「イアムベー」の版間の差分
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− | + | 『ホメーロス風讃歌』「デーメーテール讃歌」によると、デーメーテールは[[ハーデース]]に連れ去られた娘コレーを探して地上を放浪した。悲しみに胸を痛めながらエレウシースを訪れたとき女神は老婆のようであった<ref>「デーメーテール讃歌」101行。</ref>。[[ケレオス]]王の館に招かれた女神は王妃メタネイラ(Metanira)の席に座すことを勧められたが、目を伏せて黙ったまま座ろうとしなかった。そこでイアムベーが機転を利かせて、女神の前に椅子を置き、銀のように白い羊の毛皮を掛けると、女神は椅子に腰を下ろした。しかし、誰とも言葉を交わそうとせず、食事をしようともしなかった。そこでイアムベーは積極的に女神に話しかけ、繰り返し冗談を言った。すると女神はついに微笑み、そのかたくなな心を和ませることができた。その後、デーメーテールは勧められた[[ぶどう酒]]を飲むことができないと言って断り、代わりに[[キュケオーン]]を飲んだ<ref>「デーメーテール讃歌」190行-209行。</ref>。 | |
− | + | アポロドーロスは女たちがテスモポリア祭(Thesmophoria)で嘲罵をよくするのはイアムベーの故事にちなんでいると語っている<ref name=AP />。『オルペウス讃歌』ではイアムベーと同じ役回りを演じる女性の名前はバウボー(Baubo)であり、自らの女性器を見せることで女神を笑わせたと語られている。したがって『ホメーロス風讃歌』でイアムベーがデーメーテールを笑わせるために冗談を言ったというのは控えめな表現であり、冗談の内容も猥雑なものであったと考えられる<ref name="沓掛">沓掛訳注、62。</ref>。 | |
この物語はエレウシースの秘儀の起源譚となっている。秘儀では入信者は白い羊の毛皮が掛けられた椅子に座り<ref>沓掛訳注、60。</ref>、デーメーテールが食事に手を付けなかったように[[断食]]し、キュケオーンを飲むことになっていた<ref>沓掛訳注、61。</ref>。また一説によると古代ギリシアの[[抒情詩]]の1つ[[イアムボス]]はイアムベーに由来するとも言われる<ref name="沓掛" />。 | この物語はエレウシースの秘儀の起源譚となっている。秘儀では入信者は白い羊の毛皮が掛けられた椅子に座り<ref>沓掛訳注、60。</ref>、デーメーテールが食事に手を付けなかったように[[断食]]し、キュケオーンを飲むことになっていた<ref>沓掛訳注、61。</ref>。また一説によると古代ギリシアの[[抒情詩]]の1つ[[イアムボス]]はイアムベーに由来するとも言われる<ref name="沓掛" />。 | ||
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== 関連項目 == | == 関連項目 == | ||
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2023年1月16日 (月) 09:01時点における版
イアムベー(Ἰάμβη, Iambē)は、ギリシア神話の女性である。トラキアの出身で、牧神パーンとエーコーの娘[1][2][3]。エレウシースの王家に仕える老女で[4]、娘コレーを失ったデーメーテール女神を笑顔にさせたと伝えられている[4][5]。イアンベー、長母音を省略してイアムベ、イアンベとも表記される。
神話
『ホメーロス風讃歌』「デーメーテール讃歌」によると、デーメーテールはハーデースに連れ去られた娘コレーを探して地上を放浪した。悲しみに胸を痛めながらエレウシースを訪れたとき女神は老婆のようであった[6]。ケレオス王の館に招かれた女神は王妃メタネイラ(Metanira)の席に座すことを勧められたが、目を伏せて黙ったまま座ろうとしなかった。そこでイアムベーが機転を利かせて、女神の前に椅子を置き、銀のように白い羊の毛皮を掛けると、女神は椅子に腰を下ろした。しかし、誰とも言葉を交わそうとせず、食事をしようともしなかった。そこでイアムベーは積極的に女神に話しかけ、繰り返し冗談を言った。すると女神はついに微笑み、そのかたくなな心を和ませることができた。その後、デーメーテールは勧められたぶどう酒を飲むことができないと言って断り、代わりにキュケオーンを飲んだ[7]。
アポロドーロスは女たちがテスモポリア祭(Thesmophoria)で嘲罵をよくするのはイアムベーの故事にちなんでいると語っている[4]。『オルペウス讃歌』ではイアムベーと同じ役回りを演じる女性の名前はバウボー(Baubo)であり、自らの女性器を見せることで女神を笑わせたと語られている。したがって『ホメーロス風讃歌』でイアムベーがデーメーテールを笑わせるために冗談を言ったというのは控えめな表現であり、冗談の内容も猥雑なものであったと考えられる[8]。
この物語はエレウシースの秘儀の起源譚となっている。秘儀では入信者は白い羊の毛皮が掛けられた椅子に座り[9]、デーメーテールが食事に手を付けなかったように断食し、キュケオーンを飲むことになっていた[10]。また一説によると古代ギリシアの抒情詩の1つイアムボスはイアムベーに由来するとも言われる[8]。
参考文献
- アポロドーロス『ギリシア神話』高津春繁訳、岩波文庫(1953年)
- ホメーロス『ホメーロスの諸神讃歌』沓掛良彦訳、ちくま学芸文庫(2004年)
- 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』岩波書店(1960年)
- Pierre Grimal, The Dictionary of Classical Mythology. Blackwell Publishers, 1986.