ヤナギ

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ヤナギ、Willow)は、ヤナギ科(Salicaceae) ヤナギ属 (Salix)の樹木の総称。風見草、遊び草と呼ばれることがある。世界に約350種あり、主に北半球に分布する。日本では、ヤナギと言えば一般にシダレヤナギを指すことが多い。ここではヤナギ属全般について記す。

特徴

落葉性の木本であり、高木から低木、ごく背が低く、這うものまである。

葉は互生、まれに対生。托葉を持ち、葉柄は短い。葉身は単葉で線形、披針形、卵形など変化が多い。

雌雄異株で、花は尾状花序、つまり、小さい花が集まった穂になり、枯れるときには花序全体がぽろりと落ちる。ただし、外見的には雄花の花序も雌花の花序もさほど変わらない。雄花は雄しべが数本、雌花は雌しべがあるだけで、花弁はない。代わりに小さい苞や腺体というものがあり、これらに綿毛を生じて、穂全体が綿毛に包まれたように見えるものが多い。すべて虫媒花(ただしケショウヤナギ属をヤナギ属に含める場合はこの限りではない)。

冬芽は1枚のカバーのような鱗片に包まれ、これがすっぽりと取れたり、片方に割れ目を生じてはずれたりする特徴がある。これは、本来は2枚の鱗片であったものが融合したものと考えられる。

果実は蒴果で、種子は小さく柳絮(りゅうじょ)と呼ばれ、綿毛を持っており風に乗って散布される。なお、中国において5月頃の風物詩となっており、古くから漢詩等によく詠み込まれる柳絮だが、日本には目立つほど綿毛を形成しない種が多い。しかし、日本においても意図的に移入された大陸品種の柳があり、柳絮を飛ばす様子を見ることができる。特に北海道において移入種のヤナギが多く、柳絮の舞う様が見られる。

主に温帯に生育し、寒帯にもある。高山やツンドラでは、ごく背の低い、地を這うような樹木となる。日本では水辺に生育する種が多いが、山地に生育するものも少なくない。

表記

ヤナギの漢字表記には「」と「」があるが、枝が垂れ下がる種類(シダレヤナギやウンリュウヤナギなど)には「柳」、枝が立ち上がる種類(ネコヤナギやイヌコリヤナギなど)には「楊」の字を当てる[1]。これらは万葉集でも区別されている[2]

ヤナギの種類

日本では、ヤナギといえば、街路樹公園樹シダレヤナギが代表的であるが、生け花では幹がくねったウンリュウヤナギや冬芽から顔を出す花穂が銀白色の毛で目立つネコヤナギがよく知られている。柳の葉といえば一般的にシダレヤナギの細長いものが連想されるが、円形ないし卵円形の葉を持つ種もある。マルバヤナギ(アカメヤナギ)がその代表で、野生で普通に里山にあり、都市部の公園にも紛れ込んでいる。

実際には、一般の人々が考えるよりヤナギの種類は多く、しかも身近に分布しているものである。やや自然の残った河原であれば、必ず何等かのヤナギが生育し、山地や高原にも生育する種がある。それらはネコヤナギやシダレヤナギとは一見とても異なった姿をしており、結構な大木になるものもある。さらには高山やツンドラでは、地を這うような草より小さいヤナギも存在するが、綿毛状の花穂や綿毛をもつ種子などの特徴は共通している。

ただし、その同定は極めて困難である。日本には30種を軽く越えるヤナギ属の種がある。これらは全て雌雄異株である。花が春に咲き、その後で葉が伸びて来るもの、葉と花が同時に生じるもの、展葉後に開花するものがある。同定のためには雄花の特徴、雌花の特徴、葉の特徴を知る必要がある。しかも、自然界でも雑種が簡単にできるらしいのである。

植生

ヤナギは水分の多い土壌を好み、よく川岸や湿地などに、生えている。自然状態の河川敷では、河畔林として大規模に生育していることがある。これは出水時に上流の河川敷から流木化したものが下流で堆積し、自然の茎伏せの状態で一斉に生育するためである。 

川の侵食を防ぐため川岸に植林される。オーストラリア南部でも入植時に護岸目的で植林されたが、侵略的外来種テンプレート:Ill2)として認定され、在来の樹木への置き換えが進んでいる[3]。繁殖力もさることながら、川の流れを阻害したり、秋には葉を大量に落とし、葉が分解されることで水質を悪化させ環境を激変させることが、オーストラリア政府の関心をひいている。

