「鳴女」の版間の差分
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== 私的注釈 == | == 私的注釈 == |
2022年11月27日 (日) 19:27時点における版
鳴女ナキメは、日本神話に登場する雉の女神。天若日子に射殺される。
富山県南砺市(旧福光町)高宮にある比賣神社、祭神は下照姫比賣は雉大明神とも呼ばれ、雉子は下照姫比賣の使者とされている[1]。
私的解説
この雉は天照大御神の遣いであり、雌なので、天照大御神から別れた「下位の女神」といえる。この物語の場合、雉と矢は関連するのだが、天若日子の弓矢は天照大御神ではなく、高御産巣日神から与えられたもので、高御産巣日神の象徴といえる[私注 1]。高御産巣日神は「木の神」であり、植物神であるので、彼から作り出された特別な弓矢が特別な武器(王権の象徴)とみなされたと考える。この場合
高御産巣日神=植物神=弓矢
である。高御産巣日神は天上世界に座す正規(和魂)ともいうべき植物神で、世界全体の秩序を守る性質の強い神といえる(地上を征服することが秩序なのか? という疑問はあるが、それは「地上が元々天照大御神のものである」という一応の秩序の理論で正当化されている。)
一方、天照大御神と対立し、根拠もなく織女を殺害したりするいわば「荒魂」の植物神といえば須佐之男命である。そのため、高御産巣日神と須佐之男命は「同一の神」の和魂と荒魂といえると考える。
高御産巣日神(和魂)=須佐之男命(荒魂)
である。鳴女を射た天若日子は天照大御神と対立した存在といえる。ということは、天若日子は須佐之男命の別の姿であり、天照大御神の命令に従わず対立する存在といえないだろうか。ここで、天の岩戸神話と同様、「須佐之男命(天若日子)が天照大御神の化身を殺し、その結果須佐之男命も罰を受けて死に等しい結末となる」という粗筋のモチーフが繰り返される。鳴女の物語では、天照大御神にどのようなダメージが与えられたのか、その対応はどうなったのか、またダメージはなかったのか等の記載はない。
天照大御神の化身を射殺した天若日子は高御産巣日神による還矢によって死ぬ。この点は中国神話の羿が太陽の化身である烏を射落とした結果、最終的に罰を受ける話と共通のモチーフである。天若日子の葬儀の場で、天若日子に大変よく似ている阿遅鉏高日子根神が登場する。天若日子が死んで阿遅鉏高日子根神として再生されるように思う。このように「死んで同じような姿で再生する」点は、天若日子・阿遅鉏高日子根神が共に植物神であることを示すように思う。このように植物神である点は、炎帝型神あるいは伏羲型神といえる。よって彼らは黄帝型神である羿と炎帝型神の合成神であることが分かる。「天から射られた矢」とは雷か、あるいは目に見えない「邪気の矢(疫神の矢)」であって、そのために植物がいったん死んでも、また新たに芽を出すことを表しているように思う。天若日子の妻の下光比売命は、阿遅鉏高日子根神の名を明かす歌を詠んだ、とのことである。別の神話で、天宇受賣命が猿田毘古神の名を明かしてその妻となった、との逸話があるので、下光比売命は阿遅鉏高日子根神の妻となったことが暗に示されるように思う。
阿遅鉏高日子根神は「鉏(すき)」がその名に含まれることから杉(古名は須々木(すすき))の木の化身と思われる。杉の木は須佐之男命のトーテムでもある。よって、高御産巣日神、須佐之男命、天若日子、阿遅鉏高日子根神はみな同じ神であり、天照大御神と対立する須佐之男命であることが分かる。天若日子の妻は下光比売命なので、天若日子が須佐之男命であれば、その妻の下光比売命は天照大御神と同じ神である、といえる。鳴女(天照大御神)が殺されて、下光比売命に再生されたようにも管理人には思える。鳴女がどのようにして下光比売命に再生されたのかは神話では描かれない。しかし、太陽はいったん死ぬ(地平線に沈むことを指す)としても、何もしなくても次の日には再生される(地平線から昇る)ものである。そうしてまた新たに、植物神である夫の須佐之男命と永遠に戦いあう運命にあるようにも思えるのである。
ローマ神話にはラールンダという下位の女神がおり、口が禍して殺される。天照大御神と下光比売命がラールンダのように「罰を受ける女神」として暗喩されることは、彼らの地位を「低い女神」へと移行させる操作の手法であるようにも思う。天照大御神が天若日子の矢で簡単に殺されるようであれば、その地位は天若日子よりも「低い」と言わざるを得ないからである。
関連項目
- 天照大御神:鳴女の上位の女神であり、同じ女神といえる。
- 下光比売命:鳴女と同じ女神といえる。
- ラールンダ:ローマ神話。おしゃべりが原因で殺された女神。「見猿、言わ猿、聞か猿」の原型と言えそうな神話。
- キジも鳴かずば:「見猿、言わ猿、聞か猿」の原型的な民間伝承。
私的注釈
- ↑ 日本神話では「丹塗りの矢」のように男神が矢で表される物語も多い。
- ↑ 比賣神社、境内内由緒書きより。