雉
キジ(雉子、雉[1][2])は、キジ目キジ科キジ属に分類される鳥類。日本産の個体群のみで独立種とする説と、ユーラシア大陸に分布するコウライキジ(P. colchicus)の亜種とする説があり、後者の説に従うとP. colchicusの和名がキジとなり本種のみでキジ属を構成する[3]。日本鳥学会などでは2012年現在、Clements Checklistでは2015年現在は後者(キジは日本やユーラシア大陸広域に分布する単一種)の説を採用している[3][4]。以下の内容はIOC World Bird ListおよびBirdlife Internatinal(IUCN)などが2015年現在に採用している前者の説(キジは日本にのみ分布する独立種)に従ったものと思われる[5][6]。
日本鳥学会が選定した国鳥[7]であるとともに、国内の多くの自治体でも「市町村の鳥」に指定されている。種小名のversicolorは、ラテン語で「色変わりの」を意味する[1]。日本の古語では「雉子(きぎす)」(10世紀前半成立の『和名類聚抄』巻十八「羽族名」での表記は、「木々須」と記す)。
キジやコウライキジは世界中で主要な狩猟鳥とされ、キジ肉は食用でもある[8]。
神話・伝承(私的考察)
- 鳴女:日本神話。天照大御神型。天孫降臨の際、地上から戻ってこない天若日子に対し、天照大御神と高御産巣日神(タカミムスビ)は雉の鳴女(ナキメ)を遣して戻ってこない理由を尋ねさせたが、天若日子は天佐具売(アメノサグメ)の勧めにより、高皇産霊神から与えられた弓矢(天羽々矢と天之麻迦古弓)で鳴女を射殺してしまった。天に到達したその矢を高御産巣日神が地上に投げると天若日子に当たり、天若日子は死んだ。
- 雉大明神:日本神話。天照大御神型。富山県南砺市(旧福光町)高宮にある比賣神社、祭神は下照比賣命。「延喜式内砺波七座の内、比賣神社と伝わる。嘉禄二年(一二二六)僧空潮実記の縁起に よれば七堂伽藍の大社として 雉真大明神及び法性寺と号した。」とのこと。雉大明神の由来として、「三代実録(九〇一)に貞観十八年(八七六)越中の国より白雉を献上とあり雉真大明神の社号はこの故事か、あるいは古事記 (七一二)天若彦の故事より名付けられたとも言われ、雉子は下照比賣命の使者とされている。」とのことである[9]。
- 雉:日本。相柳型。桃太郞が持っていたきび団子と引き換えに、桃太郞が鬼退治に行く供をした。
- 雉も鳴かずば:日本。天照大御神型。昔、久米路橋をかける際に、罪人を人柱に建てることになった。娘の歌から窃盗が発覚した男が人柱にされたが、娘はショックで口がきけなくなってしまった。月日が過ぎ、ある狩人が雉を撃つと、どこからともなく成長した娘が現れて「雉も鳴かずば撃たれまい」と言って、雉の死骸とともにどこかへ消えてしまった。
私的解説・雉と山鳥
日本の雉に関する神話・伝承を見ると、雉は「女神の象徴」とされることが多いように思う。そして、特定の女神の「トーテム」として機能し、時に女神と一対になって行動する。また、中国神話の相柳のように「誰かの部下」となって行動することもある。それぞれの型の性質には交錯する部分があるように思う。
また、雉と山鳥は日本神話では「矢(羽)」と強く関連するように思う。女神的女性と矢が関連する神話・伝承も多い。
雉の古名である木々須は杉の古名である進木とは逆の読み方でもある。進木は須佐之男命、五十猛神の象徴である。木々須を天照大御神とすれば、疫神でもある須佐之男命、五十猛神と逆の神であるとも受け取れ、興味深い。
部下(相柳型)
桃太郎の部下として鬼退治に参加する物語である。この物語では雉の性別ははっきりしない。雉が本来「女神の化身」であるならば、黄帝が蚩尤を倒すのを助ける九天玄女(あるいは西王母)の姿を投影している可能性がある。
九天玄女について
九天玄女のトーテムは燕であるのだが、日本ではこれが雉・山鳥に変更されているように思う。これは、先に書いたように疫神である須佐之男命(進木)と対立する存在として「逆の名前の鳥(木々須)」が天照大御神的な女神のトーテムに採用された可能性が1つにはあるように思う。現在の中国神話では九天玄女は黄帝にさまざまな霊的アイテムを与えて助けた、とされているが、もしかしたら本来は戦いに直接役立つ特別な武器のようなものを授けた、という話だったのかもしれない。雉や山鳥の尾羽は直接矢羽に使用したものと思うので、特別な霊鳥である雉や山鳥の尾羽で作った矢は特別な武器である、と古代の日本人が考えたので、日本神話では雉や山鳥が軍神女神の象徴とされたのかもしれない、と思う。要は雉や山鳥は、女神の武力・軍事力の象徴なのである。
女神の化身(天照大御神型)
