ティアマト

提供: Bellis Wiki3
2023年2月13日 (月) 08:19時点におけるBellis (トーク | 投稿記録)による版 (→‎神話)
ナビゲーションに移動 検索に移動

ティアマトtiamat, 𒀭𒋾𒊩𒆳dingirDTI.AMAT𒀭𒌓𒌈DTAM.TUM)は、メソポタミア神話(シュメール、アッシリア、アッカド、バビロニア)における原初の海の女神。淡水の神アプスーと交わり、より若い神々を生み出した。例として、ティアマトは恵みをもたらす巻き毛の男神ラフムと対をなす女神ラハムを生み出し、この兄妹は次世代の神々の始祖と呼ばれるアンシャルキシャルを、更にアンシャルとキシャルは後に天空神となるアヌを始めとする新しい神、次世代の神々を生み出した[1]

メソポタミアの宗教では、ティアマト(アッカド語:𒀭𒋾𒊩𒆳 DTAM.TUM, 古代ギリシャ語: Θαλάτη, ローマ字表記:Thaláttē[2]は原初の海の女神で、地下水の神アブズーと交わって若い神々を産んだ。ティアマトは婦人と呼ばれ[3]、「輝くもの」と表現された[4]

彼女は原初の創造における混沌の象徴であり、女性として描写され[5]、女性の象徴であり、きらきら輝くものとして描写される[6]

ティアマトの神話には2つの部分があることが示唆されている。一つは、異なる水同士の神聖な結婚によって、歴代を通じて平和的に宇宙を創造する創造主の女神である。二つ目に、混沌戦争では、ティアマトは原初の混沌を具現化した怪物とされた[7]。海蛇や龍のイメージと同化する資料もある[8]

バビロニアの創造叙事詩『エヌマ・エリシュ』では、ティアマトが第一世代の神々を産む。夫のアプスーは、彼らが自分を殺して王位を奪おうと企んでいると正確に推測し、後に彼らに戦いを挑み、殺された。怒った彼女は、夫を殺した者たちにも戦いを挑み、多くのモンスターを産み落とした。その後、彼女はエンキの息子である嵐の神マルドゥクに殺されるが、その前にメソポタミアのパンテオンのモンスターたちを生み出し、その中には最初のドラゴンも含まれており、彼女の体は「血の代わりに毒で満たされた」のだった。そして、マルドゥークは彼女の身体の要素を天と地に統合した。

語源

トーキルド・ヤコブセンとウォルター・ブルケルトは、アッカド語の海を意味する単語tâmtu(𒀀𒀊𒁀)と関係があり、初期の形tiamtumに続いていると主張している[9][10]。ブルケルトはさらに、テティスと言語的な関連性を指摘する。ヘレニズム時代のバビロニアの作家ベロッサスの『万国史』第一巻に登場する「Θαλάτη、thaláttē」は、ギリシャ語の「Θάλατα、thálatta」と明らかに関係があり、「Θάλασα、thalassa」の東方変化形「海」である。アッカド語の『エヌマ・エリシュ』写本では、ティアマトの代わりに普通の言葉であるタームトゥ(「海」)が使われ、この2つの名前は連想されて本質的に同じになってしまったため、原典の二次翻訳では、ボキャティブ(構築形)であるティアマトという固有名詞が削除されたと考えられている[11]。また、『創世記』1:2にある北西セム語のtehom (תְּהוֹ)(「深淵、深淵」)と同義であると主張されている[12]

バビロニアの叙事詩『エヌマ・エリシュ』は、その序文にその名がある。「天がまだ存在せず、地がまだ存在しないとき、地底の海アプスーは「最初の、生みの親」であり、地上の海ティアマトは「すべてを産んだ女」であり、彼らは「水を混ぜ合わせていた」のである。メソポタミアでは、女性の神々は男性の神々よりも古く、ティアマトは、Ea-Enkiの登場以前に、同じく地下世界と強いつながりを持つ、水の創造力の女性原理であるNammuの信仰の一部として始まった可能性があると考えられている[13]

