「ヴイーヴル」の版間の差分
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2023年1月12日 (木) 00:16時点における版
ヴイーヴル(Vouivre)は、主にフランスに伝わるドラゴンの一種。イングランドで伝えられるワイヴァーン(Wyvern)のフランス版であるといわれる[1]。名前はラテン語でマムシ(クサリヘビ)を意味する vipera から派生[2]。ニヴェルネー地方では、ウィーヴル(Wivre)または、ギーヴル(Guivre)と呼ばれ、ヌヴェール(フランス中部の都市)周辺の地方ではウイヴルとして知られている。
ギーヴルとは、ドラゴンに似た神話上の生物である。伝説では、毒の息を持つ蛇のような生き物として描かれ、中世のフランスの田園地帯を徘徊していたそうである[3]。「guivre」(wurm、wyvern(これに由来する)[4]あるいは蛇(serpent))と「givre」は、より一般的な言葉「ヴィーヴル(vouivre)」のスペルバリエーションである。ヴイーヴルは、フラン・コントワでは、古いフランス語の ギーヴル(guivre)に相当する言葉だ。これらの語形はすべて、英語のviperと同様に、最終的にはラテン語のvīperaに由来する[5]。
解説と習性
ギーヴルは、蛇のような長い体と竜の頭を持っていると言われていた。後足はあっても目立たない。また、ギーヴルの額には角があったという記述もある[6]。地元フランスでは、非常に攻撃的な生き物として知られ、時には挑発されなくても襲ってくることがあった[7]。ギーヴルは、裸の人間が怖くて、顔を赤らめて目をそらしていた[8]。ヨーロッパの資料では、池や湖のような小さな水域、森林、湿った場所などに生息していると示されている[9]。
ヴイーヴルは、蝙蝠の翼を持った[2]、上半身は女性、下半身は蛇の姿で[1][2]、宝石(ダイヤモンド、あるいはガーネット(ザクロ石))の瞳を持つとされる[10][11][12]。普段は地底に棲んでおり、宝石の瞳を明かりにしていると言う[12]。 また、ヴイーヴルには雌しかいないとも言われる[12]。
フランスのフランシュ・コンテ地方においては、ヴイーブルはジュラ山脈でよく見られ[2]、無人の城を棲家としていた[1][13]。移動時には額の真ん中にあるダイヤモンドを目の代わりにしていたという。水を飲むときにダイヤモンドを外し、水辺に置いた。もし人間がそのダイヤを盗めたら世界一の権力者になれると伝えられている。しかしダイヤを額に着けていないヴイーヴルを見た者はいないという[10]。この伝承は、宝を守るドラゴン伝承の類型であり[2][14]、ギリシア神話のラドン伝承に近いが、キリスト教の竜退治伝承から来たものではない[14]。
後世では、蝙蝠の翼と鷲の足と蛇の尾を持ち、額にガーネットをはめ込んだ美女の精霊とされた[2]。(要出典範囲, 姿についてはメリュジーヌ伝承を強く受けているものと考えられている, 2017年1月7日 (土) 11:45 (UTC))が、メリュジーヌがヴイーヴルの種族に属しているという節もある[15]。紋章に描かれるヴイーヴルには、その口に子供をくわえたものがみられる。この場合のヴイーヴルは、メリュジーヌと同様の母性的な存在とみなされている[2]。
ラ・ギーヴル
ドル家のサムソンは、小さな竜のような生き物(通称「ラ・ギーヴル」)と司祭との出会いに立ち会った。サムソンは信者の一団を引き連れて聖スリオを訪ねてきたのだ。スリオは貧乏だったが、一行のためにできるだけ食事を提供しようとした。ある司祭は、食事の質の低さに不安を覚え、パンを一個取って衣の下に隠した。ほとんど瞬時に彼は痙攣し始め、スリオは彼の胸元を引き裂いて、男が何をしたかを見た。彼は司祭を諭すと、衣の中から恐ろしい蛇のような生き物を取り出した。そこで、スリオはそれを祓い、別の男にガロットの屋上からそれを投げさせることを強要した[16]。
ヴイーヴル
ギーヴルはヴイーヴルとも呼ばれ、この言葉は同義語になっている。例えば『Drac』において。『The Drac: フランスの龍と悪魔の物語』では、ヴイーヴルは、まばゆいばかりの緑の鱗を持つ女性の生物として描かれ、ヴイーヴルが飛ぶと音を発する、とされている。ヴイーヴルは貪欲で、頭には真珠を冠し、尾には金の指輪をした姿で描かれている(要出典、September 2019)。この物語に登場する獣は、ほとんど洞窟の中にいて、数分間だけ水浴びをするために出てくる(要出典、March 2012)。
『フランシュ・コンテの物語と伝説(Contes et légendes de Franche-Comté)』によると、ヴイーヴルは巨大な蛇のようなユニークなドラゴンであり、額にルビーをつけ、それを目にしているとされている。
私的解説
