黄帝型神
黄帝型女神(こうていがたかみ)とは、神話・伝承の中に登場する男神のうち、中国の神である黄帝に類似した性質を持つものを指すこととする。黄帝型神は伝説の黄帝に、それぞれの時代背景や政治的思惑から生じたと思われる様々なイメージが付加されて生じた性質の総称である。古代中国に黄帝に相当する人物がもし仮に存在していたとしても、その性質を必ずしも投影したものではない、といえる。
- 水雷人、という場合:神話的な黄帝といえば炎帝や蚩尤といった「火」の神々と戦って勝利した神であ。また「雷の精の子」という伝承があり、「水神」に関した雷神、天候神
- 食人を忌避する神
- 軍神:「炎帝と戦った」という逸話を持つのだから、軍神としての性質がある。
- 女神の支援を受けて勝利する神あるいは英雄である場合:特に「女神に蘇生して貰った」と類する逸話が不可されたもの。物語の最後が「結婚」で終わる場合。
- 女神の支援を受けて勝利する神あるいは英雄である場合:特に「女神に蘇生して貰った」と類する逸話が不可されたもの。物語の最後が「結婚」に関して不成功で終わる場合。
- 女神の支援を受けて勝利する神:上記以外の場合
- 射日神話に関する英雄
- 招日神話に関する英雄
- その他勝利する神:上記以外の場合
- 女性(女神)が戦って勝利を得る神である場合:黄帝が西王母の支援を受けて炎帝に勝利した故事にちなむ。黄帝の存在が省かれた形式といえる。
- 犠牲神:黄帝的な神が人身御供にされてしまう場合。あるいは殺されて、水に関するものに変化する場合。
- 祖神:なにがしかの犠牲を伴いながら祖神とされる場合。
- 悪神:人々に迷惑をかけるような水雷神である場合。
- 倒される神:悪神である結果倒されてしまう場合。
- その他
目次
本来あったと思われる伝承のプロットを作ろう
大抵の神話は「ここから派生した」といえそうなプロットを仮に作ってみた。
1.昔、姜氏という「人食い」の氏族がいた。彼らは母系の氏族で、家長は女性、族長も女性だった。その頃は全ての氏族が母系であって、人々に「父」というものは存在しなかった。家長は家族の娘たちをまとめ、家族の子を育て、それを母方の叔父や兄弟たちが守り支えていた。彼らは太陽の神、火の神を祀り、虎と牛を姉妹だと考えていた。族長は「太陽女神の化身」と考えられていた。族長は神々を祀り対話するシャーマンでもある。祭の際に人身御供を立てては、神に伺いを立て、神と共に生け贄の人肉を食すのが慣わしだった。女王の兄弟たちは、女王の代理として表向きの政治を取り仕切り人々を支配した。
2.彼らの家臣に姫という青年がいた。優れた青年であり、姜女王の多くの敵と戦ってこれを滅ぼした。彼は「犬族」の出身だった。ある時代、女王の補佐役だった兄弟に、饕餮という傲慢で怠け者の人間が現れ、権威をかさに来て横暴な政治を行い人々を苦しめた。特に「女王と神のため」と称し、神の数を増やして、祭祀のために多くの人身御供やお布施を要求した。姫青年はこれを憂い、女王に補佐官たちの政治を改めて貰いたい、と願った。多くの人々が青年に賛成し、彼と一緒に謀反を起こした。
3.女王は民の声を聞き、政治を改めるべきだと考えたが、饕餮を始めとして兄弟の補佐官たちは聞き入れなかった。姫青年は虎牛族の戦士たちと勇敢に戦ったが、女王の兄弟の一人である蚩尤将軍と戦って瀕死の重傷を負ってしまった。女王は密かに兄弟たちの元から逃げ出し、反乱軍の元にはせ参じた。自分の気持ちが民と共にあることを示すためである。女王と侍女たちは心を込めて姫青年を看病し、奇跡的に青年は回復した。
4.女王が来てくれたことで、形勢は一気に逆転した。それまでは姫青年と民の方が「謀反人」だったのだが、今度は補佐官たちが女王に逆らう「謀反人」になったのだ。姫青年と民は勝利を収めた。饕餮補佐官と蚩尤将軍は戦死した。女王は姫青年がとても好きになってしまったので、姫青年と結婚し夫婦になった。世界で始めて「夫」と「父」というものが誕生したのだ。そして、以後は姜女王の兄弟と夫の両方が補佐官を務めることとなった。姫青年が補佐官となったことで、民の声は女王に届きやすくなり、政治はあらたまった。姫青年は女王の名において「これからは食人を禁ずる。かわりに、祭祀の際は動物を生け贄に捧げる。」と発布した。
