ウルシェム
ウルシェム(Wurushemu)またはウルセム(Wurusemu)は、ハッティ神話に登場する小アジアの太陽の女神である。彼女の神話は、後のヒッタイト神話にも採用され、ヒッタイト神話に全面的に接ぎ木された。しかし、ヒッタイトで彼女の地位は冥界の女神に移行した。彼女の配偶者である太陽神はエシュタンである。
また、ウルシェムは大地の女神として登場し、嵐の神タルの妻でもある。その息子は植生神であるテレピヌである。ウルシェムはヒッタイトの太陽神アリンナによく似ている。
ハッティ人の万神殿には、嵐の神タル(Taru:雄牛の姿をしている)、太陽神フルセム (Furušemu) ないしウルセム(Wurunšemu:豹の姿をしている)をはじめ、他の様々な要素を神格化した神々がいた。
私的考察
ウルシェムは太陽女神ではあるが、地下世界(冥界)の神でもあり、「死んだ神」であったり、豊穣をもたらす女神とは逆の「不吉さをもたらす女神」としての性質はヒッタイト時代から有していたようである。ヒッタイトでは「倒される龍神」はイルルヤンカシュ(Illuyankas) であってウルシェムではない。
イルルヤンカシュ(Illuyankas)の語源についての専門家の見解は、管理人には良く分からないのだが、イル(Ill)は「神」を現す接頭辞といえるので、本来の名はヤンカシュ(Yankas)というものであると考える。子音の「y」音は「t」音あるいは「d」音と交通性があるので、これはアジ・ダハーカ (Aži Dahāka) [1]に近い子音構成ではないかと思う。また「dn」という子音はゾロアスター教における聖王イマ、北欧神話の巨人ユミル、メソポタミア神話のタンムーズ・ドゥムジ、ティアマトと共通した子音なので、「退治される神」や「人身御供にされる神」に共通した子音であると考える。特に北欧神話の巨人ユミルは、天候神的神に倒される点もイルルヤンカシュと共通している。
一方、ウルシェムあるいはフルセムという名前の神々の群は、viper系、ヴイーヴル、ワイヴァーンと同語源と考える。西欧ではワイヴァーンののように、最後に子音の「n」がつく名とヴイーヴルのように「n」がつかない場合と「同じもの」とみなすようなので、そもそもはウルシェムのように子音の「n」がつく名前であって、それが省略されたものとされなかったものに分かれたのではないだろうか。ただし、「同じもの」から発生したということが忘れられないで時代が下ったので、名前の最後に「n」がついてもつかなくても「同じもの」とみなされているのだと考える。