29,608 バイト追加
、 2022年8月13日 (土) 14:26
'''メーデイア'''('''Μήδεια''', Mēdeia)は、ギリシア神話に登場するコルキス(現在のグルジア西部)の王女である。イアーソーン率いるアルゴナウタイの冒険を成功に導いたとされる。長母音を省略して'''メデイア'''とも表記される。
== 概要 ==
'''太陽神ヘーリオスの孫'''であり、魔女キルケーの姪にあたる<ref name="T">高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』280頁。</ref>。すでにヘーシオドスの『神統記』に名前が現れており、コルキスの王アイエーテースとオーケアノスの娘エイデュイア(イデュイア)の娘で<ref>ヘーシオドス、959行-962行。</ref>、アポロドーロスによればカルキオペー<ref>アポロドーロス、1巻9・1。</ref> とアプシュルトスという兄弟がいたが<ref name=Ap_1_9_24>アポロドーロス、1巻9・24。</ref>、ロドスのアポローニオスはアプシュルトスを異母兄としている<ref>ロドスのアポローニオス、3巻241行-244行。</ref>。後代の説ではタウリケー王ペルセースの娘ヘカテーとアイエーテースの娘で、キルケー、アイギアレウスと兄弟とするものもある<ref name="T" /><ref>シケリアのディオドロス、4巻45・1-45・3。</ref>。イアーソーンとの間にメーデイオス<ref>ヘーシオドス、997行-1002行。</ref>、あるいはメルメロスとペレース<ref name=Ap_1_9_28>アポロドーロス、1巻9・28。</ref><ref>パウサニアス、2巻3・6。</ref><ref name=Hy_25>ヒュギーヌス、25話。</ref><ref name=Hy_239>ヒュギーヌス、239話。</ref>、あるいは双生児テッサロスとアルキメネース、ティーサンドロスを生んだ<ref>シケリアのディオドロス、4巻54・1。</ref>。またアテーナイ王アイゲウスとの間にメードスを生んだという<ref name=Ap_1_9_28 /><ref name="パウサニアス">パウサニアス、1巻2・8。</ref><ref>ヒュギーヌス、26話。</ref><ref name="ヒュギーヌス、27話。">ヒュギーヌス、27話。</ref><ref>ヒュギーヌス、244話。</ref><ref>ヒュギーヌス、275話。</ref>。
ヘーシオドスはメーデイアを《眼輝く乙女》と呼んでおり<ref>ヘーシオドス、998行。</ref>、ロドスのアポローニオスはメーデイアやキルケーがヘーリオスの子孫の証である黄金色の光を発する輝く瞳を持つとしている<ref>ロドスのアポローニオス、3巻287行-288行。</ref><ref>ロドスのアポローニオス、4巻683行-684行。</ref><ref>ロドスのアポローニオス、4巻727行-730行。</ref><ref name="G">[[グスターフ・シュヴァープ]] 『ギリシア・ローマ神話』第1巻、[[角信雄]]/訳</ref>。ヘカテー神殿に仕える巫女であり<ref name="G" /><ref>ロドスのアポローニオス、3巻250行-252行。</ref>、ヘカテーの[[魔術]]に長けていた。その名は「慮る、統治する女性」を意味し、本来はコリントスで崇められた主女神だったと考えられている<ref>[[呉茂一]]『ギリシア神話』[[新潮社]]、1994年、627頁。</ref>。
== メーデイアの魔法 ==
[[File:Calyx-Krater, about 400 BC, South Italian, Lucania, attributed to Near the Policoro Painter, ceramic - Cleveland Museum of Art - DSC08251.JPG|250px|thumb|[[クラテール]]に描かれたメーデイア。[[クリーブランド美術館]]所蔵。]]
