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、 2022年3月12日 (土) 07:26
'''ホラガイ'''(法螺貝)(学名:Charonia tritonis、''Triton's trumpet'')は、ホラガイ科(旧分類:中腹足目 フジツガイ科)<ref name="Strong et al.,2019">Strong, Elen E., Puillandre, Niclas, Beu, Alan G. , Castelin, Magalie, Bouchet, Philippe., 2019-01, Frogs and tuns and tritons – A molecular phylogeny and revised family classification of the predatory gastropod superfamily Tonnoidea (Caenogastropoda) , Molecular Phylogenetics and Evolution, volume=130, pages=18-34, doi=10.1016/j.ympev.2018.09.016</ref>に分類される巻貝の一種。日本産の巻貝では最大級の種類で<ref name=koba_p110>小林安雅 『ヤマケイポケットガイド16 海辺の生き物』 山と渓谷社 2000年 p.110.</ref>、身は食用とされ、貝殻は楽器]として使用される。
近縁種にボウシュウボラ(学名 {{snamei||Charonia lampas sauliae}})、ナンカイボラ(学名 {{snamei||Charonia sauliae macilenta}})があり、流通上は区別されずにホラガイ呼ばれることが多い<ref name="miyazakikaiyo">{{cite web|title=水産食品栄養学番外編 第104話「ボウシュウボラ」 |url=https://www.facebook.com/miyazakikaiyo/posts/2876184979319895 |publisher=宮崎大学農学部海洋生物環境学科 |date=2021-03-02 |accessdate=2022-02-19 |archiveurl=https://archive.is/EeP6P |archivedate=2022-02-19}}</ref>。
== 分布 ==
[[紀伊半島]]以南の[[西太平洋]]、[[インド洋]]に広く分布。日本では、紀伊半島、[[八丈島]]以南に分布する<ref name=koba_p110 />。
== 形態 ==
[[File:Charonia tritonis a1.jpg|thumb|right|ホラガイ]]
殻高が40cmを超え、殻径も19cmに達する大型の巻貝である。殻は卵円錐形で、上方の螺塔は高く尖り、下方の体層は大きく丸く膨らむ。殻の表面には太く低い螺肋があり、褐色、紅色、白色等の三日月から半月状の斑紋が交互に現れて[[ヤマドリ]]の羽のような模様になる。殻口は広く、外唇は丸く反り返って、縁沿いに黒色と白色の畝が交互に並ぶ<ref name="kotobank">{{cite web|title=ホラガイとは |url=https://kotobank.jp/word/%E3%83%9B%E3%83%A9%E3%82%AC%E3%82%A4-134185 |publisher=コトバンク |accessdate=2022-02-19 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220219234018/https://kotobank.jp/word/%E3%83%9B%E3%83%A9%E3%82%AC%E3%82%A4-134185 |archivedate=2022-02-19}}</ref>。
== 利用 ==
=== 楽器としての利用 ===<!--[[陣貝]]からこの節へのリダイレクトがあります-->
[[File:Conque Magdalenienne de Marsoulas.jpg|thumb|right|マルスラ洞窟で発掘されたホラガイの笛]]
ホラガイを加工した[[楽器|吹奏楽器]]が、日本、[[東南アジア]]、[[オセアニア]]で見られる。[[楽器分類法]]上は、唇の振動で音を出すため[[金管楽器]]に分類される<ref name="gakkihaku">{{cite journal|和書|title=収蔵資料の紹介 3 法螺貝 |url=https://www.gakkihaku.jp/mgr/wp-content/uploads/2020/03/tayori3.pdf |journal=浜松市楽器博物館だより |issue=No.3 |page=3 |publisher=浜松市楽器博物館 |date=1996-03-30 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20220219003720/https://www.gakkihaku.jp/mgr/wp-content/uploads/2020/03/tayori3.pdf |archivedate=2022-02-19}}</ref>。
