差分

ナビゲーションに移動 検索に移動
36,590 バイト追加 、 2022年2月20日 (日) 10:13
編集の要約なし
モイラは「誕生」「人生」「死」の流れを定め、その秩序を維持する神のように思える。それに反して、死者をよみがえらせる等、いわば「秩序の流れを逆向きにさせる」ことで人の運命に関わる神がヘルメースといえる。
 
====ノルンとアルファル ====
'''ノルン'''({{lang-non|norn}})は、[[北欧神話]]に登場する[[運命]]の[[女神]]。複数形は'''ノルニル'''({{lang-non|nornir}})。
 
その数は非常に多数とも言われ、[[エルフ|アールヴ]]族や、[[アース神族]]、[[ドワーフ|ドヴェルグ]]族の者もいる(『[[スノッリのエッダ]]』による)。しかし、通常は巨人族の3姉妹である長女[[ウルズ]]、次女[[ヴェルザンディ]]、三女[[スクルド]]のことのみを意味する場合が多い。彼女ら3人の登場により、[[アースガルズ]]の黄金の時代は終わりを告げたとされている。
 
世界樹[[ユグドラシル]]の根元にあるウルザルブルン(「[[ウルズの泉]]」)のほとりに住み、ユグドラシルに泉の水をかけて育てる。ウルズとヴェルザンディは木片に[[ルーン文字]]を彫る。スクルドは[[ワルキューレ]]の一人。
 
== 概要 ==
ノルンは北欧神話においてさまざまな血統の人々の運命を支配する多数の女性的存在、[[ディース (北欧神話)|ディース]]([[:en:dís|dísir]])<ref name="nordiskdis">''[[:en:Nordisk familjebok|Nordisk familjebok]]'' の ''[http://runeberg.org/nfbf/0272.html Dis]''(1907年)の記事による。</ref>の1種である。
 
イギリスの伝説は、3人の魔女たち(''Weird Sisters''。しばしば''Wyrd Sisters''や''Three Weird Sisters''と呼ばれる)のことを語るが、そこでは、その名自体が「運命(''fate'')」を意味する名前を付けられたノルニルの1柱の名前「''Urðr''」の英語形「''Wyrd''」が登場する。
 
[[スノッリ・ストゥルルソン]]による『[[古エッダ]]』の『[[巫女の予言]]』の解説によれば、最も重要視される3柱のノルニル、[[ウルズ]]({{lang-non|''Urðr''}}、{{lang-en|''Wyrd''}})、[[ヴェルザンディ]]({{lang-non|''Verðandi''}})、[[スクルド]]({{lang-non|''Skuld''}})は、[[ウルズの泉]](運命の泉)の畔の住居から出てきて、泉から水を汲み上げ、泥をすくい、それらを混ぜたものを[[ユグドラシル]]に注ぐことで樹勢を保たせている<ref name="nordisk">''[[:en:Nordisk familjebok|Nordisk familjebok]]''(1913年)の''[http://runeberg.org/nfbs/0792.html Nornor]''の記事による。</ref>。
彼女たちノルニルは、[[ヨトゥンヘイム]]からやって来て神々の黄金時代を終わらせた、3人の手強い巨人の乙女([[霜の巨人|ヨトゥン]])であると説明される<ref name="nordisk"/><ref>『[[巫女の予言]]』に登場する3人の巨人女性がノルニルの3柱であるという解釈は一般的である。しかし[[シーグルズル・ノルダル]]は、『巫女の予言 エッダ詩校訂本』([[学校法人東海大学出版会|東海大学出版会]]、1993年)145-147頁において、ミュレンホフが3人の巨人女性をノルニルと理解したことに反対する[[ビョルン・マグヌースソン・オールセン|オールセン]]に同意している。オールセンは「巨人」「手強い」といった単語が軽蔑的な語であることから、人々のノルンへの概念に適合しないと指摘した。ノルダルは、神々より古くからおり力もあるノルン=運命とは永遠に存在しているものであり、突然現れるものではないと考え、また、ノルンが登場することで神々が黄金に不足し始めるという理解は不条理であると主張する。ノルダルは、3人の巨人女性とはノルンではなく、破壊のために神々の元へ送り込まれた美しいが狡猾な巨人女性たちだと推測し、その候補として[[スカジ (北欧神話)|スカジ]]と、彼女との結婚のために[[フレイ]]が剣を失うこととなった[[ゲルズ]]を挙げている。彼女たちの要求によって神々は貪欲となり自分たちの財産で満足ができなくなり、[[グルヴェイグ]]の殺害に至ってしまう。さらに、このグルヴェイグを呼び込んだのも、ヘイズという女性の魔法で淫らな喜びに浸ったのも、3人の巨人女性であったとノルダルは考えている。</ref>。
 