分布
日本では北海道と対馬を除く本州、四国、九州に留鳥として分布している[10]。日本には、東北地方に生息するキタキジ、本州・四国の大部分に生息するトウカイキジ、紀伊半島などに局地的に生息するシマキジ、九州に生息するキュウシュウキジの4亜種が自然分布していた。ユーラシア大陸が原産地であるコウライキジが、もともとキジが生息していなかった北海道、対馬、南西諸島などに狩猟目的で放鳥され、野生化している。
形態
全長オスが81cmほど、メスが58 cmほど[10][11]。翼開長は77 cmほど[10]。体重はオスが0.8-1.1kg、メスが0.6-0.9 kg。コウライキジではもう少し大きくなる。オスは翼と尾羽を除く体色が全体的に美しい緑色をしており、頭部の羽毛は青緑色で、目の周りに赤い肉垂がある[12]。背に褐色の斑がある濃い茶色の部分があり、翼と尾羽は茶褐色。メスは全体的に茶褐色で、ヤマドリのメスに似ているが、ヤマドリメスより白っぽい色をしており、尾羽は長い。コウライキジのオスは首に白い模様があり、冠羽と体色が全体的に茶褐色である。その他亜種間による細部の差異があるが、もともとメスや雛ではコウライキジも含め識別が困難であったこともあり、後述の通り現在では亜種間の交雑が進み、現在はオスも含めて識別が困難な状況になっている。キジとコウライキジの交雑個体としては、コウライキジのように体色が茶褐色であるが、コウライキジに特徴的な首輪模様がなく、頭部と冠羽がキジ同様青緑色の個体や、逆に全体はキジのように青緑色であるが、首輪模様のある個体が観察される。
生態
山地から平地の林、農耕地、河川敷などの明るい草地に生息している[1][10][11]。地上を歩き、主に草の種子、芽、葉などの植物性のものを食べるが、昆虫やクモなども食べる[10][11]。繁殖期のオスは赤い肉腫が肥大し、縄張り争いのために赤いものに対して攻撃的になり、「ケーン」と大声で鳴き縄張り宣言をする[13]。その際両翼を広げて胴体に打ちつけてブルブル羽音を立てる動作が、「母衣打ち(ほろうち)」と呼ばれている[14]。メスは「チョッチョッ」と鳴く[13]。子育てはメスだけが行う[2]。地面を浅く掘って枯れ草を敷いた巣を作る[13]。4-7月に6-12個の卵を産む[1]。オスが縄張りを持ち、メスは複数のオスの縄張りに出入りするので乱婚の可能性が高い。非繁殖期には雌雄別々に行動する[1][13]。夜間に樹の上で寝る[13][2]。
飛ぶのは苦手だが、走るのは速い[10]。スピードガン測定では時速32キロメートルを記録した[15]。人体で知覚できない地震の初期微動を知覚できるため、人間より数秒速く地震を察知することができる[10][16]。
放鳥
日本のキジは毎年、愛鳥週間]狩猟期間前などの時期に大量に放鳥される。2004年(平成16年)度には全国で約10万羽が放鳥され、約半数が鳥獣保護区・休猟区へ、残る半数が可猟区域に放たれている。2008年(平成20年)10月25日に那須御用邸で天皇と皇后が、キジとヤマドリの放鳥を行った[17]。放鳥キジには足環が付いており、狩猟で捕獲された場合は報告する仕組みになっているが、捕獲報告は各都道府県ともに数羽程度で、一般的に養殖キジのほとんどが動物やワシ類などに捕食されていると考えられている。これはアメリカ合衆国などでも同様であり、その原因として放鳥場所に適切な草木などキジの生息環境が整えられていない点が挙げられている。しかしながら、少数ではあっても生き残る養殖キジはいるため、日本の元の亜種間で交雑が進み、亜種消滅を懸念する声もある。北海道と対馬ではコウライキジが放鳥されている[10][18]。2002年の日本で農作物への被害額は、2,800万円程と推定されていて、カラスの41.6億円と比較すると少額である[19]。大豆の出芽期に子葉を食べる被害が報告されている[20]。
種の保全状況評価
文学
雑多な内容の箇条書き, 2015年12月
昔話
俳句・短歌・和歌
- 奈良時代から「雉」が『万葉集』で6首詠まれている[14]。
- 『徒然草』に「満開の紅梅の枝に鳥を一番添えて」との一文。この鳥は鷹狩りの報奨としての獲物のことで、雉は最も喜ばれた[24]。
- 「青山に鵺は鳴きぬ さ野つ鳥 雉はとよむ 庭つ鳥 鶏は鳴く」 - 『古事記』上巻歌謡二
- 「むさし野の雉子やいかに子を思うけぶりのやみに声まどうなり」 - 『夫木和歌抄』(後鳥羽院)
- 「父母の しきりに恋し 雉子の声」 - 1688年に松尾芭蕉が詠んだ句。
- 「春の野に若菜摘みつつ雉の声 きけば昔の思ほゆらくに」 - 『良寛歌集』(良寛)
