通信社 |date=2008-10 |isbn=978-4-938409-02-9 |ref=スノッリ, 谷口訳 (2008) }}
* {{Cite book |和書 |author=H.R.エリス・デイヴィッドソン |authorlink=:en:Hilda Ellis Davidson |others=米原まり子、一井知子訳 |title= 北欧神話 |publisher=[[青土社]] |date=1992-09 |isbn=978-4-7917-5191-4 |ref=デイヴィッドソン, 米原他訳 (1992) }}
* {{Cite book |和書 |editor=V.G.ネッケル他 |others=谷口幸男訳 |title=エッダ 古代北欧歌謡集 |publisher=[[新潮社]] |date=1973-08 |isbn=978-4-10-313701-6 |ref=ネッケル他編, 谷口訳 (1973) }}
* {{Cite book |和書 |author=シーグルズル・ノルダル|authorlink=シーグルズル・ノルダル |others=[[菅原邦城]]訳 |title=巫女の予言 エッダ詩校訂本 |publisher=[[学校法人東海大学出版部|東海大学出版部]] |date=1993-12 |isbn=978-4-486-01225-2 |ref=ノルダル, 菅原訳 (1993) }}
* {{Cite book |和書 |author=山室静|authorlink=山室静 |title=北欧の神話 神々と巨人のたたかい |publisher=[[筑摩書房]] |series=世界の神話 8 |date=1982-09 |isbn=978-4-480-32908-0 |ref=山室 (1982) }}
* {{cite book |last=Orel |first=Vladimir |authorlink= |year=2003 |title=A Handbook of Germanic Etymology |publisher=Brill Publishers |isbn=90 04 12875 1 |ref=harv}}
* {{cite book |last=Grundy |first=Stephan |authorlink= |editor-last=Billington |editor-first=Sandra |editor2-last=Green |editor2-first=Miranda |contribution=Freyja and Frigg |title=The Concept of the Goddess |publisher=[[Routledge]] |year=1998 |location= |url=https://books.google.com/books?id=IoW9yhkrFJoC&printsec=frontcover&source=gbs_ge_summary_r&cad=0#v=onepage&q&f=false |isbn=0-415-19789-9 |ref=harv}}
== 関連項目 ==
* [[コルンムーメ]]
== 参照 ==
{{デフォルトソート:ふれいや}}
[[Category:北欧神話]]
[[Category:豊穣神]]
[[Category:死と再生の神]]
[[Category:軍神]]
[[Category:冥界神]]
