クマ
クマ(熊)は、哺乳綱食肉目クマ科(クマか、Ursidae)の構成種の総称[1]。
分布
形態
最大種はホッキョクグマで[2]、体長200 - 250センチメートル、体重300 - 800キログラム[3]。次いで大型のヒグマで体長100 - 280センチメートル、最大体重780キログラム[3]。最小種マレーグマで[2]、体長100 - 150センチメートル[3]。体重27 - 65キログラム[2][3]。一般に、密に生えた毛皮と短い尾・太くて短い四肢と大きな体を持つ[3]。視覚や聴覚は特に優れてはいないが{{efn2|ホッキョクグマは生息環境から例外的に視力も高い[4]、嗅覚は発達しており[2][3]すぐれたイヌの7倍もの嗅覚をもつ。
頭部は大型だが、眼や耳介は小型で耳介は丸みを帯びる[2][3]。顎が発達している。門歯は特殊化しておらず、犬歯は長く、上顎第4小臼歯および下顎第1大臼歯(裂肉歯)が発達せず、大臼歯は幅広く丸みを帯びた歯尖で物を噛み砕くことに適している[2]。歯式は門歯上顎6本(ナマケグマは4本)・下顎6本、犬歯上下2本ずつ・小臼歯上下4 - 8本ずつで個体変異があり、大臼歯上顎4本・下顎6本の計34 - 42本(通常は42本、ナマケグマ40本)[2][5]。
乳頭はクマ属は3対、ジャイアントパンダ・ナマケグマ・マレーグマ・メガネグマは2対[3][6]。
寿命は25年から40年の種が多い。
イヌ科やネコ科の動物がかかとを地につけず「つま先立ち」で歩く「趾行」を行うのに対し、ヒトと同じようにかかとを地につけて歩く「蹠行」動物である。これにより、速く走るのは苦手である一方、後肢のみによる二足直立は比較的得意であるとされる。
指趾は5本で[3]、それぞれに長く湾曲した出し入れできない鉤爪がある[2][3]。この爪は物を引き裂いたり掘り起こすのに適している[3]。木登りや穴掘りに優れた形状をしている。マレーグマ属以外は肉球を除いた足裏は体毛で被われ、ホッキョクグマでは顕著[2]。
神話・信仰
中国における熊トーテム
中国語の「熊 (xióng)」と「雄 (xióng)」は同じ音であり、熊とは「男性」の象徴のようなトーテムといえる。また、中国の戦国時代、楚(そ)の国の君主は代々、王号として「熊」という字を含む名(例:熊通、熊繹)を名乗っていた。江南には、「王権」と「熊トーテム」が結びつく、という強力な思想があったのではないだろうか。信仰における「熊トーテム」は父系の台頭と供に、男性的な力の象徴として形成されたのではないだろうか。その頂点が「王」である。時代が下れば「皇帝」とも言い換えられただろうと思う。
よって、「熊トーテム」の形成と台頭は父系が台頭した良渚文化で進んだと考える。「王(首長)の象徴が熊である」という思想が強く残ったので、楚王は自らを「熊王」と名乗ったのだろう。
また、父系と王権の台頭によって、古くからあった「水雷神」に熊のトーテムを付加して「帝」としたものが「黄帝」と考える。「黄帝」の原型は良渚外で、「黄帝」を「良き神」とみなした氏族が作り出したものだろう。
主に印欧語における命名と語源
「クマ」を意味する印欧祖語の語源は、*h2r̥tḱ-であったと推測される。これは、ギリシャ語のarktos、ラテン語のursus(< *urcsus < *urctus)、古代インド語のŕ̥kṣa、ヒッタイト語のḫartaka-などの単語から推測できる。この語源は、いくつかのケルト語にも残っている。たとえば、古アイルランド語の「(art)」、ウェールズ語の「(arth)」、ブルトン語の「(arz)」などです。この語源は、ケルト神話の神々「アンダータ(Andarta)」、「アルタイオス(Artaios)」、「マトゥヌス(Matunus)」、「アルティオ(Artio)」の名前にも見られ、ギリシャ神話では「アルテミス(Artemis)」や「アルカス(Arkas)」の名前にも見られる。