また彼女たちは、『[[ヴァフスルーズニルの言葉]]』(下記参照)で説明される、「[[メグスラシル]](''Mögþrasir'')の娘たち」と同一のものかもしれない<ref name="nordisk"/>。彼女たち3柱のノルニルに加えて、人が生まれたときその人の将来を予め定めるために、多くの他のノルニルがその場に到着する<ref name="nordisk"/>。悪意あるノルニルと善意のノルニルがおり、後者がいわゆる守護女神である一方で、前者は世界中にすべての悪意と悲惨な出来事をもたらしたという<ref name="nordisk"/>。
 
利益と損失の両方をノルニルが運んで来るという言い伝えは、[[キリスト教]]が入ってきた後も信じられていた。その証拠として、[[ボルグンド・スターヴ教会]]で見つかった「{{仮リンク|ルーン文字銘 N 351 M|en|rune inscription N 351 M}}」が挙げられる。
:「Þórirは[[オーラヴ2世 (ノルウェー王)|Olaus]]がここを通って旅したとき、彼のためのミサの直前に、このルーン文字を刻んだ。ノルニルは良いことと悪いことの両方、そして大きな労苦……彼女らは私のために作り出した」<ref>[[:en:Norn]]の[[:en:Special:PermaLink/182013084|2008-01-04 01:38 UTC の版]]に掲載された、北欧ルーネ文書データベース([[:en:Rundata|en]])によって提供された「ルーン文字銘 N 351 M」の英訳の翻訳。</ref>。
 
== 語源の説明 ==
「運命(''fate'')」を意味する'''ウルズ'''(''Urðr''、''[[:en:Wyrd|Wyrd]]''、''Weird'')および'''ヴェルザンディ'''(''Verðandi'')は、ともに古ノルド語で「~になる」という意味の動詞 ''verða'' と関係があり、前者はその過去形、後者はその現在形に由来する。'''スクルド'''(''Skuld'')は「~だろう」という意味の動詞 ''skulu'' と関係がある<ref name="nordisk"/>。過去を司るウルズ、現在を司るヴェルザンディ、未来を司るスクルド、という解釈が一般的であるものの、その根拠は北欧神話にはなく、むしろ3柱全員が未来を象徴している<ref name="nordisk"/>。さらに、3柱の主要なノルニルがいるという考え方は、[[ギリシア神話]]・[[ローマ神話]]において同様に糸を紡いでいる運命の女神[[モイライ]]・[[パルカ|パルカイ]]が後世に及ぼした影響である可能性がある<ref name="nordisk"/>。
 
'''ノルン'''(''norn'')の名の起源は確かではない。しかし、その名は「編む(''to twine'')」という意味の単語に由来している可能性がある。そしてそのことは、彼女らが運命の糸を編んでいるとされることに当てはまるだろう<ref name="nordisk" />。
 
== 他のゲルマン民族の女神との関係 ==
ノルニル、[[フィルギャ]]、[[ハミンギャ]]、[[ワルキューレ]]の間に、さらにこれらの総称語「{{仮リンク|ディース|en|dís|preserve=1}}(複数形:ディーシル, dísir)」との間にも、はっきりとした区別はない。さらに、{{仮リンク|詩的許容|en|artistic licence}}は、このような語が{{仮リンク|古ノルド語詩|en|Old Norse poetry}}で死すべき運命の女性を言い表すのに使われることを認め、また女性のために使用される多様な名前について[[スノッリ・ストゥルルソン]]の『[[詩語法]]』を引き合いに出す。すなわち、女性は{{仮リンク|アース神族|en|Asynjur|label=アース女神|preserve=1}}やワルキューレ、ノルニル、または超自然的な種族の女性に拠って隠喩で呼ばれることがあるとする<ref name="skaldsk">[http://www.northvegr.org/lore/prose/141144.php [[:en:Arthur Gilchrist Brodeur|Arthur Gilchrist Brodeur]]による''Skáldskaparmál''の翻訳、1916年]、[[:en:Northvegr|Northvegr]]掲載。</ref>。
 
== 主要な出典 ==
ノルニルに関する古ノルド語の出典元が多数残っている。ほとんどの重要な出典は、『[[スノッリのエッダ|散文エッダ]]』(スノッリのエッダ)と『[[古エッダ|詩のエッダ]]』である。前者が古い詩に加えて[[12世紀]]から[[13世紀]]にかけての族長であり学者であるスノッリ・ストゥルルソンによって改作された物語、説明、解説を含んでいる一方で、後者はノルニルが頻繁に引き合いに出される古い詩を含んでいる。
 