[[2021年]]2月10日、[[フランス国立科学研究センター]]は、[[フランス]]南西部[[ピレネー山脈]]の麓に位置する{{仮リンク|マルスラ洞窟|en|Marsoulas Cave}}の遺跡から、約18.000年前のホラガイの一種から作られた笛が発掘されたことを、アメリカの科学雑誌「{{仮リンク|サイエンス・アドバンシズ|en|Science Advances}}」に発表した。この笛は、{{仮リンク|トゥールーズ自然史博物館|en|Muséum de Toulouse}}に長らく儀式用のカップとして所蔵されていたもので、近年の分析の結果、笛として使われていたことがわかったという。また、この笛は「世界最古の大型巻貝の笛」の可能性があると考えられている<ref>{{cite news|title=1.8万年前のホラガイの笛 ドやレの音、世界最古か 仏ピレネーの洞窟遺跡で発見(時事通信) |url=https://news.yahoo.co.jp/articles/b6faabbd57646bc04afd237b00802d83e8336b03 |work=Yahoo!ニュース |date=2021-02-11 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20210212170947/https://news.yahoo.co.jp/articles/b6faabbd57646bc04afd237b00802d83e8336b03 |archivedate=2021-02-12}}</ref><ref>{{cite news|title=1.8万年前の「ド・ド#・レ」 仏洞窟で発見の巻き貝の笛 |url=https://www.afpbb.com/articles/-/3331336 |work=AFPBB News |date=2021-02-12 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20210212021728/https://www.afpbb.com/articles/-/3331336 |archivedate=2021-02-12}}</ref>。
==== 日本 ====
[[File:Antique Japanese horagi (conch shell trumpet).JPG|thumb|right|音を出せるよう加工されたホラガイの貝殻]]
[[File:Himeji Oshiro Matsuri August09 008.jpg|thumb|right|法螺貝を吹く甲冑武者(姫路お城祭)]]
[[File:Yamabushi.jpg|thumb|right|法螺貝を持つ山伏([[金峯山寺]])]]
日本では、貝殻の殻頂を4-5cm削り、口金を[[石膏]]等で固定して加工する<ref>{{cite news|title=インタビュー VOL06 高尾山薬王院・桑澤俊宏さん |url=https://mttakaomagazine.com/interview/vol06 |work=高尾山マガジン |date=2020-11-09 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220205062705/https://mttakaomagazine.com/interview/vol06 |archivedate=2022-02-20}}</ref>。
日本での使用例は、[[平安時代]]から確認できる。[[12世紀]]末成立の『[[梁塵秘抄]]』の一首に、「[[山伏]]の腰につけたる法螺貝のちやうと落ちていと割れ砕けてものを思ふころかな」と記されている。同じく12世紀成立の『[[今昔物語集]]』にも、本朝の巻「芋がゆ」の中で、人呼びの丘と呼ばれる小高い塚の上で法螺貝が使用されていた記述がある。
現存する[[中世#日本|中世]]の法螺貝笛としては、「北条白貝」(大小2つ)がある。[[16世紀]]末の[[小田原征伐]]の際、降伏した[[北条氏直]]が[[黒田孝高]](如水)の仲介に感謝し、贈ったものの一つとされ、[[福岡市美術館]]が所蔵している<ref>{{cite web|title=法螺貝(北条白貝) |url=https://www.fukuoka-art-museum.jp/archives/pre_modern_arts/192?title=&name=&year=&genre=%25E5%2585%25B6%25E4%25BB%2596&collection=%25E9%25BB%2592%25E7%2594%25B0%25E8%25B3%2587%25E6%2596%2599 |publisher=福岡市美術館 |accessdate=2022-02-20 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20220220001128/https://www.fukuoka-art-museum.jp/archives/pre_modern_arts/192?title=&name=&year=&genre=%25E5%2585%25B6%25E4%25BB%2596&collection=%25E9%25BB%2592%25E7%2594%25B0%25E8%25B3%2587%25E6%2596%2599 |archivedate=2022-02-20}}</ref><ref>『歴史読本 5 2013 特集 徹底検証!黒田官兵衛』 [[新人物往来社]] p.12.</ref>。