5.戦いで死なずに生き残った女王の兄弟たちは、持てる権力が低下したので、これを快く思っていなかった。人身御供を立てることは、政敵をたやすく死に追いやるための方便も兼ねているからだ。しかし、立場が弱くなり、女王の命令で出された発布に異議を唱えることはできない。
6.女王と姫補佐官との間には何人か子が生まれたが、中に一人の賢い男子がいた。姓は母系の時代なので、当然「姜」になる。姜王子は現状に不満を持っていた。なぜなら、どんなに賢くても女王となるのは女性なので、彼は頂点に立つことができない。姉妹の女王の補佐官になったとしても、今度は誰かよその家の者が夫としてやってきて補佐官になるだろうから、その男と権力を分け合わなければいけない。そちらの方が女王の信頼を得れば、姜王子の方が隅に追いやられてしまうことだってあり得る。「理不尽だ」と姜王子は考えた。姉妹たちの誰よりも自分は賢いのだし、男が頂点になって「男王」になって何が悪いのだろうか。それに王になった男が自ら政治を行えば、よその家の男に権力を奪われる心配はないはずだ。補佐官がいなければ政治を行えない女王制の方が無駄だ。神だって「男」ということに変えて、男の王が祭祀を行えばいい。こう考える姜王子を母方の叔父たちが密かに支援した。叔父たちは自分たちを隅に追いやった姉妹の姜女王のことも、夫の姫青年のことも恨んでいたのだ。
7.ある時、河が大反乱を起こして洪水が起きた。気の毒な天災であって、祭祀を行っても効き目はなかった。姜王子にとっては、これはクーデターを起こす好機だった。王子は父親であった姫補佐官に酒を飲ませて殺し、母親を捕らえて「天が禍を起こすのはお前の政治が悪いからだ。お前が生け贄になれ。お前は火と太陽の女神なのだから、罪がなければ焼け死ぬことはないだろう。」と言って、母親に火をつけ焼き殺した。そして、「女性が王なので天が怒った。」と述べて、自らが王として即位した。そして、以後家というものは「男が次ぐ。女は財産を持ってはならない。」と定めた。そうすれば、自分が即位したり、母親の財産を奪ったことを正当化することができると考えたのだ。財産とは女が持っていてはならないものなのだから。そして、以後、中国では「婿というものはよくよく信用せずに、こき使えば良いもの」とされた。姫青年を信用せず、こき使っただけの姜王子の親族の行為はこれで正当化された。
8.しかし、王が両親を殺して王位を簒奪したというのは外聞が悪い。そこで、「河が反乱を起こしたので、女王と姫補佐官は河の神の怒りを収めるため、洪水を収めるために生け贄にせざるを得なかった。彼らが河と嵐の神を鎮めたのだから、今度は姫補佐官を河の神として祀ることとしよう。そして河の神が怒らないように人身御供を捧げよう。女王は太陽女神だったのだから、死後は月の女神となって人々を見守っている、と言うことにしよう。」とすることにした。姜王子は親殺しではない。人々のためにやむなく両親を犠牲にした可哀想な王、ということになった。少なくとも表向きは。最初のうちは一応姉妹の中から女王を立てて、姜王子はその補佐官である、という体裁を採っていたのだが、すぐに「両親を生け贄にした新女王は悪者だ。」と言いがかりをつけて新女王を廃し、姜王子自身が王位に就いた。「女みたいな悪者を王位に就けてはいけない。」という屁理屈である。姜王子が「自分は火の神・祝融の化身である」と述べて人身御供を行う古い祭祀を復活させたので、中国ではまた人を食べるようになった。いやだ、なんて言ったら姜王子に殺されてしまう、と誰もが知っていた。
9.でも、更に時が流れると、姜王子の子孫はやむを得ない理由があったとしても、両親を殺さなければならないような王・女王が先祖では、王室の権威を低下させてしまう、と考えるようになった。そこで今度は「河と雷神が洪水を起こしたけれども、姫補佐官と姜女王だけは生き残った。彼らが王室と人類の先祖である。」と言い出すようになった。「姫補佐官と姜女王は生け贄になったのだ。」と言い張る人々は舟に乗せられて沖に流され、国を追い出された。でも、人の口に戸は立てられないので、事実は必ずどこかで噂になって流れてしまう。そこで、更に「河と雷神が洪水を起こしたけれども、伏羲と女かだけは生き残った。彼らが王室と人類の先祖である。」と言いかえるようになった。姫補佐官は偉大な先祖だから消し去ることはできないけれども、「黄帝は水雷神だから天に昇った」とか適当に神秘的な表現をつけて神格化することにした。適当に伝承を作るので、新しい話は完全に国中に広まらず、一部では「生け贄にされた姜女王も水神(竜神)になった。」と言われるようになった。