=== 散文エッダ ===
スノッリ・ストゥルルソンの『散文エッダ』の一部は『[[ギュルヴィたぶらかし]]』と呼ばれているが、その中で[[スウェーデン]]の王[[ギュルヴィ]]が自分を{{仮リンク|ガングレリ|en|Gangleri}}と名乗って[[ヴァルハラ]]を訪ねる。そこで彼は、3人の男の姿をとった[[オーディン]]から、[[北欧神話]]についての教養を得る。3人の男は、3柱の主要なノルニルがいること、しかしさらに、[[アース神族]]、[[エルフ]]、[[ドワーフ|小人]]といった、それ以外のさまざまな血統の者がいることを、ギュルヴィに説明する。
 
::「泉のそばの[[ユグドラシル|トネリコ]]の下に、館が建っていて、それは美しいものだ。そして、その館から、次のように呼ばれる3人の乙女が出て来る。それがウルズ、ヴェルザンディ、スクルド。これらの乙女が人間の人生の終わりを決める。我々は彼女たちをノルニルと呼ぶ。しかし、多くのノルニルがいる。生まれた子供それぞれのところへ、その人生を定めるために来る人々である。彼らは神の血統であるが、第2の種族は[[エルフ|妖精]]族であり、そして第3は[[ドワーフ|小人]]族である。ここに言われているように。
 
:::大部分の出自はばらばらだ、
:::[[ファフニール|私]]は、ノルニルはそうなのだと言おう――
:::彼らが共通の一族であると主張しないことを。
:::何人かはアース神族であり、
:::何人かは妖精族であり、
:::何人かは{{仮リンク|ドヴァリン|en|Dvalinn}}の娘である。」
 
::その時、ガングレリが言った。「もしノルニルが人間の運命を左右するならば、その時、彼女たちは非常にむらのある振り分けをします。何人かには楽しくて豪華な人生があるが、他の人々にはほとんど財産や名声がありません。何人かには長い人生があって、他の人々には短い人生があります。」ハールは言った。「高潔な血統の良いノルニルは、楽しい人生を定める。しかし、凶悪な運命によって苦しめられるそうした人々は、凶悪なノルニルによって支配されている。」<ref name="Gylfi">[[:en:Norn]]の[[:en:Special:PermaLink/182013084|2008-01-04 01:38 UTC の版]]に掲載された[http://www.sacred-texts.com/neu/pre/pre04.htm ''Gylfaginning''] ([[:en:Arthur Gilchrist Brodeur|Arthur Gilchrist Brodeur]]による英訳、1916年、Sacred Textsより)の翻訳。</ref>
 
3柱の主要なノルンたちが、[[ウルズの泉]]から水を汲み、ユグドラシルに水をやる。
 
::さらに言おう、ウルズの泉のそばにこれらのノルニルが住んでおり、毎日、泉の水を汲み、泉の周りにある土とともに、いつまでもその枝を衰えさせも腐敗もさせないためにトネリコの上にそれを撒く。その水がとても神聖であるため、すべてのものが泉に入ることで卵殻の内側にある膜と同じぐらいに白くなる、――ここに言われているように。
[[ファイル:Faroe stamp 431 The Norns and the Tree.jpg|thumb|220px|……「最も年下のノルン、スクルドと呼ばれる彼女が戦いを裁決する」……。[[フェロー諸島]]で2003年に発行された[[郵便切手]]に{{仮リンク|アンカー・エリ・ペーターセン|en|Anker Eli Petersen}}によって描かれたノルニル。]]
:::私は、知っている
:::[[ユグドラシル]]と呼ばれている[[トネリコ]]が立っているのを。
:::雪のような白い土を
:::振りかけられる高い樹だ。
:::それから露が生じ、
:::谷間に降る――
:::それは、いつも緑のままで立っている
:::ウルズの泉の上に。
::そこから大地の上へ降るその露は、人間によって[[蜂蜜]]<!--原文 honey-dew -->と呼ばれ、それが[[ミツバチ|蜜蜂]]を育てるのだ。また2羽の鳥がウルズの泉で養われている。それらは白鳥と呼ばれ、そしてそれらの鳥からそう呼ばれる鳥の血統が生じたのだ。」<ref name="Gylfi"/>
スノッリは、最も若いノルンのスクルドが、また実質的には[[ワルキューレ]]であること、殺害された者から戦士を選り抜くことに参加することを読者に知らせる。
::これらは、[[ワルキューレ]]と呼ばれ、彼女らを[[オーディン]]はあらゆる戦場に送る、そして彼女らは男たちの最期を決め、また勝利を与える。{{仮リンク|グズ|en|Gunnr}}(Gudr)と[[ロタ (北欧神話)|ロタ]]、そして運命の女神の末っ子のスクルドが、虐殺するものを手にとり、戦いの帰結を決定するために進む<ref name="Gylfi"/>。
 