[[ロドスのアポローニオス]]によると、メーデイアは女神ヘカテーからあらゆる魔法の[[薬草]]とその扱い方を教わっており、彼女が薬草を用いて行う魔法は激しく燃える炎の勢いを和らげ、川の流れを堰き止め、星々や月の運行を妨げることが出来た<ref>ロドスのアポローニオス、3巻529行-533行。</ref>。そしてメーデイアは良からぬ研究をするたびに、[[月]]の女神[[セレーネー]]を恋の魔法で[[エンデュミオーン]]のいる地上に引き下ろし、夜空から月明かりを消し去ったという<ref>ロドスのアポローニオス、4巻55行-66行。</ref>。また[[冥府]]の住人を呼び出したり<ref>ロドスのアポローニオス、4巻1665行-1669行。</ref>、幻を見せることもお手の物だった<ref>ロドスのアポローニオス、4巻1670行-1672行。</ref><ref>シケリアのディオドロス、4巻51・6。</ref><ref>シケリアのディオドロス、4巻52・2。</ref><ref>ヒュギーヌス、24話。</ref>。[[シケリアのディオドーロス]]も、メーデイア自身が研究して習得した[[薬草|薬草学]]と[[薬学]]の知識に加えて、母ヘカテーや姉キルケーが得た知識も等しく学んでいたとしている<ref>シケリアのディオドロス、4巻50・6。</ref>。
メーデイアの薬草の知識の中でも特筆されているのはプロメーテイオンと呼ばれる薬草である。この薬草は[[カウカーソス]]の山頂に縛られた[[プロメーテウス]]が不死身の大鷲に[[肝臓]]を食われた際に、大地に飛び散った[[イーコール]]から生まれたもので<ref>ロドスのアポローニオス、3巻851行-853行。</ref>、この薬草から作った魔法の薬を真夜中にヘカテーに供儀した後、身体や武器・盾に塗りつけると、1日の間だけ刃や火から身を護り、無双の力を得ることが出来た<ref>ロドスのアポローニオス、3巻844行-850行。</ref><ref name=AR_3_1029>ロドスのアポローニオス、3巻1029行-1050行。</ref><ref>ロドスのアポローニオス、3巻1194行-1264行。</ref>。ただし供儀の最中にヘカテーに対して礼を失するとその限りではない。供儀においては1人で黒衣をまとい、円形の穴を掘り、その中で雄の[[羊]]を[[屠殺]]した後、穴のそばに積み上げた薪の山に置いて火をつけ、ヘカテーに捧げる。さらに[[蜂蜜]]を注いで女神を慰撫しつつ加護を祈願する。するとヘカテーが供物を受け取りに現れるので、薪の山から戻って来る。その際に女神の足音や地下の[[犬]]たちの鳴き声が聞こえても決して後ろを振り返ってはならない。さもなくば努力が水泡に帰すだけでなく、無事に帰ってこれないとメーデイアは語っている<ref name=AR_3_1029 />。
=== 眠りの魔法 ===
[[File:Juniperus rigida2.jpg|thumb|180px|メーデイアが眠りの魔法に用いたという杜松の枝。]]
またメーデイアは眠りの魔法にも優れていた。ロドスのアポローニオスはメーデイアが[[金羊毛]]を守護する竜を眠らせた手順を次のように語っている。まず[[呪文]]を唱えて眠りの神[[ヒュプノス]]に助力を乞い、ヘカテーに加護を祈る。すると呪文の力で竜は力を緩め警戒を解いたが、まだ眠らせることは出来なかったので、切り取ったばかりの[[杜松]]の枝を薬草の汁に浸し、魔法の秘薬を直接竜の眼にかけて眠らせ、最後に竜の頭に薬を塗った。こうしてイアーソーンは金羊毛を手に入れることができた<ref>ロドスのアポローニオス、4巻145行-164行。</ref>。一方、[[オウィディウス]]はまず見たものを忘却させる効果のある薬草を竜にかけた後、眠りをもたらす呪文を唱えたとしている。この呪文には荒波や激流を鎮める効果もあった<ref name="O">オウィディウス『変身物語』7巻。</ref>。
=== 若返りの魔法 ===
[[File:Aeson medea.jpg|thumb|180px|若返りの魔法を施すメーデイア。]]