人の利用

文化

  • 空海が中国を訪れていた時代には、長安では旅立つ人に柳の枝を折って手渡し送る習慣があった。この文化は、漢詩などにも広く詠まれ、王維の有名な送別詩「元二の安西に使するを送る」においても背景になっている。「客舎青青 柳色新たなり」の句について、勝部孝三は、「柳」と「留」(どちらも音はリウ)が通じることから、柳の枝を環にしたものを渡すことが、当時中国において、旅人への餞の慣習であったと解説している。「還」と「環」(どちらも音はホワン)が通じて、また帰ってくることを願う意味が込められているわけである[4]
  • 歯磨き用の歯木として用いられた。多くの種が歯木として使用されたが、中国や日本では楊柳(カワヤナギ)の枝から作ったことから、楊枝(ようじ)と呼ばれた。そこから歯を掃除するための爪楊枝や、歯ブラシとしての房楊枝となった。
  • 柳は解熱鎮痛薬として古くから用いられてきた歴史がある。シュメール時代の粘土板には疼痛の薬として記述され、エジプト人はヤナギの葉から作られたポーションを痛み止めとして使用した[5]。日本でも「柳で作った楊枝を使うと歯がうずかない」と言われ沈痛作用について伝承されていた。19世紀には生理活性物質サリシンが柳から分離され、より薬効が高いサリチル酸を得る方法が発見されている。その後アスピリンも合成された。現在では、サリシンは体内でサリチル酸に代謝される[6]ことがわかっている。また、葉には多量のビタミンCが含まれている。
  • 植栽木として、川や池の周りに植えられた実績があり、先人が考えた水害防止対策といえる。これは柳が湿潤を好み、強靭なしかもよく張った根を持つこと、また倒れて埋没しても再び発芽してくる逞しい生命力に注目したことによる。時代劇に出てくるお堀端の「しだれ柳」の楚々とした風情は、怪談ばなしに、つきものとなった。
  • 古く奈良時代以前から奈伎良(ナギラ)とも呼ばれた。
  • 柳の枝を生糸で編んで作った箱を柳筥(やないばこ)と言い神道では重要な神具である。柳筥に神鏡を納めたり、また柳筥に短冊を乗せたりもするもので、奈良時代から皇室や神社で使用され続けている[7]
  • 花札では11月の絵柄として、「柳に小野道風」、「柳に」、「柳に短冊」、カス(鬼札)が描かれる。

土木工事への利用

挿し木で容易に増えることから、治山などの土留工、伏工ではヤナギの木杭や止め釘を用い、緑化を進める基礎とすることがある。

柳女

柳女(やなぎおんな)は、江戸時代の奇談集『絵本百物語』にあるヤナギの怪異。

画図ではヤナギの木の下に、子供を抱いた女の姿が描かれている。解説文によれば風の激しい日に、子供を抱いた女がヤナギの木の下を通ったところ、女の首にヤナギの枝が巻きついて死んでしまい、その女の一念がヤナギの木に留まり、夜な夜な現れ「口おしや、恨めしの柳や」と泣くという[8]

『絵本百物語』以外にも、ヤナギと女にまつわる話として、宝暦時代の『祇園女御九重錦』や文政時代の『三十三間堂棟木由来』などの浄瑠璃に、ヤナギのが人間の女性に化けて人と契る話があり、民間信仰にもヤナギにまつわる俗信は多い[9]。『絵本百物語』本文においては、ヤナギが女に例えられることや、ヤナギが女に化ける話は、の士捷(ししょう)という者がヤナギに食われて死んだことが由来とされており、勇猛なイメージを持つマツに対して、ヤナギは優しい姿のために女の姿をとるのだという[8]

また、ヤナギそのものがの宿る木と考えられ、ヤナギの枝が風になびく様子が幽霊の手の動作と同じように見え、風に揺れるヤナギの古木の枝に頬を撫でられたり傘を取られたりすることがヤナギの精の仕業と恐れられたことを「柳女」の由来とする説もあり、同様にヤナギのイメージから生まれたと考えられている『絵本百物語』の妖怪に「柳婆」がある。また怪談民間伝承において「柳女」と同じく死んだ女の霊が子供を抱いて現れる妖怪に「産女」がある[10]

参考文献

関連項目

テンプレート:Sisterlinks

外部リンク

参照

  1. http://miyakanken.co.jp/modules/p04/index.php?content_id=9, https://web.archive.org/web/20160308020608/miyakanken.co.jp/modules/p04/index.php?content_id=9, ネコヤナギ(猫柳), 株式会社宮城環境保全研究所, 2016-2-29, archivedate:2016-3-8, deadlinkdat:2020年1月28日
  2. ken0229
  3. Weeds of National Significance (WoNS) 南オーストラリア政府
  4. 勝部孝三『桃源詩話』国文社, 1987年11月25日初版, pp.21‐22
  5. An aspirin a day keeps the doctor at bay: The world's first blockbuster drug is a hundred years old this week.{{{date}}} - via {{{via}}}.
  6. テンプレート:Cite journal
  7. 神社本庁『神社有職故実』1951年7月15日発行全129頁中24頁
  8. 8.0 8.1 多田編1997年、42頁。
  9. 多田編1997年、133-134頁。
  10. テンプレート:Cite book