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=== NIN ===
メソポタミア神話の特徴としては、女神にNin-がつくものが多い(ニンフルサグ(Ninhursag)、ニンマー(Ninmah)等)。ただし、これは必ずしも絶対と言うことではなさそうである。例えば、ニヌルタ(Ninurta)という男性神も存在する<ref>ただし、この神は本来女神であった可能性も否定はできない。</ref>。
 
== エスタンについての考察 ==
ヒッタイトとは、紀元前15世紀頃に、アナトリア半島(現在のトルコ)に存在した国であり、多民族国家であった。この国は太陽女神を最高神としていたが、他民族国家であるため、人々は自らの神の名でこの女神のことを呼んでいた。そのため、この女神を指す名は非常に多いのである。また、近年に至るまで男性神と考えられていたことから、研究者レベルではともかくとして、一般的には欧米でもその事実がまだ広く知られていないようである。この神の名を、これまでの考察から調べてみたい。ヒッタイトの主要民族であるヒッティ族(ヒッタイト人)は、この女神のことをアリニッティと呼んでおり、神を祀る神殿のある都市をアリンナといった。この女神の名の属性を調べてみると、以下のようになる。
 
{|class="wikitable" tableborder="1" padding="5" cellpadding="5" cellspacing="0" style="float:right; border: 1px solid #d4acad; border-top-width: 1px; border-right-width: 1px; border-bottom-width: 1px; border-left-width: 1px; text-align:center; font-size:100%;"
|+ <span style="color: #82ae46;">ヒッタイト他の太陽女神の名</span>
|style="background-color:#82ae46;"|<span style="color: white;">ヒッティ族</span>||アリニッティ(Arinniti)||「太陽(A)」+「太陽(r)」+「月(nni)」+「月(ti)」
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|style="background-color:#82ae46;"|<span style="color: white;">ヒッティ族・ハッティ族</span>||イスタヌ(Istanu)||「太陽(I)」+「太陽(s)」+「月(ta)」+「月(nu)」
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|style="background-color:#82ae46;"|<span style="color: white;">ハッティ族</span>||エスタン(Estan)||「太陽(E)」+「太陽(s)」+「月(ta)」+「月(n)」<br>E-stanとして「Eの土地」とすれば、「太陽の土地」という意味になる
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|style="background-color:#82ae46;"|<span style="color: white;">フルリ人</span>||ヘバト(Hebat)、ケバ(Kheba)、ケパト(Khepat)||「太陽(He)」+「太陽(ba)」+「月(t)」
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|style="background-color:#82ae46;"|<span style="color: white;">ルウィ語</span>||ティワズ(Tiwaz)、ティヤズ(Tijaz)||「月(Ti)」+「月(wa)」+「太陽(z)」
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|style="background-color:#82ae46;"|<span style="color: white;">以下比較参考</span>||||
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|style="background-color:#82ae46;"|<span style="color: white;">フリギア(トルコの一地方)の地母神</span>||style="background-color:#fdeff2;"|キュベレー(Cybele)||style="background-color:#fdeff2;"|「太陽(Cy)」+「太陽(be)」+「太陽(le)」
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|style="background-color:#82ae46;"|<span style="color: white;">ギリシア神話の最高女神</span>||style="background-color:#fdeff2;"|ヘーラー(Hera)||style="background-color:#fdeff2;"|「太陽(He)」+「太陽(ra)」
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|style="background-color:#82ae46;"|<span style="color: white;">ギリシア神話の古い地母神</span>||style="background-color:#fdeff2;"|ガイア(Gaia)||style="background-color:#fdeff2;"|「太陽(Ga)」+「太陽(i)」+「太陽(a)」
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|style="background-color:#82ae46;"|<span style="color: white;">ローマ神話の最高女神</span>||ユーノー(Juno)||「月(Ju)」+「月(no)」
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|style="background-color:#82ae46;"|<span style="color: white;">ミタンニの太陽神</span>||ミトラ(Mitra)||「月(Mi)」+「月(t)」+「太陽(ra)」
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|style="background-color:#82ae46;"|<span style="color: white;">ミタンニの契約神</span>||ヴァルナ(Varuna)||「月(Va)」+「太陽(ru)」+「月(na)」
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|style="background-color:#82ae46;"|<span style="color: white;">旧約の神</span>||ヤハウェ(YahwehあるいはJHVH)||「太陽(Ya)」+「太陽(h)」+「月(we)」+「太陽(h)」
|}
 