ハリエット・クロフォードは、この「水の混合」を、アラビア帯水層からの淡水と海の塩水が混ざり合い、混じり合うペルシャ湾中部の自然の姿であると見なしている[14]。特に、アラビア語で「2つの海」を意味するバーレーン地方は、シュメール人の天地創造信仰の原点であるディルムン遺跡があるとされ、海にこのような特徴がある[15]。海水と淡水の密度差により、分離が感じられる。

外観

『エヌマ・エリシュ』には、尾、太もも、(一緒に揺れる)「下の部分」、腹、乳房、肋骨、首、頭、頭蓋骨、目、鼻孔、口、唇などの身体描写がある。ティアマトは内臓(おそらく「内臓」)、心臓、動脈、血液を持っている。

ティアマトは通常、海蛇またはドラゴンと表現されるが、アッシリア学者のアレクサンダー・ハイデルはこの同定に同意せず、「ドラゴンの形をティアマトに確実に帰属させることはできない」と主張した。他の学者たちはハイデルの議論を軽視している。特にジョセフ・フォンテンローズは「説得力がない」とし、「ティアマトは必ずしも常にではなく、時には龍女として考えられていたと信じるに足る理由がある。」と結論付けている[16]。『エヌマ・エリシュ』には、ティアマトがドラゴン、蛇、サソリ男、マーフォーク、その他のモンスターを産んだと書かれているが、その姿は特定されていない[17]

神話

アブズ(またはアプスー)は、ティアマトの間に長老神ラームとラハム(男性:「毛むくじゃら」)を産んだ。アンシャールとキシャールは地平線で合流し、アヌ(天)とキ(地)の親になると考えられていた。

ティアマトは、原初の創造の混沌の中で咆哮し、打撃を与える海の「輝き」の擬人化である。彼女はアプスーと共に宇宙の深淵を原始の水で満たした。彼女は「万物を形成したウンム・フブール(Ummu-Hubur)」である。

楔形文字に記録された神話では、エンキ(後のエア)が、アプスーが若い神々を殺害しようと企て、その騒々しさに腹を立てていると正しく信じ、彼を捕らえて自分の神殿E-Abzu(「アブスの神殿」)の下に閉じ込めたとされる。これを怒った息子のキングはティアマトに報告し、ティアマトはアプスの仇を討つために11体の怪物を作り、神々と戦わせた。 以下は、ティアマト自身の子孫である。バスム(Bašmu、毒蛇)、ウシュムガル(Ušumgallu、大龍)、ムシュマッヘ(Mušmaḫ、高貴な蛇)、ムシュフシュ(Mušḫuššu、猛烈な蛇)、ラフム(Laḫmu、毛深い者)、ウガル(Ugallu、大天候の獣)、ウリディンム(Uridimmu、狂気のライオン)、ギルタブルル(Girtablullû、サソリ男)、ウム・ダブルツ(Umū dabrūtu、「激しい嵐」)、クルル(Kululû、「魚男」)、クサリック(Kusarikku、「牛男」)。

ティアマトは「運命の石版」を持っており、原初の戦いで、自分の恋人であり、軍団のリーダーとして選んだ神であり、自分の子供の一人でもあるキングにそれを与えたのである。怯える神々を救ったのはアヌであり、アヌは自分を「神々の王」として崇めることを約束させた。彼は風の矢、網、棍棒、無敵の槍を駆使してティアマトと戦った。アヌは後にエンリルに、バビロン第一王朝以降に残された後期バージョンでは、エアの子マルドゥクに取って代わられた。

そして主はティアマトの腰の上に立った。

そして、無慈悲な棍棒で彼女の頭蓋骨を叩き割った。
彼は彼女の血の通路を切り開いた。

そして、北風にそれを秘密の場所に運び去らせた。

ティアマトを真っ二つに切り裂き、その肋骨から天と地のアーチを作り上げた。彼女の泣いた目はチグリス川とユーフラテス川の源となり、彼女の尾は天の川となった。



Slicing Tiamat in half, he made from her ribs the vault of heaven and earth. Her weeping eyes became the sources of the Tigris and the Euphrates, her tail became the Milky Way.[18] With the approval of the elder deities, he took from Kingu the Tablet of Destinies, installing himself as the head of the Babylonian pantheon. Kingu was captured and later was slain: his red blood mixed with the red clay of the Earth would make the body of humankind, created to act as the servant of the younger Igigi deities.