- 「ものいわじ 父は長柄の人柱 鳴かずば雉も 射たれざらまし」 - 「長柄の人柱」にある短歌で、余計な一言で災いを招く事を示す「キジも鳴かずば射たれまい」のことわざの由来となっている。
ことわざなど
食
キジは、鶏肉料理として焼いたり煮たりする料理の食材として古くから使用されており、四条流包丁書には「鳥といえば雉のこと也」と記されている。少なくとも平安時代頃から食されており、雉鍋、すき焼き、釜飯、雉そば、雉飯などが伝統的な調理法である[25]。
『大鏡』(11世紀末成立)に、藤原兼通(10世紀)が寝酒の肴(さかな)に「雉の生肉を好んだ」事が記述されており、高階業遠がこっそり雉を逃した話が出ている。仏教が普及している社会にあっても、雉肉が美味で食されていた事がわかる。
兼好法師の随筆『徒然草』(14世紀前半)第118段にも、最も品位の高い食用の鳥として言及されている[26]。同書によれば、中世日本では天皇・皇后の御湯殿上(女官の詰め所および簡易的な調理場)の棚の上に、調理前の死体の姿で置くことを許された鳥はキジだけだった[27]。ところが、あるとき、後醍醐天皇の中宮(正妃)である西園寺禧子の宮殿の御湯殿上の棚の上に、キジより品位の劣る雁の死体がそのままの姿で置かれていた[28]。それを見てびっくりした元太政大臣の西園寺実兼(禧子の父親)は、娘の禧子に散々お小言を食らわせたという[29]。
民間療法・俗信として、「癇癪にはキジの黒焼きが効く」(山形県)、「黒焼きに白砂糖を混ぜると効く」(富山県)、「羽を焼いて塗ると耳の痛みが取れる」(愛知県)など、肉には効能が説かれる一方、「怪我の時にキジを食べると、怪我が治らなくなる・古傷が悪化する」とする俗信も見られ、卵に関しては、「キジの卵を食べると薬が効かなくなる」(福岡県)といわれる[30]。
その他
『桃太郎』、『長柄の人柱』など日本の民話に登場し、日本の野鳥として比較的知名度が高い。 「ケーン」と鳴く。「けんもほろろ」という言葉は、この鳴き声に由来している。また、「頭隠して尻隠さず」ということわざは、草むらに隠れたつもりになったキジの様子に由来している。きしめんの語源には諸説あるものの、キジ肉を平打ちの麺の具にして藩主に献上したから、という説がある。なお、「雉丼」という料理に使われているのは鶏肉。
- 元号の「白雉」は白いキジが捕獲されたことを瑞兆として制定された。
- 日本銀行券D壱万円券 - 一万円紙幣D号券裏面にキジが描かれていた。
- 防衛省情報本部のエンブレムはキジを意匠としている[31]。国鳥であり、桃太郎の話の中では情報収集に活躍したからだという。
- 「キジを撃つ」(キジ撃ち) - 男性が山中で大便や小便をする意味の隠語として登山者の間で使われている。物陰に隠れて用を足す姿勢がキジ猟を思わせることに由来するという[1]。ちなみに女性は「お花摘み」と表現される。これも女性の用足しのしゃがむ姿が草花の中で花を摘んでいる姿に見えるためである。大便と小便を区別する際にはそれぞれ「大キジ」「小キジ」と言い、この場合は男女関係ない表現となる[32]。
- ファジアーノ岡山 - 岡山のサッカーJ2のチーム。ファジアーノはイタリア語でキジの意味で、地元の桃太郎伝説に由来する。
- ファジ丸 - ファジアーノ岡山のキジをイメージしたマスコットキャラクター
- 語源 - 瑰雉のよみからキジとなったことが語源とする説があり、「美しい鳥」を意味する[33]。「雉」には7矢のように飛ぶ鳥'という意味があり、キジの飛び方と一致している[14]。
- ネコのキジトラは毛色がメスのキジと似ている事からの由来である。
- キジの鳴き声を地震の予兆とする俗信が全国的に見られ[34]、13世紀末の『塵袋』にも、「地震・雷の時に鳴く」と記され、『伯耆国風土記』の引用として、「震動時、鶏雉が鳴く」と記述している[35]。また、キジの夢を吉兆とする地域としては、和歌山県や広島県に見られるが、逆に青森県では、「キジの夢を見ると傷をする」といわれる[36]。
自治体等のシンボル
国
- 日本 - 1947年(昭和22年)3月22日、日本鳥学会が国鳥として選定した。法によって定められたものではなく、また日本鳥学会は政府機関ではないため、非公式なものである。国鳥に選ばれた理由には、「メスは母性愛が強く、ヒナを連れて歩く様子が家族の和を象徴している」[2]、(狩猟対象として最適であり、肉が美味」、2020-07-04)などがある。
参考文献
- Wikipedia:キジ(最終閲覧日:22-11-06)
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- 小宮輝之(監修), 2011-05-06, 里山の野鳥ハンドブック, NHK出版, isbn:978-4140113004
