== 2.D-、J-、Y-あるいはT- ==
印欧祖語のディヤウス(dyaus)という言葉は、「父なるデャウス」を意味するデャウシュ・ピター(dyauṣpitā)という言葉でもあり、ヒンドゥー教で「天(dyaus)の父(pita)」という天空神を示している。この名前は英語の「Thunder(雷)」という言葉が示すように「'''雷'''」を示す言葉なのだと考える。Y-という接頭語はJ-という接頭語から濁点を外したものである。という接頭語から濁点を外したものである。ギリシア神話の主神ゼウス(Zeus)もこの群に入れる。
下エジプトの守護神とされる蛇女神は「ウアジェト(Wadjet)」という。この女神の名には「雷」を示す子音が二つ入っている。このように「D-」系の子音は接頭語以外でも使用された。特に古代エジプトでは女神の名として、接頭語ではなく'''接尾語'''として高頻度で使用された。ウアジェトだけでなく、ネクベト、メヒト、タウエレト等々である。
「J-」という接頭語は主にローマの神にみられる。ローマのユーノー(Juno)とエトルリアのユニ(Uni)は同じ女神と考えられているので「J」という接頭語は主にローマの神にみられる。ローマのユーピテル(Jupiter)、ユーノー(Juno)とエトルリアのユニ(Uni)は同じ女神と考えられているので「J-」から清音の「Y-」に変化し、更にア行の母音のみの音に変化した例もあるかもしれない。 「T-」にはヒッタイト神話のテシュブ(Teshub)や、北欧神話のトール(Tor)がある。いずれも高位の雷神で、学術的にもゼウス(Zeus)、ユーピテル(Jupiter)と同起源の言葉と正式に考えられている。ルウィの太陽神ティワズ(Tiwaz)は雷神ではないが、語源を同じくすると考えられている。いわゆる「火雷神」と言い得る性質を持っていたのかもしれない。 ヒッタイトの太陽神の一柱であるシワット(Šiwat)もティワズと同語源と考えられている。「T-」音が薄れて「S-」音になっている。この「S-」音が外れてしまえばワット(Wat)となりウアジェト(Wadjet)、ウトゥ(Utu)に近い名になる。
日本では阿遅鉏高日子根(ア'''ヂ'''スキタカヒコネ)、伊豆能売(イ'''ズ'''ノメ)、神阿多都比売(カムア'''タ'''ツヒメ(木花之佐久夜毘売の本名))の名にこの子音がみられる。古い時代の神々と見えて、中国式に「阿」「伊」といった親しみを示す接頭語がついている例がある。阿遅鉏高日子根は雷神としての性質も持つ。日本では「'''火山の神'''」としての性質も強いように感じる。雷も火山も大きな音を立てて光と熱を発するからであろうか。「伊豆」という地名も関連する言葉であろう。伊豆は火山の多いところである。