=== 詩のエッダ ===
『[[古エッダ|詩のエッダ]]』は、スノッリが『散文エッダ』に記載した情報の元になった詩がより古い文献の代わりとなることから、価値がある。『ギュルヴィたぶらかし』にあるように、『詩のエッダ』は3柱の主要なノルニルに加えて、より目立たない多くのノルニルが存在することに言及する。さらに、小人のノルニルは小人の娘であるなど、彼らがいくつかの血統の出身であると話されることにより、『ギュルヴィたぶらかし』と一致する。また、3柱の主要なノルニルが女巨人たち(女性の[[霜の巨人|ヨトゥン]]たち)であったことを暗示している<ref>[http://www.sacred-texts.com/neu/poe/poe03.htm ベロウズのコメンタリーを参照。]</ref>。
 
『{{仮リンク|ファーヴニルの言葉|en|Fáfnismál|label=|preserve=1}}』は、[[シグルズ]]による致命傷で死んでいくドラゴンの[[ファーヴニル]]とシグルズとの間のやりとりを含んでいる。英雄は多くの事柄についてファーヴニルに尋ね、その事柄の1つがノルニルの本質であった。ファーヴニルは彼らがたくさんいること、いくつかの血統があることを説明する。
 
{|
|
:Sigurðr kvað:
:12. "Segðu mér, Fáfnir,
:alls þik fróðan kveða
:ok vel margt vita,
:hverjar ro þær nornir,
:er nauðgönglar ro
:ok kjósa mæðr frá mögum."
:-
:Fáfnir kvað:
:13. "Sundrbornar mjök
:segi ek nornir vera,
:eigu-t þær ætt saman;
:sumar eru áskunngar,
:sumar alfkunngar,
:sumar dætr Dvalins."<ref name="norfaf">[http://www.heimskringla.no/original/edda/fafnismal.php ''Fáfnismál''] 標準化された綴りによるテキストのGuðni Jónssonの版。</ref>
|
:大意
::シグルズ「運命の女神とは誰ですか」
:-
::ファーヴニル「女神たちにはアース神族も妖精もドヴァリンの娘もおり1つの一族ではない」
|
|}
 
3柱の主要なノルニルが元来は女神ではなく女巨人([[霜の巨人|ヨトゥン]])であったことは、『[[巫女の予言]]』と『{{仮リンク|ヴァフスルーズニルの言葉|en|Vafþrúðnismál|preserve=1}}』で明らかにされている。彼女たちの到着は神々の初期の幸福な時代を終焉させたが、しかし彼女たちは人間の幸福のためにやって来たのである。
 
『巫女の予言』は、[[ヨトゥンヘイム]]から神々の元にやって来たと報告される、3人のおそろしく力強い女巨人たちを関連づける。
[[ファイル:Nornsweaving.jpg|thumb|220px|[[アーサー・ラッカム]]によるノルニル。]]
{|
|
:8. Tefldu í túni,
:teitir váru,
:var þeim vettergis
:vant ór gulli,
:uns þrjár kvámu
:þursa meyjar
:ámáttkar mjök
:ór Jötunheimum.<ref name="norvölu">[http://www.heimskringla.no/original/edda/voluspa.php ''Völuspá''] 標準化された綴りによるテキストのGuðni Jónssonの版。</ref>
|
:大意::ヨトゥンヘイムから3人の強力な娘が来るまで、神々は黄金製のものに何の不足もなかった。
|
|}
 
『ヴァフスルーズニルの言葉』は、守護霊([[ハミンギャ]])として地上の人々を守るためにやって来た乙女の巨人たちについて話す時、おそらくノルニルに言及しているだろう<ref name="nordisk"/><ref>[http://www.sacred-texts.com/neu/poe/poe05.htm ベロウズのコメンタリーを参照。]</ref>。
 
{|
|
:49. "Þríar þjóðár
:falla þorp yfir
:meyja Mögþrasis;
:hamingjur einar
:þær er í heimi eru,
:þó þær með jötnum alask."<ref>[http://www.heimskringla.no/original/edda/vafthrudnesmal.php ''Vafþrúðnismál''] 標準化された綴りによるテキストのGuðni Jónssonの版。</ref>
|
:大意
::3人がメグスラシルの娘の家を襲い、娘たちは巨人の元で育つ。家には[[ハミンギャ|守護霊]]がいた。
|
|}
 
『[[巫女の予言]]』は、『ヴァルズルーズニルの言葉』がたぶんしただろうと同様に乙女としての彼女たちを指す3柱の主要なノルニルの名前を含んでいる。
 
{|
|
:20. Þaðan koma meyjar
:margs vitandi
:þrjár ór þeim sæ,
:er und þolli stendr;
:Urð hétu eina,
:aðra Verðandi,
:- skáru á skíði, -
:Skuld ina þriðju;
:þær lög lögðu,
:þær líf kuru
:alda börnum,
:örlög seggja.<ref name="norvölu"/>
|
:大意
::3人の知恵ある娘――1人目はウルズ、2人目はヴェルザンディで2人が木片を彫った。3人目がスクルド。彼女たちが人間の運命を決める。
|
|}
 