10.でも、その子孫たちは本当に先祖の姫補佐官のことを邪魔者だと思っていたので、「姜女王が兄弟たちから逃げ出すときに門の岩戸を開ける男がいた」というだけになって、姫補佐官の名前を隠してしまった。そして、自分たちの名前も隠してしまったので、今ではもう姜という名前は、自分たちでは知っているけれども、名乗っていないのである。
プロットについて
黄帝が水神となった理由
プロット7,8は黄帝がなぜ水神とされるようになったのか、の縁起譚を管理人なりに作ってみたものだ。これは、黄帝型神の性質のうち、3番目の「犠牲神」としての黄帝といえる。
大洪水について
黄帝型神の伝播について
黄帝から派生した神で重要なもの
管理人が黄帝から派生した神であって、黄帝を知るために重要な神と考える群。
- 羿:黄帝と同様弓の名手である。
- 共工:悪い水の神とされてしまった黄帝の姿である。
- 河伯:人身御供を求める悪い水神。
- ヴァルナ:炎黄の対立神話は印欧語族に取り込まれて、アスラ(水神)対デーヴァ(火神)という彼らの壮大な神話群の元となった。ヴァルナはアスラの筆頭である。
- ペルーン:スラヴ神話の主神
- ベーオウルス:「水」の名を持つブリテンの英雄。グレンデル(火のデーヴァ)という名の巨人を倒す。
- テーセウス:ギリシャ神話で、人身御供を禁止するため、ミーノータウロス(火の牛)と戦う青年。本来は水雷神としての性質もあったのかもしれない。妻のパイドラの名と併せて「ディヤウス・ピター」と同語源だと思う管理人である。ディヤウスというのは雷神を意味している。
- アジ・ダハーカ(イラン)、タクシャカ(インド):それぞれ、ジャムシード王、ジャナメージャヤ王という似た名前の王と戦う悪神属性の蛇神である。倒される王の名は「m」という子音が入り、「火」を意味すると考える。どちらもテーセウスと同系統の名だと考えるのだけれども、地理的に中国に近くなるほど共工的な悪神となっていくのが興味深い。おそらく遠方に伝播したものほど古い伝承が残されているのではないだろうか。
- 建御名方命:日本で軍神であり、水神である神の筆頭といえばこの神である。人身御供を禁止した、という逸話も持つ。というか、この神が日本のヴァルナなのでは、と思う。地元の神様なのだから、管理人にとっては名前を挙げないでどうするのか、という神である。
- 大国主神:黄帝から軍神と水神の性質を抜いて、人食いを復活させた、みたいな印象を受ける神。建御名方命の父神とされる。「月の女神」のトーテムである兎に親切にする伝承があるので、一応こちらも黄帝型の神とする。
- 八束水臣津野命:出雲系の水神であり、力持ちの神。ヴァルナの化身と思われる神々は出雲系に集中しているのが日本神話の特徴と考える。
- 伊邪那岐神:妻が焼け死んでいること、伊邪那岐神も一応冥界に行っていることから、黄帝型神といえる。妻を焼き殺した火之迦具土神を伊邪那岐神が殺したことになっているが、祝融の伝承の方が当然オリジナルだ。記紀神話の作者も当然本当はそのことを知っていたけれども、天照大御神、須佐之男の親神ということで、敢えてオリジナルとは異なる設定にしたのだと考える。それとも火之迦具土神の子孫が日本には存在しない、という設定にしたくて敢えてこのような内容にしたのだろうか? 編纂者の苦労がしのばれる。
- 天之手力男神:岩戸隠れの際は岩戸の脇に控えており、アマテラスが岩戸から顔をのぞかせた時、アマテラスを引きずり出して(『日本書紀』の一書や『古語拾遺』では「引き開けて」)、それにより世界に明るさが戻った、とされる神[1]。日本の「招日神話」の主役と言える。「手力」とは「田力」とも読み替えられ、単に「男」という字を分解しただけの名な神。鶏雷神の方が情緒があって良かった、と思うのは管理人だけだろうか。
- 天若日子:日本の羿といえる気の毒な若者神。古い時代の「建御名方命の妻と思われる女神」と、妻の名が同じ神。建御名方命の別形態ともいえると考える。
- 少名毘古那神:この神は、特に東国で「天神」「征服神」「祖神」として祀られていた形跡があり、北斗信仰と関連した神とも考えられるので、伏羲の項にいれるか、こちらに入れるか迷ったのだが、「征服神(軍神)」ということを重要視してこちらに入れる。信濃金刺氏がかつて祖神としていた形跡がある。