特に[[ディオニューソス]]が関連するものは、酒による酩酊の上でのレイプという側面が強いようである。[[ディオニューソス]]は明確な植物神であり、狂乱を伴って、残虐なやり方で生贄を求める明確な神話がある神である。[[ディオニューソス]]自身が酒による酩酊で人を操る存在だが、ディオニューシアカではその[[ディオニューソス]]を非日常的な狂乱へ導くスイッチのような役割をエロースが担う。そして、おそらく「生贄を酒で酩酊させてレイプする」とは、メソポタミア神話のエンリルとニンリルの神話のように、「花嫁としての生贄」の神話が変化したものと思われる。エンリルは冥界でニンリルを騙して交わい子供を生ませるが、ディオニューシアカではそれが「酔いによる酩酊」へと書き換えられているように思う。全体から見れば、「男性形の植物神が再生のために妻という名前の[[人身御供|生贄]]を求める神話」で[[人身御供|生贄]]を求める側の男性神がエロースと[[ディオニューソス]]で二重に分けられた物語といえる。また、[[ディオニューソス]]の機能を'''影で操る'''存在としてエロースが存在している、という点が興味深い。日本神話と比較すれば、[[高御産巣日神]]が[[天若日子]]の機能を調節しているのであり、調節がうまく果たされなければ下位の[[天若日子]]が罰を受けて死ぬことになる。[[ディオニューソス]]も[[天若日子]]も、死にたくなければ上位の神の「調節」に従うしかないのである。本来、権威ある始原神であったエロースの姿が窺える神話である。例えば「レイプされるニンフ」が元は下位の女神ではなく、各地方の「太母」であったとするならば、エロースと[[ディオニューソス]]の仕事は、まさに太母の権威を低下させて殺し、支配し征服する神話の変形ともいえると考える。
類話として、フランスの民話「[[美女と野獣]]」があるが、[[美女と野獣]]の「野獣」と比較すれば、エロースの方が植物神としての性質が弱められ、その分女神の能力による再生を必要としない「絶対的」な存在と考える。[[美女と野獣]]の方が、古くからの母系の伝統的な「再生を司どる女神」の性質が多く含まれているように感じる。エロースそのものは、当初は絶対的な始原神で、しかも男性の友愛を強調した父系的な神であったものが、ギリシア神話に取り込まれて、母系的な要素と習合する中で、太母的な女神アプロディーテの子神とされ、その神話が更にガリア方面に伝播すると、より母系色の強い思想に取り込まれて、「[[美女と野獣]]」へと変化したものかと思う。
== 参考文献 ==