The principal theme of the epic is the rightful elevation of Marduk to command over all the deities. "It has long been realized that the Marduk epic, for all its local coloring and probable elaboration by the Babylonian theologians, reflects in substance older Sumerian material," American Assyriologist E. A. Speiser remarked in 1942[19] adding "The exact Sumerian prototype, however, has not turned up so far." This surmise that the Babylonian version of the story is based upon a modified version of an older epic, in which Enlil, not Marduk, was the god who slew Tiamat,[20] is more recently dismissed as "distinctly improbable".[21]

Interpretations

The Tiamat myth is one of the earliest recorded versions of the Chaoskampf, the battle between a culture hero and a chthonic or aquatic monster, serpent or dragon.テンプレート:Sfn Chaoskampf motifs in other mythologies linked directly or indirectly to the Tiamat myth include the Hittite Illuyanka myth, and in Greek tradition Apollo's killing of the Python as a necessary action to take over the Delphic Oracle.[22]

In the second "Chaoskampfテンプレート:-" Tiamat is considered the monstrous embodiment of primordial chaos.[23]

Robert Graves[24] considered Tiamat's death by Marduk as evidence for his hypothesis of an ancient shift in power from a matriarchal society to a patriarchy. The theory suggests Tiamat and other ancient monster figures were depictions of former supreme deities of peaceful, woman-centered religions that turned into monsters when violent. Their defeat at the hands of a male hero corresponded to the overthrow of these matristic religions and societies by male-dominated ones. This theory is rejected by academic authors such as Lotte Motz, Cynthia Eller and others.[25][26]

In popular culture

テンプレート:More citations needed The depiction of Tiamat as a multi-headed dragon was popularized in the 1970s as a fixture of the Dungeons & Dragons roleplaying game inspired by earlier sources associating Tiamat with later mythological characters such as Lotan (Leviathan).[27]

  • The five headed draconic goddess in the Dungeons & Dragons game is named Tiamat, and stars as one of the primary antagonists in the Dungeons & Dragons TV series.
  • Tiamat appears as a six-headed dragon in the first Final Fantasy as a member of the Four Fiends.
  • In Bruce Coville's Jeremy Thatcher, Dragon Hatcher (from the Magic Shop series), a boy is given a dragon egg from Elias's magic shop and names the dragon Tiamat, with whom he develops a mental connection.
  • The mobile game Fate/Grand Order depicts Tiamat as a powerful goddess and an Evil of Humanity. She firstly appears as a woman with gigantic horns, then as a massive humanoid with demonic horns and a tail, and finally as a draconic being of similar size. The anime Fate/Grand Order - Absolute Demonic Front: Babylonia shows her in the same manner as the game.
  • In Japanese anime, manga and light novels series Shakugan no Shana Tiamat is a female Crimson Lord from a parallel universe called Crimson Realm (紅世, Guze), bound by contract to one of the characters.
  • In music, Tiamat is a Swedish Gothic metal band that formed in Stockholm in 1987.
  • The Swedish black metal band Dissection constantly reference Tiamat in their 2006 album Reinkaos
  • In the 2010 video game Darksiders, one of the Chosen that must be slain by Horseman War is Tiamat, the gigantic queen of vampire bats.
  • The eighth book of The Expanse series by James S. A. Corey is titled Tiamat's Wrath, and was published in 2019.
  • Tiamat, in the image of a giant mermaid, appears as a boss in the platform video game Spelunky 2.
  • Tiamat is the final boss in the 2013 action role-playing game Young Justice: Legacy.
  • Tiamat is one of the playable gods in the MOBA SMITE, the first Babylonian god released in 2021.
  • Tiamat is the inspiration for Tiamut, a Celestial in the Marvel Universe.
  • In Stargate SG-1, Tiamat was a Goa'uld System Lord in the First Goa'uld Dynasty that predates the time of the series. In the season five episode "The Tomb" and season six episode "Full Circle" an artifact known as the Eye of Tiamat serves as a plot device.
  • Tiamat appears as one of the oldest and most powerful of the water-elemental Marid in The Daevabad Trilogy by S. A. Chakraborty.