メーデイアの最も有名な魔法は老人を若返らせる魔法である。オウィディウスによれば、それは次のようなものであった。まず[[満月]]の夜に、星々と月、ヘカテー、薬草をもたらす大地をはじめとする諸神に祈りをささげた後に有翼の竜の戦車に乗って各々の地方で薬草を採取する。次に男との接触を断ち、館の戸口に芝土でヘカテーと[[ヘーベー]]の[[祭壇]]を作る。そしてその傍に2本の溝を掘り、黒い[[羊]]を[[屠殺]]して血を注ぐ。さらにそこに白い[[葡萄酒]]と温めた乳とを1杯ずつ加えた後、冥府の王[[ハーデース]]と[[ペルセポネー]]に祈り、魔法を施す過程で老いた者の生命が失われないように祈願する。ここでようやく魔法を施す相手を運び入れる。燃える祭壇の周囲をめぐり、[[松明]]を溝の血に浸して火をつける。集めた薬草は、極東産の石、大海の[[引き潮]]のあとの砂、満月の夜に集めた[[霜|白霜]]、[[ワシミミズク]]の翼と肉、[[人狼]]の[[内臓|はらわた]]、キニュプスの河の水蛇の皮、長寿とされる[[シカ|牡鹿]]の[[肝臓]]、9代を生きた鳥の[[くちばし]]と頭などと煮込んで魔法の薬を作る。大釜の中を乾燥した[[オリーブ]]の枝でかき混ぜたとき、枝に生命力が戻って葉が茂ったりオリーブの実がなると頃合であり、魔法で眠らせた老人の首を切開して血を流し、薬を喉や傷口に流し込む。するとたちまちのうちに若返るという<ref name="O" />。
ただし、アポロドーロスは身体を切り刻み、薬草とともに大釜で煮ることで若返らせるとしている<ref name=Ap_1_9_27>アポロドーロス、1巻9・27。</ref>。一説によると逆に薬を身体に塗って老人の姿にすることも出来た<ref>シケリアのディオドロス、4巻51・1。</ref>。そして体に塗った薬を洗い流すと、再びもとの若々しい姿に戻るのだった<ref>シケリアのディオドロス、4巻51・5。</ref>。
== 神話 ==
=== ヘーラーの企み ===
[[ピンダロス]]によると、美と愛の[[女神]][[アプロディーテー]]はメーデイアをイアーソーンに恋させるため、[[車輪]]に[[アリスイ]]を結びつけた呪具[[イユンクス]]を作り、[[呪文]]とともにイアーソーンに与えた。イアーソーンはこの呪いを用いることでメーデイアを仲間に引き入れ、[[金羊毛]]を奪うことに成功した<ref>ピンダロス[[ピューティア第四祝勝歌|『ピュティア祝勝歌』第4歌]]213行以下。</ref>。ロドスのアポローニオスによると、メーデイアに恋させるようアプロディーテーを説得したのは女神[[ヘーラー]]である。ヘーラーは[[イオールコス]]王[[ペリアース]]への憎しみとイアーソンがアイエーテースに殺されないようにという親切心から、アプロディーテーを訪れ、彼女の息子[[エロース]]の矢でメーデイアの心にイアーソーンへの恋を目覚めさせ、イアーソーンの味方をさせるよう説得した。エロースの矢に胸を射抜かれたメーデイアはイアーソーンの冒険を様々に助けた<ref>ロドスのアポローニオス、3巻10行以下。</ref>。
=== アプシュルトスの殺害 ===
[[アポロドーロス]]によると、イアーソーンとメーデイアが金羊の毛皮([[金羊毛]])を獲って[[アルゴー船]]を出航させたとき、アイエーテースの船団に追われ、メーデイアは、一緒に連れてきていた幼い弟アプシュルトスを殺し、亡骸を海にばらまき、追手がこれを拾い集めている間に脱出したとされている<ref name=Ap_1_9_24 />。
しかしこれには異説がある。ロドスのアポローニオスによると、アプシュルトスはアイエーテースと[[コーカサス|カウカーソス]]の[[ニュンペー|ニュムペー]]の[[アステロディアー]]の子で、このときすでに成人しており、船団を率いてアルゴナウタイを追跡した。そこでメーデイアは金羊毛を取り戻すつもりであると偽りの伝言を使者に伝え、アプシュルトスが騙されてやって来るように、魔法の薬を空に撒いた。そして首尾よくアプシュルトスを小島におびき出すことに成功すると、物陰に隠れたイアーソーンが彼を殺した<ref>ロドスのアポローニオス、4巻410行-481行。</ref>。いずれにせよ、メーデイアは親族殺しの罪を浄めなければならないことを、[[アルゴー船]]に取り付けられた[[ドードーナ]]の聖なる[[樫]]の[[予言]]で知らされた。そこでアルゴナウタイは[[アイアイエー島]]を訪れ、アプシュルトス殺害の罪を魔女[[キルケー]]に浄めてもらった<ref name="Ap_1_9_24"/>。