[[家紋]]としては、京都[[聖護院]]の「法螺貝紋」が知られ、「糸輪に法螺貝紋」などがある<ref name="kamon_p144" />。
===== 軍事での使用 =====
[[戦国時代 (日本)|戦国時代]]には合戦における戦陣の合図や戦意高揚のために、陣貝と呼ばれる法螺貝が用いられた。[[上泉信綱]]伝の、大江家の兵法書を戦国風に改めた兵書『訓閲集』に、戦場における作法が記述されている。元々、軍用の陣笛は、動物の角などを用いていたが、のちに法螺貝に代わったとされる<ref name="kamon_p144">『日本家紋総覧 コンパクト版』 新人物往来社 第5刷 1998年(第1刷 1990年) p.144.</ref>。
近代期の戦闘でも陣貝は用いられ、一例として、[[明治]]期の[[秩父事件]]において、戸長役場の報告として、「町の東西北三方より暴徒600人計、螺(ホラ)を吹き、鬨の声を発し、押し来たり」と記録されている<ref>古林安雄 『秩父事件 自由困民党の戦い』 埼玉新聞社 2014年 p.53.</ref>。
[[新渡戸稲造]]が聞いた話として、「戦争で用いられる法螺笛は、なるべき傷があるものが選ばれたとされ、その理由として、海底で波とうに打たれ、たたかれ、かしこの岩や石にぶつかり、かん難を重ねた貝が一番良い音を発するゆえ、漁師が取っていた」としている<ref>新渡戸稲造 『修養』明治44年刊、第十章「逆境にある時の心得」内の「逆境の人は心に疵を受けやすい」の項</ref>。
===== 仏教での使用 =====
[[密教]]用語では、法螺は、「ホラ」ではなく、「ホウラ」と読む<ref name="esoterica_p152">『Books Esoterica 第1号 密教の本 驚くべき秘儀・修法の世界』 学研 第8刷 1993年(第1刷 1992年) p.152.</ref>。[[如来]]の説法の声を象徴し、その音を聞けば、罪は消滅し、極楽に往生できると経典に記され(後述書 p.152)、衆生の罪の汚れを消し去り、悟りに導く象徴として法螺が吹かれた(<ref name="esoterica_p152" />。[[空海]]が持ち帰ったともされ、[[灌頂]]の際には[[阿闍梨]]が受者に法螺を授けた<ref name="esoterica_p152" />。
[[修験道]]では、「立螺作法(りゅうらさほう)」と呼ばれる実践が修行される。立螺作法には、当山派・本山派などの修験道各派によって流儀を異にし、吹奏の音色は微妙に違う。大まかには乙音(低音側)、甲音(高音側)、さらには調べ、半音、当り、揺り、止め(極高音)などを様々に組み合わせて、獅子吼に擬して仏の説法とし、悪魔降伏の威力を発揮するとされ、更には山中を駈ける修験者同士の意思疎通を図る法具として用いられる。軍用の法螺は三巻半の貝が用いられ、山伏の法螺は三巻の貝が用いられた<ref name="kamon_p144" />。
[[昭和]]初期に発表された[[醍醐寺]][[三宝院]]当山派本間龍演師の『立螺秘巻』は、その後の修験者、とりわけ[[吹螺師]]を修行する者の必須テキストとして評価伝承されている。
[[東大寺二月堂]]の[[修二会]](お水取り)では、堂内から鬼を追い祓うため、法螺貝が吹き鳴らされる<ref name="gakkihaku" />。[[重要文化財]]の『二月堂修中練行衆日記』には[[足利義満]]が[[1391年]](明徳2年)に二月堂を訪れ、修二会で使われる「尾切」及び「小鷹」という銘の法螺貝の音を楽しんだという記録がある<ref>{{cite web|title=お知らせ/特集展示 二月堂修二会 |url=http://culturecenter.todaiji.or.jp/news/20200204_216.html |publisher=東大寺総合文化センター |date=2020-02-27 |accessdate=2022-02-20 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20200221064303/http://culturecenter.todaiji.or.jp/news/20200204_216.html |archivedate=2020-02-21}}</ref>。
[[秋田県]]の俗信に「山伏が法螺を吹くと雨が降る」というものがある<ref>鈴木棠三 『日本俗信辞典 動物編』 角川ソフィア文庫 2020年 p.675.</ref>。
===== 竹法螺 =====
