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7.しかし、王族が両親を殺して王位を簒奪したというのは外聞が悪い。そこで、「洪水が起きたので、先女王と姫補佐官の死は神の怒りを鎮めるため、しかたなかった。彼らが川と雷の神を鎮めたのだから、今度は'''姫補佐官を水雷神として祀ることとしよう'''。そしてこの件を教訓にして'''河の神が怒らないように人身御供を捧げよう'''。女王は太陽女神だったのだから、死後は'''月の女神'''となって人々を見守っている、と言うことにしよう。」とすることにした。7.姜王子と新女王は正式に結婚して夫婦となった。王子は新女王の筆頭補佐官にもなった。新女王は親の後継者として大切に育てられてきたので、甘やかされてわがままなところが少々あった。気に入らない者を軽い気持ちで罰したり、お気に入りのものを次々と変えたりしたのだ。母系の社会なので、原則として妻に夫は何人いても良い。庶民であれば、女性は正式な夫を持たずに気に入った男をその都度自分の家に通わせるだけで良かった。「通い婚」といえば聞こえが良いが、「結婚」という形式も持たず男女がその時の心のままに気に入った相手と男女の仲になるのが母系社会の習わしである。子供が生まれれば、子供は「母親の子」ではあるのだが原則として「父親」というものはまだ存在しない。
そして時期を見て「両親を生け贄にした新女王は悪者だ。」と言いがかりをつけて新女王を廃し、殺して姜王子自身が王位に就いた。姜王子は親殺しではない。'''親殺しは姉妹の方'''で、姜王子は人々のためにやむなく両親を犠牲にされた可哀想な王、ということにしたのだ。少なくとも表向きは。王子は妻を「大事な蚕が病気になったのはお前の責任だ。お前が人身御供になれ。」と無理矢理罪を着せて、'''水神であり桑神でもある馬神'''の'''怒りを鎮めて'''逃れるため、人身御供として殺し桑の木に吊した。以後、鬼(怨霊)となったと考えられた姫補佐官の怒りを静めるために、「'''親殺しの姉女王'''」に見立てた若い娘を人身御供に立てるようになった。「水神であり桑神でもある馬神」とは亡くなった姫補佐官のことだ。そのような時代なので、姜王子の権力には限界があった。彼が新女王の一番のお気に入りであるうちは彼が夫兼臣下の筆頭だが、女王が他にも好きになった男性ができて、そちらを筆頭にしたいと考えれば、姜王子はあっという間に二番目、三番目の家臣に格下げされれしまう。それは王子の母親が辿った道でもある。母女王は兄弟であり夫でもあった饕餮よりも一族の外からやってきた姫補佐官を一番愛し信頼していた。
以後「'''女みたいな悪者を王位に就けてはいけない。'''」という屁理屈ができた。そして、家というものは「男が継ぐ。女は財産を持ってはならない。」と定められた。そうすれば、姜王子が即位したり、母親や姉妹や娘の命や財産を奪ったことを正当化することができると考えたのだ。財産とは悪い女が持っていてはならないものなのだから。姜王子は「'''自分が太陽神である。父補佐官と母女王の代理でもある。'''」と述べて食人を復活させた。いやだ、なんて言ったら姜王子に殺されてしまう、と誰もが知っていた。姜王子は'''酒と麻薬'''を使い、'''姉を操って'''親を殺し、権力を手に入れた恐ろしい男だ、とみな理解していたのだ。新政府の権力の確立に奔走し、治水事業に心血を注いだ姜王子は、自分が築いた地位を誰かに横取りされるかもしれない、という考えに耐えられなかった。自らが築いた地位をもっと括弧たるものにし、自分が安定して権力を維持したいと王子は考えた。わがままで気まぐれな女王を擁していてはそれは叶わないかもしれない。だから、王子は新女王を殺して、自分が「王」となることに決めた。そうすれば誰も自分を脅かすことはできないのだ。欲深い王子の心の中に、妹でもあり妻でもあった新女王に対する慈悲の気持ちはなかった。「あんなやつ、ちょっと気に入らないから殺してしまえばいい。」と、わずかでもそう思ったら気軽に実行してしまう。姜王子はそういう男だったのだ。