See also

  • Sea of Suf - a primordial sea in the World of Darkness in Mandaean cosmology


References


External links

概要

ティアマトは神話の中に登場する女神で、特に神殿を設けたなどの歴史的信仰の事実は認められていない[1]。一方、彼女の原型となった女神は名前が知られており、それはシュメール神話に登場する原初の海を神格化したナンムであったとされる[1]

ティアマトの神話体系には2つのパートの存在が示唆されている。最初のパートにおいては、ティアマトは塩と淡水の間で結ばれる「聖婚」により、平和裏に秩序を一連の世代を通じて生み出す創造の女神。『カオスとの戦い(Chaoskampf)』におけるティアマトは、原初の混沌の恐ろしさの具現化と考えられる[23]

容姿

女神といっても、神話におけるティアマトは後に誕生する神々と違って人の姿を模しておらず、異形の姿を取った。その体躰は現在の世界を創る材料にされるほど巨大で、「大洪水を起こす」と形容された[1]。ほかにもいくつかの典拠は彼女をウミヘビ、あるいは竜と同一視し[28] 、以前にもその姿はドラゴンであると考えられていたが、神話や関連文献の中にそれを指し示す記述は存在しないことから現在では否定され、(明確ではないが)神話の中では水の姿と動物(おそらくラクダヤギ)の姿との間で揺れ動いている[29]

呼称

『エヌマ・エリシュ』中において、彼女は「Ummu-Hubur(𒌝𒈠 𒄷𒁓)」とも呼ばれる。「Ummu(𒌝𒈠)」はアッカド語で「母」を意味し、「Hubur(𒄷𒁓)」の意味は諸説有るが、シュメール語の「Hubur(河、あるいは冥府の河)」との関連が疑われている。

ティアマトは後にヘレニズムにバビロニアの著述家ベロッソスの普遍史の第一巻に登場するタラッテー(Thalattē、ギリシャ語で「海」を意味するタラッサ(Thalassa)の変異形)として知られる。このティアマトの名は、東方セム語であるアッカド語で書かれた元の神話のテキストから二次翻訳されたものと考えられる。というのも、『エヌマ・エリシュ』を筆写した一部のアッカドの書者が、普通の単語である「海」をティアマトに用いたためで、以来ふたつの名前はその関連の結果として本質的に同じものになった[30]

語源

トーキル・ヤコブセン(Thorkild Jacobsen)[30] とヴァルター・ブルケルトはいずれもアッカド語で海を指す単語のtâmtu𒀀𒀊𒁀(より古い形はti'amtum)と関連すると議論している[31]

またブルケルトはテーテュースと言語接触をなしていると続ける。彼はより新しい形であるthalatthがギリシャ語で海を意味するΘάλαττα (thalatta)もしくはΘάλασσα (thalassa)と明らかに関連していることを発見した。バビロニアの叙事詩『エヌマ・エリシュ』のインキピットでは、「天も地も存在せず、アプスーすなわち淡水の大洋「第一の者、父」と、ティアマト、塩水の海、「全てを運んだもの」があった。そして彼らは「自分たちの水を混ぜ合った」とされている。メソポタミアでは女神たちの方が男神より年上であると考えられている。ティアマトの始まりは、水の創造力を持つ女性原理であり、地下世界の力とも等しく繋がりを持つナンムへの信仰を一端としていたのかもしれない。ナンムはエアあるいはエンキの登場に先んじている[32]

ハリエット・クラウフォードはこの「混ざり合う水」がペルシャ湾中部の地勢的な特色であることに気付いた。そこはアラビア帯水層に由来する淡水と、海の塩水が混ざる場所である[33]。この特徴はアラビア語でふたつの海を意味し、シュメールの創世神話が起こったとされるディルムンの遺跡のあるバーレーンではとりわけ顕著で[34]、塩水と淡水の密度の違いによって水が分かれて流れているのが分かるほどである。