ユーノー(Juno)とヤハウェ(YHWHあるいはJHVH)は、子音として発音しない「J」を有しているようである。これは書き言葉では「J」と現され、「月」であることを示すが、話し言葉では「y」と発音され「i」に連なる音として「太陽」であることを示すこととなる。この発音しない「J」を中庸的に「太陽」+「月」と解釈すれば、ユーノー女神の属性に「太陽」の傾向がやや混じり、一方ヤハウェに対しては「月」の傾向がやや強まる名と成り得るであろう。<br>
上記の表を見て分かることだが、アナトリアで新石器時代より信仰されていたと考えられているキュベレーや、ギリシア神話における古い地母神であるガイアといった、古い時代の女神達の名は、彼らが直接太陽神としてみなされていなくても「太陽」の属性が非常に強いものとなっている。古代の地中海周辺世界には、「太陽は大地から生まれる、故に太陽と大地は同じものである」という思想があったようである。時代が下って様々な新興民族が勃興してくるようになると、「王権の象徴」としても使われる太陽神は新しい民族の神に入れ替わってしまい、古き太陽女神達は「豊穣をもたらす地母神」としての性質のみが強く残されることとなったのではないだろうか。<br>
紀元前15世紀に存在したヒッタイトにおいて存在した太陽神の様々な名のほとんどは、「月」としての属性も有し、「月」の名を持つ太陽神が好戦的な性質を持つように、古い時代の女神達よりも好戦的な神々として考えられていたのではないかと思う。その名における「太陽」と「月」の割合は、2:1あるいは1:1であった。<br>
古代インドと共通の神々を持つヒッタイトの隣国ミタンニに目を向けると、ミトラやヴァルナといった神々の名は「太陽」と「月」の割合が2:1であることが分かる。ミタンニの支配階級である「戦士階級」は自らのことを「maryannu」と呼んでおり、これは子音で見ると「月(ma)」+「太陽(r)」+「太陽と月(y)」+「太陽(a)」+「月(n)」+「月(nu)」となって、3:4で「月」の属性が強い言葉であることが分かる。これらのことから、インド系の印欧語族に近い人々であったであろうと想像されているミタンニの支配階級は「好戦的な月太陽信仰」が強く、おそらく好戦的な人々であったであろうことが推察される。<br>
どうやら時代が下って戦乱の多い時代に入ると、好戦的な神々が台頭し、かつての豊穣の太陽地母神達は主に「大地の神」とみなされるようになり、「月」の属性を持つ「太陽地母神」へ最高神の地位を譲るようになったようである。このように、神の名に「月」と「太陽」の意味を持つ言葉をさまざまに配合して名と意味をつけることが古代世界で行われており、その直接の発祥はエジプトのネクベト女神、メソポタミアのベル神にみられるように、古代エジプトとメソポタミア文明の両方にまたがる文化にあるようである。その中で、「太陽」と「月」の子音の割合が2:1である「ヘバト」という名を持つ女神は「太陽」を意味する割合がその名の中に多い方であり、当時としては比較的温厚な女神とみなされていたのではないだろうか。<br>
古代エジプトの第18王朝と第19王朝の狭間の時代(紀元前1300年前後)にエジプトを出て以来、独特の宗教文化を育んできた古代ユダヤ人の神はヤハウェ(YHVH)である。書き言葉におけるこの神の名は4文字の子音で現され、実際に何と発音したのかは定かではない。しかし、古代の神々の名をみれば明かなように、彼らの名のとって大切なのは常に「子音」であった。それを知れば、その神がどのような「配合」から誕生した神であるのか、どの程度好戦的な神であるのか、つまり、それを信仰する人々がどの程度「好戦的」であるのかが分かるのである。ヤハウェの名には少なく見積もっても5:3、多くみれば3:1の割合で「太陽」を示す子音が含まれており、ヘバト女神以上に温厚な性質を持つ神であったことが示唆される。人間の子供を犠牲に捧げることを禁じ、周辺地域に住む「月」の割合が高い「好戦的な太陽神」を信仰する人々を非難し続けた古代ユダヤ人の行動は「神と人とはYHVHの名のように温厚であるべきである」という信念から生まれたものであることが分かる。ただし、当時の政治状況から考えて、神の名から「月」の要素を完全に取り去ることは危険であると判断されたのであろう。そして「好戦的な太陽神」に繋がる「王権」というものを彼らが非常に警戒し、紀元前10世紀に至るまで「王」というものを持たなかったこともまた、彼らの信念の現れであったのであろう。<br>
だが、その信念を維持し続けることがいかに厳しいものであったのかということは、彼らの苦難の歴史をみれば明かであるように思う。彼らを常に迫害し続けた人々は、キアンやトール、あるいはオーディンといった「月」の名を持つ神々を信奉していた人々の末裔であり、そのような人々は常に自らの行動を正当化するための強引な理論を用意していた。曰、彼らの神は、月の名を持つ「ネルガル(偉大なる月、という意味)」と同じ神であり、死に神であり、それを「神」と認めない者は人間として扱わず殺しても構わない存在なのだから、殺して当然なのである、ということである。月の名を持つ「ローマ(Roma)」で発達したこの恐ろしき一神教は、このような論理でユダヤ人迫害の歴史だけでなく、十字軍も植民地支配も当然のように「正当化」してきた歴史があるのではないだろうか。このような論理がまかり通る社会で、穏やかさと温厚さを信念を持って選ぶことは、確かに非常に「厳しい生き方」を敢えて選ぶことにも通じるのではないかと、そう思わざるを得ないのである。
== 考察に関する問題点 ==

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