語源「Bar」(クマ)はゲルマン語派(英語「bear」、 オランダ語「beer」、 スカンジナビア語「bjorn」)にのみ見られ、伝統的に「茶色」を意味する古語に由来すると考えられている。別の説では、インド・ヨーロッパ語の「野生動物」を意味する語根*gwher-(ラテン語ferusと関連)に由来するとされているが、これは音韻的に異論がある。さらに別の説では、音韻的に妥当性が低いものの、Barは古ゲルマン語の「人間」を意味する wer(werewolfと比較)に由来し、クマが人間のように二本足で立つ能力を持つことを指しているという説もある。
ゲルマン語族の特殊な地位から、この語はゲルマン民族の間で一種のタブー語(「クマ」の代わりに「茶色」)として生まれたと考えられている。これは、強力な捕食者を想起させないよう、本来のクマを意味する語の使用を避けるための呪術的理由から用いられたものである。婉曲表現の「ベオウルフ」(「蜂狼」)もこの文脈から生まれた可能性がある。同様の背景はスラヴ語にも考えられ、そこではクマは「蜜食獣」(ロシア語:медведь (medwed)、ウクライナ語:ведмідь (wedmid))、ポーランド語:niedźwiedź、チェコ語: medvěd、スロベニア語:medved 、クロアチア語 : medvjed)と呼ばれることが一般的だ[7]。
また、白を意味する印欧祖語に
- *bhel- (輝く、白く光る):black、whiteなど
がある。おそらくこれが「bear(熊)」の語源でもあって、熊のことをこう呼ぼうとしたのだけれども、やはり毛色が黒いので、「black(黒)」で定着してしまって、意図したのとは逆の意味になってしまったのではないだろうか。
私的考察
「蜜食獣」とはいわゆる「蜂蜜酒(mead)」と語源が同じなのではないだろうか。また、「マトゥヌス(Matunus)」や、ギリシア神話のメドゥーサは「蜜食獣」に入るように思う。また、茶色「brown」の語源は中国語の「白(bai)」なのではないだろうか。「太陽」を現すためにこう呼んではみたものの、熊は誰がどう見ても茶色なので、「茶色」を示す言葉として定着してしまったのではないだろうか。どんなに馬を鹿と呼ぼうとしても、馬は馬だから。
また、アルテミス、アテーナ-など、「art」と「m(n)」が組み合わさった場合にも「m」は「蜜」の意味なのかもしれない、と考える。
その他
後肢で立つことが出来るうえ、両手を器用に使うさまからしばしば擬人化され、絵本などの物語でも(人間に近い振る舞いをする)キャラクターとして登場することの多い生き物である。北方の少数民族や北米先住民をはじめ、広く世界的に、クマは人間と異なる神・あるいは知恵のある存在・豊かさの象徴として、信仰の対象とされてきた。ベルリンやベルンなど、地名に用いられることも多い。その力強さからベルセルクなど、獣人や狂戦士の伝説にも関連が深い。
自分たちの祖先として、クマを信仰する場合もある。アイヌのイオマンテ(熊送り)の儀式は、代表的な例である。ネアンデルタール人もクマを崇拝していたとも言われる。
古来、日本では年老いたクマは鬼熊という妖怪に変化を遂げると信じられており、昔話や絵本などにしばしば登場した。
言葉
ロシア語では熊を表す固有の単語がない。これは名前を呼ぶと熊を呼び寄せてしまうという一種の言霊信仰といえる迷信から、使われないまま忘れ去られてしまったからとされている。そのかわりに、「蜂蜜を食べるもの」(メドヴェーチ)と熊のことを呼んでいたため、この語が熊も指す言葉として定着した。