またTiamatは『創世記』第1章第2節に北西セム語の tehom (תהום) (深み、奈落の底)と同根語であるとも言われる[35]

エヌマ・エリシュ

バビロニアの創世神話『エヌマ・エリシュ』において、ティアマトは自らの産んだ神々に対して戦いを起こす。ティアマトは神々の英雄マルドゥクに敗れ、その体から天地が創られた。

あらすじ

神々のうちで最初のものであったアプスーとティアマトは交わって他の神々を誕生させたが、数を増した新しい世代の神々の騒々しさに苦しむようになった。ティアマトはアプスーに、温情を持ってあたるべきだと説くが、アプスーはついにそれらの神々を滅ぼそうと企てる。ところが、知恵の神エアの計略によって逆にアプスーが殺されてしまう。それでもティアマトは事態を静観していたが、アプスーの上に住居を設けたエアがダムキナと結婚し授かった息子マルドゥクが、アヌによって贈られた4つの風で遊び騒ぎ立てたため、神々の一部はティアマトに不満を述べ、夫の復讐を果たせとティアマトに詰め寄った。

ティアマトはついに決意し、それらの神々と、自ら産み出した11種の怪物たちを率いて、他の神々との戦いに乗り出す。ティアマトは数多の武器を配下に与え、そして彼らの指揮官として息子にして第二の夫のキングーを指名し、「天命の書版」なる権威の象徴を託した。しかし、神々により選ばれティアマト討伐に来たマルドゥクと対峙するとキングーは戦意喪失してしまう。ティアマトは呪文を唱えつつ、自らマルドゥクとの戦いに挑むが、マルドゥクは4つの風を配した網でティアマトを絡め取る。さらにマルドゥクが暴風をティアマトの顔に放つと、ティアマトはそれを飲み込むが、そのために口を閉じられなくなり、激しい風が腹の中に溢れてティアマトを苦しめた。その隙を突いたマルドゥクはティアマトの腹を弓で射抜いて倒した[私注 1]

戦いの後、マルドゥクはティアマトの死体に立ち、その頭蓋を棍棒で砕いた。さらに動脈を切り裂くと、北風にティアマットの血を運ばせて自らの勝利を神々に知らせた。そしてマルドゥクはティアマトの亡骸を二つに引き裂いて、それぞれを天と地とした。ティアマトの乳房は山になり(そのそばに泉が作られ)、その眼からはチグリス川とユーフラテス川の二大河川が生じた。こうして母なる神ティアマトは、世界の基となった。

また、マルドゥクは「天命の書版」を捕らえたキングーから奪って父祖のアヌに手渡し、キングーを殺してその血から神々の労働を肩代わりさせるための「人間」を創造した。

その後も世界の様々な物事や秩序の創造がなされ、『エヌマ・エリシュ』は、“ティアマトを倒した者マルドゥク”を称えて終わる。

天命の書版

「天命の粘土版」とも呼ばれる「天命の書版(Tablet of Destinies, 𒁾𒉆𒋻𒊏、DUB.NAM.TAR.RA)」は、全ての神々の役割や個々人の寿命が書き記された、最高神が所持する代物であり、最高神の権威(Anuship / heavenly power, 𒀭𒀀𒉡𒋾、DA.NU.TI)の象徴である。所持神が「天命の印」を押すことで、記述された内容が有効になると信じられていた[36]

優しさが招いた悲劇

異形かつ新しい神々の敵対者として描かれたティアマトだが、彼女の性格は優しく寛大であったとされる[1]。若い神々がうるさく騒いでも咎めもせず耐え、夫のアプスーが騒々しさに耐えかね神々を殺そうとした際にはそれをやめさせ、アプスーが単独で起こした神々一掃計画の件で騙し討ちに遭い殺害された時でさえ、ティアマトは新しい神々の味方だった。最終的には戦うことになるも敗北し、夫の復讐を果たせず自身も死に至るという、彼女にとっては無念の結末であったかもしれないが、「世界」となってその行く末を見守る役についたことは、神々を生み出した大いなる母神としてふさわしい最期であったとも言える[1]