=== イアーソーンとの結婚 ===
[[File:Jean-François de Troy - Jason swearing eternal affection to Medea.jpg|thumb|180px|[[ジャン=フランソワ・ド・トロワ]]の1742年の絵画『イアソンはメディアに永遠の愛を誓う』。[[ナショナル・ギャラリー (ロンドン)|ナショナル・ギャラリー]]所蔵。]]
メーデイアはその後もアルゴナウタイと行動を共にし、プランクタイの岩礁や[[セイレーン]]の住む島といった海の難所を乗り越えて、[[アルキノオス]]王が統治する[[ケルキラ島|ケルキューラ島]]にたどり着いた。彼らはアルキノオスから歓待を受けたが、コルキス人の追手が島にやって来てメーデイアの引き渡しを要求した。メーデイアは王妃の[[アレーテー]]にすがりついて、引き渡しに応じないでほしいと懇願した。王妃がアルキノオスにどうするつもりなのか尋ねると、アルキノオスは「もし、メーデイアが処女のままであったならアイエーテースのもとに返そうと思うが、しかしイアーソーンと夫婦の契りを交わした後ならば夫婦を引き離すような裁定は下さないし、もし子供を身ごもっていたならば決してコルキス人に引き渡すことはしない」と語った。そこでアレーテーはアルゴナウタイに王の判断を知らせ、納得した彼らは、ケルキューラ島の海岸にある[[マクリス]]の聖なる洞窟で婚礼と[[結婚初夜|初夜]]の床の準備をした。床の上には金羊毛が敷かれ、ヘーラーは2人のために[[ニュムペー]]たちを送って祝福した。そしてアルゴナウタイがコルキス人の襲来に備える中で、[[オルペウス]]は婚礼の祝歌を歌い、メーデイアはイアーソーンと夫婦の契りを交わした。翌日、アルキノオスがメーデイアに関する裁定を下すと、コルキス人はメーデイア返還の要求が無駄であることを悟った。しかしアイエーテースの怒りを恐れて帰国をためらい、アルキノオスの許しを得てケルキューラ島に移り住んだ<ref>ロドスのアポローニオス、4巻995行以下。</ref>。
=== タロース退治 ===
その後も航海は続いた。[[クレータ島]]では[[タロース (ギリシア神話)|タロース]]に遭遇したが、メーデイアは船の甲板で三度呪文を唱え、生者の生命を食らう冥府の[[死霊]]や猟犬を召喚し、タロースに幻を見せた。するとタロースはアルゴー船に投げつけようとした巨岩を落とし、踵の一本の血管を覆う薄い膜を傷つけてしまい、[[イーコール]]が流れ出て死んでしまった<ref>ロドスのアポローニオス、4巻1638行-1689行。</ref>。メーデイアが薬で狂わせた、あるいは[[不死]]にすると約束してタロースを欺き、血管を塞ぐ釘を抜き去ったため、イーコールが流れ出て死んだという説もある。このような冒険を経て、メーデイアはイアーソーンの祖国[[イオールコス]]にたどり着いた<ref>アポロドーロス、1巻9・26。</ref>。
=== アイソーンの若返り ===
[[File:Medea Rejuvenating Aeson, Corrado Giaquinto, MET DP268767.jpg|thumb|180px|[[コッラード・ジアキント]]の1760年の絵画『メーデイアはアイソーンを若返らせる』。[[メトロポリタン美術館]]所蔵。]]
[[オウィディウス]]の『[[変身物語]]』によると、イアーソーンは、メーデイアに対して自らの寿命を縮め、年老いた父[[アイソーン]]の延命を願い出たが、メーデイアは夫の望みに応じて死期の迫ったアイソーンを魔法の秘薬で若返らせるという不思議な術を行った<ref name="O" />。
=== ペリアース殺し ===
メーデイアは[[ペリアース]]の娘たちに老いた雄羊を切り刻んで鍋に入れてぐつぐつ煮て、若返らせる所を見せた。姫たちは父親を同じように若返らせようと、ペリアースを切り刻み、鍋に入れてぐつぐつゆでたが、ペリアースは死んでしまった。メーデイアがペリアースを謀計によって殺した後、[[イオルコス|イオールコス]]の人々はメーデイアの残酷な仕打ちに怒って追放し、メーデイアはイアーソーンとともに[[コリントス]]に向かった<ref name=Ap_1_9_27 />。