日本列島において、熊は(人を除き)食物連鎖の頂点に立つ生物であるため、日本語では、巨大な生物を熊に例えることがある。動植物の大型種の和名には、熊を名の一部に用いたり(クマゲラ・クマゼミ・クマバチ・クマイチゴ)、クマに似ているとしてつけられる(アナグマ・アライグマ・クマムシ)こともある。クマザサも「熊笹」と表記されることが多く、これを用いた健康食品には、熊の絵を描いたり、「熊の出るような深山の笹」などと称しているものもあるが、正しくは「隈笹」である(クマザサの項目も参照)。
アイヌ語ではヒグマをキムンカムイ(山の神)と呼ぶ。
- メソポタミア神話のイナンナは子音より「熊」の神と考える。
食用
クマの手のひら(熊掌)が中国では高級食材として珍重されているが、日本ではツキノワグマが小型ゆえに熊掌の材料には不向きである。日本には安産の[お守りとして、クマの手のひらを出産時の産湯に浸けておくという風習があった。
日本でもその肉が、流通量こそ多くないものの食用とされている(詳細は熊肉を参照)。味や匂いには個体差があり、生前に何を食べていたかによって変わるという説が多く、鯨肉のようなものから、硬くて脂濃い、動物臭いものまでと幅広い。
なお、重篤な症状を起こす旋毛虫が筋肉に寄生していることがあるため、生食は避けるべきである[8]。
薬用
漢方やアイヌの民間療法では、熊のあらゆる部分が薬用とされる。
なかでも、クマの胆嚢を原料とした「熊胆」(ゆうたん、熊の胆(くまのい)ともいう)が強壮剤・腹痛薬・解熱薬などとして珍重される。熊胆の主成分である胆汁酸の一種ウルソデオキシコール酸には実際に、胆液の流れを良くし、胆石を溶かすなどの薬効が認められており、医療現場で使われている。
アジア各国では熊農場があり、商業化されている。
キャラクター・マスコット
ロシアでは、クマは国を象徴する動物とされている。外国からもロシア帝国・ソ連は、その強大さや脅威性から北国の猛獣クマに例えられることが多かった(国際情勢に関する風刺漫画など)。1980年のモスクワオリンピックでは、仔熊の「ミーシャ」がマスコットキャラクターとなった。因みに、ロシア女帝エカチェリーナ2世は元はドイツのアスカーニエン家出身であるが、そのアスカーニエン家出身の初代ブランデンブルク辺境伯アルブレヒト1世は「熊公」という綽名を付けられた。アスカーニエン家はクマを紋章としている。スイスのベルン市は語源が「熊」(der Bär)であり、市の紋章はクマである。他にも、ドイツのベルリンやスペインのマドリードの市旗と紋章もクマである。
クマのぬいぐるみとして、テディベアが広く知られている。「テディ」とはセオドア・ルーズベルト(第26代アメリカ合衆国大統領)の愛称である。熊を狩りに出かけたルーズベルト大統領が、あてがわれたアメリカグマの仔熊を見逃したという話をもとに、「テディベア」というぬいぐるみが誕生した。テディベアなどクマのぬいぐるみが元となり、世界的に知られているキャラクター・クマのプーさんが生まれた。映画にはテッドが登場している。
日本に於いてはコンドウアキによってデザインされたキャラクター、リラックマの関連グッズが2003年より販売開始されており、ぬいぐるみを含め非常にポピュラーなマスコットとなっている。熊本県のくまモン、長野県のアルクマなど、クマをモチーフにしたマスコットキャラクター(ゆるキャラ)も人気を呼んでいる。熊本県には現在野生のクマの生息は確認されていないが、県名に「熊」が付くことから、クマをモチーフにした。一方、長野県には野生のクマが数多く生息しており、これと同県を代表する農産物のリンゴを組み合わせたマスコットが導入された。北海道夕張市のメロン熊も同様に、同市に数多く生息するヒグマと、市を代表する農産物の夕張メロンを組み合わせたマスコットである。