ノルニルは、新しく生まれた子供に、彼または彼女の未来を割り当てるべく、その家を訪ねる。そして『{{仮リンク|フンディング殺しのヘルギの歌#その1|en|Helgakviða Hundingsbana I|label=フンディング殺しのヘルギの歌 その1}}』にあるように、ノルニルがその屋敷に到着すると、英雄{{仮リンク|ヘルギ|en|Helgi Hundingsbane|preserve=1}}がちょうど生まれた。
 
[[ファイル:Faroese stamps 552-553 nordic issue.jpg|thumb|300px|「……しかし多くのノルニルがいる。その人生を定めるため、生まれた子供それぞれのところへやって来る……」。フェロー諸島で2006年に発行された切手に[[アンカー・エリ・ペーターセン]]によって描かれたノルニル(画像左側)。]]
{|
|
:2. Nótt varð í bæ,
:nornir kómu,
:þær er öðlingi
:aldr of skópu;
:þann báðu fylki
:frægstan verða
:ok buðlunga
:beztan þykkja.
:-
:3. Sneru þær af afli
:örlögþáttu,
:þá er borgir braut
:í Bráluni;
:þær of greiddu
:gullin símu
:ok und mánasal
:miðjan festu.
:-
:4. Þær austr ok vestr
:enda fálu,
:þar átti lofðungr
:land á milli;
:brá nift Nera
:á norðrvega
:einni festi,
:ey bað hon halda.<ref>[http://www.heimskringla.no/original/edda/helgakvidahundingsbanaa.php ''Helgakviða Hundingsbana I''] 標準化された綴りによるテキストのGuðni Jónssonの版。</ref>
|
:大意
::運命の女神が来て王として尊敬される運命を決めた。彼女たちは金色の糸で運命の糸を撚った。ネリ(女巨人<ref>『エッダ 古代北欧歌謡集』(谷口幸男訳、新潮社)108頁の註釈による。</ref>)は1本の綱を投げた。
|
|}
 
『{{仮リンク|フンディング殺しのヘルギの歌#その2|en|Helgakviða Hundingsbana II|label=フンディング殺しのヘルギの歌 その2}}』において、{{仮リンク|ヘルギ|en|Helgi Hundingsbane|preserve=1}}は、{{仮リンク|シグルーン|en|Sigrún}}と結婚するために彼女の父: ヘグニ(''Högni'')と兄弟のブラギ(''Bragi'') を殺してしまった事実に対し、ノルニルを呪う。
{|
|
:26 "Er-at þér at öllu,
:alvitr, gefit,
:- þó kveð ek nökkvi
:nornir valda -:
:fellu í morgun
:at Frekasteini
:Bragi ok Högni,
:varð ek bani þeira.<ref>[http://www.heimskringla.no/original/edda/helgakvidahundingsbanab.php ''Völsungakviða in forna''] {{webarchive|url=http://wayback.vefsafn.is/wayback/20070508145336/http://www.heimskringla.no/original/edda/helgakvidahundingsbanab.php |date=2007年5月8日 }} 標準化された綴りによるテキストのGuðni Jónssonの版</ref>
|
:大意
::運命の女神のせいもあろうが、私(ヘルギ)が父と弟を殺した。
|
|}
 
[[ファイル:Ring50.jpg|thumb|220px|アーサー・ラッカムが楽劇『[[ニーベルングの指環]]』の挿絵に描いた3人のノルン。]]
[[ファイル:Ring51.jpg|thumb|220px|同。]]
スノッリ・ストゥルルソンが『ギュルヴィたぶらかし』の中で明示したように、人々の運命は各自のノルニルの慈悲深さや悪意に左右された。『{{仮リンク|レギンの歌|en|Reginsmál|preserve=1}}』において、水に住む小人の{{仮リンク|アンドヴァリ|en|Andvari|preserve=1}}は、自分の境遇を、おそらくは小人{{仮リンク|ドヴァリン|en|Dvalinn}}の娘の1人であった悪いノルニルのせいにした。
 
{|
|
:2. "Andvari ek heiti,
:Óinn hét minn faðir,
:margan hef ek fors of farit;
:aumlig norn
:skóp oss í árdaga,
:at ek skylda í vatni vaða."<ref>[http://www.heimskringla.no/original/edda/reginsmal.php ''Reginsmál'']{{リンク切れ|date=2017年9月 |bot=InternetArchiveBot }} 標準化された綴りによるテキストのGuðni Jónssonの版。</ref>
|
:大意
::私は昔、運命の女神から、水の中で暮らすよう運命づけられました。
|
|}
 