=== イアーソーンへの復讐 ===
[[File:Eugène Delacroix - Medea about to Kill her Children - WGA6198.jpg|thumb|180px|[[ウジェーヌ・ドラクロワ]]の1862年の絵画『我が子を殺すメデイア』。[[パリ]]、[[ルーヴル美術館]]所蔵。]]
追放されたイアーソーンとメーデイアは[[コリントス]]で幸福に暮らしたが、コリントス王[[クレオーン]]に気に入られたイアーソーンは王から娘{{仮リンク|グラウケー|en|Creusa_of_Corinth}}を与えられた。そこでイアーソーンはメーデイアと離婚してグラウケーと結婚したが、激怒したメーデイアは結婚の誓約を立てた神々にイアーソーンの忘恩をなじり、グラウケーに毒を浸した[[ペプロス]]<ref name=Ap_1_9_28 />(あるいは魔法の薬で作った黄金の[[冠]]<ref name=Hy_25 />)を贈り、それを着たグラウケーは炎に包まれ、助けようとしたクレオーン王とともに王宮もろとも焼け死んだ。さらにメーデイアは2人の息子であるメルメロスとペレースを殺し<ref name=Ap_1_9_28 /><ref name=Hy_25 />、ヘーリオスから授かった有翼の竜の戦車に乗って[[アテーナイ]]に逃れた<ref name=Ap_1_9_28 />。
この復讐劇は後代の[[エウリピデス|エウリーピデース]]による脚色であるとも言われる<ref>アイリアーノス、5巻21話。</ref>。イアーソーンとメーデイアの間には、7人の息子と7人の娘がいたが、メーデイアが手にかけたのではなく、グラウケーとクレオーンの殺害に憤激したコリントス人たちが、彼らをことごとく捕らえ、石を投げつけて殺したというものである。また、長男のメーデイオスは、イアーソーン同様ペーリオン山の[[ケイローン]]に養育されていて、難を逃れたともいう。
また、復讐劇は起きなかったとする説もある。[[パウサニアス (地理学者)|パウサニアース]]によるとコリントスはもともとメーデイアの父アイエーテースの出身地であり、アイエーテースが国政を執った時期があったので、コリントス人は王統が途絶えた後にメーデイアを迎え入れた<ref>パウサニアス、2巻3・9。</ref>。しかしメーデイアは子供を[[不死]]にしようと考えて[[ヘーラー]]神殿に隠したが、そのことを知ったイアーソーンはコリントスを去ったため、メーデイアもコリントスを[[シーシュポス]]に譲って去ったという<ref>パウサニアス、2巻3・11。</ref>。
=== 逃避行 ===
コリントスを追われたメーデイアは、初め[[テーバイ]]の[[ヘーラクレース]]を頼った。そしてヘーラクレースが狂気に憑りつかれて我が子を殺戮しているのを目の当たりにした。ヘーラクレースはイアーソーンが本当に不誠実で、自分を襲った狂気を治してくれるのなら匿おうと言った。そこでメーデイアは英雄を苦しめる狂気を薬草で治癒したが、[[エウリュステウス]]がヘーラクレースに別の苦役を強いたため、英雄に保護してもらうことを諦めざるを得なかった<ref>シケリアのディオドロス、4巻55・4。</ref>。
次にメーデイアはアテーナイを訪れた。アテーナイの[[アイゲウス]]王は喜んで迎え、メーデイアと結婚した。しかしメーデイアは王宮にやって来た[[テーセウス]]を危険視し、排除しようとした。そこで夫にテーセウスに用心するよう言い含めた。アイゲウスは彼が自分の息子だとは気づかずにメーデイアの言葉を信じ、テーセウスを[[マラトーンの牡牛]]退治に行かせた。そしてテーセウスが無事に戻って来るとメーデイアは今度は毒殺しようと試みた。しかしアイゲウスがメーデイアから渡された毒薬入りの飲物でテーセウスをもてなそうとしたとき、トロイゼーンに残した自分の剣をテーセウスが献上したので自分の息子だと気づいた。こうして毒殺に失敗したメーデイアは王の息子を殺そうとしたために息子メードスとともにアテーナイを追放された<ref name=Ap_1_9_28 /><ref>アポロドーロス、適用(E)1・5-1・6。</ref>{{efn2|このエピソードはテーセウスの[[ミーノータウロス]]退治直後に自殺した[[アイゲウス]]王が生きているためミーノータウロス退治以前のものだが、テーセウスがミーノータウロスの退治後に上記のアルゴナウタイに参加していた説もあるので矛盾が生じている。}}。