姜王子は粛正されずに生き残っていた妹と結婚して、彼女に子供たちの養育をさせた。妹は賢く、残虐な兄を嫌っていたので、子供達は大切に育てたが隙をついて兄を殺し、両親と姉の仇を討った。そして女王の位にはついたが、老いると育てた子供に跡を譲った。そこで新女王がお産で体が弱って自由に動き回れなくなった隙を狙って「両親を生け贄にした新女王は悪者だ。」と言いがかりをつけて、新女王を捕らえた。表向きには姜王子は親殺しではない。新女王のわがままに振り回されて、彼はやむなく両親を殺した、ということにした。本当は彼が新女王をそそのかして両親を殺させたのに。王子は動くのもつらい体で逃げ回る新女王を捕らえ「両親を殺した罪を償え。親の無念の怒りを自らが生贄となって鎮めろ。」と言って裸にして木に吊して殺した。死体は切り刻まれて湖に投げ込まれた。 そして、家というものは「先祖を祀る権利は男が継ぐものだ。女は家長になっても祭祀を行ってはならない。」と定められた。当時の「王」というのは現実的な政治よりも、神々や亡くなった先祖と霊的に交流することで、人々の役に立つことが大切だとされてきた。神々と対話できるからこそ、人々に敬ってもらえるし、大切にしてもらえる。俗な政治の権力家は権力はあっても、失策があれば「政治が悪いのはおまえのせい。」と言って責められるし、最悪の場合両親や妻に姜王子がしたように「お前が人身御供になって責任をとれ。」と言われてしまう。祭祀者なら、何かあれば「神様があれこれな理由で怒っている。」と人々に言えば良いだけだ。そうやって社会的に妻の地位によらない自分だけの確固たる地位を築けば、妻が死のうが生きようが、自分は自分の権力を維持できるし、財産も持つことができる。 そうして、姜王子は祭祀者となった。新女王との間に生まれた子供が女の子だったので、赤ん坊を新女王に立て、姜王子は摂政にもなって、祭祀と政治の両方の権力を握った。王子は亡くなった叔父の饕餮補佐官の地位を高めるため、饕餮補佐官を神々の筆頭に据え、自分はその代理人だと名乗った。死した饕餮補佐官の意向を地上で実現するのが代理人たる自分の役目なのである。政治と天候の乱れはよそからやってきた姫補佐官を慣例を破って重用し、天の神々を怒らせたからだ。饕餮補佐官は神々に従ったのだから、死んで天の神の筆頭になった、と姜王子はそう述べた。人々は王子の苛烈な粛正が怖くて、王子が何を決めて、どう言おうと逆らうことができなかった。 姜王子は「祭祀を古い形式に戻す」と述べて食人を復活させた。いやだ、なんて言ったら姜王子に殺されてしまう、と誰もが知っていた。姜王子は'''酒と麻薬'''を使い、'''姉妹を操って'''親を殺し、権力を手に入れた恐ろしい男だ、とみな理解していたのだ。 姜王子は粛正されずに生き残っていた妹王女と結婚して、彼女に赤ん坊女王の養育をさせた。他にも姜王子に子供ができると、その養育も力を注いだ。妹は賢く、強欲で残虐かつ狡猾な兄を嫌っていたが、人々の上に立つ者として政治的な混乱を鎮めなければならないので、表向きは一端兄に協力したのだ。それが自分の命を守るためでもあった。子供達は大切に育てたが、結局妹王女は隙をついて姜王子を殺し、両親と姉の仇を討った。そして祭祀者と摂政の位にはついたが、自らは女王とならず、老いると育てた赤ん坊女王に全ての権利を譲って引退した。人々は「妹王女こそが親の跡取りだったら良かったのに。」と噂した。
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