悪い境遇の原因となっているノルニルのもう1つの例が、『{{仮リンク|シグルズルの短い歌|en|Sigurðarkviða in skamma|preserve=1|label=シグルズの短い歌}}』にみられる。そこでは、[[ワルキューレ]]の[[ブリュンヒルド]]が、[[シグルズ]]の抱擁を求めるその長い切望のために、悪意あるノルニルを呪っている。
{|
|
:7. Orð mæltak nú,
:iðrumk eftir þess:
:kván er hans Guðrún,
:en ek Gunnars;
:ljótar nornir
:skópu oss langa þrá."<ref>[http://www.heimskringla.no/original/edda/sigurdarkvidainskamma.php ''Sigurðarkviða in skamma''] 標準化された綴りによるテキストのGuðni Jónssonの版。</ref>
|
::大意:運命の女神が、私の心にグズルーンの夫に対する憧れを生じさせた。
|
|}
 
ブリュンヒルドについては、[[ブルグント族]]の王グンナルおよびその兄弟がシグルズを殺したこと、その後、来世でシグルズと一緒になるために自殺することが説明される。彼女の兄アトリ([[アッティラ]])は、ブルグントの王を殺して彼女の死の復讐をなしたが、アトリが彼らの姉妹の{{仮リンク|グズルーン|en|Gudrun|preserve=1|label=グズルーン(Guðrún)}}と結婚していたことから、アトリは間もなく彼女によって殺された。『{{仮リンク|グズルーンの歌#その2|en|Guðrúnarkviða II|label=グズルーンの歌 その2}}』において、ノルニルは夢の中で、アトリの妻がアトリを殺すということをアトリに教えるというかたちで、積極的に一連の事件に参加してくる。夢の描写はこの節から始まる。
{|
|
:"Svá mik nýliga
:nornir vekja," -
:vílsinnis spá
:vildi, at ek réða, -
:"hugða ek þik, Guðrún
:Gjúka dóttir,
:læblöndnum hjör
:leggja mik í gögnum."<ref name="heimskringla">[http://www.heimskringla.no/original/edda/gudrunarkvidainforna.php ノルウェーの«Norrøne Tekster og Kvad»、''Guðrúnarkviða in forna''。]</ref>
|
:大意
::アトリは妻グズルーンによって剣で刺し殺される夢を見、ノルニルの予言で起こされたと妻に告げる<ref>『エッダ 古代北欧歌謡集』(谷口幸男訳、新潮社)では第38節目となっている。</ref>。
|
|}
 
彼女の夫アトリと2人の間の息子たちを殺してしまった後、グズルーンは『{{仮リンク|グズルーンの煽動|en|Guðrúnarhvöt}}』にあるように、彼女の不幸を理由にノルニルを呪う。そこではグズルーンは、自殺を試みることによってノルニルの怒りを逃れようとしてみることについて話す。
 
{|
|
:13. Gekk ek til strandar,
:gröm vark nornum,
:vilda ek hrinda
:stríð grið þeira;
:hófu mik, né drekkðu,
:hávar bárur,
:því ek land of sték,
:at lifa skyldak.<ref>[http://www.heimskringla.no/original/edda/gudrunarhvot.php ''Guðrúnarhvöt''] 標準化された綴りによるテキストのGuðni Jónssonの版。</ref>
|
:大意
::運命の女神から逃れるべく海で入水自殺を図ったが、波によって岸に戻された。
|
|}
 
『グズルーンの扇動』では、グズルーンの息子たち(父はヨーナク王)が彼らの姉妹{{仮リンク|スヴァンヒルド|en|Svanhild}}の無惨な死に復讐するよう、グズルーンが彼らをどのように扇動したかを報告している。『{{仮リンク|ハムジルの言葉|en|Hamðismál}}』において、まさにその復讐に至るまでのゴート族の王{{仮リンク|イェルムンレク|en|Ermanaric|preserve=1}}の元への彼女の息子たちの遠征は、破滅的なものであった。自分がゴート族の手で死ぬことを知って、グズルーンの息子セルリ(''Sörli'')は、ノルニルの無慈悲さを語る。
 
[[ファイル:Berlin Neues Museum vaterlaendischer Saal Nornen restored.jpg|thumb|350px|[[ベルリン]]の[[新博物館 (ベルリン)|新博物館]]にあるノルニルのフレスコ画。]]
{|
|
:29. "Ekki hygg ek okkr
:vera ulfa dæmi,
:at vit mynim sjalfir of sakask
:sem grey norna,
:þá er gráðug eru
:í auðn of alin.
:-
:30. Vel höfum vit vegit,
:stöndum á val Gotna,
:ofan eggmóðum,
:sem ernir á kvisti;
:góðs höfum tírar fengit,
:þótt skylim nú eða í gær deyja;
:kveld lifir maðr ekki
:eftir kvið norna."
:-
:31. Þar fell Sörli
:at salar gafli,
:enn Hamðir hné
:at húsbaki.<ref>[http://www.heimskringla.no/original/edda/hamdismal.php ''Hamðismál''] 標準化された綴りによるテキストのGuðni Jónssonの版。</ref>
|
:大意
::運命の女神が死の宣告を下したらもう生き続けることは誰にもできない。
|
|}
 