その後[[テッサリアー]]地方に一時滞在し、女神[[テティス]]と美しさを競ったが、[[イードメネウス]]の審判で敗れたという<ref>[[フォティオス1世 (コンスタンディヌーポリ総主教)|フォティオス]]『{{仮リンク|図書総覧|en|Bibliotheca (Photius)}}』190話。</ref>。
=== コルキスへ帰国 ===
コルキスで父王アイエーテースが伯父[[ペルセース]]に王座を奪われたと聞いたメーデイアは、メードスを連れて故郷コルキスに帰り<ref name=Ap_1_9_28 /><ref name="パウサニアス" />、ペルセースを殺してアイエーテースを再び王座につけた。息子のメードスは後に周辺諸国を征服して[[メーディア]]を建国した<ref name=Ap_1_9_28 />。
一説によると、メーデイアは[[アルテミス]]の[[巫女]]だと身分を偽ってペルセースの国に訪れた。そして自分が殺したコリントス王[[クレオーン]]の息子[[ヒッポテース]]が投獄されていることを知った。実は彼は母の後を追ってきた息子メードスだったが、そうとは知らずにヒッポテースが自分を殺しに来たのだと考えて、彼はメーデイアの息子メードスであり、王を殺すためにやって来たに違いないから自分に引き渡してほしいと説得した。しかしメードスが連れて来られるとメーデイアは自分の息子であることに気づき、メードスにペルセースを殺すよう命じた。そしてメードスがペルセースを殺して王権を奪うと、メーデイアはその地を自分の名前にちなんでメーディアと名付けた<ref name="ヒュギーヌス、27話。"/>。[[ヘーロドトス]]も、メーディア人たちはアテーナイから逃亡したメーデイアが自分の名前にちなんでメーディア王国と名付けたと主張したと述べている<ref>ヘーロドトス、7巻62。</ref>。
=== その後 ===
やがてメーデイアは不死の身となり、[[エーリュシオン]]の野を治めたという。[[アキレウス]]は死後[[ヘレネー]]と結婚したという伝説があるが、相手はヘレネーではなく、メーデイアだという説もある<ref>アポロドーロス、適用(E)5・5。</ref>。
== エウリーピデースによる悲劇 ==
{{Main|メディア (ギリシア悲劇)}}
[[古代ギリシア]][[ギリシア悲劇|三大悲劇詩人]]の一人[[エウリピデス|エウリーピデース]]による[[戯曲]]。コリントスを舞台とし、夫イアーソーンに離婚を告げられ、追放を言い渡されたメーデイアは、イアーソーンへの復讐のために彼の新しい花嫁とその父王、そして自分の2人の息子を殺害してコリントスを去っていく。一人の女性によって全てを狂わされてしまう物語である。
== 系図 ==
{{ペルセーイスの系図}}
== ギャラリー ==
<center><gallery widths="140px" heights="140px" perrow="5">
Andrea Schiavone - Médée.jpg|{{small|[[アンドレア・スキャヴォーネ]]『メーデイア』(16世紀) [[ルーヴル美術館]]所蔵}}
Moreau - Jason et Médée.jpg|{{small|[[ギュスターヴ・モロー]]『[[イアソン (ギュスターヴ・モロー)|イアーソーンとメーデイア]]』(1865年) [[オルセー美術館]]所蔵}}
Jason and Medea - John William Waterhouse.jpg|{{small|[[ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス]]『イアーソーンとメーデイア』(1907年) 個人蔵}}