分類
イヌ科やアライグマ科と比較的類縁関係が近いとされる。パンダ類の分類については諸説あり、パンダ科として独立させたり、レッサーパンダをアライグマ科に含めるなどされてきたが、DNA分析による結果から、ジャイアントパンダはクマ科に含まれ、レッサーパンダは独立のレッサーパンダ科とする考え方が有力となっている。
3亜科の関係は、ジャイアントパンダ亜科が離れており、クマ亜科とメガネグマ亜科が近縁である。そのため、ジャイアントパンダ亜科を別科とする、あるいは、メガネグマ亜科をクマ亜科に含めることがある。一方で2005年のMSW3では亜科を認めていない[9]。
生態
主に山岳地帯や森林に生息するが、ホッキョクグマは氷原に生息する。足裏を接地して移動する(蹠行性)[2][3][6]。寒い地方および冬季に食料が少ない地域の種類は秋期に豊富に栄養を摂って、冬季に冬ごもりを行う。冬眠中のクマは体温が下がり、呼吸数や心拍数が減るとともに、餌や水を口にしなくなるだけでなく、排泄や排尿も見られなくなる。
主に植物食傾向の強い雑食だが[3][6]、ホッキョクグマは肉食の傾向が強い[3]。両者の間では顔の骨格も異なり、前者はよく発達した頬骨弓・側面にみられる眼窩および小さな犬歯を収めた短くて円筒形の頭蓋骨・関節が高い位置にある弓型の下顎骨・側頭筋と咬筋の大きな付着部・長い臼歯を特徴に持っている。対称的に、後者は小さな頬骨弓・正面にみられる眼窩およびよく発達した犬歯を収めた長大な頭蓋骨と長い顎・歯列レベルまで低い顎関節・少ない臼歯を特徴に持っている[10]。
成獣の雌は7-8か月の妊娠期間を経て、約1-4子(平均で約2子)を出産する。冬ごもりを行う種は冬ごもり中に幼獣を産む[2][3]。
関連項目
外部リンク
- Wikipedia:クマ(最終閲覧日:22-11-17)
- 第17回国際クマ会議
- 東京のクマ
- NPO法人信州ツキノワグマ研究会, 20190326130159
- Wikipedia:Bären(最終閲覧日:26-01-15)
参照
- ↑ 類縁関係が比較的薄いジャイアントパンダ亜科は除くこともある。
- ↑ 2.00 2.01 2.02 2.03 2.04 2.05 2.06 2.07 2.08 2.09 2.10 2.11 bunnell
- ↑ 3.00 3.01 3.02 3.03 3.04 3.05 3.06 3.07 3.08 3.09 3.10 3.11 3.12 3.13 3.14 3.15 kawaguchi
- ↑ 『ナショナルジオグラフィック 最強の捕食者たちホッキョクグマ編』より。(Full citation needed, 2019-01-20, 刊行年、号数、ページ番号、発行元などが未記入。)
- ↑ 中里竜二 「パンダ科の分類」『世界の動物 分類と飼育2 (食肉目)』今泉吉典監修、東京動物園協会、1991年、67-68頁。
- ↑ 6.0 6.1 6.2 nakazato
- ↑ Friedrich Kluge: Etymologisches Wörterbuch der deutschen Sprache. Walter de Gruyter: Berlin 1957. S. 50, Sp II; S. 51, Sp I (Artikel Bär)
- ↑ 西日本で発生した旋毛虫症について,(要ページ番号、2019-10-18)
- ↑ wozencraft
- ↑ 坪田敏男・山崎晃司 編, 東京大学出版会, 2011, 日本のクマ ヒグマとツキノワグマの生物学, pages9-10