ノルニルが隠れて作用する究極的な権威ある存在であった上は、彼女らが魔力として言及される可能性があることは驚くべきことではない。たとえば『{{仮リンク|シグルドリーヴァの言葉|en|Sigrdrífumál|preserve=1}}』において{{仮リンク|シグルドリーヴァ|en|Sigrdrífa|preserve=1}}によって彼女たちについて言われるように。
[[ファイル:St Stephens Green german Gift.JPG|thumb|300px|[[ダブリン]]の[[:en:St Stephen's Green|セント・スティーブンス・グリーン]]にあるノルニルの像。]]
 
{|
|
:17. Á gleri ok á gulli
:ok á gumna heillum,
:í víni ok í virtri
:ok vilisessi,
:á Gugnis oddi
:ok á Grana brjósti,
:á nornar nagli
:ok á nefi uglu.<ref>[http://www.heimskringla.no/original/edda/sigrdrifumal.php ''Sigrdrífumál''] 標準化された綴りによるテキストのGuðni Jónssonの版。</ref>
|
:大意
::[[ルーン文字]]の彫られるところは、たとえばノルニルの爪の上などである。
|
|}
 
=== 伝説のサガ ===
[[ファイル:Nornorna_spinner_ödets_trådar_vid_Yggdrasil.jpg|thumb|300px|ノルニルは[[ユグドラシル]]の根元で[[運命]]の糸を紡ぐ。彼女たちの足元に、[[ウルズの泉]]があり、世界中にいるすべての[[ハクチョウ|白鳥]]を生んだとされる2羽の白鳥がいる。]]
{{仮リンク|サガ#伝説のサガ|en|legendary saga|label=伝説のサガ|preserve=1}}のいくつかも、ノルニルについて参考になることを含んでいる。『[[ヘルヴォルとヘイズレク王のサガ]]』は、『[[フロズルの歌|フレズの歌]]』([[:en:Hlöðskviða|Hlöðskviða]]。『フン戦争の歌』とも)と呼ばれる詩を含んでおり、そこでは、ゴート族の王{{仮リンク|アンガンチュール|en|Angantyr}}が、フン族であり彼の腹違いの兄弟である{{仮リンク|フレズ|en|Hlöd}}によって指揮されたフン族軍の侵攻を破る。彼の姉妹、{{仮リンク|楯の乙女|en|shieldmaiden|label=盾持つ乙女|preserve=1}}の{{仮リンク|ヘルヴォル|en|Hervor|preserve=1}}が犠牲者の1人と知っているアンガンチュールは、彼の兄弟の死んだのを直視し、ノルニルの残虐さを嘆く。
{|
|
:32. Bölvat er okkr, bróðir,
:bani em ek þinn orðinn;
:þat mun æ uppi;
:illr er dómr norna."<ref>[http://www.heimskringla.no/original/edda/hlodskvida.php ''Hlöðskviða''] 標準化された綴りによるテキストのGuðni Jónssonの版。</ref>
|
:大意
::ノルニルの与えた運命は厳しく、我々はお前たちの殺害者となり罵られる。
|
|}
 
より新しい時代に成立した伝説のサガにおいて、たとえば『[[ノルナゲスト|ノルナゲストの話]]』と『{{仮リンク|フロールヴ・クラキのサガ|en|Hrólfs saga kraka}}』で、ノルニルは{{仮リンク|ヴォルヴァ|en|völva|preserve=1}}(魔女、巫女)と同義だったようである。『ノルナゲストの話』では、彼女たちは彼の運命をかたちづくるために英雄の誕生の時に到着するが、ノルニルは運命の織物を織るとは説明されず、代わりに、巫女(''vala''、''völva'')の同義語としてあっさりと現れる。
 
書き残された最近の伝説のサガの1つ、『フロールヴ・クラキのサガ』は、単に凶悪な魔女だとしてノルニルについて語っている。邪悪な{{仮リンク|半エルフ|en|half-elf|preserve=1}}の王女{{仮リンク|スクルド|en|Skuld (princess)|preserve=1}}が{{仮リンク|フロールヴ・クラキ|en|Hrólfr Kraki|preserve=1}}を攻撃すべく彼女の軍を集める時、死せる戦士に加えて、エルフとノルニルも軍勢に含まれる。
 