ティアマトが生み出した11の怪物

神々と戦うべくティアマトが生み出した「11の怪物(魔物)」などと呼ばれる存在は、討伐に際し神々を大いに脅かしたが、ティアマトがマルドゥクによって討たれ敗北すると、ある者は処刑され、ある者は神々の配下となり、ある者は野へ下りたという[37]

ムシュマッヘ(Mušmaḫḫū, 𒈲𒈤、MUŠ.MAḪ
七岐の大蛇。ティアマト自身とする説のある、7つ頭の大蛇、あるいは7匹の大蛇[37]
ウシュムガル(Ušumgallu, 𒁔 𒃲、UŠUM.GAL
龍。ムシュマッヘと同一視されるが、別存在であるとも言われている凶暴な竜[37]
バシュム / ウシュム(Bašmu, 𒁀𒀸𒈬、BA.AŠ.MU
毒蛇。マムシか角の生えた蛇の一種(アッカドのバシュム / シュメールのウシュム)と考えられている[37]
ムシュフシュ(Mušḫuššu, 𒈲𒄭𒄊、MUŠ.ḪUŠ
蠍尾竜。「バビロンの竜」として名高い神々の聖獣[37]
ラフム(Lahmu, 𒀭𒈛𒈬、dLAḪ.MU
毛深い者。顔の両側に3対6つの巻き毛を持った男の姿をしており、メソポタミアでは魔除けとして好まれた。ティアマトの最初の子にしてエアの曽祖父が同じ名前であり、記述に混乱が見られる。
ウガルルム(Ugallu, 𒌓𒃲𒆷、U4.GAL.LA
巨大な獅子。ティアマトの権力と軍勢の強さを示す怪物(古代メソポタミアにおいて、ライオンは王権を示す動物だったため)[37]
ウリディンム / ウルマフルッルー(Uridimmu, 𒌨𒅂𒈨、UR.IDIM.ME
狂犬。一般には獰猛な犬だが、獅子人間と解釈される場合もある。古代メソポタミアでは比較的メジャーな存在[37]
ギルタブリル / ギルタブルウル(Girtablullû, 𒄈𒋰𒇽𒍇𒇻、GIR.TAB.LU.U18.LU
蠍人間。太陽神シャマシュと深い関係にある、マシュ山(双子山)の理性的な守護者[37]
ウム・ダブルチュ(Umū dabrūtu, 𒌓𒈪 𒁕𒀊𒊒𒋾、U4.MI DA.AB.RU.TI
嵐の魔物。ライオンの身体に鷲の頭と翼を持った姿で描かれた、神が使役する風の魔物の一種[37]
クルール(Kulullû, 𒄩𒇽𒍇𒇻、KU6.LÚ.U18.LU
魚人間。今日の占星術における山羊座と結び付く。魚人間も古代メソポタミアでは普遍的な精霊で、エアの側近もアプスーとして名高い魚人間だった[37]
クサリク(Kusarikku, 𒆪𒊓𒋆𒄣、KU.SA.RIK.KUM
有翼の牡牛。『ギルガメシュ叙事詩』に登場する天の雄牛(グガランナ)と同一視される聖牛[37]