- 杉坂学(監修), 2002-04, 色と大きさでわかる野鳥観察図鑑―日本で見られる340種へのアプローチ, 観察図鑑シリーズ, 成美堂出版, isbn:4415020259
- 高木清和, 2000-08, フィールドのための野鳥図鑑-野山の鳥, 山と溪谷社, isbn:4635063313
- 中川雄三(監修), 2010-01, ひと目でわかる野鳥, 成美堂出版, isbn:978-4415305325
- 永積安明, 方丈記 徒然草 正法眼蔵随聞記 歎異抄, 徒然草, 小学館, 新編日本古典文学全集 44, 1995-03-10, isbn:978-4096580448
- 本山賢司、上田恵介, 2006-07, 鳥類図鑑, 東京書籍, isbn:978-4487801282
- 鈴木棠三, 日本俗信辞典 動物編, 角川ソフィア文庫, 2020
- 柴田佳秀, 樋口広芳, 2019-05, 街・野山・水辺で見かける野鳥図鑑, page53, 日本文芸社, isbn:978-4537216851
関連項目
参照
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- ↑ 2.0 2.1 2.2 2.3 里山の野鳥ハンドブック (2011)、13頁
- ↑ 3.0 3.1 「キジ」『日本鳥類目録 改訂第7版』日本鳥学会(目録編集委員会)編、日本鳥学会、2012年、4-5頁
- ↑ Clements, J.F.; et al. "Clements checklist of birds of the world: v2015 (Excel spreadsheet). (Retrieved 11 December 2015).
- ↑ BirdLife International. 2015. Phasianus versicolor. The IUCN Red List of Threatened Species 2015: e.T22732650A85075019. . Downloaded on 11 December 2015.
- ↑ Pheasants, partridges & francolins, Gill F & D Donsker (Eds). 2015. IOC World Bird List (v 5.1). doi:10.14344/IOC.ML.5.1 (Retrieved 11 December 2015)
- ↑ 日本の国鳥:1947年3月の日本鳥学会第81回例会。
- ↑ https://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/tori/pdf/kiji_sitimen_horohoro.pdf, きじ、七面鳥、ほろほろ鳥を守るために, 中央畜産会, 2009-10 , 2012-04-03
- ↑ 境内内由緒書きより。
- ↑ 10.0 10.1 10.2 10.3 10.4 10.5 10.6 10.7 ひと目でわかる野鳥 (2010)、133頁
- ↑ 11.0 11.1 11.2 野山の鳥 (2000)、30-31頁
- ↑ 雄の雉の頭は赤く見える。
- ↑ 13.0 13.1 13.2 13.3 13.4 色と大きさでわかる野鳥観察図鑑 (2002)、49頁
- ↑ 14.0 14.1 14.2 野鳥の名前 (2008)、120-121頁
- ↑ 2007年5月13日放送 『所さんの目がテン!』の実験
- ↑ http://www.suntory.co.jp/eco/birds/encyclopedia/25.html, キジ, サントリー, 2012-04-03
- ↑ https://www.kunaicho.go.jp/activity/gonittei/01/photo1/photo-200810-1059.html, ご放鳥(那須御用邸), 宮内庁, 2012-04-03
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- ↑ http://www.maff.go.jp/kanto/seisan/nousan/chojyu/torikumi/pdf/yamaguchi_haifu.pdf, 鳥に関するよくある誤解と被害対策, 関東地域野生鳥獣対策連絡協議会, 2004-10-14, 2012-04-03
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