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
{{reflist|2}}
<!--下記は新たに記事作ることをお薦めします。
== 登場人物設定がノルンをモチーフにしている作品 ==
名前だけ借りたものはなるべく遠慮願います。記事があるものは当記事では簡潔な説明にとどめたほうがよいかと思います。
* 漫画、アニメ
** [[ああっ女神さまっ]] - [[藤島康介]]の漫画作品,[[ああっ女神さまっの登場人物#ベルダンディー[Belldandy]|ベルダンディー(本作のヒロイン)]]、[[ああっ女神さまっの登場人物#ウルド[Urd]|ウルド]]、[[ああっ女神さまっの登場人物#スクルド[Skuld]|スクルド]]として登場。ただし、物語自体は現代劇なため、あくまでノルンを名前の由来にしており、物語のモチーフの一要素に過ぎない。
** 君はノルン - 80年代の漫画作品であり、同ジャンルでは多分に最古の事例。作者は[[小山田いく]]。幼少時に気弱だった主人公が、誰かから聞いた「運命を変えてくれる女神ノルン(のような女性)」との出会いを追い求めつつ、怪奇現象がらみの高校生探偵的な事件に巻き込まれ、何人もの女性と出会っていく、という話。(のちにノルンとは実は三姉妹である=(主人公の幼馴染姉妹を含め)やや女難なのはしょうがない、という趣旨の解説もある)
** [[魔探偵ロキ]]および[[魔探偵ロキ|魔探偵ロキ RAGNAROK]] - 作中においてそのままの役柄で出てくる。主人公である[[ロキ]]に「運命」による天啓を与える役柄。だが、その性格にはかなりのアレンジが加えられている。
** [[遊☆戯☆王デュエルモンスターズ]] - アニメオリジナルキャラの[[遊☆戯☆王の登場人物#劇場版「遊☆戯☆王」|ジーク・ロイド]]が使用する北欧神話をモチーフとしたカードの中に、ノルン三姉妹の名を持つ「ウルド、スクルド、ベルダンディ」という3枚のカードが登場する。「ニーベルングの指輪」のカードと一緒に使う事で、モンスター抹殺コンボとして機能する。
** [[ラグナロック・ガイ]] - ウルト、スクルト、ヴェルダンディが主人公を導く存在として登場。
* ゲーム
** [[イリスのアトリエ エターナルマナ]] - ノルン(本作の主人公の仲間)として登場。猫耳少女で魔法使い見習い。と、あくまで名前だけを引用していると思われる。
** [[真・女神転生デビルチルドレン]]
** [[ゼノギアス|Xenogears]] - シグルド・ハーコートが、砂漠のノルンという部族の出身。作中には同じく神話をもとにした名前のキャラクターやギア、地名が多数存在する。
** [[ヴァルキリープロファイル]] - 主人公のレナスがヴェルザンディに、またアーリィがウルズに、シルメリア([[ヴァルキリープロファイル2 シルメリア|シリーズ2作目]]の主人公)がスクルドに相当する。ただし、この作品自体が北欧神話を大幅にアレンジした設定を使用しているため、本来の北欧神話ではスクルドのみがヴァルキリー(ワルキューレ)なのに対し、この作品では三姉妹ともにヴァルキリーとなっている。
** [[RPGツクール]]SUPER DANTE サンプルゲーム「[[フェイト|FATE]]」 - ウルズ、ベルザ(ヴェルザンディ)、スクル(スクルト)が登場。ちなみに、スクルが囚われているのは[[ニーズヘッグ|ニーズヘグ]]の住む[[フヴェルゲルミル|ヴェルゲルミル]]。
* 小説
** [[神々の黄昏 オリンポス・ウォーズ]] - [[ギリシア神話]]と[[日本神話]]の神々の戦いに巻き込まれた主人公の前に現れてノルナゲストの一件を語る。
** [[マジック・ツリーハウス]]シリーズ18 オオカミと氷の魔法使い - オーディンを連想させる氷の魔法使いに、彼の眼球と引き換えに知恵の種を渡す。
** [[魔術士オーフェン]] - 作中で、ウィールド・ドラゴン=ノルニル(天人種族とも呼ばれる)は魔術文字による強力な魔術を使う種族として書かれる。だが、神々との戦いで消耗していき、ついにラグナロク砦での戦いを最後に滅んでしまう。一方でノルニルを滅ぼしたとされる神々の一人である「運命の三姉妹(ウィールド・シスターズ)」にもウルズ・ヴェルザンディ・スクルドの名前が使われている。-->
== 不死の霊薬 ==
[[Category:鳥]]
[[Category:メソポタミア神話]]
[[Category:インド神話]]
[[Category:エジプト神話]]
[[Category:ギリシア神話]]
[[Category:インド神話]]
[[Category:北欧神話]]
[[Category:魔法のアイテム]]
[[Category:月神]]

案内メニュー