Medea - Frederick Sandys - Google Cultural Institute.jpg|{{small|{{仮リンク|フレデリック・サンズ|en|Frederick Sandys}}『メーデイア』(1866-1868年頃) [[バーミンガム美術館]]所蔵}}
Girolamo Macchietti 002.jpg|{{small|{{仮リンク|ジローラモ・マッキエッティ|en|Girolamo Macchietti}}『アイソンを若返らせる薬を造るメディア』(1570-1573年頃) [[ヴェッキオ宮殿]]所蔵}}
Beaux-Arts Nancy Klagmann 50108.jpg|{{small|アンリ・クラッグマン(Henri Klagmann)『メディアと子供たち』(1868年) [[ナンシー美術館]]所蔵}}
Anselm Feuerbach Medea.jpg|{{small|[[アンゼルム・フォイエルバッハ (画家)|アンゼルム・フォイエルバッハ]]『メーデイア』(1870年) [[ノイエ・ピナコテーク]]所蔵}}
Medea - A. Gentileschi.jpg|{{small|[[アルテミジア・ジェンティレスキ]]『メーデイア』(1620年) 個人蔵}}
Charles André van Loo - Jason and Medea, 1759.jpg|{{small|[[シャルル=アンドレ・ヴァン・ロー]]『イアーソーンとメーデイア』(1759年) {{仮リンク|ポー美術館|fr|Musée des Beaux-Arts de Pau}}所蔵}}
Medea, con los hijos muertos, huye de Corinto en un carro tirado por dragones (Museo del Prado).jpg|{{small|{{仮リンク|ジャーマン・エルナンデス・アモーレス|es|Germán Hernández Amores}}『子を殺し、戦車に乗って逃げるメデイア』(1887年) [[プラド美術館]]所蔵}}
</gallery></center>
== 脚注 ==
=== 注釈 ===
{{notelist2}}
=== 出典 ===
{{Reflist|3}}
== 参考文献 ==
* [[アイリアノス]]『ギリシア奇談集』[[松平千秋]]・[[中務哲郎]]訳、[[岩波文庫]](1989年)
* [[アポロドーロス]]『ギリシア神話』[[高津春繁]]訳、岩波文庫(1953年)
* 『[[オデュッセイア]]/[[アルゴナウティカ]]』松平千秋・[[岡道男]]訳、[[講談社]](1982年)
* [[シケリアのディオドロス|ディオドロス]]『神代地誌』飯尾都人訳、龍溪書舎(1999年)
* [[ヒュギーヌス]]『ギリシャ神話集』[[松田治]]・青山照男訳、[[講談社学術文庫]](2005年)
* [[ピンダロス]]『祝勝歌集/断片選』[[内田次信]]訳、[[京都大学学術出版会]](2001年)
* [[ヘシオドス]]『[[神統記]]』[[廣川洋一]]訳、岩波文庫(1984年)
* 『[[ヘシオドス]] 全作品』中務哲郎訳、京都大学学術出版会(2013年)
* [[ヘロドトス]]『[[歴史 (ヘロドトス)|歴史]](下)松平千秋訳、岩波文庫(1972年)
* [[オウィディウス]]『[[変身物語]](上・下)』[[中村善也]]訳、岩波文庫(1981年・1984年)
* [[高津春繁]]『ギリシア・ローマ神話辞典』[[岩波書店]](1960年)
== 関連項目 ==
* [[メデア (オペラ)]] - [[ルイジ・ケルビーニ|ルイージ・ケルビーニ]]作曲のオペラ。
* [[メデアの復讐の踊り]] - [[サミュエル・バーバー]]作曲の管弦楽曲。
* [[メデア (小惑星)]]
== 外部リンク ==
{{Commons|Category:Medea (mythology)}}
* [http://www.giorgioclementi.it/medea.htm The Medea of the modern times]
== 参照 ==
{{DEFAULTSORT:めえていあ}}
[[Category:ギリシア神話]]
[[Category:バラす神]]
[[Category:女神]]