伝承上でのヴイーヴルは「宝を守るドラゴン」の一形であり、身に(特に額に)宝石をまとっている、と考えられているようである。
「ラ・ギーヴル」の伝承より、ヴイーヴルがパン(小麦)の豊穣に関連した女神であった片鱗が垣間見えるように思う。また、「水浴び」をする点に水の女神であった片鱗も窺えるのではないか。そして、全体的に見て「蛇の女王」的なヴイーヴルの姿は、山岳地帯の民間伝承に良く残されてるように思う。アルメニアの神話にあるヴィシャップというドラゴンは語源的にもヴイーヴルに近いもののように思う。これらの点から、ヴイーヴルには「山の女神」としての性質もあるように思う。また、「子供を口にくわえる図」などは、人身御供を求める女神でもあったことが示唆されるように思う。
参考文献
- Wikipedia:ヴイーヴル(最終閲覧日:22-10-06)
- 竹原威滋・丸山顯德編著, 世界の龍の話, 三弥井書店, 世界民間文芸叢書 別巻, 1998-07-10, 初版, isbn:978-4-8382-9043-7
- 桜井 (1998a):桜井由美子「フランス 2 ヴイーヴル蛇のダイヤモンドの目 フランシュ・コンテ地方」pp. 176-177。
- 桜井 (1998b), 桜井 (1998b):桜井由美子「フランス 3 ヴイーヴル蛇の額のダイヤモンド ブレス地方」p. 177。
- 桜井 (1998c), 桜井 (1998c):桜井由美子「フランス 解説」pp. 189-190。
- 松平俊久, 蔵持不三也監修, 図説ヨーロッパ怪物文化誌事典, 原書房, 2005-03, ヴイーヴル, pagespp. 203-204, isbn978-4-562-03870-1
- ローズ・キャロル, 松村一男監訳, 世界の怪物・神獣事典, 原書房, シリーズ・ファンタジー百科, 2004-12, ヴイーヴル, pagep. 58, isbn:978-4-562-03850-3
- Wikipedia:Guivre(最終閲覧日:23-01-11)
- Dragons: A Natural History|url=https://archive.org/details/dragonsnaturalhi00kar, =registration, Shuker Karl, Barnes & Noble Books, New York, 2003
- Giants, Monsters, and Dragons, Rose Carol, W. W. Norton & Company
- All The Year Round, Dickens, Charles, 1864, Oxford University, volumeX, issue:227–250
- 竹原威滋・丸山顯德編著, 世界の龍の話, 三弥井書店, 世界民間文芸叢書 別巻, 1998-07-10, 初版, isbn:978-4-8382-9043-7
関連項目
- ヴィシャップ:カフカス神話。アルメニアの龍女神と思われる。ヴイーヴルと同語源ではないだろうか。
- メリュジーヌ
- ヴァースキ:世界の終わり
- ワイヴァーン
- ビショーネ
- アリアドネー:頭の宝玉が一致している。
- 櫛名田比売:日本の櫛も「額の真ん中」についているものである。
- 相柳:毒蛇の女神である点が一致している。
参照
- ↑ 1.0 1.1 1.2 ローズ, 松村訳 (2004), p. 58。
- ↑ 2.0 2.1 2.2 2.3 2.4 2.5 2.6 松平 (2005), p. 204。
- ↑ Shuker, 2003, p16
- ↑ wyvern, Oxford English Dictionary, Oxford University, 1989|ur, http://dictionary.oed.com/cgi/entry/50277927?query_type=word&queryword=wyvern, 2009-05-29
- ↑ viper, Oxford English Dictionary, Oxford University, 1989, http://dictionary.oed.com/cgi/entry/50277927?query_type=word&queryword=viper, 2009-05-29
- ↑ Rose, p159
- ↑ Rose, p159
- ↑ Shuker, 2003, p17
- ↑ Rose, p159
- ↑ 10.0 10.1 桜井 (1998a), p. 177。
- ↑ 桜井 (1998b), p. 177。
- ↑ 12.0 12.1 12.2 松平 (2005), p. 203。
- ↑ 桜井 (1998a), p. 176。
- ↑ 14.0 14.1 桜井 (1998c), p. 189。
- ↑ 松平 (2005), pp. 203-204。
- ↑ Dickens, 1864, p319