関連項目

参照

  1. 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 池上正太, 2006, Truth In Fantasy 74オリエントの神々, 新紀元社, pp.83-84
  2. Ancient Mesopotamian Gods and Goddesses – Tiamat (goddess)
  3. King, 1902a, page150, line 122
  4. King, 1902a, page124, line 36
  5. Luzacs Semitic Text and Translation Series, page150-line 122, Vol XII, http://www.etana.org/sites/default/files/coretexts/14907.pdf
  6. Luzacs Semitic Text and Translation Series, page124-line 36, Vol XII, http://www.etana.org/sites/default/files/coretexts/14907.pdf
  7. Dalley, Stephanie (1987). Myths from Mesopotamia. Oxford University Press. p. 329.
  8. Jacobsen, 1968, pp104-108
  9. Jacobsen, 1968, p105
  10. Burkert, Walter, The Orientalizing Revolution: Near Eastern Influences on Greek Culture in the Early Archaic Age, Cambridge, Harvard University Press, 1992, pages92f, isbn:0-674-64363-1
  11. Jacobsen, 1968, p105
  12. Yahuda, A., The Language of the Pentateuch in its Relation to Egyptian, Oxford, 1933
  13. Steinkeller, Piotr, On Rulers, Priests and Sacred Marriage: Tracing the Evolution of Early Sumerian Kingship, Wanatabe K., Priests and Officials in the Ancient Near East , Heidelberg, Winter, 1999, pages103–38, isbn:3-8253-0533-3
  14. Crawford, Harriet E. W., Harriet Crawford, 1998 , Dilmun and Its Gulf Neighbours, Cambridge University Press, isbn:0-521-58348-9
  15. Crawford Harriet, Killick Robert, Moon Jane, 1997, The Dilmun Temple at Saar: Bahrain and Its Archaeological Inheritance, Saar Excavation Reports / London-Bahrain Archaeological Expedition: Kegan Paul, isbn:0-7103-0487-0
  16. Fontenrose Joseph , Python: a study of Delphic myth and its origins, 1980, University of California Press, isbn:0-520-04091-0, pages153–154
  17. King, 1902b
  18. テンプレート:Cite book
  19. Speiser, "An Intrusive Hurro-Hittite Myth", Journal of the American Oriental Society 62.2 (June 1942:98–102) p. 100.
  20. Expressed, for example, in E. O. James, The Worship of the Skygod: A Comparative Study in Semitic and Indo-European Religion (London: University of London, Jordan Lectures in Comparative religion) 1963:24, 27f.
  21. As by W. G. Lambert, reviewing James 1963 in Bulletin of the School of Oriental and African Studies, University of London, 27.1 (1964), pp. 157–158.
  22. MArtkheel
  23. 23.0 23.1 Stephanie, Dalley, Stephanie Dalley, Myths from Mesopotamia, Oxford University Press, 1987, pages329
  24. Graves, The Greek Myths, rev. ed. 1960:§4.5.
  25. The Faces of the Goddess, Lotte Motz, Oxford University Press (1997), ISBN 978-0-19-508967-7
  26. The Myth of Matriarchal Prehistory: Why An Invented Past Will Not Give Women a Future, Cynthia Eller, Beacon Press (2000), ISBN 978-0-8070-6792-5.
  27. Four ways of Creation: "Tiamat & Lotan テンプレート:Webarchive." Retrieved on August 23, 2010
  28. Such as Thorkild, Jacobsen, The Battle between Marduk and Tiamat, Journal of the American Oriental Society, volume88, issue1, 1968 , pages104–108, jstor:597902, doi:10.2307/597902
  29. Lambert, W. G., Babylonian Creation Myths, 2013, pages234
  30. 30.0 30.1 Jacobsen 1968:105.
  31. Burkert, Walter. The Orientalizing Revolution: Near Eastern Influences on Greek Culture in the Early Archaic Age 1993, p 92f.
  32. Steinkeller, Piotr. "On Rulers, Priests and Sacred Marriage: tracing the evolution of early Sumerian kingship" in Wanatabe, K. (ed.), Priests and Officials in the Ancient Near East (Heidelberg 1999) pp.103–38
  33. Crawford, Harriet E. W. (1998), Dilmun and its Gulf Neighbours (Cambridge University Press).
  34. Crawford, Harriet; Killick, Robert and Moon, Jane, eds.. (1997). The Dilmun Temple at Saar: Bahrain and Its Archaeological Inheritance (Saar Excavation Reports / London-Bahrain Archaeological Expedition: Kegan Paul)
  35. Yahuda, A., The Language of the Pentateuch in its Relation to Egyptian (Oxford, 1933)
  36. 和書, 岡田明子・小林登志子, 2008, シュメル神話の世界 粘土版に刻また最古のロマン, 中央公論新社, p.45
  37. 37.00 37.01 37.02 37.03 37.04 37.05 37.06 37.07 37.08 37.09 37.10 池上正太, 2006, Truth In Fantasy 74オリエントの神々, 新紀元社, pp.155-157,p.160


引用エラー: 「私注」という名前のグループの <ref> タグがありますが、対応する <references group="私注"/> タグが見つからない、または閉じる </ref> タグがありません