ホラガイは入手しづらかったため、代用品として「'''竹法螺'''」が作られ、用いられた<!-- 『竹でつくる楽器』 創和出版 -->。東北を舞台とする[[落語]]の『一眼国』では竹法螺が登場する。また、[[1738年]](元文3年)に[[磐城平藩]]で起きた[[磐城平元文一揆]](岩城騒動)でも竹法螺が用いられた<ref>{{cite journal|和書|title=藩体制の確立と百姓一揆 : 元文三年平藩一揆について |author=庄司吉之助 |url=http://hdl.handle.net/10270/3130 |journal=東北経済 |issue=42 |pages=1-30 |publisher=福島大學東北經濟研究所 |date=1964-07-30}}</ref>。[[愛媛県]][[南予地方]]の[[和霊大祭|牛鬼まつり]]でも、竹法螺が用いられる<ref>{{cite web|title=臨海都市圏の生活文化(平成7年度) |url=https://www.i-manabi.jp/system/regionals/regionals/ecode:1/5/view/1012 |work=データベース『えひめの記憶』(3)祭りを彩る |publisher=愛媛県生涯学習センター |accessdate=2022-02-20 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20220220010711/https://www.i-manabi.jp/system/regionals/regionals/ecode:1/5/view/1012 |archivedate=2022-02-20}}</ref>。
==== 日本以外 ====
[[File:Hindu priest blowing conch during punja.jpg|thumb|right|{{ill2|プージャー|en|Puja (Hinduism)}}の儀式でシャンカを吹くヒンズー教の祭司]]
チベット語で[[トゥンカル]]は「白いホラガイ」の意である。サンスクリットではシャンカ({{ラテン翻字|sa|śaṅkha}})と呼ばれる<ref>宮坂宥勝『仏教語入門』(1987年) p.178.</ref>。[[ヴィシュヌ]]神の象徴であり、奉納品で、海での安全を願う魔除けである。
=== 食用 ===
内臓の部分を除く身の部分は[[刺身]]などの食用とされる。ただし、内臓に[[テトロドトキシン]]を蓄積することがあるため注意が必要である<ref>{{cite news|title=スペインバスク州食品安全機関(ELIKA)、海洋性生物毒に関するニュースレターを公表(1/2) |url=https://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/show/syu04150410508 |work=食品安全関係情報詳細 |publisher=食品安全委員会 |date=2014-10-28 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20220121082622/http://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/show/syu04150410508 |archivedate=2022-01-21}}</ref>。
=== 装身具としての利用 ===
シャンカから、[[バングル]]や[[ブレスレット]]などが作られる<ref name="mitra">{{cite book|last=Rajendralala Mitra|title=Indo-aryans|series=285-8|url=https://books.google.com/books?id=V8KoGspmBGgC&pg=PA287&dq=sankha&lr=&as_brr=3&client=firefox-a&cd=44#v=onepage&q=sankha&f=false | isbn=978-1-4067-2769-2 | year=2006 | publisher=Read Books}}</ref>。
=== 薬としての利用 ===
古代インドの医学書『[[アーユルヴェーダ]]』に Shankha bhasma という薬として書かれている。ライムジュースに浸して10-12回焼き、最終的に粉末とする。この粉末には[[カルシウム]]、[[鉄]]、[[マグネシウム]]が含まれ、制酸薬・整腸剤として機能すると考えられている<ref>{{cite book|last=Lakshmi Chandra Mishra|title=Scientific basis for Ayurvedic therapies |page=96|url=https://books.google.com/books?id=qo0VPGr0RF4C&pg=PT120&dq=sankha&lr=&as_brr=3&client=firefox-a&cd=57#v=onepage&q=sankha&f=false | isbn=978-0-8493-1366-0 | year=2004 | publisher=CRC Press}}</ref>。
[[栃木県]][[芳賀郡]]の俗信として「からみみになったら、法螺貝を削り、その粉を耳の中に入れると治る」とされた<ref name="zokushin_p675">鈴木棠三 『日本俗信辞典 動物編』 角川ソフィア文庫 2020年 p.675.</ref>。また、[[三重県]]では[[民間療法]]として「できものには法螺貝のふたを焼いてつけると吸い出し効果がある」とされた<ref name="zokushin_p675" />。
== 引用文献 ==
== 参照 ==
{{DEFAULTSORT:ほらかい}}
[[Category:日本神話]]
[[Category:魔法のアイテム]]
[[Category:修験道]]